大野権現山 〜おむすび岩ごろり〜


 

【広島県大野町 平成16年12月26日(日)】
 
 ようやく冬らしい気候になってきました。朝、駐車場に行ってみると、ドリーム号もいつになく寒そうに待っていました。
 今日は佐伯郡大野町と廿日市市との境にある大野権現山に行くことにしました。メンバーはいつもの8人。天気もまずまず。今年最後(?)の野山歩きも楽しいものになりそうです。
 
 集合は大野町側のふもとにある「おおの自然観察の森」。ここはマルバノキ(ベニマンサク)の自生地として有名なところです。
 駐車場の標高は440mくらい。風こそないものの、車を降りるとしんしんと冷えてきます。
 先に到着していた面々が輪になってなにやら談笑しています。先週の定例観察会で、「ネジキの樹皮がねじれているのはみんなよく知っているが、中身はどうなんだろう。中身もねじれているのだろうか。」という話がでました。そのときは、ネジキを縦に割ったことがあるという人がいて、結局中身もねじれているということで決着したのです。その話をみんな覚えていて、今日、どうやら実物で検証したようです。ネジキの倒木の枝(直径約2p)を長さ20p程度に切ったものを縦に割ってありました。

 ネジキのねじれ

 ご覧のとおりやっぱりねじれて割れています。2つを合わせるとぴったりと組み合わさるのでこれは確かです。まだ生木のようにみずみずしいので、乾燥してねじれたものではありません。確かにこうやって実物を見ると説得力が違いますね。

 9時半、駐車場を出発。まず100mほど先にある自然観察センターに向かいます。
 館内に入ると突き当たりが壁一面のガラス窓になっていて、正面にベニマンサク湖が広がっています。オシドリのつがいを何組か見ることができました。オシドリは用心深い鳥ですが、ここからだと気兼ねなく観察できます。

 遊歩道

 センターを出て学習広場の登山口を目指します。風がないので歩き始めると寒くはありません。
 途中、道ばたに木の切り株がありました。「日当たりの良い南側ほど樹皮の成長が良いので、南側は年輪の幅が広い。山で道に迷ったら切り株の年輪の幅で方位を確かめるとよい。」という話を聞いたことがありませんか。これはまったくあてになりません。コンパスをあてがってみると年輪の幅は必ずしも南側が広くないことが分かります。

 年輪幅と方位との関係は?

 10時10分、学習広場の登山口までやってきました。今日はまずここからまずオムスビ岩のあるピークに登り、そこから稜線に沿っていくつかのピークを越え、大野権現山の山頂を目指します。帰りは来た道を少し戻って分岐から北岸広場に降りてくる、というコースです。
 登山道に入るとしばらくはヒノキ林。「ミズゴケの小径」と名付けられているだけあって、日光はあまり差し込まず、足下にはふかふかのミズゴケが敷き詰められていました(もちろん自然にできたものです。)。

 カクレミノの幼木

 道の脇にあるヤブニッケイやカクレミノのテカテカの葉が鮮やかです。カクレミノの葉の裂け方は興味深く、まったく裂けないものから、2裂、3裂…とあり、最高6裂のものを見たことがあります。葉が裂けるのは幼木に多く、高木に育ったカクレミノではほとんど葉が裂けません。
 
 しばらくは谷沿いの道を行き、その後山肌をジグザグに登って稜線に出ました。時刻は10時半です。木立越しに下界が見えてきて、かなり登ってきたことが分かります。周囲は明るいアカマツ林ですっくとしたリョウブの木が多く混じっています。

 稜線の道

 ピークに近づくにしたがって巨大な岩がゴロゴロしてきました。だんだん息が荒くなり、汗ばんできます。
 
 11時、オムスビ岩(658m)到着。大きな花崗岩の上に直径1.5mほどの岩が乗っています。いったい誰が運び上げたのか。岩の舞台の先端に立つとそのまま下に吸い込まれていきそうです。

 オムスビ岩

 この岩は元々は一つの岩だったのかもしれません。節理に沿って風化し、長い年月をかけて離れ岩になったのでしょう。それにしてもよく転がり落ちないものです。数年前の安芸灘地震でも今年の度重なる台風でもビクともしなかったのですから、もちろん寄りかかっても大丈夫なんですが、ちょっと押しただけでごろりといきそうな感じです。Rさんがこの岩によじ登ろうとすると、高所恐怖症のM女史は「ヒャ〜、やめて〜(怖)」 

 A:大野権現山 B:羅漢山 C:三倉岳 D:丸小山 E:傘山 F:経小屋山 G:岩船岳

 オムスビ岩からの眺めは最高! 西には遠く羅漢山。そこから南にかけて三倉岳、丸小山、笠山、経小屋山と続きます。そして大野の瀬戸を挟んで対岸には宮島の岩船岳が見えています。木立を挟んで東に目をやると、広島の市街地が見えました。居並ぶビルの群れがまるでジオラマのように見えます。

 バックに大野権現山

 ひと休みして、ここから稜線沿いを歩いて大野権現山の山頂に向かいます。
 この道沿いではオオイワカガミの葉が多く見られました。その葉も赤黒くテカテカになっていてよく目立ちます。これで寒さに耐えているのでしょう。

 オオイワカガミ

 快適な尾根歩きを想像していましたが、けっこうアップダウンがあり息が上がります。道ばたのミヤマシキミにもう蕾が付いていました。
 ハイノキの葉に虫(たぶん)に食べられた痕が残っていました。鹿の子模様に白く痕がついていて、一見斑入りのように見えます。しかもあちこちのハイノキで見られます。写真にもあるように、一部貫通している食痕がありましたが、ほとんどは葉の組織が白く残る食べ方でした。食痕の大きさは、2o×5o程度。帰ってから顕微鏡で覗いてみたところ、白い部分には細かい葉脈が網目状に残ってはいましたが、レースのように穴は空いてはいませんでした。
 見たところ周囲の他の植物には同様の食痕はみられません。

 ハイノキ

 いつごろ食べたものなのか(当然、葉が展開し終えてからでしょうが。)。そもそも食べたのは幼虫なのか成虫なのか。なぜ細切れに食べているのか(ひも状に食べ続けても良かったのではないか。)。などと疑問は尽きません。
 ネットで調べてみてもこれはという情報は得られませんでした。ただ、カミキリムシの仲間がハイノキを好んで食べるようなので、この辺りが怪しいかもしれません。どうしても気になったので広島市昆虫館に写真を送り問い合わせてみました。すると、
 「葉肉のみを削り取るように食す食痕から、一見してハムシ科に所属する種の仕業と判断されます。ハイノキの葉を食し、当地に生息していそうなコウチュウとしては、ニセシラホシカミキリ、ミヤマナカボソタマムシをあげることができますが、両種の食痕は葉に穴をあけるタイプなのでこれらは該当しません。ただし、残念ながらハイノキという樹種からは、種の同定には至りませんでした。葉を連続ではなく、寸断された線状に食す習性は、後食性のあるカミキリムシにも共通したもので、おそらくは、この方法が植物体(葉)に最小限のダメージですむからなのでしょう。」(要約)
 年末の忙しいときに丁寧に教えてくださいました。感謝です。ちなみに「後食」とは、羽化して休眠期間を経て餌を食べ始めることのようです。

 大峰山(右奥)

 11時半、オムスビ岩のピークから数えて2つ目のピークに到着しました。測量のためか北側の木立が刈り払われ展望が開けています。眼下には旧佐伯町(今は合併して廿日市市)の集落が見え、遠く正面には大峰山の特徴のある姿が見てとれます。

 一歩ずつ

 さらにアップダウンを繰り返し、北岸広場へ下る登山道との分岐までやって来ました。ここからは目の前のピークの山腹を巻いて進み、その向こうにある頂上に登っていきます。

 ホソバサカキ

 ホソバサカキがあると教えてもらいました。初めて見る葉です。鋸歯はなく肉厚で表も裏も滑らかです。でもテカテカではなくツヤ消しといったところでしょうか。

 山頂

 12時15分、ようやく大野権現山の山頂に到着です。
 山頂にはまばらな木立(コナラ、アカマツ、コシアブラ、ヒノキ、タムシバなど)に囲まれたちょっとした広場があって、片隅に朽ちきった小さな祠ありました。広場は穏やかな日だまりとなっていて風もありません。さっきからみんな腹の虫の大合唱だったので、早速昼食としました。すぐに汗が引いてきましたが、吸湿即乾のアンダーウエアのおかげで快適。冬場は特にこの装備が欠かせません。
 
 昼食をとった広場から見える範囲は、南西からぐるっと東まで。場所を移動すると北の展望も広がっています。
 眺めとしてはオムスビ岩の方が勝っているかも。東に目をやってオムスビ岩の方を見てみると…、見えます見えます。確かにちょこんと乗っかっています。

 オムスビ岩

 南の方はちょうど逆光になるので白と黒のグラデーションの景色になります。まるでミルクを溶かしたような柔らかい景色です。

 モノクロの山並み

 1時5分、ふもとのベニマンサク湖を目指して下山開始です。
 20分ほどで、オムスビ岩方面と北岸広場方面との分岐までやって来ました。ここを右に下りていきます。しばらくするとヒノキの林に入りました。ここのヒノキは太さも揃っていて、それぞれ幹の中程までは枝打ちがしてあります。比較的最近まで手入れされていたのかもしれません。

 下山路

 2時、北岸広場に到着しました。午後の日差しがポカポカと暖かい。他に人影もなく静かです。あとはベニマンサク湖沿いの遊歩道を自然観察センターまで歩いて戻ります。いろいろ観察しながら。
 途中、鳥の羽を拾いました。自然観察センターで聞いても何の鳥のものなのか特定できませんでした。ネットで調べてみると、ワシタカ類の鳥の羽根で、形からすると「三列風切」という部分のように思います。(推定)

 「落ち羽」

 3時、駐車場に戻ってきました。 今日も充実した一日を過ごすことができました。(言い付けられている年末の片づけや年賀状も先送りです。)
 2004年もいよいよどん詰まり、果たしてこれが今年最後の野山歩きになるのか。どうなのか。できればもう1回…、妻の許しがあれば…、(ちなみに彼女は30日まで仕事です。) いずれにしても来年も今年以上に楽しい野山歩きをしたいと思います。
 みなさん良いお年を。