高尾山 〜梅雨明けを待つ花たち〜


 

【東京都 八王子市 令和2年7月27日(月)】
 
 今年の梅雨はなかなか明けません。既に平年の梅雨明けから1週間遅れていて、天気予報によると月内の梅雨明けは無理っぽい感じです。
 そんなどんよりとした毎日ですが、めずらしく朝から晴れ間が広がったので、この機を逃さず山に行くことにしました。場所は近場の高尾山です。
 
                       
 
 今日はたまたま休日ということもあり、出勤する妻を見送ってから山歩きの準備をしました。
 自宅から登山口までは車で30分もあれば到着します。京王高尾山口駅の南300m、国道20号沿いに高尾山薬王院自動車祈祷所というところがあって、そこは駐車場を一般開放しています。1日500円という近隣でも安い方の料金設定で、何より広いです。
 昔は(今でも?)新車を買うとお祓いをしてもらう人がいましたよね。ここもそうですが、買った車に乗って祈祷してくれる寺社に行って、買った人ではなく車をお祓いするという。もしかしたら営業車など法人の需要の方が中心だったのかもしれません。今でもときどきそういう表示のある神社を見かけることがあります。あと、お祓いを受けないまでも、昔は車内にお守りをぶら下げている人も多かったような気がします。正月にはフロントグリルに注連飾りを飾ったり。それほど車って特別なものだったんですよね。 

 Kashmir3D

 今日のルートは、ケーブルカー駅の手前から1号路に入り、薬王院を経由して高尾山の山頂へ。下山は同じ道を引き返し、途中からケーブルカーで下ってくるというお手軽なものです。でもこれでもしっかりと汗はかけるはずです。

 9時30分、ケーブルカー駅の手前の広場に到着しました。朝方の晴天はどこに行ったのやら。既にこの時点でいつもどおりの曇天です。若干だまされた感あり。
 高尾山の第2のシンボル、ムササビ(第1は「天狗」でしょう。)に挨拶をしてから準備体操を始めました。

 ここが1号路のスタート地点。高尾山には1号路から6号路まであります。

 1号路は、薬王院までの間は車が通れるよう舗装路になっています。

 ヤブミョウガ

 初めに目についたのはヤブミョウガの白い花。長い花茎に串状に花穂を付けます。蒸し暑さと共に思い出す花です。

 ウバユリ

 こちらはウバユリの若い蕾。結構大きくて、写真のもので15pくらいありました。これから開花が近くなると90度傾いて水平になり、花冠の花被片を遠慮がちに小さく開きます。

 ヤマジノホトトギス?

 うむ、これはヤマジノホトトギスか。花被片が水平に開くのがヤマジノホトトギス。反り返って下を向くのがヤマホトトギスなのですが、写真のものはその中間的な開き方ですね。雄しべに斑点がないのでとりあえずヤマジノホトトギスということにしておきましょう。

 この辺りはまだ坂道の斜度も緩めです。
 少し陽が差してきました。このまま天気の回復が望めるのか。

 タマアジサイ

 小川の流れに蓋をするようにせり出したタマアジサイ。花は薄紫色で涼しげです。

 ヤブデマリ

 この時期に赤く熟している実? 帰ってから図鑑で確認したところ、ヤブデマリと判明。通常は8月から10月に熟すとあったので、写真のものはぶずいぶん気の早いやつです。

 ハグロソウ

 この花、名はハグロソウですが、特段葉が黒いというわけではありません。薄暗いところでも苦にせず生えることから、葉が暗く見えたのかもしれませんね。花は上下2唇形の形をしていて、このタイプの花はちょっと珍しいです。

 ハエドクソウ

 名に似つかわしくない可憐な花。大きさは5mmほどです。根を煮詰めて蠅取り紙の粘着液を作ったことからこの名が付いたそうです。少なくとも毒ではないですね。ハエにとって気の毒ではありますが。なお、この花の写真を撮っていると大概蚊に刺されます。

 ユリノキ

 頭上に光沢のある紺色の実が。これはウリノキの実です。なんとなく瓜に似た形をしていますが、名の由来は葉の方で、葉の形態が瓜のそれに似ているからだそうです。花も特徴的で、相撲の土俵の四隅にぶら下がる房のような形をしています。

 道はつづら折りにさしかかり、傾斜も増してきました。

 タケニグサ

 タケニグサです。雑草的に扱われ、空き地の縁などで繁っていたりしていますが、yamanekoとしては少し好きな部類の植物です。花をよく見るとなかなか繊細なんですよね。

 ヤマユリ

 斜面からしな垂れるようにして咲くヤマユリ。なかなかいいポーズで収まっています。

 1号路沿いには大きな木が残っていますが、薬王院への参道だったからですかね。

 ヘアピンカーブ。黙々と登ります。この辺りからまたどんよりと曇ってきました。

 カシワバハグマ

 カシワバハグマの若い蕾。まだ総苞片が固く締まっています。ぱっと見、磯で見かけるカメノテみたいです。

 リフト駅

登り始めて1時間ちょっと。リフトの駅が現れました。ここからは比較的なだらかな稜線部を歩くことになります。

 ビアマウント

 高尾山の人気スポット、ビアマウントです。山の上にあるビアガーデンですね。都心の夜景が楽しめるので、仕事帰りにわざわざここに来るグループもいるそうです。
 この辺りでちょっとぱらぱらっと振ってきましたが、すぐに止みました。

 その都心方向の展望がこれ。ビアマウントからは実際にはアイポイントがここより10mちょっと高いので、もっと眺めが良いはずです。

 グッとズームで。この時間に見ると、都心のビル群がミラージュのよう。

 ヒヨドリバナとアサギマダラ

 サクッと眺めを楽しんだら、再び山頂に向かって歩きます。
 ヒヨドリバナにアサギマダラが来ていました。食事に夢中なのか3mくらいまで近づいても逃げませんでした。おかげでゆっくりと写真を撮ることができました。アサギマダラは風に浮かぶように飛ぶのでなんとも優雅です。それにしてもこんなに繊細なチョウが1000km以上も旅をするなんて。そんなエネルギーがどこに蓄えられているのでしょうか。

 オオバギボウシ

 オオバギボウシの純白の花。石垣の隙間から生えていました。たくましい。

 植物園

 道すがら「さる園・野草園」があったので寄ってみました。もちろん目当ては野草で、サルの方はパスです。

 レンゲショウマ

 おお、いきなり現れたレンゲショウマ。夏の花です。広島では見かけませんでしたが、図鑑で調べると、東日本を中心に西は大阪辺りまでに分布しているとのことでした。

 キレンゲショウマ

 こちらはキレンゲショウマ。「天涯の花」です。キレンゲショウマは中国四国の深山で何度か見かけました。野生のものはほとんど幻の花です。逆に関東とかでは野生のものは見たことがありません。

 シオデ

 涼しげなモビールのよう。これはシオデの花です。写真では分かりにくいですが、金平糖の角のように飛び出しているのは雌しべの柱頭で、したがって雌花です。シオデは雌雄異株なんです。

 シモツケ

 シモツケはバラの仲間。小さな花が集まって付きます。名前は旧国名の「下野」(現在の栃木県)から来ているのだそうです。ちなみにこれは木本。シモツケソウという草本の植物もあり、花の見た目も似ていますが、シモツケソウの方がやや繊細な感じがします。

 ウバユリ

 開花状態のウバユリです。スタート間もないところで見かけたウバユリの蕾はまだ直立していましたが、これが満開時の姿。ウバユリは葉が枯れて黒くなるので「葉が黒い」から「歯が黒い=お歯黒」となって、「姥(うば)」が連想されるというだじゃれ的なネーミングなんです。

 カリガネソウ

 幽玄な趣のあるカリガネソウ。優雅でもあります。20数年前、この花のことを初めて知り、一人で深山に探しに行ったことを思い出しました。高速道路を何十キロも走って。元気が有り余っていたんですね、あの頃は。感心します。

 イワタバコ

 イワタバコ。湿った岩場の崖などに生えます。名の由来は葉がタバコのそれに似るからだそうですが、サイズがあまりにも違いすぎて、タバコの葉を連想するのは困難と思われます。ちなみにタバコの葉は大きいものは子どもの背丈ほどもありますから。
 さすがは野草園だけあって、見頃の花がたくさんあります。でも入園している人は2、3人でした。

 浄心門

 野草園を出て再び1号路を進みます。ほどなく現れたのは浄心門。ここから先が薬王院の境内になります。写真では分かりにくいですが、ここで左右に3号路と4号路が分かれます。
 この門、なぜか鳥居のような構造をしています。左の柱には「祈願 被災地復興」、右の柱には「祈願 国土安穏」と掲げられていました。

 男坂・女坂

 浄心門を更に進むと道が二手に分かれます。左は男坂で、急な階段が待っています。右は女坂で、距離はありますが緩やかな坂道です。いつもは距離の短い男坂を行くのですが、今日は女坂をゆっくり歩くことにしました。実は女坂を行くのは初めてで す。

 山門

  しばらくすると二つの道は合流し、また一つの道となって薬王院の本殿に向かって行きます。これは山門。ここをくぐると寺社建造物の密集するエリアになります。

 出た! 高尾山のシンボル、大天狗&烏天狗。見栄を切っています。

 大本堂

 階段を登る(角度からして、「昇る」でも「上る」でもない。)と現れるのが大本堂。すなわちここはお寺なわけです。

 本社

 そこから更に階段を登ると次に現れるのは本社。こちらは神社ですな。典型的な神仏習合スタイルです。神仏習合は江戸時代以前はごく普通のスタイルだったそうです。

 奥の院

 そこから更に登ると奥の院。写真では見えませんが後ろに浅間神社もあり、ここでも神仏習合となっていました。
 こうやって見ると、薬王院は稜線直下の山の斜面を使ってひな壇状に境内を広げているのが分かります。

 奥の院の先で薬王院の境内は終わり。その先はちょっとした森の中の道となります。

 フサザクラ

 このカブトガニのような特徴的な形の葉はフサザクラですね。谷沿いのやや湿ったところにあるイメージでしたが、稜線上で目にするとは。サクラと名が付いていますが桜の仲間ではありません。他にもツガザクラやシバザクラなど桜でないサクラの名を持つ植物がありますね。桜は他の植物の名前のベースに使われるくらい日本人にとって馴染みの深い存在なんでしょうね。

 いよいよ山頂手前の坂までやって来ました。右手に見切れている黒い大きな建物はトイレ。なんと二階建てです。何しろ高尾山は年間260万人が訪れるそうですから。

 高尾山山頂

 11時50分、登りはじめから2時間20分で山頂に到着しました。パッと見街中の公園みたいですね。例年だと休日にはここが人でいっぱいになります。

 山頂広場の先は一段下がった広場になっていて、多くの人はここでくつろいだりしています。

 富士山遠望(心眼で)

 その先端部まで行くと富士山方向の展望が開けています。残念ながら今日は雲の向こうですが、晴れていると写真中央部に秀麗な姿を見ることができます。

 横浜方向

 南側はこんな感じ。多摩丘陵の向こうに横浜のビル群が見えています。

 十一丁目茶屋

 ひとしきり眺望を楽しんだら、山頂には長居をせずに下山を開始しました。スタスタとケーブルカー駅の近くまで降りてきて、茶屋で昼食を。あっさりと冷たい蕎麦を食しました。

 ケーブルカー駅

 食事を終えたらケーブルカーで下山します。

 八王子JCT

 発車時刻までの間、駅前で時間つぶし。北側の谷を臨むと圏央道と中央道が交差する八王子JCTが見えました。正面のトンネルを抜けていくと圏央道鶴ヶ島方面です。反対に、手前が厚木方面になりますが、この高尾山をぶち抜くトンネルになっていて、建設前にずいぶんと反対運動がされていたと記憶しています。交差する中央道は、左手が大月方面、右手が高井戸方面になります。見ていると車の量は少ないようでした。

 ケーブルカーは15分おきに発車。すぐにトンネルに入りますが、これは1号路の下をくぐって麓に下りていくためです。
 数分で麓の駅に着き、土産物屋を冷やかすこともなく、まっすぐ駐車場に戻りました。
 
 結局今日もどんよりとした天気でした。日照不足で作物の収穫にも影響が出てきているとのこと。梅雨も必要ですが、夏にはしっかりと晴れてもらいたいものです。そうでなくても新型コロナで気が滅入ってきがちなこの頃ですので。