高尾山 〜残暑の山上で花巡り〜
【東京都 八王子市 令和4年8月27日(土)】
立秋もとうに過ぎたとはいえまだまだ暑いです。特に今日は真夏の炎暑が戻ってきたような天気。こんな日は自宅でエアコンの風に当たっている方がいいのでしょうが、ここはやっぱりこの暑さに負けないよう、一汗かきに高尾山に行ってみることにしました。あえて「登ってみる」と言わないのは、はなから往復ともケーブルカーにするつもりだったからです(その時点で負けています。)。
わが家から高尾山まではそう遠くはありませんが、これが公共交通機関を利用するとなるとぐるっと遠回りすることになるので、結構時間がかかります。なので車で行くことが多いです。その際利用させてもらっているのが高尾山薬王院自動車祈祷殿の駐車場。本来は商用車や自家用車の無事故を祈願するところですが、広い駐車場を一般開放してくれているのです。料金も一回500円と、周辺駐車場の相場の半額。ケーブルカー乗り場まで5分ほど歩きますが、コスパを考えると苦にならない距離です。
カシミール3D |
今日は、麓の清滝駅から稜線に上がり、どこまで行くか暑さと相談しながら散策しようという計画。ちなみに山頂まで行く予定はありません。
清滝駅 |
ケーブルカーの清滝駅周辺にはリフトの乗降口や1号路、6号路の登山口があるので、京王線の高尾山口駅で下車したほとんどの人たちはここにやって来ます。いきおいお土産屋さんや飲食店などがたくさんある賑やかな場所に。
高尾山駅 |
11時15分発のケーブルカーに乗車し、6分ほどで山上の高尾山駅に到着しました。陽射しが強いです。
多摩丘陵 |
駅から薬王院の参道に出るとすぐに眺望が開けたところが。観光用の望遠鏡もありました。
なるほど、いい眺めです。ここ高尾山の麓を起点として約50km先の三浦半島まで延びる多摩丘陵が一望できました。多摩丘陵はここから正面奥に向かって延び、緩く右に弧を描いています。
参道 |
木陰の下を歩いて行きます。この道は薬王院への参道であり、また登山道の1号路でもあります。木の葉で陽射しは遮られていますが、これでもう少し風があれば更に歩きやすかったでしょう。
ヤマホトトギス |
路傍で出会ったヤマホトトギス。涼しげですね。こういう写真を撮るときには風はない方がありがたい。
オオバギボウシ |
石垣から長い釣り竿のような茎を伸ばしているのはオオバギボウシ。その名のとおり幅の広い葉です。花の時期は既に終わっていて、今は若い実ができている状態です。
コアカソ |
コアカソの花序。小さな花が密集しています。強烈な陽射しをものともせず、元気に咲いていました。ちなみに小型のアカソ(赤麻)なのでコアカソです。
植物園 |
しばらく行くと「高尾山さる園植物園」が現れました。もちろんここは野草園の方へ(430円の入園料で両方に入れます。)。
カリガネソウ |
さすが野草園だけあって、すぐに花が現れました。これはカリガネソウ。渡り鳥の雁(かり・かりがね)の飛ぶ姿に似ているということで付けられた名前だそうです。想像力が豊かですね。
シュウカイドウ |
こちらはシュウカイドウ。山の中の湿った場所で見かけることがあります。薄暗い生育環境とポップな見た目とのギャップが印象的な花です。
スズムシバナ |
スズムシバナ。本来は西日本に自生するものだそうです。広島に住んでいた頃、この花の開花時期を見計らって山中に何回も足を運んだことを思い出します。もう20年も前のことです。
キツリフネ |
キツリフネです。ツリフネソウよりもやや深い山の中で見かけます。距の巻きが緩いのも特徴。
ヤブラン |
ヤブランは「ラン」と名が付きますがユリの仲間。この花を見るとなぜか脳内に「残暑」という言葉が浮かんできます。
園内には行き交う人もほとんどいませんでした。参道の賑やかさからは別世界の様相です。
スズムシバナ(白花) |
きょうの主役はスズムシバナでした。ちょうど盛りの時期だったようでたくさん咲いていましたが、その中には白花のものも。自然界ではときどき植物の白花を見かけます。出会うとちょっと嬉しいんですよね。
タマアジサイ |
タマアジサイはもう盛りの時期を過ぎたようです。そういえばこのアジサイは中国地方では見た記憶がありません。
ギンバイソウ |
ギンバイソウは既に実ができていました。葉の形に特徴があり、全体に粗い鋸歯があって、しかも先端部が大きく2つに裂けているのです。
モミジガサ |
開花前のモミジガサ。若葉は山菜として食用としたそうですが、トリカブトの葉に似ていて、誤食による事故も多かったのだそうです。
マツカゼソウ |
マツカゼソウ。草本では珍しいミカン科の植物です。ところでなぜ「松風」なんでしょうか。松の梢を揺らす風は相当な風速だろうに、このか弱げな花とはどうも結びつかないのですが。
イセハナビ |
ここの植物園は南向き斜面にあって、周回する園路はつづら折れになっています。その最も低いところまでやって来ました。
イセハナビは東南アジア原産で、観賞用として中国経由で渡来したものだそう。西日本で帰化しているとのことです。さっきのスズムシバナと近い間柄で、同じキツネノマゴ科に属しています。
スズムシバナ |
フォトジェニックなスズムシバナ。正面だけでなく左右の横顔もどうぞ、といったところです。
キレンゲショウマ |
「天涯の花」キレンゲショウマです。ソハヤキ要素の植物で、東日本では自生はありません。この花を求めて深山をさまようなどyamanekoにとっていろいろ思いでのある花です。
ちなみにソハヤキとは、熊襲(くまそ)、早水、紀伊から取った名前で、この3地域を結ぶ一帯、すなわち西日本の中央構造線沿いの地域を指します。この地域に特徴的な植物をソハヤキ要素の植物と言い、さっきのギンバイソウなどもその一つです。実際には分布の幅は広く、中国山地でも見かけることはありました。
カラスビシャク |
小さなラッパの中央からアンテナを伸ばしたような変わった姿。これはカラスビシャク。カラス用の(それほど小さい)柄杓といった意味の名前でしょう。
サルスベリ |
見上げるとサルスベリの果序が重たそうに揺れていました。夏の花ですね。
レンゲショウマ |
レンゲショウマ。さっきのキレンゲショウマと似た名前ですが、近縁ではなく、見た目もまったく異なります。こちらはむしろ東日本を中心とした分布のよう。この時期、奥多摩の御嶽山でレンゲショウマ祭をやっているはずです。
終盤に現れるこの階段。なかなかきついです。
園路 |
今日はこの園路を巡る間に3組の入園者にしか出会いませんでした。のんびりと観察できてよかったです。
カイフウロ? |
花や葉の様子からフウロソウの仲間と思うのですが、具体的に何なのかは分かりませんでした。葉の裂片が尖っているのでカイフウロかも。
浄心門 |
植物園を出て薬王院に向かって歩いて行きます。正面に現れたのは浄心門。ここからが聖域なのだとか。
クサギ |
クサギが花を付けていました。漢字では「臭木」と書き、葉などをちぎると強い臭気があるからだそうです。ちょっと気の毒な名前ですね。
権現茶屋 |
権現茶屋。薬王院までにある最後の茶屋です。
山門 |
権現茶屋から200mほどで薬王院の山門です。何年か前まではこの山門の前にも茶屋があったと思うのですが、今は更地になっていました。五平餅みたいな串に刺してある餅を買ったような記憶があります。
相模野台地 |
山門をくぐるとお札所などがあり、急に賑やかになります。
ここからの眺め。多摩丘陵の西側に広がる相模野台地が見えていました。相模野台地は多摩丘陵と相模川に挟まれた地域で、基本的には河岸段丘の地形をしています。正面にうっすら緑色に延びているラインは、まさに段丘面の境界ラインを示していて、そこは急斜面で宅地や農地には使われなかったことから林として残っているのです。斜面の土留めの意味合いもあるのかもしれません。相模野台地は概ね4段から5段構造となっているので、このような緑の境界線も複数あります。
女坂 |
結局、薬王院の手前で折り返し、ケーブルカー駅を目指してぶらぶら歩いて戻りました。
ヤブレガサ |
高さ1mにもなるヤブレガサ。さっき野草園で見たモミジガサを大きくしたような感じです。ヤブレガサといえばyamanekoの年代では萬屋錦之介を思い出すのですが。テレビ時代劇、「破れ傘刀舟 悪人狩り」。名決め台詞、強く印象に残っています。
オトコエシ |
オトコエシ。漢字では「男郎花」と書き、オミナエシ(女郎花)に対して付けられた名前だそうです。色こそ違えど花の形は似ています。女郎花の花は黄色ですね。ちなみに、全体的にオミナエシより強剛な印象だから「男」なのだとか。
高尾山駅 |
12時45分、ケーブルカーの高尾山駅まで戻ってきました。近くにある高尾山ビアマウントには長蛇の列ができていましたが、yamanekoは素通りです(車で来ているので。)。
八王子JCT |
次のケーブルカーを待つ間景色を眺めていると、眼下に八王子ジャンクションが見えました。中央道と圏央道が交差する地点です。休日の渋滞ポイントですね(このページ冒頭の地図は古いので、まだ圏央道が記載されていません。あしからず。)。yamanekoも多用しているジャンクションです。
下山後、蕎麦でも食べようと思っていたのですが、どの店も混んでいたので、そのまま歩いて駐車場に直行。帰宅してから家でそばを湯がいて遅めの昼食としました。