小山田緑地 〜多摩丘陵に春の兆しは〜


 

【東京都 町田市 令和4年2月12日(土)】
 
 今年の冬は寒いです。雪こそ少ないですが、ここ多摩丘陵もシンシンと冷える毎日。特に駅のホームで電車を待っているときなど、頬に氷を押し当てられているかのような冷たさです。暦の上ではとっくに春なのに。
 さて、そんな日々ではありますが、野辺の片隅にでも春の予兆のようなものがありはしないか、探しに行ってみました。場所は町田市中部の小山田緑地です。
 
                       
 
 「多摩の横山」に沿うように丘陵を縦貫する尾根幹(南多摩尾根幹線)。この幹線道路を挟んで北側はかの有名な多摩ニュータウンで、丘陵の起伏を忠実になぞるように広大な住宅地がうねり広がっています。一方、南側は「平成狸合戦ぽんぽこ」の世界観。細かい谷戸が複雑に入り込んだ里山風景で、令和から平成を飛び越して昭和にタイムスリップできるような風景です。
 今日の目的地の小山田緑地に向かうには、尾根幹から多摩丘陵の南面に下って行きます。

 駐車場

 今日は朝食を遅めにとってゆっくり出発したので、現地に到着したのは11時を回っていました。駐車場には既に車がいっぱい。この小山田緑地には運動広場があり、少年サッカーや少年野球のチームが練習をしに来るようなので、その保護者の車でしょう。



 11時25分、散策スタートです。「小山田の谷」と呼ばれる谷戸を遡る形で歩いて行きます。



 木々が葉を落とした林は明るいです。こんなところをのんびりと歩ける幸せ。若いときにはこの楽しさに思い至らなかったなあ。

 調整池

 調整池には氷が張っていました。今日は空気は冷たいですが、風がないのでたすかります。

 ヤママユ

 ヤママユの繭を見つけました。クヌギの枯れ葉にくっついていて、はずそうと引っ張ってもはずれないほどしっかりとつながっていました。繭には穴が開いていて、もちろん住人は出てしまった後です。成虫はこんな感じです。

 WC

 小屋風のトイレ。周囲の風景にマッチしていますね。綺麗な施設です。

 霜柱

 日陰にはまだ霜柱も。サクサクです。実はyamaneko、子どもの頃はあまり霜柱を見た記憶がありません。関東平野のような火山灰土だとできやすいのでしょうが、地質の違いなのでしょうか。実家の周囲には三瓶山の噴出物(デイサイト)が火砕泥流となって流れてきた地層が厚く積もっていましたが、元が火山岩なので霜柱が上手くできないとかそんな理由だったのかもしれません。

 カラスウリ

 枯れ落ちることなく春を迎えそうなカラスウリ。こんなに実が残っているということは、鳥たちにとっても美味しくないんでしょうね。

 フッキソウ

 漢字では「富貴草」。草と付いていますがれっきとした木だそうです。高さはわずか15pほどですが。似たように「ちびっ子なのに木です」というのにヤブコウジなんかもありますね。
 フッキソウの花に花弁はなく、開花状態は鳥の嘴が並んでいるような感じです。

 オオオナモミ

 湿地の脇に林立していたオオオナモミ。北アメリカ原産の帰化植物です。名前はなんだか舌を噛みそうですが、分解すると「大きいオナモミ」ということで、そのオナモミを更に分解すると「雄のナモミ」ということ。ではナモミとは。「滞る」とか「こだわる」という意味の「なずむ(泥む・滞む)」が、→「なごみ」→「なもみ」と転訛したものだそうです。実がトゲトゲで服に引っかかりますからね。



 谷戸のどん詰まりまで行くと、その先の丘に上がっていきます。

 ドングリ

 去年のドングリ。根を地中に伸ばしていました。さあ、新しい季節に成長していくことができるか。厳しい競争が待っているでしょう。

 カニクサ

 一見、ツル性の植物のようですが、これはシダの仲間のカニクサ。ビローンと伸ばすと2mくらいになり、これで1個の葉だそうです。



 丘の上はこんな感じ。まだ春遠し、です。

 コナラ

 広いエリアに出ました。コナラの兄弟。もう少し暖かくなって、こんなところで弁当を食べたら楽しいでしょうね。

 みはらし広場へ

 みはらし広場に向かいます。あの丘の上からは西側の眺望が広がっているはずです。

 メジロ

 柔らかな陽射しの中、メジロの活動も活発です。

 運動広場

 左手には広大な広場が。奥の方にグラウンドがあります。元々は谷戸地形だったところでしょうが、それにしてもこのゴルフ場みたいなアンジュレーションは? 調べてみると、12世紀頃「小山田の牧」という馬の牧場があったところで、その遺構として地形が保存されてきたのだそうです。平安後期から鎌倉期にこの辺りを本領としていた小山田氏の牧場だったのでしょうね。板東武者にとって欠かすことのできない馬を飼育していたのだと思います。

 カントウタンポポ

 カントウタンポポ。少しずつ地面も暖まっているのかな。

 オオイヌノフグリ

 オオイヌノフグリは早春の使者。この時期にこの花を見つけると写真を撮らずにはいられません。春を心待ちにする気持ち故です。

 みはらし広場

 12時、みはらし広場に上がってきました。標高123mです。



 これがみはらし広場からの眺めです。遠くに丹沢の山並み。手前の丘の住宅地は小山田桜台辺りになります。



 丘を少し下ったところに、少し気になる木が。枯れ葉のようなものが枝に残っています。

 ニワウルシ

 うむ、これはニワウルシですね。枝に付いているのは翼果です。

 翼果

 これがニワウルシの翼果。薄い膜のようなものの中央に扁平な種子があります。この翼果が風に吹かれて枝を離れると、ちょっと面白いことに。横向きの姿勢を保ちつつ縦ロールしながらゆっくりと落ちていくのです。次から次へとくるくる回りながら舞い落ちる様子は一見の価値ありです。



 丹沢山地の向こうには富士山が。このみはらしの丘は関東富士見百選なのだとか。

 多摩丘陵

 遠くの丘との間にはたくさんの谷戸があります。ここ多摩丘陵は起伏に富んだ地形をしていますが、もともと平らな台地が細かく浸食されたものなので、どの尾根も標高はほぼ同じなのです。



 しばらく休憩した後に駐車場へと戻ります。



 この風景は、まだ冬枯れといった感じ。時期が来れば枝のいたるところから若葉が萌え出し、びっしりと葉を付けるのですから、不思議といえば不思議です。しかも毎年。植物のパワーってすごいですね。



 運動広場からつながる谷戸。南側に延びて更に大きな谷戸に合流します。林の縁にはウメが咲いていました。



 急な坂を下って、最初の「小山田の谷」に向かいます。

 エナガ

 小枝の間を行ったり来たりしているのはエナガです。小さな嘴と長い尾が特徴。可愛いですね。秋から冬にかけて、カラ類やメジロ、コゲラなどと一緒に群れを作って移動することがよくあります。



 小山田の谷に下りてきました。



 時刻は午後1時。朝方張っていた池の氷もあらかた溶けたようです。
 
 春の兆しを探しにやってきた今日の野山歩き。かすかな気配は感じることができましたが、春本番にはまだまだといったところでした。でも、この時期の多摩丘陵を楽しませてもらいました。
 
 新宿から多摩丘陵に引っ越してきて8年になります。あっちの丘、こっちの谷戸、しょっちゅう出かけていますが、ついぞ飽きません。故郷の山陰地方とは植生も、気候も、土も、山々の形も違います。でも、心地のよい、何世か前にはこの辺りで暮らしていたのではないかとふと思うくらい、落ち着く風景です。