太東海岸 〜大海原に向かう花々〜


 

【千葉県 いすみ市 平成22年7月25日(日)】
 
 いやー、夏ですね。ここのところ山方面が続いていたので、今回はひとつ海の方へ行ってみようと思います。「夏」、「海」、とくると「湘南」ということになりがちですが、そこはあえて千葉。今、時代は千葉ですね(無根拠)。
 千葉県の地図を見てみると、まず大きく弧状に延びる九十九里浜に目がいきます。その弧の南端から先は若干起伏に富んだ海岸線になりますが、今日の目的地である太東海岸はその辺りに位置しています。
 
                       
 
 世の中的には夏休みに入ったところで、今日あたりマリンレジャーに繰り出す人も多いでしょう。なので、ちょっと早めに出発です。といっても午前7時過ぎですが。首都高7号小松川線から京葉道路に入り、千葉市を過ぎて房総半島の中央部に向かいます。「笑顔と自然と文化のまち」茂原を過ぎて更に南下。太平洋が見えてくるとそこが目的地周辺です。
 国道128号線からナビをたよりに細い道に入っていきます。すると5分ほどで海岸に突き当たりました。小さな駐車スペースとトイレがあります。ここにドリーム号を停めて辺りを散策してみましょう。まずは、海岸沿いに南に向かいます。


Kashmir 3D

 今回、なぜ太東海岸を選んだかというと、ここには「太東海浜植物群落」という、わが国最初(大正9年)に天然記念物に指定された植物群落があり、ちょうどこの時期にスカシユリが咲いていると聞いたからです。
 スカシユリは漢字で書くと「透百合」。別に花被片が透明と言うわけではなく、花被片の根元部分が細くなっていて、隣同士で隙間ができていることから、「向こう側が透けて見える」という意味で「透かし百合」という名が付いたのだそうです。yamanekoはこれまで見たことがなかったので、ベストシーズンを選んで出かけたわけです。

 辺りには人影はまばら。どうやら人が大勢やってくるようなところではないようです。海岸は護岸されていて、さらにテトラポットで守られていました。それでも波によってところどころ破壊されていて、海岸沿いに延びる道にも立ち入り禁止となっている箇所もありました。以前行った茨城県の大洗海岸もそうでしたが、太平洋から押し寄せる波の威力ってすごいものなんですね。

 アカテガニ

 テトラポットの上をごそごそと移動するものが。アカテガニのようですね。アカテガニは海岸や川辺の岩場などに多く生息するとのことで、高いところに上る習性があるそうですから、テトラポットの上なんかもお気に入りの場所なのかもしれません。

 太東海浜植物群落

 海岸沿いに延びる小高い丘の斜面に点々と朱色の花が。おお、あれがスカシユリでしょう。海岸沿いに延びる道路と丘との境界には柵があって、当然丘には立ち入ることはできません。(上の写真も柵の外からのもの)

 スカシユリ

 柵の際に生えているスカシユリを見てみましょう。茎が太く葉も密生していて、なにやらがっしりとした印象を受けます。花はまっすぐ上を向いて付いていて、茎との接合部もぐらつきのないようにガシッと固定されているようでした。沿岸部の強い風にも耐えられるような構造になっているのでしょうね。

 ほう、確かに隣り合う花被片の根元に空間がありますね。透けてます。雄しべと雌しべもピンと直立しています。このスカシユリ、分類上はヒメユリと近縁なのだそうです。そういえばヒメユリも上を向いて咲くユリですね。分布は、太平洋側では静岡県の御前崎以北、日本海側では新潟県以北だそうです。

 ハマオモト

 ハマオモトも咲いていました。別名ハマユウ。この辺りは日本での分布の北限にあたるのだそうです。ヒガンバナ科と聞いて、印象は異なりますが花の構造は確かに共通するものがあります。

 イソギク

 イソギクの葉。縁と裏面が銀白色なのが特徴。まだ花茎は伸びていません。花の頃にはちょっと独特の臭気があります。イソギクは千葉県の犬吠埼から静岡県の御前崎までの海岸線に分布しているとのこと。この花を初めて伊豆で見たときには、葉裏の色に驚いたものです。

 スカシユリの丘を過ぎると護岸がなされていませんでした。ということはさっきまでのテトラポットなどは群生地を守るためのものだったのですね。さすがは天然記念物。調べてみると、過去、波の浸食によって海岸が大きく削り取られたことから、一部の範囲が天然記念物の指定を解除されたことがあるのだとか。植物群落の現在の大きさは、海岸線に沿って、長さ150m、幅40mくらいでしょうか。もうこれ以上小さくならないようにということでしょう。

 ラセイタソウ

 このちょっとビロードっぽい質感の葉は、ラセイタソウのものです。調べてみると、ラセイタとはラシャ(羅紗)に似た毛織物のことで、ラシャより少し薄手のもの。ポルトガル語なのだそうです。そもそもラシャ自体どんなものでしたっけ(ビリヤード台や麻雀卓に張ってあるやつだそうです。あぁ、あれね。)。

 クコ

 クコの花が咲いていました。ナス科だけにナスの花に似ていますね。秋には見た目は美味しそうな赤い実が付きます。「親の意見となすびの花は万に一つの無駄もない」といいますが、やはりクコも実の付きが良いのでしょうか。ベランダで栽培している我が家のシシトウは、花が咲いたらほぼ間違いなく実ができます。

 ハマボッス

 ハマボッスの残り花。もうほとんどが若い実になっています。

 北側へ

 来た道を引き返して、駐車場を通り過ぎ、今度は北側に行ってみました。

 ボタンボウフウ

 葉がボタンのそれに似ていることからボタンボウフウだそうです。沖縄ではこれを「長命草」といい、ネットでも健康食品として一大マーケットができているようです。

 ここから先は断崖が続いています。入口には落石注意の看板が。でも釣りをしている人もいるので、あくまでも自己責任ということで。
 それにしてもコンクリート製の遊歩道が波打っています。テトラポットも結構摩耗していて、波の力を感じざるを得ません。ここの岩石は凝灰岩(火山噴出物が堆積してできた岩石)と砂岩(河川が運んできた砂が堆積してできた砂岩)などが主なもので、もともと浸食に弱いのだそうです。ほっておくとあっという間に削り取られてしまうのでしょう。で、その削られた岩はどうなるのか。細かく砕かれて砂となり、九十九里浜に供給されるのだそうです。全長約66qにも及ぶ九十九里浜は、その北端の屏風ヶ浦と南端の太東海岸を浸食してできた砂によって形成されたのだそうです。ただ、一度出来上がったらそれで終わりということではないらしく、常に砂の流出と供給がおこなわれ、それが釣り合うことにより砂浜の形を維持できているのだそうです。(まてよ、護岸をすると供給がストップするんじゃないのか?)

 ハマナデシコ

 岩壁に張り付くようにハマナデシコが群生していました。強烈な日射しに負けることなく生き生きしています。

 おお、オーバーハングしていますね。海食崖の高さは概ね50m。ここから約3qほど断崖が続き、そこから先は九十九里浜になります。
 あまり奥まで行かずにここらで引き返しましょう。波が東映のオープニングみたいに打ち上げていますし。

 断崖に咲くスカシユリ。ハマナデシコもありますね。しかしどうやってあんなところに定着したのか。(海食崖の上面のものが勢力を広げてきただけか。)

 駐車場に向かって戻ります。なんとも波の荒いこと。この辺りは日本でのサーフィン発祥の地の一つだそうです。

 最後にもう一度スカシユリの丘へ。海からの風にときおりざわっ、ざわわっと揺れる朱色の花群。昔はこんな風景が一面に広がってたんでしょうね。

 釣り師

 駐車場の前で地元の釣り師が。何を釣っているのか聞いてみると、イシモチとのこと。釣果はあまりよろしくないとのことでした。イシモチは瀬戸内地方ではグチと呼ばれていて、釣り上げるとググッ、グーッと鳴くのです。この鳴き声が愚痴を言っているようなので「グチ」の名が付いたのだそうです。魚にしてみれば運悪く釣り上げられたのですから、愚痴の一つもいいたくなるってもんですよね。
 日陰のまったくないところで散策していたので、かなり消耗しました。時計を見るとお昼前。どっかでご飯でも食べて、渋滞が始まらないうちに帰った方が良さそうです。