西丹沢 〜山が斑模様になる季節〜


 

【神奈川県 山北町 平成18年4月30日(日)】
 
 いよいよ始まりました、GW(ゴールデンウィーク)。これといって旅行などの予定はありませんが、ぶらっと近場に出かけてみようとは思っていました。そこで今日は神奈川県西部、もう静岡県に近い位置にある西丹沢の山あいに行ってみることに。ここは以前バードウォッチングでときどき訪れていた場所です。
 
                       
 
 午前9時半、ドリーム号スタート。山手通りを南下して青葉台でR246へ。そして用賀から東名高速へ上がります。
 眩しく輝くような日差し。抜けるような青空。道も順調に流れています。
 
 厚木ICを過ぎたあたりから山が近くなってきました。したたる緑の中を走り抜け、大井松田ICで下道(したみち)へ。下りた道もR246なのです。しばらく走って清水橋の交差点を右折。ここからが本格的な山道になります。途中、丹沢湖に架かる橋を渡り、どんどん上流へ。

 斑模様の山々

 山々が濃い緑一色になる前のほんのわずかな期間、一年のうちでもこの季節だけ様々な緑のグラデーションを見せてくれます。晩秋の紅葉も素晴らしいですが、この時期の山々もみずみずしくて美しいです。

 西丹沢自然教室

 路線バスの終点にビジターハウス「西丹沢自然教室」があります。ここにはガイドさん(?)が駐在していて、入山者に登山計画の提出を促したり、この地域の自然についてレクチャーしたりと、西丹沢を訪れる人たちにとってなにかと心強い存在のようです。ここは車で手軽に訪れることができますが、自然の厳しさという面では決して侮れない場所でもあるのです。実際に自然教室内の掲示板には行方不明者の情報提供を呼びかけるチラシも貼られていました。

 西丹沢のジオラマ

 自然教室の展示室に西丹沢全体を俯瞰したジオラマがありました。高さは若干強調されていますがこれを見ると山々の険しさが理解できます。尾根を越えると山梨県です。
 丹沢湖から河内川を最奥までさかのぼった正面にそびえているのが大室山(1588m)、そこから西(写真左方向)に小さな鞍部を挟んで加入道山(1418m)、そこから南に下がってちょうど西丹沢自然教室から見て真西の方向に畦ヶ丸山(1292m)です。逆に大室山から東に大きな鞍部を挟んで、自然教室の真東に位置するのが檜洞丸(1551m)になります。
 自然教室のある位置は川の出合いになっていて、奥の大室山の方から流れてくるのが河内川本流、畦ヶ丸山方面から合流してくるのが西沢、檜洞丸方面から合流してくるのが東沢です。

 西沢へ向かう吊り橋

 11時20分、早めの昼食を済ませて歩き出しました。ここから吊り橋を渡って西沢をさかのぼります。この吊り橋を渡る感覚、ついひと月前まで住んでいた広島にある工兵橋を思い出しました。

 シュンラン

 最初に出会ったのはシュンラン。その名のとおり春の蘭です。最近山の稜線によく見かける風力発電の風車のような姿が特徴。

 新緑の渓谷

 流れに沿って登山道が延びています。河面に覆いかぶさる緑。オオルリのさえずりがすぐそこから聞こえてきます。

 イヌブナの芽吹き

 登山道脇のあちこちにイヌブナの芽吹きが見られました。双葉がしっとりイキイキとしていて「若い命」といった感じです。でも何千、何万と芽吹いたこの中から大きく成長できるのはほんの僅か。イヌブナに限らず堅果類などの植物は概ね同じような歩留まりの悪さです。なんと効率が悪く無駄なことを…、と考えがちですが、見方を変えればそんなことはありません。なぜなら大きく育てなかったものはその場で朽ち、菌類に分解され、やがて栄養豊かな土となって山自体を養うのです。決して無駄にはなっていませんよね。

 マルバコンロンソウ

 足下に小さなマルバコンロンソウを見つけました。アブラナ科のかわいい花です。
 コンロンソウは漢字で書くと「崑崙草」。崑崙とは中国の伝説的な地名で、黄河の源にあって、玉(ぎょく)を産出し、不死の仙女が住むという西方楽土のことだそうです。この花の白を崑崙山に積もる雪に見立ててその名が付いたといわれていますが、ちょっと凡人には持ち得ない想像力です。

 砂防堰堤
 (下流側から)

 西沢にはいくつかの砂防堰堤があって、そのいずれもが堆積した土砂で満杯になっていました。

 ホソバテンナンショウ

 ホソバテンナンショウも今日のルート沿いのあちこちで見かけました。図鑑によると関東地方西南部から富士山周辺に多いとの記載があります。まさにドンピシャでこの辺りです。

 沢を渡る

 堰堤を越えると堆積した土砂によって広い河原状の地形になっています。その中を細く流れる沢に丸木の橋が架かっていて、それを渡ってさらに上流に向かいます。

 ムラサキケマン

 かんざしを立てたようなムラサキケマン。花全体が紫色のものより、白い部分が多いものの方がなんとなく上品な感じがしますが、どうでしょうか。

 ヤマクワガタ

 斜面に転がる岩の縁にヤマクワガタが咲いていました。気がついてみるとあちこちにあります。この花も西日本では目にすることができないものです。仲間のクワガタソウは広島近郊でも見かけたことがありました。何がクワガタなのかというと、果実の形が兜の鍬形に似ているからだそうです。

 さらに奥へ

 谷の幅がいよいよ狭くなってきました。でも、もうちょっとさかのぼってみましょう。

 ハコネシロガネソウ  花冠をアップで

 また初めて見る植物に出会いました。ハコネシロガネソウです。白い花弁に見える部分は萼片。キンポウゲ科の花にはよくあるパターンで、橙黄色の蜜腺状の部分が花弁だそうです。
 
 3時間ほど沢沿いに歩きました。「超」がつくほどスローペースなので距離にしてみればたいしたことはないかもしれませんが、緑のシャワーをたっぷり浴びたのは間違いありません。
 そろそろ駐車場に戻りましょう。

 駐車場

 ドリーム号のところに戻ってきて丹沢の山々を振り返ると、山肌が午後の日差しを受けて緑のグラデーションを一層鮮やかにしていました。
 さあ、これから渋滞の東名高速を都心に向かって帰ります。

 ツクバネウツギ

 駐車場の縁に咲いていたツクバネウツギ。盛りをやや過ぎたあたりでした。