長池公園 〜多摩丘陵の懐に抱かれて〜


 

【東京都 八王子市 令和3年4月29日(木)】
 
 世の中的には今日からGWです。ただ東京地方はあいにく下り坂の天気予報。今日は午後から小雨がぱらつくかもしれませんが、春の花を見に長池公園に行ってみることにしました。家から歩いて行けないことはない距離です。
 
                       
 
 長池公園は、行政区画上は八王子市にあり、八王子市立の公園です。ただ、「八王子」と聞いて一般人がイメージする地域ではなく、市域の南東端、町田市、多摩市と境を接する辺りに位置しています。南大沢の背後といった方が分かりやすいかもしれません。

 見附橋口

 南北に細長い公園の北の端にある見附橋口から公園に入りました。時刻は午後1時です。園内マップ(「ひとまちみどり由木」HP)

 長池見附橋

 なぜここの入り口が見附橋口というのかというと、この長池見附橋のたもとに位置しているから。で、この橋は元々は大正2年に作られた四谷見附橋だったもので、平成3年に架け替えられ、どういう縁があったのかその2年後にここに移設されたのだそうです。確かにこの大きさだと都心部に移設場所を見いだすのは困難だったのかもしれませんね。

 築池

 長池見附橋を背にして園内に入っていくと、すぐに大きな池がありました。これがこの公園の名前の元となった長池なのかと思ったら実は違っていて、この池は築池(つくいけ)というのだそうです。長池はここから園内を更に奥に入ったところにあり、散策路はその池の畔で折り返す形になっていて、長池の周囲はほぼ全域非公開の保護地になっています。なので、公園利用者にとっては築池の方が馴染みがあるのではないかと思います。

 長池公園自然館

 池の畔から丘の上に上がったところに長池公園自然館がありました。中には入らず、周囲を散策してみます。

 アヤメ

 アヤメの名前は花被片の付け根にある綾目模様から。ここを見ればカキツバタやショウブとの見分けも簡単です。

 ハコネウツギ?

 ハコネウツギの花は初め白く、後に紅色に変化します。ただ、紅色にならないシロバナハコネウツギというのもあり、これがどちらなのかは不明。ちなみに元から紅色のベニバナハコネウツギというのもあるのだとか。

 ミツデカエデ

 カエデといえば葉は手のひら型をしているのが普通ですが、中にはそうでないものもいくつかあります。このミツデカエデもそのうちの一つ。3つの小葉からなる3出複葉で、粗い鋸歯が目立ちます。葉が対生に付くのは他のカエデと同じです。

 エビネ

 ドクダミのヤブの中に立つエビネ。和製ランですね。ちなみにキエビネというものもありますが、それはもっと大型で鮮やかな黄色をしています(唇弁の形も違う。)。写真のものはキエビネではなく黄色型のエビネということです。

 ヒメウツギ

 ヒメウツギはウツギをやや小型にしたような印象。ウツギより一月ほど早く咲きます。関東地方以西に分布しているそうです。

 キンラン

 野の端にさりげなくキンランが咲いていました。昔はこんな風景があちこちで見られたんでしょうね。

 ミツバウツギ

 涼しげな花ですね。ミツバウツギはその名のとおり葉が3出複葉。卵形の小葉3個で構成されています。ウツギと名が付きますが、さっきのヒメウツギとは違う仲間です。

 フタリシズカ

 フタリシズカの花は直立する花穂に多数付きます。名前からすると花穂は2本が標準かのようにも思いますが、実際には1本から5本と株によってまちまちのようです。



 公園の奥にある長池へと続く道。今日は天気も今ひとつということもあって、行き交う人はまばらでした。

 ホオノキ

 ホオノキの花。まず葉が展開し始め、少し遅れて中央に花冠が広がり始めます。葉の広がりは座布団くらいの大きさ、花冠は洗面器くらいの大きさになりますが、これらが一月前までは筆の穂先くらいの大きさの混芽の中に格納されていたわけですから、自然ってほんとマジックです。

 オカタツナミソウ

 ワスレナグサの花壇の中からニュッと突き出たオカタツナミソウ。

 フジ

 見上げると向かいの森の縁にフジの花が。まるで滝のように垂れ下がっていました。ぱっと見木の枝に咲いているように見えますが、フジはツル性なので枝に巻き付いて伸びているだけ。土台になっている木は迷惑しているかもしれません。

 キンラン

 キンラン。近くで見るとキリッとした印象を受けます。里山の貴婦人。

 エビネ

 キンランが里山の貴婦人なら、エビネは里山の麗人か。

 キツネアザミ

 キツネアザミの花はアザミのそれに似ていますが、全体の姿としてはひょろっと背が高く、なにより棘がないので触っても痛くありません。この時期、草地や林の縁で小さな群落を作っているのによく出会います。

 ヤブデマリ

 ヤブデマリは山地の谷沿いなど湿った環境のところに生える樹木。まさにここの環境と合致しています。薄暗い風景の中で純白の花が浮き立つように目立っていました。ただ、これは装飾花と呼ばれるもので実を結ぶ花ではなく、装飾花に囲まれた中央の小さな蕾のようなものが実を結ぶ両生花です。装飾花は一見4弁のように見えますが、じつは5弁で、よく見ると1個だけがごく小さいのです。なんでだろう? もしかしたら、内側の両生花を隠してしまうことないよう小さくなったのかもしれません。

 長池

 1時50分、公園の奥の長池までやって来ました。遊歩道はここから折り返す形で丘の上に向かっていて、この池の畔を巡ることはできません。

 丘の森へ

 丘の森の中は、谷筋に比べると若干乾燥した環境です。

 ササバギンラン

 林床にササバギンランの群落がありました。ギンランよりも大型で、葉が花穂より高く伸びるのが特徴です。

 コゴメウツギ

 雨が落ちてきました。でも木立が遮ってくれているので傘を差すほどではありません。
 コゴメウツギは「ウツギ」の名が付いてはいますがバラの仲間。「コゴメ」とは小米のことで、(花の形が)ウツギに似ていてコゴメのように小さいからこの名が付いたといいます。ただどう頑張ってみてもこの花がウツギに似ているとは言いがたく、これが似ているなら大概の白い花はウツギににていると言わざるを得ません。名を付けた人がこの花を見て最初に思い浮かべたのがウツギだったのかもしれませんね。

 ヤマツツジ

 ヤマツツジ。薄暗い森の中にあってぽっと陽が差しているように感じました。

 交差点

 丘のてっぺんまで来ると散策路は四つ辻になっていました。ここは右手に折れて尾根幹線道路沿いにある里山口方面に向かってみることに。

 里山口

 丘を下って里山口に到着。ここの入り口は通常は閉じられているようです。植栽の向こうに尾根幹線道路を走るトラックが見えていますね。ここからは最初に歩いた谷戸とは違う谷戸を歩いて行きます。

 セリバヒエンソウ

 足下にセリバヒエンソウが。道に沿って点々と続いていました。「芹葉飛燕草」という名は、後に長く伸びる距を持つこの花の姿をツバメが飛ぶ姿に見立てたもののよう。もともとは観賞用として中国から移入されたものだそうです。



 この辺りは「体験ゾーン」とされていて、写真のような田んぼのほか、作業小屋や炭焼き小屋もありました。ちなみに丘に上る前に歩いてきたエリア(長池に至る谷戸)は「観察ゾーン」となっていました。
 平坦地の少ない丘陵地では、かつて谷戸は貴重な生産の場で、最も里に近いところ(すなわち谷戸の幅が広く水が集まりやすいところ)には田んぼや畑、その奥にはカヤ刈場、そして最奥の山際には柴刈り場と環境に応じて使い分けがなされていました。ここ多摩丘陵でも少なくとも昭和の中頃まではそんな谷戸があちこちに残されていたと思います。

 ジュウニヒトエ

 少し明るい林縁にはジュウニヒトエが見られました。白色の唇形花をタワーのように付けています。似た花のキランソウが地を這うように広がって花を付けるのとは対照的です。

 築池

 谷戸の出口に位置している築池は、江戸時代にここから更に下手の農耕地のために造られた灌漑池。池の中にまだ立木が残されていますね。垂れ下がるホオノキの枝も水面に付きそうです。



 2時30分、築池の東側を回って長池見附橋の見えるところまで戻ってきました。のんびり歩いて1時間半の行程でした。
 yamanekoはここから2kmほど離れている小山内裏公園によく通っていますが、同じ多摩丘陵の主稜線上にある公園なのにその雰囲気の違いに面白みを感じました。それはおそらく長池公園が複雑な谷戸に削り込まれた多摩丘陵の懐の中にあるのに対し、小山内裏公園は一方で広大な相模野台地にも面していて開放的な面も持っているるからだと思います。
 こんな公園がこれからも長く残されていくといいですね。