棲真寺 〜暑くたって出かけてみよう〜


 

【広島県三原市 平成17年7月17日(日)】
 
 7月の定例観察会です。
 場所は三原市の奥山深いところ(つい最近まで豊田郡大和町)にある「棲真寺」という古刹の周辺。テーマは「真夏の自然を愛でよう」です。
 「棲真寺」 広島に長く住んでいながらこれまであまり聞いたことのないお寺でしたが、いろいろな地図を見てみても地図記号とともにちゃんと寺の名前が記載されているところからすると、それなりに有名なお寺なのでしょう。勉強不足でした。
 
 山陽道を河内ICで下りて、国道432号を白竜湖方面へ。9時30分、まずは道の駅「よがんす白竜」に集合です。ちなみに「よがんす」とは広島弁で「いいですよ」という意味。
 ここから車列を連ねて「棲真寺山オートキャンプ場」の駐車場へ移動。ここであらためて開会となります。

 開会

 天気は雲間から青空が見える程度で風もなく蒸し暑い。先週の下見のときは終始雨に降られて大変でしたが、今日はこの先すっきり晴れるという予報です。
 このあたりは賀茂台地と呼ばれる台地状の地形になっています。広島県の地形の特徴は、中国山地から瀬戸内海に向かって高位面(脊梁面)、中位面(吉備高原面)、低位面(瀬戸内面)と呼ばれる3段のひな壇構造になっていること。賀茂台地は中位面の一角を占めていて、標高はおおむね400mから600mくらい。今日訪れたキャンプ場や棲真寺は、その賀茂台地を沼田川が深く切れ込むように浸食したその断崖(?)の先端部あたりに位置しています。したがって、展望はよく、沼田川の谷を挟んでその向こう側の台地も一望に見渡すことができます。

 開会の後、まずは近くの展望台のある丘を目指します。スタートの場所からほぼ水平移動なのですが、ちょっと動いただけで汗が噴き出してきます。

 展望台へ

 あたりはアカマツやコナラ、リョウブなどを中心とした雑木林。賀茂台地では普通に見られる風景です。

 ムシコブ?

 途中で何やらちょっとグロテスクな形のものを見かけました。パッと見なにかのムシコブのようですが、これは立派な果実。タムシバの果実なのです。熟すとそれぞれのふくらみの部分がぱっくり割れて中から赤い種子が出てきます。しかも1個ずつ白い糸で吊されてぶら下がるのですから、なかなか芸が細かいです。

 ネジバナ  展望台で

 ここでは今日のリーダーの石丸さんから、足下に咲いているネジバナにまつわる話を聞かせてもらいました。ご存じのとおりネジバナの花穂はねじれています(ときどきねじれのないひねくれ者もいます。)。そのねじれは右巻きと左巻きとがほぼ半々の割合だとか。そこで、そもそも右巻きとは(または左巻きとは)どういうねじれのことをいうのか。ネジの右ネジと(または左ネジと)そのねじれ方は同じなのか。石丸さんは建築用のボルトを持ち出して分かりやすく説明してくれました。(右ネジと右巻きとはねじれ方が反対なのだそうです。へえ。)

 向こう側の台地

 展望台からは沼田川が削った谷を挟んで、その向こうの台地が見渡せます。こうやってみるとみごとに台形をしていますね。あの上に広島空港があるのですが、パイロットはまるで航空母艦に離発着するような感じでしょうね。それにしても、沼田川が削って瀬戸内海まで運んだ土砂の量を想像すると気が遠くなりそうです。どうりで瀬戸内海が浅いはずです。(笑)

 これは果実?

 展望台の下にエゴノキが水滴型の実をぶらさげていました。おや、その中にバナナの房のようなものが…。これはエゴノネコアシといって、こちらは果実ではなくムシコブです。エゴノキにだけつくムシコブで、猫の足先のような形をしているところから名が付いたのでしょう。ムシコブのネーミングはほとんどがややこしいものばかり。「寄生される植物名」+「虫コブができる部分」+「形態的特徴」+「フシ(虫コブのこと)」という並びで命名されることが多いそうで、例えば、「ナラメリンゴフシ」であれば「ナラ類(主にミズナラ)の芽の部分に作られるリンゴのような虫コブ」ということで命名されるのだそうです。そんな中でこのエゴノネコアシは特異な存在。愛称を付けられるくらいに人間の生活に密着していたのかもしれません。
 
 11時00分、展望台から山の斜面を下り、一段下がったところにある棲真寺まで山道を通って観察していきます。さきほどのキャンプ場から立派な車道がつながっているのですが、観察会なのであえて山道を歩きます。

 オオバノトンボソウ

 ランの仲間、オオバノトンボソウを見かけました。変わった形をした花なのですが、緑色をしているので野山の中ではつい見落としがちです。花の形を見ると確かにトンボに見えないことはありません。

 ヨウシュヤマゴボウ

 ヨウシュヤマゴボウの花です。全体の姿や果実の房を見るとなんとなく毒々しい感じがしますが、花はこんなに可憐ですから不思議なものです。

 ビートルズ

 山道で見かけた甲虫3種。虫の名前はさっぱり分かりません。のぞき込んでいると隣から「虫の世界に入り込むと(奥が深くて)大変だよ。」という声が。確かに大変そう。でも、虫たちも自然界を構成する重要な生き物であることを思うと、もっとあれこれ知りたいという欲求がわいてきます。
 
 山道を下った先にある舗装道路までやってきました。ここから棲真寺までは100mあまり。そろそろおなかもすいてきました。

 クマヤナギ

 道ばたにクマヤナギの花が咲いていました。初めて見る花です。いや、出会ったことはあったのかもしれませんが、意識したことなかったのです。花は地味ですが図鑑によると果実は赤くよく目立つようです。

 棲真寺

 12時、棲真寺に到着。
 このお寺は応海山棲真寺といって、土肥(小早川)氏に嫁いだ源頼朝の娘天窓妙仏の早逝悼んで、今から約800年前の鎌倉時代初期に建立された古刹だそうです。
 「棲真」とは密かに隠れ住む、修行するという意味があるそうで、地元の文化財保護委員の方から寺の縁起について詳しく説明をしていただきました。(でも途中から先頃行われた三原市との合併についての愚痴に…。円満な合併となるようお祈りいたします。はい。)

 経堂

 さて、ようやくお昼ご飯。経堂を借りてあったので日陰で食事をとることができました。感謝です。空を見上げると、もう文句なしの夏空。周囲から湧き上がる蝉の声に本格的な夏の訪れを感じます。

 極楽浄土?  ハス田観察

 食後は本堂の前にあるハス田の観察。棲真寺はハスの花で有名らしく、先週の下見のときはまさに花盛り。雨にもかかわらず大勢の見物客が来ていました。今日は花の数が少なく、ハス田全体が緑の葉で覆われてしまっています。

 ハスの果実

 ハスの葉の間からシャワーの先端のような形のものがいくつも突き出ています(写真左)。これはハスの花が散った後、花托(花の土台部分)が大きくなったもので、この中に弾丸状の果実がたくさん埋まっています。上の写真では31個ありました。ハスの実というとこの弾丸状のものを指します(写真右上)。この果実が全部飛び出してしまった後の姿が蜂の巣に似ていることから、ハチス→ハスとなまって「ハス」という名が付いたのだといいます。
 年輩の方から、ハスの種は美味しくておやつ代わりに食べていたという話を聞きました。どれどれということでさっそく試食してみることに。ハスの実を切ってみると確かに中に種が入っていました(写真右下)。輪切りにすると皮の部分をリング状に残して、種がスポッと抜けました。食べてみると生の栗の味。まあ、美味しい部類の味です。

 夏空

 棲真寺の周辺でひととおり観察を終えたら、車道を通ってスタート地点のキャンプ場にもどります。
 アスファルトからの照り返しに耐えながら坂道を登っていく。今日一日でこの数百メートルが一番こたえました。

 果実の森公園

 解散は近くにある果実の森公園で。この暑さで皆ここのオリジナルアイスクリームに飛びついていました。いやぁ、ホント今日は暑かった。(帰宅してから、今日梅雨が明けたことを知りました。)


 

 瀑雪の滝

 帰りに瀑雪の滝に寄ってみました。この滝は中位面と低位面との間を流れ落ちる滝で、ちょうど棲真寺の真下あたりに位置しています。直線距離だと700mくらいでしょうが、車で移動するとなるとぐるーっと大きく迂回して、15q以上の道のりとなります。この間に標高差300mくらいを下るのです。

 低位面から中位面の斜面を望む

 沼田川のほとりから中位面の斜面を望みます。この斜面の向こうは台地状になっているのです。棲真寺は写真左の山の上あたり。写真中央の山の切れ込みは瀑雪の滝が削り込んでいった谷です。
 
 さあ夏本番。今年の夏も行きたいところがいっぱい。ドリーム号を車検に出したらスタンバイOKです。