宮島 〜天気と天候と気候の話〜


 

【広島県 廿日市市 平成17年12月3日(土)】
 
 いよいよ今年も12月がやってきました。今日は宮島PV(パークボランティア)の研修会。この研修会では毎年外部から講師を招いて楽しい話を聞かせてもらっています。今年は「気象」にまつわる話。講師はNHK広島の夕方の天気予報で天気解説をしている大平さんです。
 
 いつもはドリーム号で宮島へ行くのですが、今日はJRを使います。なぜなら研修会が終わった後に忘年会があるから。今年はめいっぱい牡蠣が食べられるとのこと。楽しみです。
 12時、フェリーで宮島口に到着。そこから旧宮島町役場、今は廿日市市役所宮島支所へ向かいます。毎年ここの会議室をお借りして研修会を行っているのです。

 町屋通り

 フェリーは大勢の観光客で満員状態。紅葉の季節が終わっても、ここ宮島を訪れる人の波は途切れることがありません。その観光客はほぼ100%、宮島桟橋から海沿いの道を歩き、お土産屋さんが立ち並ぶ商店街を抜けて厳島神社まで流れていくのですが、そのコースの一本山手側にはその昔参道だった町屋通りという風情のある路地があって、宮島をよく知る人はこの道を歩くのです。でも単なる路地ではなく、静かな佇まいの中にアート作品が点在していたり、各家々の軒先に和紙で作られた灯明が飾られていたりと、季節に応じてさりげなくドレスアップされるなかなか趣のある通りなのです。春先には「雛めぐり」といって、各家に代々伝わる雛人形を通りから見えるようにそれぞれ店先に飾り、道行く人に見てもらおうという催しもあるのです。中に入り家人から雛人形にまつわるいろんな話しも聞けて、いい雰囲気です。
 今日もその道を通って会場へ向かいました。

 宮島支所からの眺め

 町屋通りをどん詰まりまで行くと道が左右に分かれていて、左手に短いトンネルが。これをくぐると宮島支所です。
 支所の3階からの眺めは、正面に五重塔と千畳閣のある「塔の岡」。その向こうには大野の瀬戸があり、さらに対岸に宮島口の街並みを望むことができます。塔の岡は厳島合戦の際、毛利軍と対峙した陶晴賢軍が陣を構えた場所。おそらく対岸から瀬戸を渡って来るであろう毛利軍を監視するのに都合のいい場所です。(実際には島の裏側に上陸され、山越えをしてきた毛利軍に背後を突かれることになったのですが。)

 大平さん

 午後1時、研修会が始まりました。大平さんは、テレビでは真面目一徹といった感じですが、こうやって直に話を聞いてみると結構ユーモアもあっておもしろい人でした。
 もともと気象の話には興味があったので、飽きることなくあっという間の2時間でした。聞かせていただいた話の概要は次のとおりなのですが、微妙なニュアンスの部分で聞き間違いや勘違いがあったらスミマセン。
 



【気象、天気、天候、気候】
 気象、天気、天候、気候。似たような言葉がありますが、それぞれどう違うのか。「気象」とは、大気の状態のこと。「天気」とは、現在(またはごく短期間)の空模様。「天候」とは、少し長い期間(1週間とか数ヶ月とか)に見られる天気の様子。「気候」とは、天候を長い期間(30年とか)で平均化したもののことです。
 
【雲のでき方】
 湿った空気が冷やされると雲ができます。強く冷やされるほど雲が発達します。これは気温が下がると空気中に水蒸気を含ませていることができなくなって水蒸気を凝結させ水の形にして空気中から放出するのです。(だから冬の空気は乾燥している。) この放出した小さな水の粒が寄り集まって雲粒になるのです。

 ○空気中(1m )に含むことができる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)
気温 30℃ 20℃ 10℃ 0℃ -10℃ -20℃ -30℃
水蒸気量 30.4g 17.3g 9.4g 4.8g 2.4g 1.07g 0.45g

 ○水の三態と熱のやりとり
 
 @水が氷になるとき空気中に熱(凝固熱)を放出する
 
 A氷が水になるとき周りの空気から熱(融解熱)を奪う
 
 B水が水蒸気になるとき周りの空気から熱(蒸発熱(気化熱))を奪う
 
 C水蒸気が水になるとき空気中に熱(凝結熱)を放出する
 
 D水蒸気が氷になるとき空気中に熱(昇華熱)を放出する
 
 E氷が水蒸気になるとき周りの空気から熱(昇華熱)を奪う

 雲ができるのと同じ現象が日常生活の中でもみられます。例えば、風呂の湯気。湯から出た水蒸気が風呂場の空気に触れて冷やされて湯気になります。水蒸気は目に見えませんが湯気は見えますね。これは空気から放出された水の粒が目に見えているのです。ただ、夏と冬とでは湯気の出方が大きく違う。夏の風呂場の温度を30度、湯温を40度とすると、水蒸気は30度までしか冷やされません。でも、冬の場合、風呂場の温度が15度だとすると、水蒸気はより強く冷やされ、湯気が多く発生することになるのです。一方、夏の方が水蒸気の凝結が多い場合もあります。夏のビールはグラスの周りの空気を約30度から5、6度にまで冷やして、グラスの表面にたくさんの露を付けますね。冬だとそんなには凝結しません。(暖かい室内なら別ですが。)
 
【大気の対流】
 空気の温度はどのようにして決まるのでしょうか。気温の高低の要因は太陽のエネルギーです。しかし、太陽の熱が直接空気を暖める量はごくごくわずか。まず地表面(地面、海面)が暖められ、それにより空気の温度が決まるのです。地表面の状況が水面だったり、森林だったり、砂漠だったり、によって熱の受け方が違います。すなわち温まりやすさが違うのです。

 空気は暖められると膨張します。膨張すると周囲と比べて相対的に軽くなって上昇し、そこに周りから空気が流れ込んできます。こうやって空気の対流、すなわち風が起こるのです。
 これは毎日各地で起こっている現象ですが、地球規模で見るとそこにある特徴を見てとることができます。地球では赤道付近が最も暖められることから、上昇気流も赤道付近で最も強く発生します。赤道付近から上昇した空気は圏界面で頭打ちになり、圏界面に沿って南北に別れていきます。そして中緯度までやってくると下降していきます。(気圧が高くなるので中緯度高圧帯といいます。) この辺りでは下降気流により雲ができにくいので、年間をとおして乾燥します。地球規模で見たときに緯度20度から30度に砂漠が多いのはこのためです。一方、極付近で強烈に冷やされた空気は下降し、地表面に沿って高緯度付近まで下りてくるとそこから上昇していきます。この2つの対流にはさまれた地帯でも双方に沿うように対流が起きることから、北半球では(南半球でも)3つの大きな対流が形成されています。
 地球が自転していることはご存じのとおりですが、その回転と一緒に空気も動いています。(もし空気が動かず地球だけが動いていたら、地表では凄い風が吹くことになります。) 赤道から圏界面に沿って北上した空気は自転の影響で、北半球では右に曲げられ、偏西風ができます。
 
【日本の気候】
 日本も中緯度に位置しますが、乾燥は強くありません。むしろ世界的に見たら雨が多い方です。これは日本が海に囲まれていることが影響していて、このおかげで温暖で多湿な気候を作っているのです。

 夏(7月)の気圧と風向き

 大陸は温まりやすく冷めやすいです。逆に海洋は温まりにくく冷めにくい。夏には大陸が熱くなり、大陸の空気が強く上昇します。そこに向かって海洋から空気が移動します。すなわち太平洋から日本を超えて大陸に向かって風が吹くのです。この風は海を渡ってくるので湿気を多く含んでいます。
 上昇気流の発生しているところの気圧は低く、下降気流の発生しているところの気圧は高くなります。

 冬(1月)の気圧と風向き

 冬はその逆。海洋の方が暖かいので海洋から上昇気流が発生し、大陸から海洋に向かって風が吹くことになります。この風は大陸で強く冷やされた風です。でも日本の冬は大陸ほど寒さが厳しくありません。これは日本海があるおかげ。大陸から吹いてくる冷たい風が日本海(海なので大陸より暖かい)で暖められるのです。
 
【広島市周辺の気候】
 瀬戸内海の気候の特徴は「温暖小雨」といわれますが、瀬戸内海一帯がみな一様なわけではありません。典型的な瀬戸内海気候を示すのは、福山市や岡山市、愛媛県の東予、中予あたり。広島市周辺は結構雨が多いのです。現に広島市は福山市より年間で300ミリ以上も降水量が多い。なぜ広島市は雨が多いのかというと、これは地形的な要素が大きいのです。

 冬の風  夏の風

 広島市には一冬に何回か雪が降ります。冬は大陸から吹いてきた冷たい風が日本海上空で湿り気を帯び雪雲を作ります。普通は中国山地にぶつかってそこで雪を降らせ、乾燥した空気のみ山を超えてくるのですが、広島市の場合は背後の陸地の幅が狭いので雪雲が中国山地を乗り越えてやって来るのです。福山市あたりだと陸地の幅が広いので、日本海上空で帯びた湿り気は福山市に来る前にを全部雪として降らせきってしまうのです。また、夏に広島市に雨が多いのは、太平洋から吹いてくる湿った風が豊後水道を通り抜けてやってくるから。福山や愛媛県東予、中予辺りには四国山脈に遮られ高知県側で雨を降らせたあとの乾いた風が来るので雲ができにくいのです。
 
【観天望気】
 昔の天気予報はどうだったでしょうか。天気予報は明治時代に始まりましたが今のように詳細なものではありませんでした。さらにそれ以前はどうしていたか。それはみんな自分で判断していたのです。
 天気に関しての言い伝えは、ある程度は当たるといってよいでしょう。
 「夕焼けの翌日は晴れる。」 日本では西から天気が変わるので、西の空が晴れていると、その晴れの区域が移動してくるからです。
 雲の流れ方を見てもある程度天気を予測することができます。高いところに吹く風(偏西風)は基本的には西から東へ流れていますが、まっすぐにではなく蛇行しながら流れています。北東へ流れているときは低気圧ができやすく、南東へ流れているときは高気圧ができやすい。なので、南西の方に雲ができて北東に向かっているときは天気が悪くなる前兆で、北西の方に雲ができて南東へ流れているときは天気が良くなる前兆といえます。
 「遠くの音が良く聞こえると天気が悪くなる。」 音は温度の低い方に向かう性質があります。地上にいる人間が音が良く聞こえるということは、上空に暖かい空気の層があって音をはね返しているということです。これは温暖前線が近づいているときに起きる現象です。 

 前線面の傾斜角度は通常 1/200。
 1q上空に暖かい空気があるときは200q先にある前線が近づいてきているということになります。

 
【降水確率について】
 天気予報の降水確率については誤解が多くあるようです。例えば「降水確率60%。」 この予報を聞いてどんな状況をイメージするでしょうか。「こりゃ明日は傘が必要だな。」とか「明日の運動会は延期した方がいいな。」とか考えてしまいがちです。でも、これは過去の似たような気圧配置のとき100回のうち60回は1ミリ以上雨が降ったという結果を紹介しているだけのことです。逆に40回は1ミリ未満かまたはまったく降らなかったということ。いいかえれば半分近くは雨が降らないということになります。さらに、確率が高いからといってしっかりと降るとは限りません。降水確率は6時間のスパンで予報しています。降水確率とは6時間の間に1ミリ以上の雨が降る確率ですから、6時間かけて1ミリ降ったとしたらほとんど濡れないでしょうし、1ミリの雨が1分で降ったとしたら非常に激しい雨になるのです。
 この降水確率情報から、今日は傘を持っていくべきかとか、運動会を決行しようか延期しようか、などの決定的な判断材料を得ることはできないことが分かるでしょう。
 


 他にもおもしろい話がありましたが、HPではこのへんで。
 講演は3時で終了。その後、部会ごとに今後の行事計画についての話し合いをして、夕方からいよいよ忘年会です。

 中山茶屋

 もみじ谷から大聖院へと向かう「うぐいす歩道」の途中にある中山茶屋を借り切って、焼き牡蠣&おでんで宴会です。道行く観光客の皆さんも何事かとのぞき込んでいきます。

 半分に切ったドラム缶の上に鉄網を敷いて、その上に所狭しと牡蠣を並べます。でもまだ一斗缶に1個半も残っています。全部食べきれるだろうか。
 
 といった心配もまったく無用。牡蠣どころか大量のおでんさえも、アルコールもろともみんなの胃の腑に収まってしまいました。
 こんな楽しい忘年会を準備してくれた幹事のみなさん、ありがとうございました。
 来年もガンバロー。