シダンゴ山 〜眺望秀逸、仙人が棲んだ山〜


 

【神奈川県 松田町 平成25年2月10日(日)】
 
 立春を過ぎて、暦の上ではもう春。そう、あくまでも暦の上だけなんですが、立春を過ぎたというだけでなんか心が軽くなってきませんか。
 この週末、朝夕は冷え込むものの日中は日射しが暖かいとの予報だったので、その日射しを楽しめる山に行ってみることにしました。場所は神奈川県松田町にあるシダンゴ山。標高は758mとそんなに低いわけではないですが、名前がユーモラスなので(シダンゴ≒オダンゴ)なんかのんびりと登れそうな気がします。
 
                       
 
 松田町は神奈川県西部、丹沢山麓の南面に位置して温暖な気候のところ。実際、ミカンやお茶の栽培が盛んなのだそうです。
 午前8時、ドリーム号に乗り込んで出発。首都高3号から東名高速に乗り入れて西に向かいます。途中海老名SA辺りまで渋滞していましたが、それを抜けるとあとはスイスイでした。
 東名を大井松田ICで下りて、国道246号へ。ほどなく左手の山間に入る「寄入口」分岐があり、そこを左折して7、8qほど走ると登山の起点となる寄集落に到着します。「寄」は「やどりき」と読みます。寄には自然休養村という施設があって、今から20年近く前に子どもたちを連れてきたことがありました。川遊びをした記憶があります。

 大寺橋から

 ちょうどこの日は寄地区でロウバイ祭というイベントが行われるようで、広いグラウンドが臨時駐車場として開放されていました。そこで山上りの準備を整え、出発です。時刻は10時45分でした。
 まずは大寺橋という橋を渡ります。正面には左右にピークが見えています。シダンゴ山は右のピークの奥にあり、ここからは見えないようです。
 ところで「シダンゴ」とはおもしろい名前ですが、ちゃんと「震旦郷」という漢字での表記もあるようです。「震旦」とは中国の古名だそうで、もとは「秦の国の土地」という意味のインドの言葉が中国に入って(逆輸入か)その音に漢字が充てられたものだとか。他にも真丹、支那という言葉があり、これも同じ発音に漢字を充てたものだそうです。ただ、震には「東方」、旦には「地」という意味があることから、「震旦」の文字が多用されたのだそうです。この山にシタンゴという名が付けられたということは、この辺りに中国から渡来した人が住み着いて、「震旦の人の郷」と呼ばれるようになったのかも(これはyamanekoの推測)。


Kashmir 3D
 

 今日のルートは、大寺橋を渡って分岐を右手へ。反時計回りに尾根道を通ってシダンゴ山の山頂(758m)に向かい、復路は南側の尾根から宮地山(519m)へ。そして元の大寺橋に戻ってくるというものです。

 オオイヌノフグリ

 民家の石垣に早春の使者を見つけました。小さなオオイヌノフグリがもう咲き始めています。妻はこの花が好きで、このときものぞき込んでニコニコ嬉しそうでした。

 フキノトウ

 こちらは「ど根性」フキノトウ。コンクリの隙間をこじ開けるようにして咲いています。生き物の息吹を感じる季節になってきてるんですね。

 

 集落を過ぎたらその先には茶畑が広がっていました。道はこの辺りから上りがきつくなってきます。

 

 変わった形の木だなと思ってよく見ると、コナラ(たぶん)の枯れ木にキヅタがとりついて繁っているものでした。周囲は休耕地のようでしたが草はきれいに刈り払われ、ぽつんとこの木だけが立っています。一体何のために残しているのでしょうか。花がきれいなわけでも実が役に立つわけでもないのですが。地面から這い上がっているキヅタの茎は直径5pほどもあり毛むくじゃらで、むしろ気持ち悪い感じがしました。

 ロウバイ

 これも畑の脇にあったロウバイ。まさに満開で、こちらはほのぼのとした雰囲気を醸していました。

 

 振り返ると寄の集落を挟んで反対側にいい感じの山が。でも名前は不明。

 ハコベ

 このハコベも早春の訪れを告げる花ですね。日射しをたっぷり浴びて、一面に繁っているところをよく見かけます。

 シカ避けフェンス

 森に入ってすぐシカ避けのフェンスがありました。畑の農作物を守るためのものです。西日本ではシカだけでなくサルの被害が深刻なのですが、この辺りはどうなんでしょうか。この形のフェンスで済んでいるということはサルの被害はないのかもしれませんね。

 

 薄暗いスギの植林地の中を登っていきます。もう花粉が飛び始めているでしょうね。

 落とし物?

 火の用心の看板にクマのマスコットが。誰かが落とし物を掛けておいたものでしょう。まったく汚れていなかったので、落としたのはついさっきのことなのかもしれません。

 美白スギ

 スギの幹が異様に白くないですかね。高さは20mくらいありそうです。なんか要塞みたい。

 

 途中、こんな広いところも。林道が通じているのでしょう。軽トラックが上がってきていました。

 

 再びスギ林の中へ。黙々と登っていきます。稜線が近くなったせいか明るいです。

 

 おお、早くもミミズ君が顔を出しています。啓蟄まではまだ一月ほどあるけど、気持ちは分かるなあ。それにしても今日は春の兆しをいろいろ見つけることができますね。

 

 これはミヤマシキミ。まだ蕾ができたばかりです。

 

 むむ…、なんか明るいぞ。

 

 左右はアセビです。これは明らかに植えられたものですよね。

 シダンゴ山山頂

 そして山頂に到着。時刻は12時20分です。ずいぶん広々としてますねー。

 

 山頂広場の中央には小さな祠と山名の由来を記した石盤がありました。祠は麓にある寄神社の元宮とされているそうです。石盤の記述を抜粋すると「シダンゴ(ウ)は古来震旦郷と書く。震旦とは中国の旧異称である。一説に欽明天皇の代、仏教を寄の地に伝える仙人があり大寺の地、この山上に居住し仏教を宣揚したという。当時箱根明神岳や丹沢の尊仏山(塔ノ岳)にも同様の仙人がおり、盛んに往来した形跡があったという。この仙人をシダゴンと呼んだことから地名が起こったといわれ、シダゴンとは梵語で羅漢(仏教の修行を積みさとりに達した人)を意味し、シダゴン転じてシダンゴウ(震旦郷)というようになったともいう。(以下略)」 ふーん。

 

 山頂からは360度の眺望。北の方角には丹沢の峰々が連なっています。

 

 上の写真の中央部をアップに。南関東に位置しながらも、丹沢は奥行きの深い山塊を形成しています。写真左の白い峰が丹沢最高峰の蛭ヶ岳(1673m)です。こうやってみると北アルプスの3000m級の稜線といっても疑わないほどの堂々たる姿をしていますね。実際、丹沢の山々は斜面の標高差が大きく、遭難事故も多いそうです。


Kashmir 3D
 

 これが丹沢山地です(マウスオーバーで山名表示)。東西約40q、南北約20qの範囲に1500m前後の峰が集まっています。秩父山地と合わせて関東山地と呼ばれることもあります。
 この丹沢山地は、太古、南方の海で海底火山の噴出物が堆積したものだったのだそうです。今から1000万年前のこと、その海底の奥深くからマグマが貫入してきて盛り上がり、洋上に少し頭を出すくらいの火山島になりました(と考えられています。)。その後この島を乗せたフィリピン海プレートごと徐々に北上し、500万年前頃に日本列島と衝突して本州と一体化したのだそうです。そこに後から北上してきた岩塊(のちの伊豆半島)が追突。その力で押し上げられるように隆起して今の丹沢山地となったのだそうです。話のスケールが大きすぎてピンと来ませんが、南洋の小島だったものが今眼前に聳えていると思うと、地球にはとてつもなく巨大な力が働いているんだと思い知らされます。ちなみに今も少しずつ隆起しているそうです。ということはこれからも南から島がぶつかってくるということか?

 

 さて、お昼にしましょう。定番のカップラーメンです。おかずのウインナーをフタの上に乗っけてみましたが、特に暖まったりはしませんでした。でも、山頂は風もなく暖かかったので大丈夫です。

 

 丹沢山地の南面に並ぶ峰々。そう言われれば南洋の趣が…、なわけないですね。標高1200m前後の稜線です。

 肩富士

 西の方角には富士山が見えました。手前の山の肩から姿を見せるので「肩富士」というのだそうです。相変わらず純白で凛としていますね。

 

 食後はお茶タイム。アウトドア野点用に茶碗も茶筅も棗までも一回りサイズダウンした道具があるのです。茶菓子は桜餅など春らしいものを。…結構なお点前で。

 

 山頂からの東側の風景。抹茶をいただきながらこんな景色を眺めることができるなんて。これを贅沢といわずして何という。丹沢から相模湾まで一望です。(しつこいようですが、これが本当にフィリピン沖からやってきたのか?)

 下山開始

 山頂で1時間あまり休憩したのち、北側の秦野峠方面に向かって下山開始です。

 

 10分ほど下ると分岐が現れました。直進すると秦野峠、左手前に折れると次の目的の宮地山方面です。なのでここは左折。

 

 宮地山までは緩やなアップダウンを繰り返しながら下っていきます。こんな明るい尾根道を歩くのですから、気持ちよくないわけはありません。(二重否定)

 

 ケヤキ  ヤマザクラ

 ここの尾根道には大きな木があちこちに見られました。大人3人で両手を回してようやく囲めるくらいの太さです。

 

 宮地山の手前にピークが一つあるのですが、地図などには山名の記載はありませんでした。でも現地に行ってみると木の幹に黄色いビニールテープが貼ってあって、そこにマジックで「タコチバ山(589m)」と書いてありました。ひょっとしてこれも中国の仙人にちなんだ名前でしょうか。

 宮地山

 途中、下山路との分岐をスルーしてその先にある宮地山へ。ピーク部分はスギ林で立入禁止でしたが、その南面は広々としていました。なんか到達点というより、ただのルート途中といった感じです。まあ、ここは休憩なしということで。

 分岐

 宮地山から分岐まで戻ってきて、ここから谷筋を下ります。

 

 白っぽく見えるのはホオノキの落ち葉。朴葉味噌では食器代わりになるほどの大型の葉です。

 

 細い山道をぐんぐん下っていきます。そして、シカ避けのフェンスを越えると茶畑が見えてきました。ゴール地点ももうすぐです。

 

 3時20分、ふもとの集落まで下りてきました。無事終了です。
 シダンゴ山、名前はへんてこですが、素晴らしい眺望を楽しめて思い出深い山歩きができました。人気があるはずです。
 
 ところで、今日は新しく買ったトレッキングシューズの使い初めをしました。新宿界隈の登山用品ショップを何軒か回ったのですが気に入ったものがなく、わざわざ町田まで行って探したものです。今日一日履いても特に靴擦れや圧迫もなく、いい調子でした。これから何年もの間、野山歩きのパートナーとしてお世話になります。
 
 帰りの東名は厚木ICくらいまで渋滞。3連休の中日ですからね。しょうがないでしょう。