野呂山 〜日向を求めてのんびりと〜


 

【広島県呉市 平成16年11月28日(日)】
 
 このところ休みごとに(それどころか休みを作ってまで)あちこちに出かけているので、さすがに今週末は静かにしておこうと思っていたのですが、やっぱり天気がいいと家の中にいるのがもったいなくなってきます。でも、遅く起き出してきたので遠出はできません。というわけで、近くて、楽で、気持ちのいいところを探してみたら、「野呂山」を思いつきました。いつもの観察道具が入ったバッグを持って出発です。
 
 野呂山は呉市とその隣の安浦町にまたがる山で、膳棚山(839m)と弘法寺山(789m)をむすぶ約2qの山頂高原全体を称して「野呂山」と呼んでいます。瀬戸内の海際までせり出した眺めのいい山です。
 戦後まもなく野呂山山頂一帯に約300人の開拓者が入植し、やがて小学校も設置されましたが、中学校に通うにはふもとの川尻の町までの山道を往復しなければならなかったといいます。山頂から一気に海岸まで。標高がそのまま高低差です。当時の通学路が今は「どんどん登山コース」という登山道になっているほど。当時の子供たちは毎日さぞや苦労したことでしょう。
 その後、昭和40年代の半ばには「さざなみスカイライン」(有料道路。現在は無料)が開通し観光客が繰り出すようになると、山頂高原には一大レジャーパークが作られました。なんとサーキットまであったとか。日本がまだ高度経済成長に沸いていた時代のことです。

 ビジターセンター

 今日はその「さざなみスカイライン」を通って頂上まで上がります。山頂高原には国民宿舎と真新しいビジターセンターがあります。このビジターセンターは今年4月に新築されリフレッシュオープンしたもので、それまでは廃屋のような先代の建物が寒々と残されているのみでした。中にはいると、明るく、清潔。スタッフも常駐しているようで(平日にもいるのかはわかりません。)、ちょっとした休憩にはもってこいです。でも、瀬戸内海国立公園内でビジターセンターの看板を掲げるにしては、自然科学系の展示や解説が不足しているように感じられたのが残念でした。展示は開拓の歴史についての年表が掲示してあるのみ。公園管理センターといった位置づけなのかもしれません。センター内にある売店も土産物がちょろっと置いてあるだけでこれまたパッとしませんでした(これは近くにある国民宿舎の営業に配慮してのことかもしれませんが。)。利用者に長く親しまれるようなソフト面でも充実したビジターセンターとなることを願っています。

 遊歩道

 遊歩道を「星降る展望台」まで歩きます。森はアカマツが混在する照葉樹が中心。落葉樹の森と違って日陰が多くなります。度重なる今年の台風で木々はかなり傷んでいました。ここは山頂高原の縁にあたる部分。海からの激しい風がもろに吹き付ける場所です。

 ヨモギの虫コブ

 道ばたのヨモギに面白いものを見つけました。一見して虫コブだと分かります。中はどうなっているんだろう? 申し訳ないとは思いつつ、1個だけ切ってみることにしました。丸いボールのような部分はフェルトのような材質。その中心にハエの幼虫のようなものが入っていました。
 この虫コブは「ヨモギハシロタケマフシ」といい、中に入っているのは「ヨモギシロケフシタマバエ」の幼虫だとか。最近は何でもネットで調べることができて有難いことです。それにしても、あまりに名前が長いので、どこで切って読んでいいのかわかりません。

 ツボスミレ

 今年はこの時期どの山を歩いてもスミレを見かけます。これはツボスミレ。別名ニョイスミレとも呼ばれています。半径2メートルくらいの群落で咲いていました。まるでそこだけ春のようです。

 星降る展望台

 展望台下の斜面で弁当を広げることにしました。
 のんびりと食事をしていると日差しを受ける背中がポカポカと暖かい。まるで背中自体が発熱しているように感じるほどです。遙か1億5千万qの彼方からこの背中を暖める、その太陽の力のスゴさを感じずにはいられません。

 ネジキ

 食後、辺りで面白いものを探してみました。すると、あったあった。ネジキの枝です。
 ネジキの木肌は縦ジワの溝がねじれるようにして一面に彫り込まれていますが、今年伸びた枝だけは朱塗りの塗り箸のようにピカピカでツルツルです。この枝がよく見る縦ジワの枝に変身するのにどんな過程を経るのでしょうか。脱皮するのか、それともツルツルの木肌に自然に溝ができてくるのか、不思議です。

 ヒノキの葉たち(表)  ヒノキの葉たち(裏)

 ヒノキの葉が落ちていました。ヒノキは葉裏に白く Y の字の線が入っているのが特徴です。
 ところで一つの葉っていったいどの部分? 調べてみると、この小さな亀の甲羅のようなもの一つ一つが葉っぱなのだそうです。二つ折り状になった葉がYの字の左右に1枚ずつ。Yの字の上の部分に菱形の葉が一つ。この菱形の葉は反対側にもあります。これらの葉は十字対生になっていて、表から(裏からでも)見て、枝に対して左右に付いているのが二つ折り状の葉、枝に対して前後に付いているのが菱形の葉です。「枝に対して」と書きましたが、枝があるのかどうか分かりません。葉どうしが密着することによって枝と同様の強度を保っているのかもしれません。枝があるのかないのか、今度分解してみたいと思います。
 ちなみに、葉裏の白いYの字は、葉と葉が接する部分で、白くなっているのは気孔帯なのだそうです。

 ソヨゴの葉

 ソヨゴの葉を1枚拝借して、ライターであぶってみました。するとどうなるか。これをしてみたことのある人は多いと思います。
 あぶると葉の裏がプクッとふくれて、すぐにパチンパチンと音をたててはじけてしまいます。これは葉の層と層との間の空気が膨張してはじけているのです。ソヨゴの別名は「フクラシバ」=「膨らし葉」。昔の人はたき火に入れたときの音から名を付けたのでしょう。

 イロハモミジ

 あーぁ、今年の紅葉は今ひとつでした。「全山燃えるような」と形容できる紅葉にはとうとうお目にかからずじまいです。
 でも、やっぱり紅葉のバックは青空が一番ですね。全山の紅葉でなくても、枝先だけを切り取った構図で十分絵になります。
 
 さて、せっかくここまで来たなら展望台から景色を眺めないで帰るわけにはいきません。
 地図、コンパス、双眼鏡。これらは常にバッグに入っていて、これさえあれば小一時間は楽しめます。(なんと安上がりなレジャーでしょうか。)
 星降る展望台からは、南東方向を中心に180度以上の眺望がありました。

 星降る展望台から見える範囲

 北東には、竹原市の向こう、本郷町にある広島空港の管制塔がかすかに確認できました。正面には四国の山並みが見えるはずですが、今日は薄ぼんやりしています。南西方向は音戸ノ瀬戸まで見渡せます。

 瀬戸は日暮れて…

 晩秋の、いや初冬の日暮れは駆け足です。それもそのはず、夏至の日の中天にある太陽の角度は約80度。ほぼ真上に見えますが、冬至の日のそれは約30度です。冬至まではあと一月あるとはいえ、時刻が3時を過ぎると太陽はかなり低い位置にあります。辺りはもう夕暮れ気分たっぷり。そろそろ帰ろうかなって気になります。
 
 帰り道、ふもとまで一気に落ち込むような山の斜面を見ると、日々黙々とここを下り、また上った少年達の姿を想像して、胸にジーンとくるものを感じました。当時の中学生は今は60歳代になっているでしょう。

 それもつかの間、ドリーム号を追い越して爆音を響かせながらコーナーに飛び込んでいくバイクの群れに現実に引き戻されました。