小山内裏公園 〜初夏の多摩丘陵を散策〜


 

【東京都 町田市 令和2年5月24日(日)】
 
 多摩丘陵の里山環境が残る小山内裏公園。開花ラッシュの4月は過ぎましたが、のんびり歩いてみるとまだまだいくつもの花に出会えます。
 山に登るにはもう少し時間が必要な状況なので、今月も身近な自然を楽しんでいきたいと思います。
 
                       
 
 小山内裏公園は、平成16年に開園した都立公園。多摩丘陵の「脊梁」とそこから伸びるいくつもの谷戸で構成され、かなり広い敷地を持っていますが、大部分はサンクチュアリになっていて立ち入ることのできないエリアです。
 yamanekoはここの環境に惹かれて6年前に引っ越してきて、この公園で里山保全や観察会の手伝いなどボランティア活動もしています。

 南広場

 午前9時20分、小山内裏公園の中央部南側にある「南広場」に到着しました。ここからスタートです。南広場は小山内裏公園の後ろ正面といった場所。20箇所ある園への入り口のうちの一つです。



 今日は、ここ南広場から入って、尾根緑道に出たら東へ。尾根筋の北側の支尾根や谷戸を巡ってパークセンターのある里山広場に向かい、そこから尾根を越えて南広場に戻ってきます。園の東側半分を散策する感じですね。
 ちなみに尾根緑道は「戦車道」ともよばれていて、これはこの道が、第二次世界大戦中、陸軍の相模原の工場で製造された戦車の性能テストをするために作られたものだからだそうです。、多摩丘陵の尾根上に約7kmにわたって延びています。

 マルバウツギ

 まずは尾根筋へ。途中、左手にyamanekoの好きなマルバウツギがあります。今年は外出を自粛しているうちに花の時期が終わってしまい、すでに若い実になっていました。
 マルバウツギ自体は多摩丘陵ではそう珍しいものではありませんが、yamanekoの知る限り小山内裏公園内にはこの株しか知りません(サンクチュアリ内にはあるのかもしれませんが。)。



 細い道を尾根筋に向かって上っていきます。木漏れ日が気持ちいいです。



 そしてすぐに尾根筋へ。幅の広い舗装路が通っています。車やバイクの乗り入れはできないようになっていて、散策する人、ランニングする人、サイクリングする人と、休日には結構賑わっています。
 ここからはこの道を東に向けて歩いて行きます。

 エゴノキ

 エゴノキ。もう半分以上は花冠が落ちてしまっていますね。盛りは1週間くらい前だったようです。戦車道沿いではここより西側に多く見られます。

 ホオノキ

 ホオノキも盛りが過ぎたあたり。その中でもこれはまだいきいきと咲いていました。サラダボウルくらいの大きな花冠です。

 ガマズミ

 エゴノキに替わって尾根道の東側にはこのガマズミが多く見られます。こちらはちょうど盛りですね。

 戦車道

 これが現代の戦車道。結構幅が広いです。舗装路の右側にヤマザクラの並木があり、その外側にチップの敷かれた遊歩道もあります。

 ヤマザクラ

 そのヤマザクラの実が熟し始めていました。いわばこれもサクランボですね。



 チップ敷きの遊歩道がこれです。

 エゴノキ

 こちらは下からのぞき込んだエゴノキ。ハクウンボクに似た雰囲気を持っています。

 東展望台

 東展望台に到着しました。相模原方面の展望が大きく開けています。ここの他に園内には西展望台と北展望台があって、そのうち西と東は尾根緑道沿いにあります。なので訪れる人も多いです。今日は閑散としていますね。

 スイカズラ

 スイカズラは開花から時間が経つと花の色が白から黄色へと移っていきます。この白い色を銀、黄色い色を金とし、別名を「金銀花」ともいいます。

 ノイバラ

 野生のバラ。花は小ぶりでも香りは良いです。園芸種のバラは接ぎ木で育てますが、その台木として利用されているのだそうです。

 ミズキ

 園内のあちこちでミスキの枝がこんなふうになっていました。残っているのは葉の主脈のみ。本来であれば展開した葉が繁って枝下が暗くなるくらいになっているはずなのですが。
 これはミズキの葉を好んで食べるキアシドクガが大繁殖し、園内に数多くあるミズキをすべてこのような姿にしてしまったのです。現在、葉を食べ尽くした幼虫はほとんど成虫に羽化していていて、その成虫も既に多くが死んでしまっています。一方、ミズキの方はしたたかで、成虫が死に絶えた後、もう一度新に葉を展開し、夏までには本来の青々とした姿を取り戻すのです。ただ、こういったことが何年も続くと、ミズキの方も衰えていって、枯れてしまうこともあるのだそうです。

 ウツギ

 卯〜の花〜の匂う垣根に〜♪ その卯の花ことウツギです。枝先に房のようになって咲きます。

 ニガキ

 こちらはニガキ。もう丸い果実ができはじめていますね。花は小さくて葉や茎と同じ色でほとんど目立ちません。市中の公園に植えられるでもなく、あまり馴染みのない木だと思います。

 イボタノキ

 次から次へといろんなものが出てきますね。この白磁のようなちょっとマットな色合いの花はイボタノキ。ウツギの咲くのとだいたい時期を同じくして咲きます。

 ナンキンハゼ

 尾根緑道が園を出るところまでやって来ました。そこにナンキンハゼが1本。自生なのか植栽なのかは分かりませんが、ちょっと気になる木です。
 ナンキンハゼの若葉は赤みがかっていて、触ると薄いなめし革のようにしなやかなんです。しかもしっとり。ただ、葉の展開から時間が経ち青葉の時期になるとしっかりとした厚みをもってきて、優しい手触りはなくなってしまいます。

 谷戸へ

 ナンキンハゼの手前で北側の谷戸に下りて行きます。明るい尾根から暗い森の中に入っていく感じですね。

 ニワトコ

 いつの間にかニワトコの花の時期も終わったようで、若い実ができていました。漢字で書くと「接骨木」。骨折した際の湿布薬として利用されたからだそうです。



 谷戸を下りきる前に隣の支尾根に向かいます。ここにも裸にされたミズキがありますね。



 散策路にミズキの葉脈がたくさん落ちていました。これは葉の真ん中で葉を支えている主脈。さすがにこの部分は堅くて食べ残したということでしょうか。

 キアシドクガ

 これがミズキの葉を食べ尽くした犯人のキアシドクガです。今ちょうど蛹から孵って羽を乾かしているところのようです。ちなみに名前は「黄足毒蛾」ですが、毒は持っていないそうです。
 最盛期には、ミズキの周りをたくさんのキアシドクガがヒラヒラとまとわりつき、見ようによっては綺麗なんですが、この蛾が居なくなった後は無残な感じです。



 まだ食べ残しがありますね。葉裏に蛹が付いているのが見えているので、食べ尽くす前に幼虫の時期が過ぎてしまったのでしょう。

 ハンショウヅル

 こちらは食害にあったミズキではなく、ハンショウヅルの実です。

 イチヤクソウ

 イチヤクソウです。何年かかけて株が増えてきましたが、自然に増えたのか公園の方が株分けとかされたのか、分かりません。昔は多摩丘陵のあちこちで見られたのでしょうね。園内ではここの他に、観察会でサンクチュアリに入った際に見たことがあります。



 春に花茎を伸ばし、今蕾が膨らみつつある段階。あと半月くらいでお椀型の白い花を下向きに付けます。涼やかな感じのする花です。

 ウグイスカグラ

 ウグイスカグラの実。熟すと甘くて美味しいです(公園内のものは採取してはいけません。)。グミのような酸味はなく、子どもの頃、野山でこれを見つけると食べていました。写真のものは真ん丸に見えますが、本来は楕円形をしています。

 内裏池

 内裏池まで下りてきました。以前はこの池にカワセミがやって来たりしていましたが、餌になる魚がいなくなったせいか、ここ数年見かけません。

 ケキツネノボタン

 池の畔に咲いていたケキツネノボタン。光沢のある花弁をもっています。左のイガイガは果実ですね。でも、触っても痛くはありません。

 タマノホシザクラ

 内裏池の谷戸のなかにタマノホシザクラがあります。タマノホシザクラは平成になって新種に認定された桜で、すでに絶滅危惧種でもあります。地球上で唯一この辺りに約170株が生存するのみだそうです。奥のものが野生のもので、手前左右にあるのは何年か前に株を分けて移植されたものです。

 ミツバウツギ

 谷戸を奥まで遡るとミツバウツギがあります。特徴的な刮ハを付けるのでこの時期にはすぐに見分けることができます。

 多摩ニュータウン通り

 園の下をくぐっていくのは多摩ニュータウン通り。写真の奥方向は南大沢で、多摩センター方面につながっています。ここの尾根は多摩川水系と相模川水系の分水嶺になっていて、写真手前方向にトンネルを抜けると一気に視界が開けて、相模川の河岸段丘上に広がる橋本の街並みを眺めることができます。

 ハコネウツギ

 花をたくさん付けたこんもりとした木があります。高さは4mほど。ハコネウツギですね。

 ハコネウツギ

 花は白色と桃色で、混在して咲くので華やか。庭木として植えられることも多い花です。

 パークセンター

 パークセンターまでやってきました。ここが園の正面入り口になります(奥の尾根を越えたところが南広場になります。)。エントランスにはシンボルツリーのケヤキが。秋の紅葉の時期が綺麗ですよ。

 里山広場

 パークセンターの奥にあるのが里山広場。丘状の芝生広場です。毎年1月中旬にここでどんど焼きをやりますし、桜まつりや防災イベントなど様々な行事に使われる場所です。普段は家族連れがくつろいでいたりしています。隣接してバーベキュー広場があり、予約制で最大2、3の小グループまでの利用なのでゆったりと楽しむことができます。



 里山広場の奥の斜面を階段で上ると尾根緑道に出ます。ちょうど南広場から上がってきたポイントに出るわけです。

 ヤマホタルブクロ

 これは最後に出会ったヤマホタルブクロ。ただのホタルブクロとの相違点は萼にあります。
 
 11時、南広場に戻ってきました。今回は園の東半分を回りましたが、それでもたくさんの自然に触れあうことができました。西半分には大田切池や鮎道などがあり、また違った表情を見せてくれます。近くにこんな場所があるなんて幸せなことですね。