小山内裏公園 ~雨の止み間に自然観察~


 

【東京都 町田市 令和元年6月30日(日)】
 
 梅雨真っ只中です。まるで狙っているかのように週末にしっかりとした雨が降り、なかなか気持ちいのいい野山歩きというわけにはいきません。
 で、遠出の予定を立てにくいこんな時こそ身近な観察フィールドに行くべし。そう、近くの小山内裏公園であれば、雨のやみ間を見計らって観察することだってできるわけです。これまで何百回と訪れた場所ですが、飽きることにないフィールド。虫除けスプレーをしっかりと振りかけて出発しました。

 
                       
 
 いつもは広い園内の一部分を観察し、ぐるりと一周することはなかなかないのですが、今日は時計回りに周回してみようと思います。

 南広場

 南広場。園には東西に稜線が走り、その南側の中央部にある入り口です。ここにはベンチのほか小さな草地やドッグラン(会員制)があります。

 ネムノキ

 花の少ないこの時期、ネムノキはちょうど盛りを迎えていました。髭のように見えるものはたくさんの雄しべ。いくつかの花が寄り集まって付いていて、柔らかな印象を受けますね。

 トウカエデ

 こちらはトウカエデの翼果。びっしりと付いています。2個の果実がくっついて八の字のような形になっていて、晩秋にはこれが離れて落下します。トウカエデは南広場の入り口には何本か植栽されていて、ここのシンボル的な樹木となっています。

 マルバウツギ

 坂道を尾根緑道に向かって上って行きます。左手にいつも気にしているマルバウツギが。見たところ樹勢が弱く、ここ数年花数も少ないようです。この時期には実ができていますね。直径は5mmほど。小さな壺のような形をしています。

 尾根緑道

 尾根に出たら左手へ。尾根緑道は広めの舗装路になっていて、ランナーや自転車も走っています。でも、片側にチップを敷いた歩道があるのでのんびりと散策することができます。時折ここを走る人もいてびっくりすることもあるのですが。

 ムラサキカタバミ

 鮮やかな色合いですがほとんど雑草扱いのムラサキカタバミ。もともとは観賞用として持ち込まれたものが帰化したのだそう。見栄えが良いのもうなずけますね。ちなみにこの花は種子を付けず根で増えるのだそう。はびこるはずです。

 マユミ

 これはマユミの若い実です。4本の稜があって四角い箱のような形になっていますね。秋には実はピンク色になり、この稜のところが割れて、中からオレンジ色の種子が顔を出します。

 ガクアジサイ

 ガクアジサイ。園芸品種です。尾根緑道沿いに多く植栽されていて、この時期特にいきいきとした姿を見せています。最近、この歳になってようやくアジサイの良さが分かってきたような気がします。特にヤマアジサイなど山中で出会うと、色合いや造形の妙、和の趣にしみじみとした気持ちになります。

 ネジバナ

 道端のネジバナ。スマートですね。花は小ぶりですが立派な和製ランです。花が軸に対して螺旋状に付くことから「捻じ花」という名前なんですが、稀に捻れることなくまっすぐ一列に花を付けるというねじくれた奴も。

 ニホンミツバチ

 尾根道沿いにあるヤマザクラの古木が赤いコーンで囲われていました。何だろうと張り紙を読んでみると、幹の小さな洞にニホンミツバチが巣を作っているとのこと。ニホンミツバチは全国的にみて減少傾向とのことで、ここでも駆除はせず、人間と安全に共生できるよう保護しているようでした。 ただ、人間と共生できても昆虫界の敵とは共生できないようで、キイロスズメバチが数匹偵察に来ていて、時折威嚇していました。

 キハダ

 このキハダもyamanekoが気にかけている樹木のうちの一つ。若葉の展開はもう終わっていますが、新たな葉序があちこちで伸びていました。このキハダ、見たところ幹は灰褐色の何の変哲もない感じですが、樹皮を剥がすとハッとするほど鮮やかな黄色が現れます。まさに「黄肌」。江戸時代、庶民が着物の裏地でお洒落をしたという話を思い起こします。

 エゴノキ

 銀杏のようなものがぶら下がっていますがこれはエゴノキの実。園西側の尾根緑道に多く見られます。この実にはサポニンという成分が含まれていて、擦り潰すと泡だつことから、昔はこれを洗濯洗剤として使っていたそうです。また、このサポニンには毒性があって、川に流して魚を麻痺させ浮かせる漁法があったそうです。人間の生活と植物との関わりは深いですね。

 鑓水

 園の西の端までやってきました。ここからは遠くに奥多摩の山々が望めるはずなのですが今日は雲に隠れています。マンションの先は八王子市の鑓水地区で、多摩丘陵の西端に当たるエリアになります。

 鮎道

 ここから鮎道へ。けっこうアップダウンがあります。この時期は「蚊道」なんですよね。
 右手の林床は春にはカタクリが咲くゾーン。今はもう地上には何の痕跡もありませんが。園内では唯一の自生地で、大切に保護されています。yamanekoもボランティアで落ち葉搔きなどしています。

 アキノタムラソウ

 カタクリゾーンの今はアキノタムラソウやヤマユリなどが開花の準備を始めていました。このアキノタムラソウ、これから夏を迎えるんですが「秋の」なんですよね。別にハルノタムラソウというのもあるのですが、こちらは花が白く背丈もかなり短いです。

 ノキシノブ

 コナラの古木にノキシノブがびっしり。西北側の林床に延びる鮎道は陽があまり入らないことから、樹皮にシダ類が付きやすい環境です。

 ヒヨドリバナ

 早くもヒヨドリバナが立ち上がっていました。ただ、まだ花序は成熟しておらず、開花までにあと数週間かかるでしょう。白い紐で囲われ保護されていました。

 オオバノトンボソウ

 これはオオバノトンボソウ。花の姿がトンボに似ているからのネーミングです。この株はまだ若く、まだトンボの羽の部分が開ききっていません。

 ハナイカダ

 ハナイカダはもう実を付けていました。ここに実が付くということは、その前にここに花があったということです。葉を筏に見立て、その上に花が載っていると表現したものですが、センスいいですよね。

 大田切池

 大田切池。多摩川の支流大栗川のそのまた支流大田川の源頭に位置しています。大田川が切れる(果てる)ところにある池なので大田切池なんですね。池の真ん中にスギの枯木立がありますが、これはもともと川岸に立っていたもの。昭和の終わり頃、周辺の宅地開発に伴い調整池として造られた池なのだそうです。案外新しいものなんですね。

 ブタナ

 ブタナは漢字では「豚菜」と書きます。ヨーロッパ原産で、日本に入ってきたときにはタンポポモドキと呼ばれていたそうですが、その後ブタナと呼ばれ、こちらが定着したようです。理由はフランスで「豚のサラダ」という意味の名が付けられていたからだそう。実際に葉も茎も花も食べられるそうです。でも見た目からはやっぱりタンポポモドキですよね。

 パークセンター

 園の北側中央部にはパークセンターがあります。このエリアには里山広場という緑地や、畑、花壇、野草見本園、バーベキュー広場まであります。こっちが公園の正面玄関なんですね。パークセンターに隣接してyamanekoも参加しているボランティアの活動拠点もあります。
 ここからは園の東側へ。西側の散策路はほぼ外周部分にしかありませんが、東側には散策路が複雑に設けられています。

 内裏池

 園内のもう一つの池の内裏池までやってきました。こちらは大田切池に比べてかなり小ぶりです。内裏池は、この冬にかい掘りが行われ池の底まで干上がったとのことですが、当時yamanekoは大阪にいて立ち会うことができませんでした。残念!

 ヤブレガサ

 池の先から再び尾根筋に上がっていきます。この辺りからポツポツと小雨が降り出しました。
 これはヤブレガサ。ちょうど花の盛りの頃です。もともと林の中で見かけることが多く、地味な印象の花です。

 オカトラノオ

 オカトラノオの小群落がありました。この花序の形が虎の尾に似ているということでトラノオです。本当の虎の尾はもっと細かったような気がしますが。
 山中や草地に生えるから「丘虎の尾」。ちなみに、少し湿った草地に咲くノジトラノオ(野路虎の尾)や湿地を好むヌマトラノオ(沼虎の尾)というのもあります。

 タケニグサ

 タケニグサが伸び始めています。成長すると人の背丈を優に超える大型の草本です。茎を折るとマンゴー色の汁が出て、これが手に付くと赤黒く変色して何日も取れません。なので刈り取るときには注意が必要です。

 アカメガシワ

 アカメガシワの雄花序。ちょうど今頃が花期になります。崩壊地などに真っ先に進出するパイオニア植物で、成長するとゆうに10mくらいにまでなります。アカメは「赤芽」で、名のとおり展開し始めの若葉は鮮やかな赤い色をしています。これは葉の表面を赤い星条毛が覆っているからで、それを爪などで刮ぐと葉の緑が現れます。毛自体は葉の成長とともに自然に落ちてなくなります。

 ナンテン

 これはナンテンの花ですね。よく見ると白い萼片と黄色の雄しべのコントラストが鮮やかですが、いかんせんすぐにばらけて落ちてしまうので、なかなか綺麗な写真が撮れません。

 尾根道

 園の東側の尾根緑道をスタート地点に向かって歩いて行きます。雨がだんだん強くなってきました。ちょっとスピードアップです。
 
 今回の写真、一枚たりとも陽射しのあるものはありませんでした。梅雨時ですからしょうがないですね。でも、この季節らしい野山歩きを楽しむことができました。yamanekoのホームグラウンドなので、これからも四季折々の姿を見に来たいと思います。