船通山 〜天の叢雲の剣がそびえる山〜


 

【島根県横田町 平成14年10月12日(土)】
 
 奥出雲は神話の里です。
 その奥出雲にあって、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が稲田姫を助け八岐大蛇(やまたのおろち)と激烈なバトルを繰り広げたというのが、今回登った船通山です。

 この山に端を発する斐伊川は昔から氾濫を繰り返す暴れ川で、神話では支流を含めたこの川の様相を八つの頭を持つ大蛇に例えました。
 素戔嗚尊は八岐大蛇に毒酒を飲ませて眠っているところを討ち取ったということですが(それって騙し討ち?)、そのとき尾の先端をさばくと中から一本の剣が出てきたそうです。これが天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)です。後に日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折りにこれで草を薙ぎ払ったことから「草薙の剣」とよばれ、三種の神器のうちの一つになったらしいです。
 中国山地には鉄を多く含む花崗岩が広く分布していて、斐伊川はこれを浸食し流域に大量の砂鉄をもたらしました。この恩恵により奥出雲は古くから「たたら製鉄」で栄えたとのことです。大蛇の尾から剣が出てきたというのは、このことを神話化したものだといわれています。

 今回は久しぶりに単独行。
 登りはじめから沢沿いを進みました。聞こえてくるのは水の音だけ。
 路傍にはアキチョウジがたくさん咲いて、一方、キバナアキギリはもうほとんど終わりかけ。薄暗い林縁にシラヤマギクの白が鮮やかでした。
 10月半ばとはいえ天気がいいので気温がぐんぐん上がっていくのが分かります。早々に汗が出てきました。

 大きな山親父を見つけました。定期的な伐採を繰り返し、利用されてきたであろうケヤキの大木です。
 
 ココココココーーーン
 森の奥深くからキツツキのドラミングが聞こえてきました。静寂に響く獅子脅しのように余韻を残しています。音の大きさとこの場所の標高からアカゲラではないかと(想像)。

 そろそろ紅葉の季節です。全山紅葉より緑の葉の中の紅葉の方が個人的にはすがすがしくて好きです。
 この辺りでは稜線が近いせいか周囲がだんだん明るくなってきました。

 ミズナラやリョウブ、ウリハダカエデが目立って多くなってきました。
 登り初めて1時間とちょっとで稜線に出ました。面白いことにここから花の種類がガラッと変わりました。

 カワラナデシコ&アキノキリンソウ  ウメバチソウ

 そして頂上です。
 素晴らしい展望が広がっていました。 

 「天叢雲剣出顕之地」碑

 それにしても、ホ〜ント気持ちよかったです。
 草の上に腰を下ろし、汗が引くのを待ってぐるっと周囲を見渡します。
 北東に大山、西に三瓶山、西南西に猿政山、南西に吾妻山、東南東に道後山…。地図とコンパスと双眼鏡があれば小一時間は楽しめます。見渡す山を確かめるには20万分の1地勢図がちょうどいいでしょう。

 西  北
 東  南

 頂上は草地で早春にはカタクリが咲き乱れるとのこと。いまはミヤマコアザミやヨツバヒヨドリが咲いていました。
 今度はルーペと図鑑が活躍です。ルーペの中にはまた別な世界が広がっているのです。きっと虫たちの視界はこんな感じなのかも。
 頂上にカマボコ板をつるしたり大勢で酒盛りなんかをしなくても、いろんなものに目を向ければ十分すぎるほど楽しい時間を過ごせますよ(と、単独行のyamanekoの弁。)。

 弁当を食べて、草の上に寝っ転がってうたた寝して、まぶた越しに秋の日射しを感じて。あぁ、これを贅沢といわずして何という。

 素晴らしい秋の一日を満喫し、今日が三連休の初日ということもあって、久々に最上級の開放感に浸ることができました。