大万木山 〜一年越しのマイヅルソウ〜


 

【島根県頓原町 平成15年6月22日(日)】
 
 一年前、まだ見ぬマイヅルソウを訪ねて吾妻山に登ったのは6月中旬(6月12日)。でも、その時は花期が過ぎていたのかまったく花が付いていなくて、少しがっかりしました。
 「まぁ、来年までのお楽しみにとっておくか。」と、一年間楽しみにして、ようやくまた花期が巡ってきました。図鑑を見ると「花期は6月から7月」とあります。ひょっとして6月も下旬になってから行けばドンピシャのタイミングなのか?と考えて、今年は6月22日を「Xデー」と定めました。
 そして、「大万木山(おおよろぎさん)の頂上直下にマイヅルソウの群落があるよ。」と一週間前の観察会終了後に聞いていたので、同好の志を募ってこの山に登ることにしました。

 「おおよろぎ」 何か曰くありげな響きではないですか。初めての山でもあり、何となくワクワクします。
 ちなみに、ブナやミズナラなどをはじめとしてあまたの種類の木々があることからこの名がついたということです。

 門坂駐車場

 梅雨まっただ中のこの時期、雨の登山を覚悟していましたが、広島、島根の県境を越える頃には晴れ間がのぞいてきました。大万木山の登山口にある門坂駐車場では、木漏れ日の下で身支度を整えることができました。

 

 10時スタート。大万木山を時計回りに「滝見コース」→山頂→「渓谷コース」→「横手コース」とたどって、出発点に戻ってくることにしました。普通に登山をする人達にとっては2時間で登る行程です。ですが、我々のペースはその1.5から2倍はかかるのが常なので、たぶん昼ご飯は1時くらいでしょう。

 アカショウマ

 渓谷沿いの登山道には多くの植物が待っていてくれていました。
 朽ちた落ち葉が適度なクッションになっているので、歩いていて気持ちがいい。湿度が高く、ドッと汗が出てきますが、登るに連れて身体中に満足感が充満していくのが分かります。ときおり吹き渡る涼風に足を止めると、思わず「あぁ、いい気持ち…」と声に出てしまいます。

 滝見コース

 

 ヤマアジサイ

 ヤマアジサイの色は数ある青のなかでもターコイズブルーに近いでしょうか。日本の伝統色で表現するなら浅葱色か?
 いずれにしても見とれるほどの鮮やかさです。

 ウリノキ

 盆提灯にぶら下げる房のような形の花は、ウリノキです。
 花弁は6個あって、これがクルクルと巻き上がり、中央には長さ3pほどの雌しべと、それを取り囲む12個の黄色い雄しべがぶら下がっています。
 しばらく眺めていたら、この強烈な個性を持つ花の形の意味を知ることができました。ハナバチがやってきて、黄色い雄しべにしがみつき、密を吸い始めたのです。なるほど、密を吸うためには雄しべにしがみついて体を支えなければならず、そのときに否応なく身体に花粉を付けることになるのです。そしてまた違うウリノキの花のもとへ…。うまくできています。

 鉄滓?

 登山道沿いの斜面に幾つもの炭焼き窯の跡が残っていました。奥出雲で盛んだった「たたら製鉄」に使用するための炭を焼いていたのでしょう。製鉄の過程で出る鉄滓と思われる塊が登山道脇に転がっていました。



 ブナ林

 
 

 12時、ようやく稜線に出ました。
 見事なブナ林です。 

 サンカヨウ

 頂上直下はすばらしいサンカヨウの谷。一同思わず「おおーっ!」
 何年か前に猿政山で見たものよりはるかに大きな群落です。葉は雹にでもうち破られたように穴が空いていました。そして、特徴のある実はこれから色づくところのようです。

 

 タニウツギ  ツクバネソウ

 稜線に出てから1時間、登り始めてから3時間。頂上に到着です。
 ようやく、と言うより、もう頂上に着いてしまったと感じるほど楽しい登りでした。

 山頂

 山頂は周囲を樹木に囲まれていて眺望はありません。もともと今日は途中から雲の中だったので、どのみち見えないのですが。
 昼食をとっている最中も次から次へと靄が流れてきて、そうかと思うと薄日が差したりして、不思議な景色。周りが見えないからか、ここが標高1200mの山の上とは思えない感じです。

 昼食後、別のコース(権現コース)から登ってくる道の方へ少し下って、目的のマイヅルソウを見に行くことにしました。
 ところが、光沢のあるつややかな葉はビッシリと生えているものの、肝心の花は一株も咲いていません。それどころか、いくつかの株に残っている花柄に実が付いていました。
 あぁ、やっぱり花は終わっていたんだ。そうなのかぁ。

 マイヅルソウ(実)

 でも、思ったより悔しくありません。何でだろ?
 きっと、ここまでの間にいろんな植物に出会って、十分に楽しめたからだと思います。

 ブナ

 通称「タコブナ」
 いったいどうやったらこんな形になるんでしょうか。コナラのように伐採を繰り返したというものではないようです。
 深く積もった雪が斜面をずり落ちようとするときの力に押されてスギなどが根曲がりするのはご存じのとおり。山頂部に積もった雪は一方方向にずれることがなく真上から押しつけるのでこのような形になったのでは、というのが我々の結論だったのですが、真相は如何に。

 山頂で1時間ほど休憩して、さあ、そろそろ下山です。

 下山路の渓谷コース

 下山を始めてしばらくすると雨が落ちてきました。
 けっこうしっかりとした降りです。街中で雨に降られると不快そのものですが、こんな緑豊かな森の中で降られる雨はたいして苦にもなりません。むしろこの幽玄とも言える風景を楽しみたいと思えるほどです。

 コアジサイ

 途中にある小さな山小屋でひと休み。きれいに保たれていて、登山客のマナーの良さに嬉しくなります。
 この小屋に置いてあった自由帳にマイヅルソウが咲いていたとの書き込みがあるのを、同行のM女史が見つけました。日付を見ると6月2日です。そうか、花期は6月上旬だったんだ。
 これでまた来年の楽しみができました。
 あぁ、しかしこんなに楽しい山歩きは久しぶりです(毎回楽しいのですが。)。なにしろ下山の途中の道々で「また来よう。」と何回も話に出るくらいですから。

 横手コース

 出発地点の門坂駐車場に戻ってきたのは午後4時半。トータル6時間半の行程でした。
 残っている車はドリーム号のみです。幸いにも雨も小降りになっていたので、帰り支度をするのには助かりました。

 「大万木山」 また季節を変えて遊びに来てみたい山です。