高倉山 〜春の証を探しに〜


 

【神奈川県 相模原市 平成21年3月28日(土)】
 
 サクラの開花の知らせがあちこちから届くようになりました。3月下旬になってグッと冷え込む日が続きましたが、東京でも街角のソメイヨシノの枝先に薄桃色の花がチラホラと。もう本当に春がやって来たようです。
 今回は早春の里山を歩こうと思って、新宿から中央線を西へ。八王子を過ぎ、小仏トンネルを抜けると、そこは山梨県。ではなくて実は神奈川県です。中央線を西に向かうと山梨県だというイメージが強いのですが、ちょっとだけ神奈川県を横切るのです。でもって目的地の藤野町(正確には町村合併で相模原市になったみたいですが。)はそのちょっとだけの神奈川県にあります。新宿から1時間。あっという間でした。

                       
 

 藤野駅のホームから

 中央高速を走ったことがある人ならこんな風景を見たことのある人は少なくないと思います。なんと山肌に巨大なラブレターが。いつも運転中なのでじっくり見ることはできませんでしたが、周囲の民家などと比較するとかなりでかいものであることは分かっていました。こうやって藤野駅のホームに下り立ってじっくり眺めてみると、あらためて、なんで?って感じです。
 藤野町観光協会のHPにはこんな記述が。「藤野町の「芸術村構想」の一貫として、名倉地区の所々に野外彫刻作品が展示されています。中央高速を走っていると、目に飛び込んでくる巨大なラブレター。木々の間に転がる不思議な物体。下界を静かに見下ろす山の目…。「芸術の道」は、いわば野外美術館。約30点の芸術作品が作者の選んだ場所に置かれ、歩きながら自然と調和したアートシーンを楽しむことができます。」 ふーん、そういうことだったんですか。

 藤野駅

 ローカル感満点の駅前。この辺りは桂川が削った谷の斜面にあたり、狭い範囲に中央高速、JR中央本線、国道20号線と交通の大動脈が斜面に張り付くように通っているのです。なので駅舎も雛段式です。


Kashmir 3D

 今日のコースは、駅から斜面を下り弁天橋を渡って対岸へ。大刀地区のちょっとした分譲住宅地の脇を通って「ラブレター」の山の向こう側に回ります。そこから目的の高倉山に登り、小さな集落を抜けて再び「こかげ山」という山に入って、住宅地に戻ってくるというものです。しばらく野山から遠ざかっていた身のリハビリにはちょうどいいくらいのコースです。

 桂川(相模湖)

 駅前の国道20号線を横断するといきなり桂川に向かって下っていきます。弁天橋から下を見るとワカサギ釣りの小舟が。この辺りは相模湖の先端部分にあたり、川という風情ではありませんね。

 キブシ

 対岸に渡るとスギ林の中の縁を通る車道を歩きます。ガードレールの向こうにキブシの花が揺れていました。淡い淡い黄色です。

 ヤマブキ

 こちらはポッと陽が差したような黄色。ヤマブキの鮮やかな黄色です。

 ムラサキケマン

 林の縁のちょっと湿った感じのところに咲くムラサキケマン。ケシ科の花は変わった形をしたものが多いです。

 ウバユリ

 枯葉の中にテカテカと生気にあふれた緑の葉。これはウバユリの若葉です。これからぐんぐん大きくなって、人の背丈ほどにもなる大型のユリです。
 毎年ウバユリの若葉を見ると「生命力」を感じさせられます。

 山は斑模様

 春の山は斑模様。落葉樹と常緑樹とが複雑な迷彩柄を作っています。季節が深まるにつれて、常緑樹は鮮やかな緑に、落葉樹は芽吹きの淡い緑からやがて深い緑へ。一日として同じ姿を見せることはありません。
 写真の山の中腹に中央高速が通っています。その直下にはJR中央線です。手前の畑との間には桂川(相模湖)があるのですが、深い谷となっているのでここからは見えません。

 里の春

 ドッドッドッ、という耕耘機の音。地元の農家の方が畑を耕していました。その脇には見事なしだれ桜が。この桜の開花を野良仕事の暦にしているのかもしれませんね。のんびりとした風景です。

 モミジイチゴ

 モミジイチゴの花弁はすぐに傷んでしまいますが、写真のものはちょうどきれいな状態です。白磁色の美しい花ですね。この時期の野山ではよく目立っています。西日本には長い葉のナガバモミジイチゴが棲み分けていて、こちらは東日本ではお目にかかれないようです。

 静かな道

 芝田地区を過ぎると民家は途絶えます。ここから山の中に入っていきます。

 ミヤマキケマン

 ミヤマキケマンの花はまだ開いていませんでした。

 急登

 滑りやすい急な山道を登っていきます。あたりはまだ新緑というにはほど遠い雰囲気。

 ミミガタテンナンショウ

 葉を展開し始めたミミガタテンナンショウ。暗褐色のラッパのような部分は仏炎苞という器官。中にある花を保護しています。花と行っても一般にイメージするようなものではなく、雄花は雄しべだけ、雌花は子房だけという超簡素な構造。トウモロコシのようにびっしりと寄り添って付いています。

 ヒトリシズカ

 音もない谷にひっそりと佇む「静御前」。ヒトリシズカは平安末期から鎌倉初期を生きた静御前が舞う姿をから名付けられたといいます。静御前がどのような人物だったのかよく分かりませんが、この花の姿からすると、きっと清楚な人だったのでしょう。

 カタクリ

 ヒトリシズカのすぐ先にカタクリが。辺りを見渡すと南向きの斜面のあちこちで花茎を伸ばしています。ただ気温が低いせいか、それとも日射しがないせいか、みな花弁を閉じていました。

 谷筋の道

 谷の切れ込みに沿って乾燥した山道を歩いていきます。あと一月もすると木々は葉を繁らせ、また違った風景になるのかもしれません。

 シュンラン

 早春の使者、シュンランです。やや背を曲げて立つ姿からか、関東地方では「ジジババ」という名で呼ばれたりします。写真で見ると特徴的な姿をしていますが、これが野山ではなかかな目立たないもの。でもシュっと伸びた葉で見つけることができます。、

 鳥の巣

 鳥の巣を拾いました。サイズからしてスズメ型の鳥のものでしょうか。巣材としてビニールの切れ端なども使われているのが民家も近い里山らしいところです。

 山頂へ

 山頂へ向かう急な階段。写真ではそうでもないように見えますが、実際にはのしかかってくるような角度でした。

 高倉山山頂

 そしてようやく山頂(379m)。水筒に入れてきた熱湯でカップラーメンを作っておいしくいただきました。あと、コンビニむすび。定番ですね。

 クロモジ

 昼食が終わって一休みすると下山です。まだ葉が展開していない枝に黄色い小さな花。クロモジです。

 転がり落ちそう

 麓へと下る道はものすごい斜度。一歩間違うとあっという間に下に到着です。傷だらけで。

 葛原集落

 葛原集落に下りてきました。人影はあまりありませんが、寂れているわけではなく、たぶん昼下がりの穏やかな時が流れているだけだと思います。

 振り返ると、高倉山…?

 トコトコ歩いて向原集落へ。振り返るとさっき登った高倉山を望むことができました…って、え、えぇーっ! こっち見てるじゃない。(マウスオーバーで拡大)
 後で調べてみたらこれもアートなのだとか。このあたりに住んでいる人は何か落ち着かないのではないでしょうか。

 センボンヤリ

 向原集落から右手の「こかげ山」の中に入っていきます。落ち葉の山道にセンボンヤリが咲いていました。丈の短い花で名前に似つかわしくない姿をしていますが、秋に伸びる花茎は高さ50pくらいになり、先端に付く花も閉鎖花となり槍の穂先のように見えるのです。それで「センボンヤリ」。

 コウヤボウキ

 こちらはコウヤボウキの若葉。釣り竿のような枝に若葉が行儀よく整列しています。

 尾根道

 両側が切り立った尾根の道。まだ木々が葉を繁らせていないので明るい道です。

 ジュウニヒトエ

 シソ科のジュウニヒトエが咲いていました。道の脇の山肌が小さく崩れて、その上部が庇のようになっているその下あたりに生えているものが多く見られました。まるで雨を避けているかのようです。

 小さな祠

 小さく張り出した尾根の先端に小さな祠がありました。その祠を風雨から守るかのように、大きなヒサカキが。御神木として長い間伐られることなく成長してきたのでしょう。

 ヒサカキ

 その枝先には5つの花弁を壺型に丸めた小さな花がびっしりと付いていました。春の山に香る独特の匂いはこのヒサカキのものです。春を感じさせる匂いとしてyamanekoの好きな匂いです。

 祠の尾根先から

 祠のある尾根の先端から梢越しに藤野の町が望めました。ここからだとまだ結構な距離がありそうです。

 イチヤクソウ

 祠の所から谷筋まで下っていきます。途中、枯葉の中に緑色の生き生きとした葉が。よく見るとそこからまっすぐに枯れた茎が立っていました。これはイチヤクソウの去年の花茎ですね。茎の上部には花殻が残っていました。

 ヤマザクラ

 林のところどころに山桜が咲いていました。まだ3分咲きといったところでしょう。里だけでなく、次第に山の方にも春が広がってきています。

 戻ってきました

 麓の住宅地に下りてきました。藤野町には写真のようなゲートがあちこちにあり、登山道や散策路の案内をしていました。それをくぐってゴールです。
 今日一日、のんびりと里山を歩きました。あちこちで春の証を見つけながら。久しぶりにリフレッシュできた気がします。
 これから藤野駅まで戻って、東京行きの快速に乗れば1時間ほどで帰り着きます。たまには電車もいいですね。