松笠山 〜近所の裏山で秋遊び〜


 

【広島市東区 平成15年11月16日(日)】
 
 11月の観察会は、東区の住人としては「近所の裏山」的な松笠山です。
 集合場所はJR戸坂駅。政令指定都市広島の市内東区にあり、広島駅からわずか二駅目に位置するこの戸坂駅が、なんと無人駅とは。住宅地の軒先をかすめて走るのは2両連結のディーゼル車。そうくれば線路はもちろん単線です。

 JR戸坂駅

 駅前ロータリー(?)を埋めつくさんばかりに集まった今日の参加者は、44人。加藤代表のお話の後、今日のリーダー、舛田さんからこれからの予定について連絡がありました。なにやら山頂で葉っぱを使ったゲームをするとのこと。楽しみです。
 この駅のすぐ裏が松笠山の登山口になっていて、その距離、ホームからわずか10mといったところでしょうか。(上の写真に鳥居の先端が写っていますが、そこが登山口。) みんなで一列になって登っていきます。

 龍泉寺

 登り始めて10分で龍泉寺の境内に到着。昨夜まで降っていた雨も上がり、朝日が眩しいくらいです。
 ここのモミジの色づきは今ひとつのようです。この秋はいつまでも暖かい日が続いたので、きれいに紅葉する前に茶色く枯れてしまったのでしょう。

 ツブラジイ

 ツブラジイのどんぐりが落ちていました。広島あたりでは「コジイ」といった方がとおりがいいかもしれません。その名のとおり小さな椎の実で、殻斗が反り返るのが特徴。煎って食べると美味しいそうです。yamanekoの育った島根県大田市方面ではツブラジイは見かけたことはなく、椎といえばスダジイのことでした。子供の頃、よく煎って食べていた記憶があります。広島には逆にスダジイはないのだそうです。
 
 龍泉寺を通りすぎ山道を少し行くと、琴平の滝があります。

 琴平の滝

 この滝のまわりを含め、登山道にはほとんどゴミが落ちていません。それというのも、この松笠山を愛する人達が定期的に清掃しておられるとのこと。「松笠山の会」といい、この山の中腹にある松笠観音寺の参道整備をはじめとして、さまざまな活動をしているNPO法人です。今日も松笠観音寺の境内でいろいろな話を聞かせてもらうことになっています。

 ヤツデ

 花が少ないこの時期ですが、湿った林の中にヤツデの花が咲いていました。
 ヤツデは家の裏手など、少しじめっとしたところに生えている印象が強く、これまでやや敬遠してきたように思います。
 ところが今日、その花の美しさを知って、認識を新たにせざるを得ませんでした。

 ヤツデの花

 花柄の先端から放射状伸びている一つ一つが一個の花です。
 写真中央の花はまだつぼみの状態ですが、周囲の花は花盤の周囲に5枚の花弁を付け、長い雄しべを伸ばしていて、いわばオスの時期です。数日すると花弁や雄しべは散ってしまい、オスでもメスでもない中性の時期を迎えます。そしてまた数日すると今度は花盤の中央に短い雌しべを出してメスの時期になるのです。このような経過をたどる花のことを「雄しべ先熟花」というのだそうですが、自分の花粉で受粉してしまう「自家受粉」を防ぐシステムなのだそうです。自分以外の多様な遺伝子を受け継ぐことが強い子孫を残す上で重要なことのようです。
 そして、もうひとつおもしろいのは、この花が虫媒花だということ。虫の少ないこの季節に咲く花なのに、虫によって花粉を運んでもらうシステムを採っています。その秘密は花盤から分泌する蜜だそうで、糖度の高いこの蜜でハナアブなのど虫を呼ぶのだそうです。しかもその蜜は中性の時期には分泌せず、虫に来てもらいたいオスの時期とメスの時期にのみ分泌するのだそうです。花にとって蜜を作るのは膨大なエネルギーを必要とすることらしく、そんな貴重な蜜を無意味に分泌することはないのです。うーん、かしこい。

 秋深し

 登山道沿いに見事に紅葉しているイロハモミジがありました。日本の秋はやっぱりこれですね。

 松笠観音寺

 松笠観音寺に到着しました。
 ここで小休止して、「松笠の会」の道菅さんに松笠山の歴史について話をしてもらいました。
 話はこのお寺がここに建立された江戸中期にまでさかのぼります。当時この山は地元の人々が薪炭材を求めて木を刈りつくして荒れ果てていたそうです。ちょっとした雨でも土砂崩れを起こす危険な山になっていました。また、ふもとの集落同士の境界争いも激しく、見かねた当時の領主が「お止め山」として、長く入山を禁止したそうです。その結果、現在、このお寺を中心として巨木がそこここに残り、特にこの境内にある巨木群は広島市の天然記念物に指定され保護されています。
 中でもひときわ目を惹いていた大杉があったそうですが、平成3年の台風19号(猛烈な風台風でした。)で倒れてしまい、今では倒れたそのままの切り株が残っています。

 大杉の切り株

 その切り株からは、昨夜の雨が朝日を浴びて湯気となって立ちのぼっていました。


 巨大ヤマモモ
 巨大アベマキ

 さて、再び登山道に向かい山頂を目指します。
 谷間の道から尾根筋の道に出ると、地面も少し乾燥してきます。さまざまな落ち葉が目を楽しませてくれますが、加えて鼻まで楽しませてくれたのがタカノツメの落ち葉でした。この葉が落ちている場所ではまるで綿アメのような甘いにおいがするのです。

 コシアブラ

 時計は12時を回り、腹も昼食を求めています。あと少しで山頂。そこまでの我慢です。

 山頂

 山頂は学校の教室一個分ほどの広さで、片隅にマイクロウェーブの反射板が設置されています。
 みんな思い思いに弁当を広げて遅めの昼食をとりました。やっぱり外で食べる弁当はウマイ!

 舛田さん

 昼食が終わってひと休みしたら、リーダーの舛田さんが楽しいゲームを始めました。
 各自数枚の葉っぱを用意します。これは登りながら気に入った葉っぱを拾っておいたものです。そしてリーダーが出すお題にしたがって手持ちの中から一枚の葉っぱを選んで、となりの人とじゃんけんをするのです。かけ声は「葉っぱっぱの、ぱ!」
 例えば、リーダーが「葉柄の長いの」とお題をだすと、かけ声とともにじゃんけんよろしく葉っぱを出して勝負するのです。もちろん葉柄がより長い方が勝ちです。「鋸歯の数が多いの」とか、「側脈の多いの」とか、お題はさまざま。するとあちこちで「イチョウの葉の筋は側脈かな?」とか「モミジの葉の切れ込みは、こりゃ鋸歯か?」とかいろんな会話がはずんでいきます。併せて、葉っぱをしっかりと観察することにもなるのです。
 山頂は楽しい雰囲気につつまれ、葉っぱじゃんけんのおかげで初対面の人と話をすることができた喜びが、笑顔となってあちこちに花開いていました。

 yamanekoの持ち札

 舛田さんはいつもこんな楽しい企画を考えてきます。
 来月、自分がリーダーを担当することを考えると、とてもこんなふうには…、と気が重くなるのです。
 でも、ま、なんとかなるでしょ。「なるようにならなかったことはかつて一度もない。」 いままでこれをモットーに生きてきたし。(あぁ、不安)

 山頂から見た二ヶ城山
 (奥は白木山)