水元公園 〜大都会の中の異空間〜


 

【東京都 葛飾区 平成18年12月16日(土)】
 
 師走も半ば。巷は慌ただしさを増してきているようですが、こんなときこそ一息ついてのんびりしたいもの。ということで、今回は都内の公園を散策してみました。場所は葛飾区にある都立の水元公園。埼玉県と境を接するとはいえ都市のど真ん中に位置する公園です。でも、この公園が信じられないくらい長閑な風景を見せていて、ここはいったいどこなんだ? 本当に東京(しかも23区内)なのか? と疑ってしまうほどなのです。
 
                        
 
 首都高を6号三郷線の加平ランプで下りて、環七を東へ。大谷田橋交差点で左にそれて岩槻街道方面へ走ると、5分ほどで水元公園に着きます。

 小合溜のほとりから

 水元公園は「小合溜」という遊水池を中心とした公園で、小合溜から引いた水路が水郷の景観を作る都内でも最大級の公園です。水元公園としての開園は昭和40年。でも戦前から緑地として市民に開放されていたようです。小合溜のほとりに立つと遠くに茶色の広大な森が見えますが、あそこも公園の一部なのです。

 朝日の中で

 小合溜は、古利根川が猿ヶ又(現在の埼玉県三郷市南部)で東流し、江戸川に注いでいた頃の東流のあとで、江戸中期に締め切って江戸川と古利根川との連絡を絶ち、潅漑用の溜池として利用したのに始まるのだそうです。現在の小合溜は幅約100m、長さ3.5qで、静かに水を湛えています。この日、朝日の中で釣りをしているおじさんがいました。近寄って話を聞いてみると、いつもここにやってきて、ワカサギやモロコ、クチボソなどを釣っているのだそうです。ご多分に漏れずやはり魚影は年々薄くなっているのだとか。ここにもブルーギルなどがいるそうですが、その影響もあるのでしょうか。

 メタセコイア

 この時期、園内には茶色に色づいた高木が目立ちます。これはメタセコイア。高さは20mほどです。メタセコイアは先に化石が発見されていて現代では絶えてしまっていると考えられていましたが、1945年に中国で自生しているのが発見され、「生きている化石」と呼ばれたという話は有名です。恐竜の時代(中生代ジュラ紀から白亜紀にかけて)に繁茂していたといいますから、2億年もの間同じ型の遺伝子をつなぎ続けてきたことになります。その間にたくさんの種の生物が発生し絶滅していったことを考えると、素直にすごいと思ってしまいます。

 アキニレ

 この公園にはアキニレもたくさんありました。自生のものは中部地方以西に分布するとのことです。この葉、何かに似ていませんか。そう街路樹でおなじみのケヤキによく似ていますね。ケヤキもアキニレも同じニレ科。なるほどです。この木の梢をカワラヒワが行き交い実をついばんでしました。
 北杜夫の小説に「楡家の人々」というのがあります。これのおかげでまだ植物に興味がなかった高校生の頃からニレという樹木があることだけは知っていました。当時はどんな木なのかまったく分かっていませんでしたが。

 葭原

 ヨシ原の中にまっすぐ延びる土の道。そしてその向こうにはメタセコイアの森。何度も言うようですが、ここはどこなんだ? 

 ユリカモメ  ヒドリガモ

 水辺に出てみました。デッキの先で佇むユリカモメの若鳥。まるで標本模型のようにじっとしています。中国大陸から冬鳥としてやってきて長旅の疲れを癒しているのかもしれません。ちなみにユリカモメは東京都の鳥に指定されています。
 水面にはヒドリガモの群れです。このカモは頭は茶色なのに額からくちばしにかけて帯状にベージュ色になっているのが特徴。鳴き声はキューピー人形のおなかを押したときのような「ピューィ」といった感じです。

 ハゼノキ

 メタセコイアの森の入り口にハゼノキがありました。自生のものも関東地方南部以西に分布しているそうですが、これはやっぱり植栽でしょう。もともと果実からロウを採るために古くから栽培されてきた歴史があります。瀬戸内海沿岸では真紅の紅葉の代名詞でしたが、この木は黄色く色づいていました。

 ラクウショウとメタセコイア  左:ラクウショウ 右:メタセコイア

 メタセコイアによく似た木にラクウショウがあります。上左の写真の中央から左がラクウショウ、右がメタセコイアですが、単独で見ると遠目には見分けがつきにくいです。やはりラクウショウも恐竜時代に栄えた樹木で、古くからヨーロッパで化石として知られていました。その後北米大陸で生きたラクウショウが発見されたのだそうです。ラクウショウの方がより水湿地を好むとのことですが、見た目といい生い立ちといいよく似ています。ただ、葉を並べて見ればその差は一目瞭然ですね。触った感じもラクウショウのほうがしなやかです。

 芝生の広場

 この公園は災害時の避難場所としての役割もあり、広大な芝生の広場もあります。本当にゆったりと散策できるところです。

 野鳥観察舎

 また森の中に戻ります。イスに座って絵を描いている人、鳥の写真を撮っている人、犬の散歩をさせている人など、みな思い思いに休日の朝を楽しんでいるようです。
 やがて野鳥観察舎が見えてきたのでちょっと寄ってみました。

 切り取られた風景

 観察舎の小窓から覗くと、まるで水郷の自然がそこにあるようです。静かに舞い落ちる枯れ葉、水面のさざ波。遠くの木の枝でトビやカワウが休んでいるのが見えました。小窓に切り取られた風景が額縁の中の絵画のようです。葛飾区の人口約42万人、三郷市の人口約12万人。ここがそのど真ん中にあるとは思えない風景です

 並木の向こうは埼玉

 公園の北東の先端までやってきました。正面の並木の向こうには水路をはさんで延々と続く住宅街。もう埼玉県です。そこには東京外環道路も通っていてまったく別の世界。でも高い建物がないせいか木々の向こうにビルなども見えず、そんな喧噪の街が広がっているなんて想像もつきません。それにしても冬晴れの空があまりにも青くて、「うーーーんっ!」って大きく伸びをしたくなります。

 ユリノキ  果実

 公園樹や街路樹としてポピュラーなユリノキです。別名「チューッリップの木」。花がチューリップのような形をしていることから名が付いたもので、その形の名残が果実(翼果が松かさ状に集まった集合果)にも残っています。写真右のものは地面に落ちていたものですが、まだ枝にあるときには果実の中心部までぎっしり翼果が詰まっています。

 メギ

 こちらはよく生垣として栽培されているメギです。写真でも分かるように鋭い刺があるので、別名「コトリトマラズ(小鳥とまらず)」。なんともベタな名前ですが、実際のところ小鳥はとまっていました。同じメギ科には「ヘビノボラズ(蛇登らず)」というのもあって、こちらも鋭い刺があります。いずれにしてもネーミングのセンスからしてこれらの名前を付けた人は同一人物としか思えません。たぶん。

 シダレヤナギ

 ヤナギと聞けば多くの人がシダレヤナギを思い浮かべると思いますが、そのイメージは川端で長い枝を風になびかせ、その下でカエルがジャンプしているアレでしょう。でも本来は高木で15m以上になるものもめずらしくありません。この公園ではメタセコイアに引けを取らないっくらいの存在感がありました。葉は細長くイトヤナギという別名もうなずけます。

 時計を見るとすでに1時近く。あれこれ見て歩いているうちに昼食をとるのも忘れていました。公園の駐車場の近くにワゴン車の手作り弁当屋さんがいたので、焼きそばとかやくご飯のおにぎりを購入。普通焼きそばには紅ショウガとせいぜいキャベツが入っている程度ですが、ここのは唐揚げが2個入っていて、お得感ありでした。(水辺のベンチに座ってのんびりと昼食を楽しみました。)
 
 都内にもなかなかおもしろい公園があります。これからもあちこち行ってみたいと思います。