佐久高原 〜夏の花の競演〜


 

【群馬県 下仁田町・長野県 佐久市 平成20年7月6日(日)】
 
 鬱陶しい梅雨が続いております。たまの休みもなんか今ひとつの天気。とはいえ、この時期、山では様々な花が咲いているので、やっぱり出かけてしまいます。
 ということで、5時半起床。天気予報とにらめっこしながら支度を済ませ、練馬から高速に入って関越道をひたすら北上。今日の目的地は群馬と長野の県境にある佐久高原です。
 
                       
 
 高速道路を走っているときは青空でしたが、関越道から上信越道に分岐して下仁田ICを下りる頃になると、薄曇りのようなスッキリしない天気に。まあ、雨が降る気配はないようですが。
 下仁田はネギとこんにゃくの町。街道沿いの奔放な看板に大笑いしながら国道254号線を西へ向かって走ります。この道、片側1車線の決して広くはない道路ですが、大型トラックを中心に思ったより交通量が多いのが気になりました。どうやら上信越道を避けて一般道で長野、群馬間を往き来するルートとして使われているようです。


Kashmir 3D

 県境の内山峠に向かう最後のくねくね道から脇道にそれて、更に細いくねくね道を上っていきます。こんなときにナビはありがたいもの。迷うことなく目的地の神津牧場に到着しました。

 神津牧場

 9時30分、神津牧場の駐車場にはまだ人影はまばら。朝の静かな牧場は気持ちいいです。深い山の奥にぽっかりと開かれた牧場ですが、ここを訪れる人は少なくありません。神津牧場のHPによると、この牧場は、明治20年に、日本初の洋式牧場として誕生したとのこと。広い草地でジャージー牛を放牧し、繁殖、搾乳から牛乳・乳製品の加工・製造・販売まで一貫した経営を行っているそうです。場内に若い人を多く見かけましたが、ここでは研修生や実習生を受け入れているそうなので、彼ら、彼女らはそういった人たちなのかもしれません。場内を歩いていると向こうから気さくに声をかけてきてくれました。

 牛舎

 さっそく売店で現地産のソフトクリームを賞味して、お土産をゲットしました。ここにはこの牧場で採れた牛乳を使ったチーズやヨーグルト、カステラやクッキー、あとハムやジャーキーなどもあって、みんな美味そうでした。

 仔牛たち

 仔牛たちは朝から元気でした。牛舎に近づくと興味津々に集まってきて、「どっから来たのー?」って感じで鳴き声を上げたりします。その可愛いこと。なにしろ妻が無類の牛好きなので、キャーなどと駆け寄ったが最後、なかなか牛舎から離れようとしません(さっきの売店でもさっそくウシのぬいぐるみを買っていました。)。やれやれです。

 アカショウマ

 牧場周辺で見かけた花をいくつか。アカショウマは見てのとおり白い花。名前に「赤」が付くのは地下茎が赤みを帯びるからだそうです。

 セイヨウノコギリソウ  ムシトリナデシコ

 牧場には欧米原産の植物を見かけることが少なくありません。セイヨウノコギリソウは日本産のノコギリソウに比べて花序に花の数が多く、一見して密度が高い感じを受けます。葉の様子がノコギリのようだからノコギリソウの名を持っていますが、「セイヨウ」の方は髭状に更に細かく裂けているので、ノコギリのイメージからはちょっと遠いですね。
 ムシトリナデシコもヨーロッパ原産。花の下部の茎がネバネバしていて、ここに虫がくっつくのだそうです。(そういえばくっついているところは見たことがありませんが。)

 シモツケ

 シモツケの一つ一つの花は小さいですが、集まって咲くことでこんなにあでやかな花になります。こんなところにもバラ科の誇りを感じますね。

 牧草地

 神津牧場でのんびりした後は、内山牧場に移動してそこから物見山に登ってみたいと思います。登るといっても標高差は150mほどですが。

 ヒナマツヨイグサ

 これも北米原産の帰化植物のヒナマツヨイグサ。アカバナ科です。(帰化植物には帰化植物用の図鑑があるのですが、なかなか探し出すのが難しいです。)

 スタート

 11時40分、お昼前になりましたが、これから歩き始めます。

 物見山

 国交省のマイクロウェーブ塔に展望施設があったので、そこに登って景色を眺めてみました。すぐそこにこれから向かう物見山が。あの稜線沿いに登っていきます。左手前は「あらふね湖」。人造のため池です。

 クリの木

 妙義荒船林道とつかず離れずの形で登山道が延びていました。根元から八方に枝分かれした大きなクリの木が木陰を作ってくれています。人間の生活との関わりの中で何回かの世代交代を繰り返した老木でしょう。

 サルナシ

 白い花弁の中に雄しべの黒い葯が印象的なサルナシ。でも下からのぞき込まなければ分かりません。果実はキウイフルーツを小さくしたような感じですが、こっちの方がずっと甘く、美味しいです。サルナシ酒にしてもOKです。

 ヤマボウシ

 最近では公園でしか見かけないヤマボウシ。でもちゃんと山に入れば野生種に出会えるのですね。それにしても今頃開花しているとは。ていうか、植樹されている樹の方が早すぎるのでしょうか。5月には満開になっていますから。

 ウツボグサ

 やがて草地に出てきました。もうじき山頂です。

 物見山山頂

 12時50分、山頂に到着。標高1375m。ここにも大規模な通信施設が。近づいてみると半端な大きさではありませんでした。空は湿った空気がそのまま濃縮されたような感じ。ときおり薄陽が差したり、遠雷の音が聞こえてきたりですが、とりあえずすぐに降り出しそうな気配はありません。
 さて、ちょっと遅めの昼食を。

 山頂からの展望

 山頂からは東方向の展望が望めました。本当はこの先に妙義山が見えるはずですが、今日は霞んでいて無理のようです。(ここはグッと心眼で…)

 下山

 昼食後、あらふね湖に向かって下山します。そして、やはり水の近くでは多くの花に出会うことができました。例えば…

 クリンソウ

 先日、入笠山では時期が早すぎて見ることができなかったクリンソウの花です。小さな沢に沿った場所に群落を形成していました。素晴らしい風景です。すっと伸びた茎の上部で数段に重なって放射状に花を付ける姿。これを五重塔の上の九輪に例えたのだそうです。

 準備中の蕾も

 今年はもうお目にかかれないのかと思っていただけに、とても嬉しかったです。最上部にはまだこれから咲く蕾も。今月の上旬いっぱいくらいまでは楽しめそうですね。

 マルバマンネングサ?

 マンネングサの仲間は見分けるのがなかなか難しいのですが、披針形の花弁からマルバマンネングサと判断しました。どうでしょうか。

 クサフジ

 ヨーロッパ原産のナヨクサフジと迷いましたが、小葉の数や旗弁の特徴からするとクサフジだと思います。こんな何気ない花でもよく見ると、綺麗で、そして不思議な形をしていますよね。

 ミズチドリ

 水辺の湿地にミズチドリの涼やかな花を見つけました。まだ咲きはじめで、花序の下の方の花しか咲いていません。どうです、チドリが飛び立ったときのような姿をしていませんか。(いや、自分自身、半分疑問ですが。)

 アサマフウロ

 この池の畔にはアサマフウロの群生地があって、花期には一面をピンクに彩るのだそうです。フウロソウの仲間のうちでは、花が大きく、色も濃いので、見栄えがするのでしょう。おそらくあと一月ほどで咲き始めですね。

 ヤマガラシ

 すっと立った長い茎の上に黄色の花。ヤマガラシです。4弁であることもアブラナ科の特徴を示しています。いや、しかし続々と花が出てきましたね。



 キバナノヤマオダマキ
 カラマツソウ

 花の上に伸びたツルで、おや?と思いますが、これは正真正銘のカラマツソウ。ツルはカラマツソウに絡みついた別の種です。
 キバナノヤマオダマキ。夏の山中でこの花に出会うと、思わず「おぉ!」と声を上げてしまいます。そのくらい好きな花なんです。造形的にも面白いですね。(この花を見るといつもトランプのジョーカーを連想してしまうのはワタシだけ?)

 ホソバノキリンソウ

 これから花を開こうとしているホソバノキリンソウ。中央の1個だけがまさに開花しようとしています。高さ50pくらいのスマートな花。これもさっきのマルバマンネングサと同じベンケイソウ科の仲間です。キリンソウは全国に分布していますが、このホソバノキリンソウは中部地方以北に分布するとのことで、この辺りは分布の南限に近いところになります。
 
 さあ、もうそろそろ夕方が近づいてきました。帰りの準備を始めましょうか。

 荒船山(艫岩)

 今日は群馬と長野の県境に広がる佐久高原を散策しました。初めは牧場、次に尾根筋、そして最後に林間から水辺へと、様々なシチュエーションで自然を楽しむことができました。遠くまで来た甲斐があったというものです。惜しむらくは大気中の湿度が高くて、風景がクリアでなかったこと。でも、まあそれも良しとしましょう。
 帰り際、佐久高原のすぐ南に聳える荒船山の艫岩(ともいわ)が、その偉容を現しました。南米ギアナ高地のテーブルマウンテンを彷彿させる山容で、垂直の絶壁は高さ200m。山全体がとてつもないスケールです。ちなみに「艫」とは船の最後部のこと。yamanekoとしては、地球を侵略しに来た超巨大宇宙船が山上に降り立ち、その一部が山かげから見えているようにも見えます。(ちょっと無理があるか。)