似島 〜富士山頂でひと眠り〜
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【広島市南区 平成16年4月4日(日)】
「似島」、" にのしま " と読みます。
広島港からフェリーで20分。広島湾に浮かぶ小さな島で、「安芸の小富士」と呼ばれる島影が広島の街中からもきれいに見えます。
広島は三角州の上に出来上がった街で、港湾が整備される前の江戸時代には遠浅のため大きな船が入れませんでした。そのため、目の前の海に浮かぶ似島を荷継ぎに利用していたのだそうです。このことから「荷の島」と呼ばれ、これが「似島」となったといわれています。
広島港 |
朝、カーテンを開けると、眩しいくらいの青空。
この天気を見たとたん体の中の「どっか生きたい虫」が騒ぎ出し、朝食もそこそこにドリーム号を走らせました。
行き先は広島港。今日はここに車を停めて、船で似島に渡ろうというものです。
最近リニューアルした広島港ターミナル。そこから11時ちょうどに出発するフェリーに乗ってデッキに出てみると、もう目の前には島影が迫ってきています。桜のピンク、コシダの黄緑がまだらになって、島全体が浮き立って見えるようです。海を渡る風は少し冷たく感じます。
似島(安芸の小富士) |
似島桟橋でフェリーを降りたのは50人ほど。思ったよりたくさんの人が上陸しました。桟橋前にはちょっとした(しかし島では最大の)集落があります。とりあえず小さな食品店で昼食の調達することにしました。ほとんどの人は迎えのマイクロバスなどに乗り込んでどっかに行ってしまい、パンと飲み物を買って店から出てみると辺りはもう静かな港に戻っていました。
路地裏の登山道 |
登山口までの道は路地裏です。
猫が塀の上を歩いていそうな、いい雰囲気の路地です。
フラサバソウ |
路地をぬけると小さな駐在所があり、そこから山道が始まります。
フラサバソウはユーラシア原産。今から130年ほど前、フランスの植物学者フランシェとサヴァチェが長崎で採集したという記録があり、両名の名をとってフラサバと名がつきました。花の直径はわずか3oほど。ゴマノハグサ科の2年草で、オオイヌノフグリなどに近い仲間です。
キュウリグサ |
これまた小さな花のキュウリグサ。パステルカラーの花冠をルーペで覗くと、花屋の店頭を飾っても見劣りのしないくらいの可愛い姿を見ることができます。ちなみにキュウリグサの名は、葉をもむとキュウリの匂いがするからだとか。
背中からウグイスのキレの良い鳴き声が聞こえてきます。
ナナホシテントウ |
越冬を終えたテントウムシが葉の上でじっとしています。春の光を受けて少しずつ体温を上げ、これから活動するための準備をしているのでしょう。草の露と同じ大きさ同じ形をしています。
フサアカシア |
尾根筋に出ると、明るい光が道に差し込んできます。
フサアカシアはもうそろそろピークを過ぎようとしていました。レモンイエローが鮮やかです。
尾根筋の道 |
この辺りの標高は150mほど。登山道は滑りやすいマサ土です。
南方向の眺め |
振り返ると、さっきフェリーが着いた港が眼下に見えました。
アカメガシワの赤い芽 | オオバヤシャブシの若葉 |
登り始めて1時間半。あっという間に標高278mの安芸の小富士山頂に到着しました。
山頂からは広島の街がまさに指呼の間。そしてその街を取り囲む山々が一連の屏風絵のようにも見えます。
ひとしきり景色を眺めた後、汗を拭いて昼食のあんパンをほおばることに。そして、腹がくちくなったところで、富士山頂での昼寝としゃれ込みました。
目を閉じていてもまぶたの裏で春の光の明るさと温もりを感じます。やがて鳥のさえずりと遠くの汽笛の音が心地よい眠りにいざなってくれました。
そうやっておよそ1時間。至福の時を過ごすことができました。
コバノミツバツツジ |
下りは上陸地点とは反対側にある似島学園桟橋を目指します。
登山道脇にはコバノミツバツツジが満開状態でした。ショッキングピンクです。
ノジスミレ |
こっちは深いバイオレット。ノジスミレです。
ほんの半月前とはうって変わって、野山はどこも色にあふれている。見慣れた植物ばかりでも、この季節、やっぱり野山を歩くのが楽しくなります。
ふもとの似島学園では、たくさんの桜が今が盛りと咲き誇っていました。
新しい生活がスタートしました。
今、桜の花越しに蒼い空を見上げている心の中は、清々として、春風がすーっと通り抜けていくようです。
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