蘆花記念公園 〜晩秋の夕暮れに〜


 

【神奈川県 逗子市 平成21年11月23日(月)】
 
 今日は「勤労感謝の日」。祝日です。昼前に起き出してきて朝食とも昼食ともつかない食事をとるのも休日の楽しみ。こんな日にはのんびりと散策などして、身近な自然を楽しみたいものです。
 
                       
 
 今回訪れたのは逗子市の蘆花記念公園。逗子といえば「湘南」。ウインドサーフィンなどのマリンスポーツで賑わっているところです。また、温暖な気候で昔から著名人の別荘なども多く、幾人かの文豪が逗留して後世に残る作品を生み出したところでもあるそうです。蘆花記念公園の「蘆花」は云わずとしれた徳冨蘆花のこと。代表作の「不如帰(ほととぎす)」は蘆花が逗子逗留中に執筆したものだそうです。と偉そうに書いていますが、正直いうと読んだことありません、不如帰。さっきネットであらすじだけは読みました。(良くないですね、ちゃんと読まないと。)
 と、まあ、徳冨蘆花に特に思い入れがあったわけではないのですが、午後から家を出て晩秋の午後を楽しんで、最後にきれいな夕日が見られるところ、というセレクトで逗子に行ってみようということになったのです。

 いきなりトイレから

 都心から逗子方面に行くルートはいくつかありますが、最もオーソドックスなのは第三京浜から横横道路に入って逗子ランプで下りるルートでしょう。高速を下りると逗子の海岸までは10分もかかりません。蘆花記念公園は逗子海岸のすぐ裏手まで迫っている山の斜面にあります。山といっても標高100mに満たない小山です。田越川の河口に架かる渚橋から民家の路地を分け入ると、一見普通の公園が現れました。ここが蘆花記念公園の入口です。現地に到着したらもう2時半を回っていました。
 入口には真新しいトイレが。最近整備されたもののようです。

 斜面を登る

 トイレの前の小径を歩いていくと、山の斜面に沿った上り坂になります。住宅街の裏山といった風情ですね。

 ヒマだにゃー

 路地に佇むネコ。何をするでもなくじっとしていました。前足が行儀いいです。

 マユミ

 これはマユミ。午後の日差しを受けて輝いていました。マユミの果実は熟すと4つに割れて、中から朱色の種子が顔を出します。花の少ない時季なのでよく目立ちます。

 オオムラサキシキブ

 こちらは普通のムラサキシキブより大柄なオオムラサキシキブ。背景の暗がりとのコントラストが鮮やかです。

 スイッチバック

 電車で言うならスイッチバックのような遊歩道。こうやって山の斜面を登っていきます。

 沿岸部の紅葉

 沿岸部の紅葉は遅くにやって来ます。茶色っぽいのが多いのは、寒暖の差が小さく色づく前に葉としての寿命が来てしまうからなのか、それとも単に鮮やかに色づく種類の樹木が少ないだけなのか。

 郷土資料館

 遊歩道は山の中腹にある郷土資料館まで続いていました。門の脇のシュロがこの場所が温暖な気候であることを物語っています。

 郷土資料館

 この建物、てっきり徳冨蘆花が逗留したところだと思っていたのですが、解説によるとここは16代徳川家達の別荘だったものなのだとか。蘆花が「不如帰」を執筆したのはこの公園のふもと、田越川の川べりにあった柳屋という旅館で、その旅館は戦後しばらくして火事で焼失してしまったそうです。

 逗子の海

 郷土資料館の庭からは逗子の海を望むことができました。写真にはウインドサーフィンを楽しむ人が芥子粒のように写っています。縁側から見えるのがこの風景。方角的には富士山も正面に望めるはずです。こんなところでのんびりと暮らせたらどんなにいいでしょうね。

 離れ

 旧別荘の裏手には離れもありました。

 いい縁側

 こちらは内部は非公開。縁側のところがサンルームのように暖かそうでした。

 離れの先は森に突き当たります。ここから山頂まで登ってみましょう。

 登山道

 ここからは山道になりますが、ちゃんと道はあります。かなりの勾配で、ジグザグに登っていくことになります。

 テイカカズラ

 テイカカズラが紅葉していました。常緑の植物なので入れ替わる葉だけが赤くなっているのでしょう。巻きついているのはイヌザクラでしょうか。

 ヤツデ

 野山でヤツデを見かけると民家が近いしるし。昔は庭木として多用されたそうです。確かに樹形に勢いがありますね。それに対して花は極小。この花はまず雄しべが先に成熟し、花粉を出した後に雌しべが成熟します(写真は雄花(=雄しべが熟している時期))。自家受粉を避ける仕組みですね。雄しべや雌しべが熟しているときには花盤(花の土台の部分)から蜜を出して虫を呼ぶのだとか。雄しべと雌しべが入れ替わる中性の時期には蜜を出さないという省エネ機能付きです。

 稜線

 うっすらと汗ばみ始めた頃、稜線に出ました。静かな道です。

 落ち葉の羽根飾り

 まあ、こんなメルヘンなこともしつつ…。(メルヘンって、なんて昭和な。)

 山頂

 しばらく行くと張り出したピークに展望台がありました。実はここ、10年前に発見された長柄・桜山第2号古墳という古墳なのだとか。三浦半島の主稜線から逗子の海に向かって分かれた枝稜線の先端の地形を利用して造られた前方後円墳で、4世紀後半のものと考えられています。展望台のある位置が前方後円墳の「前方」の先に当たります。

 展望台から

 展望台に上がってみると、木立の向こうに湘南の海が。古墳時代、ここから海を眺めていた豪族がいたんですね。

 シロヨメナ

 この花、ちょっと枯れ始めていますがシロヨメナだと思います。これでも花が少ない野山では十分に目立っていました。
 さて、あまりゆっくりはしていられません。もうじき夕暮れです。

 反対の稜線から

 西日を浴びているのはさっき郷土資料館から登った山肌です。展望台を経由し、今は谷地をはさんで反対側の稜線を下りています。

 ドングリ

 下山する道々、足元に散らばっているのはシラカシのドングリでした。可愛いですね。帽子(殻斗)がビロードのように滑らかです。

 夕映え

 山を下りて河口の渚橋までやってきました。振り返ると正面に見えるのがさっきまで登っていた山。結局山の名前は分かりませんでした。夕映えで赤く燃え上がっているようです。(橋がゆがんでいるのは広角で撮っているから。)

 逗子海水浴場

 渚橋を渡ると弓なりの砂浜。逗子海水浴場です。もうウインドサーファーは引き上げたようですが、代わって夕日を見ようという人たちがたくさんいました。

 金曜ロードショー

 ♪ぱー、ぱららーらーぱーらららー 金曜ロードショーのタイトルがカットインしてきそうな夕日です。時刻は4時20分、ずいぶんと日が短くなりました。
 それにしても素晴らしい日没。宝物のような時間です。

 薄暮

 日が暮れると辺りは急激に色を失っていきました。ふと気がつくと、江ノ島の向こうに富士山の影が。風光明媚とはまさにこのことです。COOL! そうやっているうちにも静かに闇が広がっていき、やがて湘南の海は夜の帳に包まれていきました。
 
 晩秋の午後。つるべを落とすような時の流れに身を置いて、今日はなんだかしっとりとした気持ちになることができました。季節はゆっくりと、でも確実に移ろっています。ちょうど山の端にかかった夕日が思いもかけない速さで隠れてしまうように。これからもその季節のわずかな変化に気づけるような感性を持っていたいと思います。