立久恵峡 〜岩肌の花たちを訪ねて〜


 

【島根県出雲市 平成15年6月14日(土)】
 
 梅雨に入って最初の休日。天気図には梅雨前線がしっかりと横たわっています。
 でも集中豪雨でもないかぎり、出かけたくなるのは何故だろう。
 雨に濡れた葉の色、雨を吸った土の匂い。雨の日ならではの自然を見たいから、感じたいからかもしれません。
 
 ということで、シトシトと雨が降る中、今日は出雲の奥座敷「立久恵峡」にやってきました。
 神門川(かんどがわ)の両岸に屹立する岩峰は、その頂に雲をまとってさながら桂林の奇景のようにも見えます。(もちろん桂林には行ったことありません、ハイ。)

 渓谷の最も下流側にある駐車場にドリーム号を停めて、さあ準備開始。レインウエアは上着だけで十分のようです。透明のビニール傘は持参しますが、これは写真を撮るときの雨粒よけ用。
 まず「不老橋」を渡って、自然観察路に向かいます。

 不老橋

 観察路の入り口は、案内板があるのでかろうじてそれと分かるといった具合で、今日のように薄暗いときにはまず入ってみようと思う人はいないでしょう。でも、この道をたどっていくと、いろんな生き物たちに逢えるのです。 

 ムサシアブミ

 おっと、さっそくムサシアブミの登場です。
 「武蔵鐙」と書き、昔武蔵の国(現東京都、埼玉県)で作られた馬の鐙のような形をしていることから名がついたといいます。3つの小葉を持つ葉たちがいきいきとしています。

 散策路にはテイカカズラの花が散りばめられています。花冠の先が5つに裂け、それぞれが風車状にねじれている白い花です。テイカカズラは「定家葛」。新古今時代の代表歌人、藤原定家と関連がありそうな名前です。

 マメデンキュウタケ(うそ)

 濡れた落ち葉の間から、小さな灯りをともしたようなキノコがのぞいていました。
 この小さなキノコはこれまでに何人の人に気付いてもらえただろうか。これから先いったい何人の人がその存在を認めるだろうか。でもそんなことは全く無関係に、このキノコはこの森の片隅で淡々と生き、自分の役割を確実に果たして朽ちていくでしょう。この小さな生物にしてこの生き方。人間様もこうありたいものです。
 写真を撮ろうとしてしゃがみ込んでしばらくじっとしていたら、そんなことが頭をよぎっていきました。



 オオメノマンネングサ

 自然観察路の最高地点は森から突きだした岩の上。
 そこには黄色の小さな花が一面に広がっていました。オオメノマンネングサです。島根県固有の種で、この地では多く生育していますがここにいなくなれば即絶滅ということになってしまいます。



 イブキジャコウソウ

 オオメノマンネングサに混じってイブキジャコウソウもそこここに咲いています。
 もともと冷涼な土地に生える「小低木」で、ここのように標高の低いところに生える個体は花の色が薄いのだそうです。図鑑などには濃紅色の写真が載っています。

 河畔のセンダン

 川沿いに下りてくると、雨もほとんど上がっていました。
 今日はこんな天気なので、行き交う観光客もいません。静かなものです。ただ、川に沿って走っている国道の車の音がバシャバシャと気になります。知っていましたか?何十年か前まではここに鉄道が走っていたというのですから驚きです。

 青梅

 見ると梅が実っています。この実が熟す頃に降り続く雨だから「梅雨」なんですね。

 イワギリソウ

 岸壁のくぼみにイワギリソウが咲いていました。この時期の立久恵峡の看板役者です。
 「岩桐草」とは、毛の多い花や葉がキリを連想させ、岩場に生えているからこの名がついたのだそうです。
 けっこうたくさん生えていましたが、人の手が届かないところにしか生えていないというところが何かを物語っているような…。


 三瓶山

 帰りには三瓶山に立ち寄りました。
 雨のせいかここも人影はまばらでした。元気があったのはイワガラミくらいだったでしょうか。

 イワガラミ