みかも山公園 〜里山で静かな散歩〜


 

【栃木県 藤岡町・岩舟町 平成18年5月28日(日)】
 
 あっという間にまた日曜日がやってきました。毎日が慌ただしく過ぎ去っていくなか、週末に野山に行くことで心身ともにリフレッシュできている気がします。もう何年もそんなパターンで過ごしているので、週末の野山歩きは完全に生活の一部になっているのです。広島で生活しているときは家から見える範囲に山があったのですが、東京に引っ越してきてからはちょっとした里山散策も高速道路を飛ばして出かけなければならない不便さはあります。でも、ドライブも好きなのでたいして苦にはなりません。
 ということで今週も出かけることにしました。出発は午前10時とかなり遅めです。
 
                       
 
 今日の目的地、栃木県の佐野市、藤岡町、岩舟町にまたがる三毳山(みかもやま)はカタクリの大群落で有名な山です。このサイトを通じて知り合った方から、この山の存在を教えてもらいました。標高は200mあまり。田園地帯に横たわる、これぞ「里山」といった趣の山です。
 首都高5号池袋線の高松ランプから中央環状線、川口線と走ってそのまま東北道へ。道は渋滞もなくスイスイと流れています。埼玉県を横切り群馬県の端をかすめるようにしてさらに北上。栃木県に入って最初のインターの佐野藤岡ICで高速を下ります。ここまでで1時間半です。

 三毳山

 高速を下りてすぐのところにある道の駅に立ち寄ってみると、大勢の人で賑わっている農産物直売所があり、そこにはみずみずしい野菜がたくさん並べられていました。キャベツ、アスパラ、水菜、トマト…。安いこともあり大量に買い込んでしまいました。 …ん? このビワ、長崎県産と書かれているぞ…。

 とちぎ花センター

 まずは山の東側のふもとにある「とちぎ花センター」に立ち寄りました。なんとも分かりやすいネーミングの施設です。
 腹も減ってきたのでとりあえずここの広場で昼食を。さっきの道の駅で買ったおむすび弁当です。

 ユリノキ

 園内のユリノキには今ちょうど花がたくさん咲いていました。その形がチューリップに似ていることからチューリップツリーとも呼ばれています。また、葉の形が衣類の半纏に似ているのでハンテンボクとも。

 展示温室  ブルースター(左)、アスクレピアス(右)

 展示温室に入ってみました。温室の花々は野生の植物に比べて派手だとかけばけばしいだとか言われがちですが、そんなことはありません。野生の植物も負けてないくらい鮮やかです。ただ普通はこれほどの量で群落を作ることが少ないので質素な印象を受けるのではないでしょうか。
 ブルースターもアスクレピアスもガガイモ科の植物なのだそうです。

 湿性自然植物園へ

 パンフレットによると花センターとみかも公園とは別の施設のようです。今度は隣接するみかも公園の湿性自然植物園に行ってみることにしました。

 アサザ

 この季節、アサザが満開でした。アサザの地下茎は水底の泥の中を長く這い、そこから長い枝を水面まで伸ばします。それにしてもこの花がリンドウの仲間とはちょっと想像ができませんね。ちなみにアサザは一日花です。

 シロバナカモメヅル

 少し林の中に入ってきました。はじめてみる植物に出会ったのでさっそく図鑑を取り出して調べてみるのですが、なかなか分かりません。花の形、葉の形や付き方などから、これもガガイモ科のカモメヅルの仲間ではと見当は付けたのですが、今ひとつ判然としませんでした。(家に帰ってから調べてみると、シロバナカモメヅルのようでした。)
 この林の中でぽつんと咲いていたこの花。今日、この花に出会えただけでも来た甲斐があったというものです。

 ヒトクチタケ

 アカマツの幹に鈴カステラが。いや、そうではなく、ヒトクチタケです。見た目は柔らかそうですが、触ってみるとカチカチ。それもそのはず、サルノコシカケの仲間です。

 神秘の池

 湿性自然植物園の奥には翡翠色の池がありました。静かです。水面にかぶさる梢もそよとも揺らぎません。池の水が辺りの音を溶かし込んでしまったかのような、静寂の空間でした。

 コアジサイ

 比較的地味なコアジサイですが、花が少なくなるこの時期には貴重な存在です。この花を見るときにはルーペは欠かせません。花序全体から受ける印象とはまた違った花の姿を見ることができます。

 木道

 湿性自然植物園を後にして、山肌に設けられた木道を通って野草園の方に向かいます。案内板によるとこの辺りにはヤマシャクヤクやヒメサユリなどが生えるのだとか。景観的には今ひとつですが、踏みつけによるダメージを考えるとやむを得ない措置だと思います。オーバーユースになりがちな大都市圏近郊では有効な自然保護の一形態です。

 ヒメサユリ

 もう時期が過ぎたと思っていたヒメサユリが1輪だけ残っていました。花冠の色は本来の淡紅色からかなり褪せて白っぽくなっています。この花は東北南部を中心に分布しているそうで、この三毳山も自生地だとすると分布域の縁にあたるのかもしれません。先日、広島大学構内の通称「ササユリ谷」の整備を行っているTさんから、ササユリが咲き始めたとのメールをもらいました。毎年、年末に下草を刈って春先に十分に日光が届くようにしているのです。ササユリが満開になるこの時期にその谷に下りると甘い香りに包まれ、何ともいえない気分になります。

 アメリカフウロ

 今にも降り出しそうな天気に、これ以上山の中に入るのはやめにしました。もともと遅く起きた休日の午後なので、今日はみかも山公園のごくごく一部を散策しただけで終了です。ここでの本格的な自然観察は、また別の季節にあらためて行いましょう。やっぱり春先のカタクリの時期でしょうか。(ものすごい人出でしょうね。)
 駐車場の脇でアメリカフウロの小さな花が揺れていました。北アメリカ原産で、昭和初期に渡来しそのまま帰化した種だそうです。この花だって、よく見るとヒメサユリにも負けないくらいの美しさをもっています。

 ツバメの子育て

 帰り際、駐車場のトイレの入り口でツバメが子育てをしているのを見かけました。みると親鳥が定期的に餌を運んできています。それまでおとなしくしていた雛が親鳥が戻ってくると急に口を開いてぴーぴー叫び出すところが、なんとも微笑ましいです。しばらく観察していて気づいたことがあります。この雛、ウンチをするときはお尻だけ巣の外に突き出して、プリッと巣の外に糞をするのです。巣の中を清潔に保つための行動でしょう。おかげで巣の下は糞だらけですが。(公園の方が段ボールを敷いて、トイレの入り口が汚れないように配慮されていました。)
 この辺りでは麦の収穫が終わり、二毛作として、あちこちで田植えが始まっています。ツバメにとっては巣の材料にも雛の餌にも事欠かないことでしょう。東南アジアからはるばるやってきたツバメたち。ここ日本でゆっくりと子育てをして、また秋には親子そろって越冬地へと向かってほしいものです。