小山内裏公園 〜冬鳥の観察会〜


 

【東京都 町田市 平成28年2月21日(日)】
 
 我が家のごく近くにある都立小山内裏公園。都立公園といっても街場の公園のようなところではなく、里山一つまるまるが敷地といったようなところです。園内の大部分はサンクチュアリ(自然保護区)として一般の立ち入りが制限されていて、谷戸や雑木林に多摩丘陵本来の面影を残す自然豊かな公園になっています(我が家では勝手に裏庭と呼んでいます。)。今回、公園主催で冬鳥の観察会が行われるということで、参加してみることにしました。
 
                       
 
 yamanekoは、この公園には、平均すると週2回から3回ペース、年間120回以上通っています。ほとんどは四季の移ろいを眺めながらのんびり歩く散策ですが(「ヤマネコ散歩」参照)、この公園で活動しているボランティア団体の一つ「谷戸山の会」での作業や今回のような観察会の機会にも度々訪れています。ちなみにこの公園では7つのボランティア団体が活動していて、団体同士の交流も盛んです。

 観察会開始

 午前9時開会。定員一杯の30人ほどが集まりました。今日は午前中が公園内の観察で、午後はスライドを見ながらの解説ということです。講師は野鳥写真家の叶内拓哉さんという方。元々は造園業でほどなくフリーの野鳥カメラマンに転身し、これまでに何冊も図鑑や解説書を書いているという鳥の専門家。自然に親しみ知ることが結果的に自然保護につながるという考えのもと、野鳥の観察会などにも力を入れておられるそうです。
 外に出て、まずは双眼鏡の正しい使い方のレクチャーから。双眼鏡を持っていても正しく扱える人はなかなか少ないんだそうです。今日は風もなく久しぶりに穏やかな日和。陽が差しているところはポカポカです。野鳥観察には有難い天気ですね。

 ムクドリ

 手始めにパークセンター付近を観察。畑の奥にムクドリが数羽いました。声高に鳴き合い、ちょっと揉めているような感じです。講師によると、顔の濃淡がはっきりしているのがオス、顔全体が茶色っぽく見えるのがメスなのだそうです。ということは写真はメスを巡ってのオス同士の争いなのかもしれません。
 畑は耕されることによって虫が地表に出て来て、これを目当てに鳥が集まるのだそうです。同じように梅林もイモムシなどが多く鳥が集まるので鳥の観察スポットになっているのだだとか。また墓地には常に水があるのでここも鳥が集まるポイントなのだそうです。郊外などでたくさんのムクドリが群れて、騒音とか糞害とかで社会問題化しているところもありますが、ムクドリは開けた場所を好み藪や森には入らないのだそうです。確かに「ムクドリ=畑・芝地」といったイメージですね。なので空き地などからムクドリを遠ざけたければ草を生やしておけばよいのだそうです。

 双眼鏡の扱いに慣れたところで次に大田切池に向かって坂道を下っていきます。今回、yamanekoは一般参加のつもりだったのですが、行ってみたらスタッフの腕章を渡され、観察会のお手伝いをすることになりました。特段何をしてくれとも言われなかったので、後ろの方にいて、他の公園利用者に迷惑がかからないよう集団の整理をすることにしました。この4月から「里山学芸員」として観察会の進行を手伝ったり一部を受け持ったりすることになったので、その練習という意味だったのかもしれません。この「里山学芸員」というもの、東京都公園協会(この公園の指定管理者)が管理する他の公園でもあるものなのか、それともこの公園オリジナルの取組みなのかはよく知りませんが、yamanekoとしては元々こういうことが好きなので、二つ返事で引き受けました。公園協会としても、指定管理者として引き続き指定されるためには様々な企画を打ち出していくことが求められているのかもしれませんね。

 カワヅザクラ

 カワヅザクラが5分咲きです。春が近いんだなぁと感じます。このサクラはオオシマザクラとカンヒザクラとの自然交配種だそうで、早春から咲き始めることで有名。花期も約1箇月と長いのが特徴だそうです。発見されたのが伊豆河津町で、今も原木が残っていて、全国のカワヅザクラはすべてその木から広まったものだそうです。ということはこの木も同じDNAを持っているクローンなのか。

 アオサギ

 大田切池まで下りてきました。遠くにアオサギが。池の中ほどに張り出している枝に停まって、時折毛づくろいなどしています。半夜行性なので昼間は休憩中なんでしょう(いわゆるシラサギは昼間活動するタイプ。)。アオサギはこの公園で見られる最も大きな鳥。30年ほど前まではめずらしい鳥だったとのことですが、今では分布域を拡大し、標高3千m近くの高地にまで進出しているのだそうです。
 ところで、生き物の大きさを表すときに「全長」や「体長」という言葉が使われます。全長は頭部の先端(鳥の場合は嘴の先端)から尾の先端までの長さ。この場合自然な立ち姿ではなく、体を横に寝かせて背骨を伸ばした状態で計測するのだそうです。なので、図鑑などを見る場合、記されている全長そのままで考えるのではなく、実際にはこれよりも1割程度小さな姿をイメージする方が良いとのことです。ただ例外もあって、サギなどは長い足で立っていますが、全長には足の長さは含めないので、表示の全長よりも実際の立ち姿の方が大きく見えるとのこと。これは横に寝かせたとき足が尾よりも長くはみ出ていたとしてもあくまでも尾の先端までの長さで計測するからなのだそうです。ちなみに体長は全長から尾の長さを差し引いたもの(頭部から肛門まで)だそうですが、鳥には使わないそうです。

 芝生広場

 池から芝生広場に上がってきました。正面に並ぶメタセコイアの梢を小鳥が行き交っています。

 シジュウカラ

 双眼鏡を覗いてみるとシジュウカラでした。この鳥の特徴として胸のネクタイのような黒い模様があります。この線が太いのがオス、細いのがメスというのを聞くことがありますが、実際には個体差があり、これは識別には向かないのだとか。この黒い帯が両足の付け根に向かって横に張り出しているのがオス、張りださずにまっすぐなのがメス、ここを見ると間違いがないそうです。写真のものはちょっと見にくいですが、どうやらメスのようですね。

 鮎の道

 芝生広場から階段を上り鮎の道に入っていきます。陽が陰るとなんだかまだ冬の景色になりますね。シンとして静かです。講師によると今年は鳥が少ないのだそうです。去年の秋までは例年どおりだったそうですが。

 冬空

 見上げる空。木々の芽吹きはまだ遠目で分かるほどには進んでいません。暦の上ではもう春なんですが。

 カクレミノ

 林床にカクレミノの幼木がありました。カクレミノの葉は基本的に3裂するものが多いようですが、けっこうばらつきもあり、これまで2〜5裂のもののほか全く裂けないものも見たことがあります。大きく育った成木に裂けないものをよく見かけ、その場合、全体的に葉身は小型になるようです。

 モズ

 園の西側、相生歩道橋からの入口のところでモズが鳴いていました。モズのことを漢字で「百舌」と書くのは他の鳥の鳴き真似が上手だからだそうですが、いったい何の鳥を真似ているのか、何度聞いてもとんと分かりません。この公園にはその道のプロともいえるガビチョウがいるので、彼らに遠慮でもしているのでしょうか。

 スイカズラ

 サンクチュアリとの境界になっているフェンスにスイカズラの蔓が。葉を丸めて寒さに耐えているようです。スイカズラを漢字で書くと「忍冬」。 なるほどです。

 ウスタビガ

 ヤマツツジの枝にはウスタビガの繭。特徴的なフクロウのシルエットをしています。葉を落とした後には蛍光グリーンがよく目立ちますね。この時期、中は空き家になっています。

 鮎の道の終点までやってきました。ここからは公園の西側に広がる草地がよく見渡せます。ここは年に数回草刈りが行われるだけで、ずっと空き地になっています。

 ツグミ

 その空き地にツグミが。遠くで、しかも保護色のようになっているので、講師から示されても初めはどこにいるか分かりませんでした。ツグミは昔は「鳥馬」(ちょうま)と呼ばれていたそうです。これはツグミは写真のように胸を反らせて辺りの様子を窺う仕草をしますが、その胸の模様が馬の胸の模様に似ているからだそうです。昔の人は妙なところに注目したものですね。また、多摩地域では「バカッチョ」と呼ぶこともあったのだとか。これは草を刈った後に出てきた虫を食べるのに一生懸命になって、警戒を怠るからだそうです。ローカルな呼び名ですね。

 ヒイラギナンテン

 ここからは尾根道を東に向かって歩いていきます。これは植栽のヒイラギナンテンの花。こんなに早い時期から咲いているんですね。

 ミズキの実

 これは地面に落ちたミズキの実。辺り一面に落ちています。例年はこんなにたくさんは落ちていないとのことで、これも今年鳥が少ないことのしるしなのだそうです。ふーん、そういう見方もあるのか、と感心。

 ハクセキレイ

 ちょっと影になっていてわかりにくいですが、これはハクセキレイ。よく似たヤツにセグロセキレイというのがいます。名前からすると、白っぽいのがハクセキレイで背中が黒いのがセグロセキレイということになりそうですが、明確な判別方法はそこではなく、顔に黒い眉(正しくは過眼線)があるのがハクセキレイ、白い眉だとセグロセキレイなのだそうです。 ハクセキレイは3月につがいを作るとのことなので、今はお相手を探している最中かもしれません。セグロセキレイは秋だそうです。

 オオイヌノフグリ

足元にはオオイヌノフグリが咲き始めています。小さな春の使者ですね。

 カワヅザクラ

 寒い日の中にも早咲きのサクラなどを見ると、何か心がウキウキしてきます。また、これからいろんな花が一斉に咲き始めるので、さあ忙しくなるぞ(何が?)といった変な高揚感を感じたりもします。

 オオタカ

 上空を公園の外に向かって飛んでいく影が。オオタカだそうです。この公園内にも営巣していて、周辺の里山も含めた範囲で生活しているそうです。オオタカと聞くとイヌワシくらいの大型の鳥と思いがちですが、一般にタカと呼ばれるものはワシよりも小型だそうで、全長は50cm、見た目は更にもう一回り小さいでしょう。ワシタカの仲間全体の中では中型くらいなのだそうです。1980年代には国内で絶滅が危惧されたそうですが、その後の保護が功を奏して都市近郊で繁殖するものも増え、現在ではレッドデータブックからも外れているそうです。

 ヤブツバキ

 ヤブツバキも園内あちこちで満開状態です。ときおりメジロが蜜を吸いにやって来るんですよね。

 ヒヨドリ

 藪の奥からヒーヨ、ヒーヨと甲高い鳴き声。覗き込むとヒヨドリでした。この鳴き声から名前が付いたといわれています。この鳥もヤブツバキの蜜を好んで吸いに来て、するとメジロはどっかに逃げてしまいます。本州以北ではこのタイプのヒヨドリがお馴染みですが、南の方では亜種がいくつかあるらしく、タイワンヒヨドリ、オキノエラブヒヨドリ、イシガキヒヨドリ、リュウキュウヒヨドリ、アマミヒヨドリ、キュウシュウヒヨドリと南西諸島から九州に向かって連なっているそうです。亜種間では普通に子どもができるということでしょうね。

 鳥合わせ

 園内を4分の3周してパークセンターまで戻ってきました。時刻は11時40分です。ここで鳥合せ。鳥合せとは、その日に見たまたは鳴き声だけ聞いた野鳥の名前をみんなで確認し合うもので、観察会の最後によく行われるものです。今日は次の23種を観察することができました。

アオサギ   ヒヨドリ   シロハラ   ヤマガラ   ムクドリ   ガビチョウ(※)
オオタカ   モズ   ツグミ   シジュウカラ   ハシボソガラス   キジバト
コゲラ   ルリビタキ   ウグイス(※)   メジロ   ハシブトガラス   アオゲラ(※)
ハクセキレイ   ジョウビタキ   エナガ   シメ(※)   コジュケイ(※)  (※)は声のみ

 アオゲラの声だけ聞いたとの報告に、講師が「アオゲラは呼ぶことができますよ。」と言って指笛をピーイ、ピーイ、ピーイと3回鳴らすと、なんと正面の雑木林の中からそれに応えるように3回鳴き返しが聞こえて一同どよめきました。ただ、それがオスのアオゲラなら林縁に出てくるそうですが、メスは警戒して隠れてしまうのだそうです。オスが出てくるのは縄張りを守るための威嚇。今回のものは姿を見せないところからするとどうやらメスのようでした。ちなみに鳥がさえずるのはメスを呼ぶためではなく、縄張りを主張するのが目的だそうです。

 昼食

 午後のスライド鑑賞会までは昼休憩。yamanekoはテラスで食べることにしました。今日はそれほど過ごしやすい日和です。

 食事を早々に終え、残った時間で自主観察会。

 エナガ

 内裏池の方まで行ってみましたが、今日はカワセミも出勤日ではなかったようでした。こちらはエナガ。枝から枝へ忙しく飛び回るので、なかなか写真が撮れません。

 午後1時からは会議室でスライド鑑賞会。講師が最近撮り貯めた写真の中からセレクトし、その鳥にまつわるエピソードを解説してくださり、あっという間に2時間ほどが過ぎてしまいました。例えば、
『鳥の名前の由来』
 ムクドリの名はもともと「群れる鳥」、アトリは「集まる鳥」から。スズメの「スズ」は笹、「メ」は小さな群れる鳥のこと、カラスの「カラ」は鳴き声のカア、「ス」は鳥のこと。ハトは「ばたばた」と羽ばたく音から名がついた。
『鳥の歩き方』
 鳥の歩き方は大きく分けてホッピングとウォーキングの2種類あって、ホッピングはスズメやヒヨドリ、ウォーキングはムクドリなど。カラスやツグミは両方できる。
『カラスの見分け方』
 ハシブトガラスは「カー、カー」、ハシボソガラスは「ガーガー」と鳴くと言われているが、実際にこれでは識別が難しく、鳴き方で見分けるのがベター。ハシブトは斜め上45度に首を突き出すようにして鳴き、ハシボソは鳴くときにお辞儀をする。
『シラサギ3種(コサギ、チュウサギ、ダイサギ)の見分け方』
 コサギは足先が黄色。チュウサギは夏鳥。ダイサギの目の前部分が青色。(婚姻色)。チュウサギとダイサギは大きさは大差ないが、口角の先が目より前に位置しているのがチュウサギ、目より後に位置しているのがダイサギ。嘴の色は、コサギは黒、チュウサギとダイサギは繁殖期(3月〜8月)は黒で他の時期は黄色。
『鳥の入れ替わり』
 カワラヒワは留鳥だが冬に見られるものは北からやって来るオオカワラヒワ。毎年11月2日に一日でほぼ完璧に入れ替わる。ジョウビタキが春に北に帰るのは毎年3月31日(誤差は1日くらい)。
『鳥の睡眠』
 鳥は一瞬寝てすぐに起きるの繰り返しで、トータル1日で30分くらい寝る。中には飛びながら寝るものもある。 などなど、他にもいろいろ楽しい話が聞けました。
 
 そんなこんなで朝9時から6時間のイベントも終了しました。特段これといったお手伝いもできませんでしたが、yamaneko自身はたっぷり楽しんだことは間違いありません。近くにこんな場所があるのは嬉しいことです。