高水三山 〜奥多摩に早くも秋の気配〜


 

【東京都 青梅市 平成18年8月20日(日)】
 
 東京の西部、奥多摩地域にはゆっくり山歩きができるコースがたくさんあります。本屋の書棚にも「低山ハイキング」とか「日帰り山歩き」とかの本がズラッと並んでいて、都会でもやっぱり自然を求めて出かけたいと思っている人がいっぱいいるんだと、あらためて感じさせられます。
 今日はそんなコースのうちの一つ、奥多摩にある「高水三山」を歩いてみたいと思います。「三山」とは、高水山、岩茸石山(いわたけいしやま)そして惣岳山(そうがくさん)のことで、この三つをぐるっと縦走するのが一般的のようです。
 この春東京に引っ越してきてから、山歩きらしい山歩きは初めてかもしれません。それぞれは700m台の、いわゆる低山ですが、yamanekoにとっては久々の「山」です。
 
                       
 
 午前8時前、中央線中野駅から「ホリデー快速おくたま1号」に乗車。 なめていました。のんびりと電車に揺られながら奥多摩に向かうつもりだったのですが、車内は登山や山歩きの中高年で満員、まったく普通に通勤時間帯の混み具合です。1時間ずっと立って、青梅で各駅停車に乗り換えて軍畑駅へ。単線だし車窓の風景は典型的なローカル線なのですが、当然この車内でも満員。乗り換えで車両数が減ったので余計に混雑しています。恐るべし東京、です。

 軍畑駅

 9時20分、軍畑駅に到着してからストレッチをして駅前を出発です。上の写真は一緒に下りた集団が出発した後の落ち着いた風景です。

 ヤブミョウガ

 駅を出てすぐ右手に杉林。その根元にヤブミョウガの小群落がありました。すぐに踏切があって、それに続く小径を下っていきます。

 駅横の踏切

 道路脇の石垣にテイカカズラが巻き付いていました。光沢のある小さな葉がびっしりです。その周りのツユクサの青い花がみずみずしい。ちょっと薄暗いヤブの手前にはヤブランの薄紫の花穂が揺れていました。まだ蕾の状態です。
 踏切から200mほど進むと立派な車道に出ました。ここを左折して山の奥の方に向かいます。道路の脇には川が流れていてザーザーと水音が聞こえてきます。この辺りの川の様子は渓谷といってよいくらい、水の色が驚くほど澄んでいます。道路側の法面が護岸されているのみで、ところどころに天然の岩や落ち込み、よどみ、瀬などがあって、まさに渓谷の面影をとどめていました。この辺りにも民家が点々とあり、生活排水も流れ込んでいるのだと思いますが、川の浄化能力の範囲内なのでしょうか。 


Kashmir 3D

 9時37分、分岐点に到着。このまま広い車道をまっすぐ行くと榎峠に至りますが、ここは斜め左に折れて、平溝川沿いに高水山登山口を目指します。
 川の中の岩の陰からキセキレイが飛び立ちました。きれいな羽の黄色が目に残ります。このキセキレイが、まるで自分を川上に誘うように、岩伝いに点々と上流に向かっていきました。川岸にキツネノカミソリの淡いオレンジ色。いつのまにかこういう季節なんです。
 この辺りはやはり梅の里なのでしょう。ところどころに梅林が見られます。青梅という地名もこの特産の梅から名付けられたそうです。

 登山口(右手)

 9時55分、登山口に到着しました。ペットボトルで給水をして歩き始めます。目の前の足下をトカゲが慌てて横切っていきました。しっぽはコバルトブルーの金属光沢。なんでそんな色である必要があるのでしょうか。切り離すことができるしっぽの方を目立たせることによって、外的から身を守ろうということかもしれません。
 登山口に入ってすぐ、曹洞宗高源寺という寺が。境内には立派なサクラの木がありました。

 ボタンヅル

 沢の上に張り出したモミジの梢。それにすっぽり覆い被さるようにボタンヅルが茂り花を咲かせています。少しでも多くの陽を浴びようとする光の争奪戦です。
 少し行くと、道ばたの畑の畝に早くもアキノタムラソウが花を付けようとしていました。また、道路沿いの石垣からノブドウの蔓が垂れ下がっていますが、実はまだいずれも青いです。夏と秋とが入り交じった季節です。そう、暦の上ではもう秋。昔の人は単に気温だけでなくこのような植物の微妙な様子の違いも感じ取っていたのではないでしょうか。
 今日の天気予報は曇りがちで不安定な天気とのこと。ザッとにわか雨があるかもしれません。風はなく、湿気をたっぷり含んだ空気が半袖から出ている腕にまとわりつきます。四方八方から降り注ぐミンミンゼミの声が一層暑さを増しているようです。
 水辺に下りてみました。ミズヒキの茎が長く伸び、中程から先端にかけて赤いつぼみがたくさん付いています。もちろん花はまだ開いていません。

 林道の終点

 10時10分、林道の終点までやってきました。ここから山道になります。

 ミズタマソウ  ハグロソウ

 沢沿いには両岸にヤマアジサイ。今ちょうどよい感じで咲いています。
 道の脇にミズタマソウが咲いていました。小さく地味な花です。そのミズタマソウにもヘクソカズラが巻き付いて、上へ上へと伸びようとしています。ここにも小さな光の争奪戦がありました。キンミズヒキの花もチラホラ、オトコエシも咲き始めています。
 目の前に大きな砂防堰堤が現れました。ここまでですでに全身大汗です。砂防堰堤を越えてしばらく行くと杉木立の中に入っていきます。日差しが遮られて気持ちがいい。風も涼しいです。林で陽が遮られた中にハグロソウが点々と咲いていました。

 木立の中の登山道

 10時30分、谷のどん詰まりまでやってきました。ここからは左手の山肌に道をとってジグザグに上っていきます。
 足下にキッコウハグマの葉が放射状に広がっていて、その中心からまっすぐ花茎が立ち上がっています。蕾はまだ小さいようです。杉林の中でも光が届くところには花も集まってくるいるようで、その中にヒヨドリバナが。この時期の主役の花の一つです。

 マツカゼソウ

 日だまりの中にはマツカゼソウも。生育するには好条件なのか背が高く伸びていました。

 稜線の道

 10時45分、稜線に出ました。ここからは反対側の西側斜面を上ることになります。稜線といっても杉木立の中なので展望は全くありません。ただこの稜線を越えていく風が涼しいです。すでにペット1本飲みきってしまいました。どんどん補給しなければ追いつきません。
 
 登山道が少し平坦になってきました。高水山山頂が近いのかもしれません。林床にキバナアキギリが現れ始めました。花は付いていますが、まだいずれも丈が小さく、きれいに咲き誇るのはこれからでしょう。

 高水山山頂

 11時15分、高水山山頂(759m)に到着しました。しばしここで休憩です。新しいペットを開けて飲み始めると、このまま一気に飲みきってしまいそうな勢いです。
 地図を見るとここから次の岩茸石山までは、まずいったん急に下り、そこからは稜線沿いになだらかなアップダウンの道となります。そして最後に急な上りがあるようです。

 気持ちのいい登山道

 さて、再びスタートです。途中までは岩の破砕したガレのような地面だったのに、山頂周辺は粘土質で滑りやすくなっています。気をつけねば。
 急な下りが終わると森が心なしか明るい雑木林に変わりました。本来なら梢の向こうに武州の山々が見えるのでしょうが、今日は空気中に湿気が多いせいか白く霞んでしまって遠くまで見渡すことができません。

 北方向の展望

 11時40分、北方向の展望が開けたところに出てきました。遠くやや東の方向に飯能の街並みが霞んで見えます。ここから岩茸石山山頂への直登。岩肌の急斜面の踏み跡を探しながらの上りです。

 岩茸石山  黒山

 11時45分、岩茸石山山頂(793m)に到着。ざっと10数人の先客がいました。なにはともあれ汗を拭いて、昼食です。こんなに暑くても食欲はバッチリ。
 腹が落ち着くと辺りを探索です。北西方向の山並みは真っ黒い雲に覆われ、正面の黒山もすでに雨の帳が下りているようにも見えます。
 山頂はミズナラ、クマシデなどの落葉広葉樹林。冬晴れの日に登ってきたら今日とはまた違う印象をもつかもしれません。
 
 12時35分、昼食を終えて、すっかり体温も下がって、再び歩き始めることに。また急な下りからです。

 岩茸石山(左)と高水山(右)

 次の惣岳山までも再び尾根筋の道です。左手はスギの植林地、右手は雑木林。ここでも尾根筋を越えていく風が気持ちいい。木漏れ日も心を軽く前向きにしてくれます。一箇所だけ展望がきく場所があって、そこから北の方を望むと、これまで歩いてきた高水山と岩茸石山、それらを結ぶ稜線などがパノラマのように見えました。あそこからぐるっと回り込んできたことになります。

 惣岳山

 惣岳山の直下まで来ました。ここからまた岩肌の直登。ロープ片手に岩場を登るなかなかスリリングなコースです。

 惣岳山山頂

 13時ちょうど、惣岳山山頂(756m)に到着しました。山頂にはヒノキの木立の中にぽっかりと広場が合って、そこにはちょっと変わった神社がありました。なぜか神社が金属ネットで囲まれているのです。といっても金網の柵に囲まれているのではなく、屋根のひさしからまっすぐ地面まで覆われていて、まるで巨大な鳥かごのようになっているのです。??? 由来書きによると、この神社は青渭(あおい)神社というのだそうで、祭神は大国主命。拝殿や神楽殿はこの山のふもとにあって、毎年4月第3日曜日に例大祭が行われるのだそうです。
 
 一休みして、ここからふもとに向かってまっすぐ下っていきます。この登山道は本来はどうも青渭神社の参道のようで、しめ縄の巻いてある神木や祠がしつらえられた水場など、神社ゆかりのものが点在していました。辺りはスギと雑木の混ざったような林。スギは枝打ちされた様子もなく、長い間手入れされていないようです。そんな中にあって、光沢のあるアセビの葉が美しく感じられました。アセビは広島近郊の里山歩きでも頻繁に見かけた木です。
 そろそろ疲れが出てきたのか、登山道に張り出している杉の根にひんぱんにつまづいてしまいます。ついつい勢いで下ってしまいますが、こんなところでケガをしてしまってはつまりません。下りは歩幅を小さく、が基本です。
 13時50分、稜線の最後の突端まで来ました。ここからふもとの御嶽駅まで転がり落ちるように下っていきます。
 
 ふもとから賑やかな太鼓の音色が聞こえてきます。今日はお祭りなのでしょうか。なにやらひっきりなしにマイクでしゃべっています。

 御嶽駅側からの登山口

 14時5分、御嶽駅に到着。ものすごい人です。聞いてみると、この3日間、多摩川をはさんで反対側にある御岳山の「御岳山祭り」だったようです。しかも、ちょうどこの時期、御岳山にはレンゲショウマが咲くので、それを目当てにものすごい人が押し寄せるのだそうだそうです。知らなかった…。

 お囃子

 帰りの混みようは往きのそれに輪をかけたようなすし詰め状態。幸運にも青梅からは座れましたが、ビールでも飲みながら、なんて淡い思いも吹き飛んでしまいました。
 
 今日は最初の高水山まではたくさんの花に出会うことができましたが、そこから先はほとんど杉林の中だったので、ちょっと単調な山歩きになったような気がします。でも、しっかりと汗をかいて、体中の筋肉を使って、心身ともにリフレッシュすることができました。また定期的にしっかりと山を歩いていこうと思います。これから秋に向かって涼しくなってくると、野山ではまた違った楽しみが迎えていてくれることと思います。