御岳山 〜渓谷に涼を求めて〜


 

【東京都 青梅市 平成25年7月14日(日)】
 
 天候不良で木曽駒ヶ岳の登頂をあきらめ、早々と東京に戻ってきたのが昨日。気分は中途半端だし、そのまま山の支度を片付けるのももったいない感じがしたので、昨日の今日ではありますが近場の山に行くことにしました。目的地は奥多摩の御岳山。ロックガーデンという渓谷沿いの登山道があるので、そこで涼んでこようと思います。
 
                       
 
 中野駅8時53分発のホリデー快速は東京都西部の山に向かうハイカーを見込んだ編成になっていて、立川までの快速運行の後、その先の拝島駅で前4両と後6両とに切り離しが行われます。前の4両は拝島から五日市線に入って終点の武蔵五日市駅まで、後の6両は青梅線に入ってこちらも終点の奥多摩駅まで、それぞれ各駅に停車していきます(乗り込む車両を間違えると違うところに連れて行かれるので要注意です。)。
 10時09分、御嶽駅に到着。青梅駅以降は山間部となり、途中の各駅で登山客がばらばらと下りて行きますが、御嶽駅では一気に車内の半分くらいの人が下車しました。御岳山にはケーブルカーもあるので、散策目的の人も多いのです。

 滝本駅前

 御嶽駅で降りた人のほとんどは、駅近くのバス停から西東京バスに乗り、ケーブルカーの滝本駅に向かいます。今日は通常の運行時間を無視(?)してピストン運行をしているようでしたが、それでも車内は満員でした。バスの乗車時間は10分弱です。
 バス終点から滝本駅までの約100mが案外急傾斜で、いやおうなくアキレス腱を伸ばすことになります。そして10時25分、都心から1時間半たらずで登山口に到着しました。上の写真は駅を背にして撮ったもので、赤い鉄橋はケーブルカーの線路です。妻は当然のごとくケーブルカー乗り場に向かいましたが、yamanekoはここから歩いて登ります。滝本駅の標高が約400m、山上の御岳山駅が約830mですから、その差は430mということになります。ちなみに御岳山の標高は929mですので、そこからさらに100mほど登ることになります。


Kashmir 3D

 今日はここから登りはじめ、ビジターセンターの手前で御岳山駅からの道に合流。御岳山の宿坊街を通って御岳山神社の直下まで向かい、そこからは反対側の谷に向かって下っていきます。下りきったところからがロックガーデンで、渓流を遡りながら散策する形になります。今日のルートでは御岳山の山頂直下までは行くものの、山頂にある神社には行かない予定です。

 登山口

 10時30分、さあスタートです。この炎天下、歩いて登ろうとしている人はほとんど見当たりません(登り切るまでに数組追い越した程度。)。

 参道兼登山道

 ここは舗装された道路ですが、御岳山神社の立派な参道で、その証拠に伐採されることなく守られてきた巨木があちこちに見られます。ここは一般の車の通行はできず、山上にある宿坊の方々が生活道路として利用している道なのです。歩いて登るのはもちろんOKです。

 

 クサアジサイ

 この時期、低山では花の端境期になります。そんな中、涼しげな姿で目を楽しませてくれたクサアジサイ。いわゆるアジサイやその仲間は木本(樹木)ですが、クサアジサイはその名のとおり草本です。ぱっと見花に見えるのは虫寄せ用の装飾花。花弁のように見えるものは萼片です。右の写真の小さな花が本当の花(両性花)。したがって結実するのはこの花です。

 ハエドクソウ

 「蝿毒草」というなんだか嫌な名前の花。現に殺虫剤成分をもつ有毒植物だそうです。人間が勝手に付けた名前なんで本人は迷惑しているのかもしれませんがね。花は小さくて可憐なのに。背丈は50pほど。地面からスッと花茎を伸ばした姿も涼しげです。

 ハナイカダ

 ハナイカダの実です。葉っぱの上にぽつんと乗っているように見えますが、ここで花を咲かせ実を付けているのです。普通、植物は葉腋(葉の付け根の上の部分。芽が出る場所。)から花茎を伸ばしてその先端に花を付けますが、ハナイカダの場合は花茎が立ち上がらずに葉の主脈に沿って合着している状態になっています。なので、葉の真ん中に花が咲いているように見えるのです。

 登山道はほぼ木陰。涼しそうに見えますが、いかんせん上り坂なので汗が噴き出て止まりません。

 御岳山駅

 11時30分、登山口から1時間かけて御岳山駅にやって来ました。ここで妻と合流です。妻はわずか7分でここに上がってきたそうです。ちなみに看板には「御嶽山驛」とありますが、正式には御岳山駅。今日下車したJR青梅線の駅は御嶽駅です(ややこしい。)。

 御岳山山頂部

 御岳山駅で一休みしてから御岳山方面に向かって歩き始めます。遠くに見えるのは宿坊の集落。その上の山頂部に御岳山神社があります。今日は山頂の手前で向こう側の谷に下りて行きます。

 ビジターセンター

 御岳山に来ると必ず寄るのがここのビジターセンター。休憩にももってこいです。今日は御岳山に棲むムササビのことについていろいと教えてもらいました。この時期、夜には観察することができるそうです。

 イワタバコ

 若干しおれ気味のイワタバコ。本来渓流の岩場に生える植物ですが、なんと宿坊の石垣で咲いていました。ひょっとして移植したものでしょうか。苔むした石垣で、もうずっと前からここで花を咲かせているようではありました。

 ユキノシタ

 こちらも同じ石垣で咲いていたユキノシタ。こちらはときどき民家の石垣で見かけます。それにしてもフォトジェニックな花ですね。

 

 昼時になりました。宿坊の集落を過ぎてさらに登ると門前の商店街があり、そこの千本屋というお店で昼ご飯を食べることに。ここは涼味を求めてざるそばを注文しました。店の看板娘的なおばあちゃんがお茶を運んできてくれて、そのまま隣りに座り込み、「うちはこの辺りでは一番後に店を始めたんですよ。でもたくさんお客さんが来てくれてねえ。有難いことですよねえ。」と世間話。 現在は3代目が(いや、2代目だったか?)あとを継いでいること、ずっと山上で生活していて何年か前に都心の病院に行ったのが思い出に残っていること、ここの子どもたちは昔からケーブルカーで麓の学校に通学していること、店の奥が窓ではなく壁になっていて眺望を楽しんでもらえないのが残念であること(隣の店は眺望がウリ。)、など、いろんな聞かせてもらいながらまったりとした時間を過ごしました。

 商店街を抜けるとすぐに石段が現れます。御岳山神社まではあと少しです。手水舎には身を清める山ガール4人組が。「こんなところで出会いたいよねー。」、「うん、同じ趣味の人だといいもんねー。」、「(でも)出会わないんだよねー。」 そんな会話が聞こえてきました。聞く気はなかったのですが、とりあえずファイト!

 レンゲショウマ

 これはレンゲショウマの蕾です。御岳山はレンゲショウマの自生地として有名で、開花期の8月にはびっくりするほどの登山客が訪れます。もっとも自生地以外にもたくさん植栽されていて、この参道のものもおそらくそうだと思います。

 大岳山方面へ

 石段の途中に左手に逸れる道があります。これは御岳山の奥2.5qに位置する大岳山に向かう登山道。今日の目的地のロックガーデンも途中までこの道を行きます。なのでyamaneko達はここを左折です。 

 タマアジサイ

 登山道では野生の花が出迎えてくれました。なんだか涼しそうな薄紫の花。装飾花がないのでコアジサイかとも思いましたが、鋸歯の大きいのが特徴のコアジサイの葉とは明らかに別物。よく見てみるとこれはタマアジサイでした。何らかの理由で装飾花が先に落ちてしまったようです。

 オカトラノオ

 虎の尻尾のような花穂ということで「丘虎の尾」。「丘」は山地ということでしょうか。別に湿地に生えるヌマトラノオ(沼虎の尾)というのもあります。

 大岳山に向かう登山道から道を分けて、川筋に向かって谷の斜面を下っていきます。しばらく行くと下の方から水音が聞こえてきました。これだけでも体感温度が下がっていくようです。

 天狗岩

 斜面の途中に大きな岩が横たわっていました。岩の上を登っている人が分かるでしょうか。それと対比すると岩の大きさが分かると思います。鎖や岩の表面に伸びている木の根を手がかりに登っていくと、てっぺんには祠があります。岩登り待ちの渋滞ができていたのでここはパスです(高いところが嫌いという説も。)。

 

 天狗岩からさらに下ることしばし。ようやく川筋まで下りてきました。時刻は午後1時です。うん、やっぱりひんやりとしています。ここから上流にかけてのしばらくの区間がロックガーデンです。

 キツリフネ

 やっぱり水辺は花が多くなります。これはキツリフネ。漢字では「黄釣舟」と書きます。自然が作ったモビールで、風に揺れて涼しそうです。

 クワガタソウ

 これはオオイヌノフグリなどと同じ仲間のクワガタソウ。花の大きさはこちらの方が二回りほど大きいです。

 川筋を流れる涼しい風を感じながらロックガーデンを遡っていきます。

 しばらく行くと大勢の人の声が。どうやら休憩所のようです。

 休憩所

 午後1時20分、休憩所に到着。yamanekoたちも腰を下ろしておやつを食べることに。

 休憩後、再び散策開始。心が解放される空間ですな。

 綾広の滝

 1時50分、滝が現れました。これは綾広の滝です。涼味満点です。この滝は御岳山神社の滝行に使われるものだそうです。

 午後2時、再び休憩所が。ロックガーデンの散策道はここで大岳山への登山道に復帰します。直進すると大岳山に至りますが、yamaneko達はここを折り返し点として御岳山神社の方に戻って行きます。

 サワシバ

 川筋からずいぶん高い位置まで上がってきましたが、湿気を好むサワシバがありました。近くに水があるだけで空気が潤うんでしょうね。写真はサワシバの果穂。ビールの原料となるホップに似ていいますが、無縁です。

 キーンと飛行機のまねをしているのではなく、リラックスして手をブラブラ振っているところ。

 奥の院参道

 やがて登山道脇に鳥居が現れました。これは御岳山神社の奥の院に向かう参道の入口を示すものです。鳥居の根本あたりが見晴らしが良さそうなので行ってみると…

 おお、こんなに展望が開けているとは。北東方向になります。左手のどっしりした山は鷹ノ巣山か。

 2時30分、御岳山神社の参道階段に戻ってきました。

 河童のベンチ

 往きには気づきませんでしたが、参道脇にこんな可愛いベンチが。でも河童君に気の毒で座れませんね。

 御岳山駅へ

 2時50分、御岳山駅に到着。帰りは妻と一緒にケーブルカーで下ります。

 ヤマユリ

 下山後はバスと電車で来た道を戻り、都心に帰ってきました。最寄りの駅を下りたらむっとした空気。やっぱり奥多摩とは違う嫌な暑さが街全体を覆っているようです。そのうち生暖かい風が強く吹いてきたかと思うと恐ろしいほどのゲリラ豪雨に。慌てて近くのスーパーに駆け込みました。ついでに夕食の買い物です。それにしても、バケツの底どころか50mプールの底が抜けたくらいの土砂降りで、30分以上も足止めをくらいました。しかも雨が上がってもたいして涼しくならないところが残念な限りです。