多摩川河口 〜干潟・生命のゆりかご〜


 

【川崎市 川崎区 平成18年5月14日(日)】
 
 5月も半ばになりました。梅雨のはしりなのか、このところぐずついた天気が続いています。
 この4月に転勤で東京にやってくるまで広島で野山あそび三昧の生活をしていたyamanekoですが、当然のことながらそれまでの広島自然観察会とか宮島パークボランティアとかNACS−J(日本自然保護協会)の広島県自然観察指導員連絡会での活動は休止せざるを得なくなりました。さびしい限りですが、きっと東京にもいろんな活動をしているグループがあるはずです。
 ということでネットで検索してみると、同じ自然観察指導員の東京連絡会のページに行き当たりました。今日はそのホームページに紹介されていた行事の一つに参加してみようと思い出かけました。テーマは「干潟の生きものたち 〜多摩川河口編」、場所は多摩川の河口部(神奈川県側)です。
 
                       
 
 今にも降り出しそうな天気を心配しつつ、まずは山手線で品川へ。そこで京浜急行に乗り換えて川崎に向かいます。川崎でさらに大師線に乗り換えて終点の小島新田駅へ。ここが集合場所です。

 小島新田駅前

 電車を降りてみると雨が降り出していました。携帯のお天気サイトでピンポイント予報を確認してみると、午前中の早い時間には回復に向かうと出ています。やれやれ、レインウエァは用意していますがやっぱり雨降りはうっとうしいですからね。

 開会

 9時40分、開会は雨を避けて跨線橋のガード下で。一般参加者は10人程度。スタッフは10数人でしょうか。参加者よりも多いようですが、よくよく聞いてみると、今日は文京区の子供会約100人と現地で合流するとのこと。このスタッフのうちの数人はそちらへの対応要員のようです。(もちろん子供会内には引率のリーダーがいて、こちら側のスタッフは主に解説担当のようです。)
 受付で保険代300円を渡して、今日の資料をもらいます。一般参加者の中に対岸の大田区(東京都)側で子供たちの環境学習の支援をしている人がいて、この場を借りて自らの活動について紹介していました。参加する方もただ受け身だけではないようです。
 今日はここから10分ほど歩いて河原へ。はじめに土手の上から干潟全体の観察をして、それから中に下りていきます。解散は午後1時30分の予定です。

 土手の上から

 10時すぎ、土手に到着しました。広い範囲にアシ原が広がっています。アシの名は「青し」から転訛したものともいわれています。昨年の茎が茶色く残ってはいるものの、まさに「青し」です。

 対岸

 対岸は東京都大田区。町工場や民家が堤防まで迫り、波打ち際は護岸され、遊漁船などがたくさん繋留されています。こちら側とは打って変わって生活感にあふれいてる感じがします。
 どうやら雨は上がったようです。空も少しずつ明るくなってきました。

 潮位についての解説

 環境省のレンジャーが本職だという指導員の方から、東京湾の潮位についての解説がありました。今日の干潮は昼前。干潟の観察にはもってこいです。(ていうか、その辺を計算しての今日の観察会なのでしょうが。) 話によると、冬場の大潮は夜中に引き、春の大潮は昼間に引くのだとか。そういえば去年の今頃、瀬戸内海で大量にアサリを掘って帰ったことを思い出します。今日の干満の差は、東京で1m、石垣島で2m、有明海の三角(熊本県)で4m、北海道の稚内ではわずか30pだそうで、この指導員の方はそのいずれの場所にも赴任経験があるそうです。(頻繁な転勤、ご苦労様です。)

 ハマダイコン  ヘラオオバコ

 望遠鏡や双眼鏡で野鳥を観察してみます。干潟には小型の水鳥の姿がありました。茶色の背中に黒い腹が特徴のハマシギ。泥の中からゴカイのような生き物を引っ張り出して食べています。くちばしが少し下側に反っているのはチュウシャクシギ。好物はカニだそうですが、足やハサミは喉につっかえるので振りちぎって胴体だけ食べるのだそうです。足を残すなんてもったいない。

 工場跡地

 「キリキリ、キリキリ」 コアジサシの声です。水面の上空を忙しく往復し、ときどきホバリングしたかと思うと一気に水面にダイブ。小魚をくわえて巣に運びます。コアジサシは石ころが転がっている河原などに営巣しますが、干潟にはそんな場所はありません。どこに巣を作っているのかというと、土手をはさんで河原とは反対側にある自動車工場跡地だそうです。ここには一面に砂利が敷かれていて、どうやらこの環境が営巣に適していたようです。(双眼鏡では巣は確認できませんでした。) 東京連絡会ではここに新たな工場建設の話が出た際には営巣地保護の観点から必要な意見を述べていく用意があるとのことです。コアジサシは東南アジアで越冬し、そのままとどまるものもいれば遠く日本までやってきて繁殖するものもいるのだとか。大都会の中、わずかな安息の地であってもできるだけ提供していきたいものです。

 アシ原の樹木

 アシ原にはヌルデやハリエンジュ、アカメガシワなどの樹木も入り込んできていました。また、クズも進出してきています。陸地側からの植物とのせめぎ合いの場所でもあるようです。

 干潟へ

 干潟に下りてきました。今まで干潟の上で動き回っていた小さなカニたちが一斉に巣穴に隠れてしまいました。10m以上離れていても敏感に感じ取るようです。カニの視力はどのくらいあるか分かりませんが、もしかしたら音や振動とかも感じているのかもしれません。でも、しばらくじっとしているとまたぞろそろと出てきて活動しはじめました。

 ハサミシャコエビ?

 泥の穴から顔をのぞかせていたシャコのような生き物。体長は8pほど。アナジャコのようでもありますが、それにしてはハサミの部分が大きいような気もします。ネットで調べてみたのですが、その結果ハサミシャコエビではないかと推察しています。

 カワザンショウガイ

 砂粒のような巻き貝を探してきた人がいました。カワザンショウガイだそうです。日本の淡水域の貝は汽水域を含めて100種あまり。そのうちの約40種が琵琶湖産とのこと。カワザンショウガイはタニシやカワニナなどとともに日本を代表する巻き貝なのだそうです。それにしても小さい。採集方法は、まず泥を目の細かいふるいに採って、水面に浸けて揺すり泥を流して洗い出します。砂金採りのようです。

 干潮

 潮が引ききったようです。遠くの中州にはダイサギが優雅に歩いていました。双眼鏡で覗いてみると、目先から嘴のつけ根にかけて青緑色になっているのが分かります。繁殖の時期のわずかな間にのみ見られるサインなのだそうです。そんなときに見ることができるだなんてラッキーでした。
 いつのまにか文京区の子供会の面々も干潟に下りてきていたようです。

 ヒライソガニ

 泥の上に散在する小石をめくるとサワサワッと逃げ出すカニがいます。カップにとってみんなで観察してみました。横幅は2pほど。ハサミは大きくありません。目は甲羅から少し飛び出した形になっています。あれやこれやと話していくうちにヒライソガニではないかということになりました。

 穴が…  クロベンケイガニ?

 いったん土手に上がって昼食をとって、再び干潟に下りてきました。
 アシ原と干潟との境目に横穴があいています。そっと近づいてみると中にはカニがいました。人間など無視して泰然としているのか、それともうまく隠れているつもりなのか、カメラを近づけても微動だにしません。生息環境その他からアシハラガニかという声もありましたが、足に毛があることも加味するとクロベンケイガニではないかということに落ち着きました。こうやってああでもない、こうでもないと話をしあうことが楽しいし、これこそが観察会の「肝(きも)」なのだと思います。

 建築中

 アシ原の中でアシナガバチの巣作りに遭遇しました。巣作りをしているということはこのハチは女王蜂ということでしょうか。作り方はどうでしょう。部屋を作ったはしから卵を産みつけているのでしょうか。巣を全部作り上げてから卵を産んでいくのではないですよね。それにしても誰に教わるわけでもないのになぜどのアシナガバチも同じ形の巣を作るのでしょうか。ちょっとながめていただけでいろんな疑問がわいてきます。

 羽田空港の管制塔

 河口部の最先端には羽田空港があります。ニュッと突き出ているのは管制塔。その手前には今まさに地下トンネルに潜ろうとしているモノレールが見えます。さっきからひっきりなしに飛行機が着陸しています。計ってみると5分間隔くらいです。そんなに次々と飛行機がやってくるとなると管制官のストレスたるや想像を絶するものがあります。大変な仕事でしょうね。
 風向きの加減なのか、今日は北から滑走路に下りてきていました。反対に離陸は南に向かっていくので、残念ながらここからはよく見えませんでした。

 まとめ

 午後1時、土手の手前にある公園にもどってきて、最後に今日のまとめです。今日の観察会を振り返って「干潟とはこんなところだった」ということを簡潔に書くよう参加者に大きめの付箋紙が配られました。ただ見たままではなく、感じたことなども含めて。それを集めてリーダーから紹介されました。他の人が書いた内容を聞くと、自分とは違った気づきがあることを改めて知ることができます。人によっていろいろな感じ方がある。それを知るということは、いずれ自分がリーダーとなり、自然を多面的に見ることの重要さを参加者に伝える際にきっと役に立つと思います。
 
 最後に、腕章を示しながらリーダーから「今日ご案内したのはNACS−J(日本自然保護協会)の自然観察指導員です。『自然保護』といってもあまり堅苦しく考えないでください。みなさん、今日、干潟に行ってみていかがでしたか。『いいところだね。こんな場所を残していきたいね。』そう思うこと、それが自然保護です。私たちはそのお手伝いをするために観察会を行っています。」という説明がありました。これはyamanekoが広島で観察会をしていたときに必ず最後に言っていたフレーズと同じ趣旨のものです。志を同じくするものがいるということは、嬉しく、また、心強いもの。今日は自分なりにそれを再確認できて、有意義な一日になりました。また参加してみたいと思います。