手賀沼 〜風薫る5月 水辺を歩く〜


 

【千葉県 我孫子市 平成18年5月4日(火)】
 
 週間天気予報によると今年のGWは毎日天気が良いようです。となると当然家でじっとしているわけにはいきません。比較的近場でどこかいいとこないかと考えたとき、おでこの上に「!」マークが。以前行ったことのある千葉県の手賀沼が浮かんできました。
 
                       
 
 遅めの朝食をとってからドリーム号スタート。新宿ランプから首都高に上がります。出だしは順調。都心環状線に向かう流れはスムースです。ところが三宅坂ジャンクション手前ぐらいから滞り始め、ついには動いたり止まったりといった状態になってきました。

 渋滞

 やっぱり休日の天気と高速道路の渋滞には相関関係があるようです。まあ、今日は運転自体も楽しもう、ということに気持ちを切り替え、のんびりと走ることにしました。
 
 都心環状線の箱崎ジャンクションを過ぎるとまた流れはじめ、隅田川沿いに走る6号向島線はスイスイ。そのまま埼玉県に入り、三郷ジャンクションから常磐道に接続。千葉県に入ってすぐの流山インターから下道(したみち)に下りました。途中のコンビニで昼食を買って駐車場で腹ごしらえ。このあたりまでくると沿道に畑が増えてきます。のどかな県道を走って、茨城県との県境に近い手賀沼に着いたのは午後1時頃になりました。

 ???

 水田に囲まれるように佇む異国の館。ここはどこ? いやここは紛れもなく千葉県。手賀沼の畔です。おいおい…、と思いつつ中に入ってみると、「水の館」という手賀沼浄化事業の資料館でした。それにしてもなぜこのデザイン? ひょっとしてイスタンブールあたりと姉妹都市だとか。(笑)
 掲示されている資料によると、この手賀沼には次のような歴史があるようです。
 手賀沼はかつては水草の宝庫といわれ、明治後期に行われた調査では65種類もの水草が確認されていたそうです。沼周辺の農家ではこれらの水草をとって田畑の肥料にしていたといいます。その後半世紀の間に手賀沼の周辺の環境は激変し、特に高度経済成長期以降は流域の人口は4倍に、干拓により沼の面積は6割になり、手賀沼の水質は悪化しつづけ、そのことが問題になりはじめた昭和40年代後半の調査では水草の種類は半分以下になっていたそうです。現在ではさらに種類が減って、藻や浮き草など、水底に根を張ったり、水に浮かんだりして育つ植物は、ほぼ全滅の状態になっているとのことです。

 展望台からの眺め

 長い間、全国で一番汚れた湖沼とされていた手賀沼は、ヘドロの浚渫や流域の下水道整備、利根川からの浄化用水の注水などにより水質の改善が進み、平成13年にはようやくワースト1の汚名を返上したとのことです。これからは人々が手賀沼の水辺で遊ぶことのできるよう水質の実現を目指しているのだそうです。
 水の館は東西約7qと細長い手賀沼のほぼ中央に位置しています。上の写真は東方向を望んだものです。

 水辺

 水辺に行ってみました。コンクリート護岸になっていると思っていましたが、水際はアシ原。ところどころにヤナギの木が立っています。南からの風が気持ちいい。特に悪臭がするといったことはないようです。これも水質浄化のおかげでしょうか。
 低い土手に舗装された遊歩道が延びています。ここをぶらぶら歩いてみましょう。

 遊歩道

 やや風が強いですが、まさに「薫風」。風薫る五月です。ここにはこれといったレジャー施設はないのですが、それでも多くの方が散策に訪れていました。確かに今日のような天気であればただ歩くだけでも十分気持ちいいです。なにしろ広々としているし。

 アシ

 遊歩道と水際との間には、幅は狭いですがアシ原がありました。この時期はちょうどぐんぐん成長する途中で、どの株もみずみずしかったです。
 葉の付け根は茎を抱く形状になっています。べろーんと下に垂れないように強度の高いつくりです。茎を縦に裂いてみると、これから伸びて行くであろう部分が格納されていました。ちょうどトランジスタラジオ(古っ!)のアンテナのようです。

 水際

 アシ原は水をきれいにしてくれる自然のフィルターであるとともに、水流や水温の安定した環境を提供し小魚や昆虫、鳥たちの生活の場となっています。

 ヤナギ

 風にそよぐヤナギ。頬で感じるだけでなく、そよぐ枝や葉擦れの音からも(触覚だけでなく視覚からも聴覚からも)、全身で心地よさを感じます。ここを訪れる多くの人もこの爽やかさを求めて集まってきているのかもしれません。
 お金をかけてリフレッシュしなくとも、ただぶらぶら歩くだけでこんなにも充実感を得ることができるのです。

 カラスノエンドウ

 カラスノエンドウ。マメ科の植物です。漢字で書くと「烏の豌豆」ではなく「烏野豌豆」。カラスのためのエンドウ豆ではなく、カラスのような野生のエンドウ豆といった意味でしょうか。豆果の色が黒いことからカラスに例えれられたとのことです。成熟してまるまると太った豆果を縦に裂き、中の種子を取り除いて、莢の先端部を4分の1ほどカットすると、立派な音のする笛のできあがり。口にくわえて強く息を吹き込めばプィーという音が出ます。息の強弱や唇の形により微妙に音程も調節できて、子供の頃、学校の帰り道の絶好の遊び道具でした。

 (上左)横からみたところ
 (上右)前からみたところ
 (下左)片側の翼弁と竜骨弁を取り除いたところ
 (下右)雌しべ

 
 フジ

 これもマメ科の植物、フジです。ちょうど見頃を迎えていました。花の形がカラスノエンドウとよく似ていることがわかります。
 右の写真の上段は花を側面と正面から見たところ。扇子のように立ち上がってるのが旗弁。二枚貝のように合わさって前方に突き出しているのが翼弁。その翼弁に包まれるようにして中に入っているのが竜骨弁。これも2枚合わさっていて、中には10本の雄しべと、その雄しべに包まれるようにして1本の雌しべが入っています。L字型に湾曲する雄しべ雌しべを同じように湾曲する竜骨弁が包み、それをさらに翼弁が包む。後に種子を作ることになる雌しべを大切に守っているのです。しかも、こんなに何重にも守られていながら、花バチが留まると翼弁と竜骨弁が押し下げられて葯と柱頭が現れてハチの腹部に触れる仕組み。この巧みさには脱帽です。

 ハルジオン

 その花バチがハルジオンにやってきていました。忙しそうにあちこちの花を巡っていました。

 ザリガニ釣り

 ザリガニ釣りをしている親子がいたので声をかけてみました。人工の水路ですが護岸が施されていないので、ザリガニをはじめとした多くの生き物が生息できる環境になっているようです。

 獲物

 竹竿から垂らした木綿糸の先に付けているのはさきイカ。これが結構役に立つエサのようです。ザリガニがいそうなところでエサを上下させるとハサミでエサを挟んでそのまま釣り上げられれてしまう、哀れなザリガニです。
 子供の頃にザリガニ釣りをした記憶があるというのは幸せなこと。この子はこれから先きっとそう感じるときがあると思います。

 鳥の博物館

 「水の館」のすぐ近くに我孫子市鳥の博物館があるので寄ってみることにしました。手賀沼に暮らす鳥たちを紹介したコーナーや、鳥の起源や進化、世界の鳥たちを解説したコーナーなど、ちょっとおもしろい展示がしてありました。確かこの博物館の近くには山階鳥類研究所もあったはず。我孫子は鳥と縁が深い街のようです。
 無脊椎動物から脊索をもった魚類が分化したのが約5億年前。その魚類から両生類が、両生類から爬虫類から、そして爬虫類から哺乳類と鳥類が分化したと考えられています。これらの中では鳥類がもっとも後から出現したことになりますが、それでもその起源は1億5千万年前にさかのぼるといいます。ときは恐竜全盛期のジュラ紀。当時はまだ新参者で少数派だったのかもしれません。その後今から6,500万年前に訪れた生命の大絶滅を生き延び、現在では世界に約8,600種もの仲間を持つ一大勢力に発展していったのです。基本的に小さな体であるものの、「飛翔」という武器を手にしたからこそここまでこれたのかもしれません。

 里の初夏

 博物館の近くには田植えが終わったばかりの田んぼが広がっていました。 「♪夏も近づく八十八夜〜」 一昨日は八十八夜。これから梅雨がやってくるまでの間、輝くような季節が続くでしょう。楽しみです。
 
 帰りの首都高。激渋滞でした。(トホホ…。)