蓮華寺山 〜小春日和に木枯らし〜


 

【広島市安芸区 平成16年12月16日(木)】
 
 今年も余すところあと半月。なんだかんだでここまでやって来てしまいました。
 ここから先は、渓流にすいこまれていく落ち葉のように加速度的に日々が過ぎていきます。
 でも、この一年を総括するにはまだ早い。今日は広島市の安芸区、瀬野川沿いに連なる蓮華寺山から高城山(たかじょうやま)へと縦走してみることにしました。
 
 広島駅からJR山陽本線を上り方面へ。平日なので車内はガラガラ。車窓越しに小春日和の日差しが斜めに入ってきています。
 乗っている時間はわずか15分程度。4駅目の安芸中野駅で降ります。
 駅前広場の正面左手に信用金庫があって、その横の道を奥に入ると商店街の裏手に出ます。

 蓮華寺山(右奥)

 道の左右に市民菜園や田んぼが広がっています。住宅地の背後に見えるのが蓮華寺山。標高は里山レベルなのですが、侮るなかれ、けっこう息が切れる山歩きになります。

 登山口

 住宅地が途切れたところが登山口。時計を見ると11時です。
 右手に竹林を見ながら階段を上っていくと、山の名前の由来となった蓮華寺が現れます。

 蓮華寺

 蓮華寺は紀元806年に弘法大師が開基したと伝えられていて、もともとは山頂近くに七堂伽藍が創立されていたそうですが、慶長年間に時の藩主福島正則に所領を没収され廃寺となって以来永く空白の時代が続いたそうです。その後、昭和4年に、その由緒・仏縁を惜しんだ地元の僧の手によって現在の山麓に場所を移して再興されたのだそうです。(蓮華寺のHPより)
 今日はのどかな日和です。賽銭箱の横で白い猫が日向ぼっこをしていました。

 木漏れ日

 蓮華寺山の山頂までの道には、登る人を導くようにたくさんの石仏が祀られています。
 昭和になって寺が再興されてまもなく、山頂近くの本殿跡に奥の院として御堂(今は休憩所となっている)を建て、寺からそこまでの参道に八十八ヶ所の石仏を建立したのだそうです。ちなみに、そのそれぞれの石仏の下には四国八十八ヶ寺の土が順番に納められているのだとか。

 ヤクシソウ  スミレ

 登山道にはヤクシソウが咲いていたし、スミレも咲いていました。いったい秋なのか春なのか。いやいや、今は冬のはずです。

 ヤマウルシ

 急な登りに立ち止まり、汗を拭って見上げると、青空をバックにヤマウルシの葉が揺れていました。だいたいが低木なので、こんな見上げるようなヤマウルシはめずらしいです。

 中央広場

 今は休憩所となっている御堂のあった場所を過ぎて、しばらく行くと中央広場というところに出ました。ここから山頂までは約400m。いったん下って再び登ると山頂です。
 ちょうど12時。ここで昼食にします。最近の定番メニューは、カップラーメンとおむすび2個。いずれもコンビニで調達です。

 鉾取山

 ここからは瀬野川を挟んで正面に鉾取山の堂々とした姿が見えます。ここの標高が354m。鉾取山が712mですからちょうど2倍の高さがあるわけですが、ここからだと同じような高さに見えるから不思議です。

 蓮華寺山山頂

 昼食後、再び歩き始めて、12時30分に蓮華寺山山頂(374m)に到着しました。
 ここにはサクラの木が植えられていて、春には花見がてらに登ってくる人も多いです。でも、今日は素通り。このまま縦走に入っていきます。

 稜線の道

 稜線の道を登ったり下ったり。木立越しに両側の景色が見えます。右手には鉾取山の連なり。左手には呉娑々宇山や藤ヶ丸山など。
 風が通りすぎるたびに枯れ葉が舞い落ちます。汗はすっかり引いて、心地よい山歩きです。

 クヌギの若葉?

 今年、木々は大混乱。台風でむりやり葉を引きちぎられて、その後新たに葉を展開させているのです。
 足下には落ち葉、頭上には若葉。変な風景です。冬の乾燥から身を守るために葉を落としたのに、これではかえって乾燥が進んでしまうでしょう。

 縦走路最高地点

 1時15分、縦走路の最高地点(491m)に到着しました。高城山の山頂の方がここより5mほど高いのですが、山頂は縦走路から20mほど横にそれたところにあるので、ここが縦走路最高地点になるのです。
 尾根筋を越えていく風が強く、冷たくなってきました。ときおり強く木々を揺らす風の音が夜の海の潮騒のようにも聞こえます。この冬初めての木枯らしです。

 ヤブツバキ

 ヤブツバキの葉がテカテカと光っています。クチクラ層が発達していて革質。濃い緑色で光沢があるのが特徴です。この類の樹木(常緑広葉樹)で構成される樹林を「照葉樹林」といいますが、言い得て妙ですね。

 高城山山頂

 1時40分、ようやく高城山の山頂(496m)に到着しました。
 素晴らしい展望が広がっています。南方向には広島湾。そこから東方向にかけて絵下山、鉾取連山と続きます。その山並みの奥には黒瀬町との境の小田山、東広島市との境の曽場ヶ城山。さらに奥には蚊無奥山。ずいぶん遠くまで見えることが分かりました。
 
 今日はストックを忘れてきたので、けっこう足腰にきています。ここから後はふもとの住宅地に向かって下るのみですが、ゆっくり歩かないと思わぬ怪我をしそうです。楽しい山歩きは怪我のないことが前提ですからね。

 瀬野駅周辺

 下山路は林床にウラジロやコシダの広がる中を急降下していきます。靴の紐を締め直しておけばよかったなぁ、と思いつつもずるずるとそのまま下りてしまったので、つま先が痛くなってしまいました。
 目的地はJR瀬野駅。安芸中野駅からは2駅目のところです。

 高城山

 ふもとの住宅地まで下りてきました。軒先の畑で作業をしているおばあちゃんがいるくらいで、あまり人の気配がありません。それもそのはず、大人は会社、子供は学校に行っている時間だからですね、はい。
 振り返ると高城山が午後の陽を受けていました。 

 今日の山歩きでは誰とも出会いませんでした。こんなふうにして一人静かに日常のよしなしごとを思い返しながら歩いていると、つまらないこだわりや他愛のないわだかまりなどを一つずつ肩から降ろして、なんだか身軽になれるような気がします。これをリフレッシュというのでしょう。
 
 瀬野駅に着いたのは2時40分。3時前の電車に乗れば広島駅には3時15分過ぎ、自宅には3時半過ぎには帰り着くことができます。今日もお手軽な山歩きでした。