万徳院跡 〜人と植物との深い関係〜


 

【広島県千代田町 平成16年7月18日(日)】
 
 7月の定例観察会は、広島県千代田町の山間にある万徳院跡周辺で開催しました。
万徳院とは、今から約400年ほど前、毛利元就の孫に当たる吉川元長が建立した寺院で、現在では礎石などの遺構が往時を偲ばせています。
 
 今回のテーマは「人が利用する植物をみてみよう」
 昔から人間の営みには植物が深く関わってきました。人々は生活の全般にわたって植物を利用しながら生きてきました。日々の食料や道具の素材、病や怪我には薬としたり、子供同士で遊んだり。今回の参加者もみんななにがしかの関わりを持っているはずです。今日はそんな身近な植物に注目してみることにしました。
 参加者は50人。集合場所は吉川家館跡の駐車場で、今は食事や休憩ができる「お休み処」が併設されています。ここから今日の目的地の万徳院まではおよそ1qです。

 今回のリーダーは舛田さん。彼女は毎回楽しいミニゲームで参加者を和ませてくれます。今日もしょっぱなにジャンケンを使ったゲームをしてくれました。
 今日は4〜5人のグループを作って、グループごとに活動することになっています。そのグループ分けにミニゲームを使うようです。
 まず、参加者ひとりひとりに10p四方くらいの紙が配られました。これを3×3の9マスに区切ります。スタートの合図とともに辺りの人と誰彼かまわずジャンケンをしていき、勝ったら相手の名前をマスの中に書いてもらいます。そして9つのマスを早く埋めた人から順に集団の外に出ることができるのです。みんな早くマスを埋めようとして、スタートの合図とともに広場は蜂の巣をつついたようになっていました。
 やがてみんながマスを埋めおわってゲームが終わりました。早く埋めた人たちは勝ち誇ったような得意げな顔をしています。
 ところがこれで終わりではありません。リーダーから「今度は名前の主を捜してマスの中のその人の名前に丸をつけてもらってください。」と指示がでると、みんなからエーッと声があがりました。ジャンケンをしたときは誰が誰だか分からない状態でしたので、記憶を頼りに探し出さなければなりません。名前を連呼しながら探している人、手当たり次第声をかけている人。今度は蜂の巣を両手で揺さぶったような騒ぎです。
 そしてすべてのマスを丸で囲んだ人から、集団の外に出て一列に並びます。その順番でグループを作っていきました。
 このゲームを通じて、これまで顔は知っていても名前が分からなかった人たちの顔と名前が一致して、少し親しくなることができました。なかなか面白いアイスブレイクです。

 ツユクサ

 ツユクサは、確か花弁の絞り汁を友禅染の下絵を描くときに絵の具として使うと聞いたことがあります。
 普段は見逃してしまいそうな植物が今日は注目の的です。ヨモギは止血剤やモグサに使うし、草餅の材料にもなります。
 ギシギシは子供の頃のままごと遊びのご飯粒でした。ササでは笹舟を作ったし、シノダケでは紙鉄砲を作って遊びました。クズからは葛粉、最近ではツルを乾燥させてリースの材料に。サルトリイバラの葉では柏餅を包みました。
 と、まあ、挙げればきりがないのですが、いかんせん昭和30年代生まれのyamanekoとしてはこのくらいの体験しかありません。一方、参加者のほとんどを占める大先輩の方々は昔話で盛り上がっていました。特に食材としての植物利用に関しては圧倒的な知識を誇っていて、まさに「へ〜」の連続です。

 ネムノキ

 配られた資料によると、ネムノキの樹皮からは関節炎や打ち身の薬ができるそうです。
 枝先に付くフワッとしたピンクの花が印象的なネムノキですが、あれは写真のような花が10〜20個集まっている状態。ピンクの箒のような部分は長く突き出た雄しべで、花弁は付け根の籾殻のように見える部分です。

 ヤブガラシ

 空き地にはびこるヤブガラシ。オレンジ色の部分(花盤)から出す蜜を求めて蝶がよくやって来ています。

 万徳院は小高い山の中腹にあって、スタート地点の駐車場からは標高差50mほどです。谷間の坂道には風はないのですが、幸い薄曇りといった天気なので助かりました。

 ヒヨドリバナ

 ヒヨドリバナが咲いていました。もう秋なのか…?

 ガイダンスホール

 12時過ぎ、亀もしびれを切らすほどの歩みで、ようやくガイダンスホールに到着しました。ここで昼食です。
 このガイダンスホールには解説員の方が常駐していて、当時の歴史的背景から戦国武将の人物像までおもしろおかしく話して聞かせてもらえます。もちろん無料です。ほかにもホールには解説ビデオやパネル写真、ジオラマなども展示されていて、退屈しない空間となっています。

 万徳院(ジオラマ)

 万徳院跡はこのホールの奥、参道を200mほど登ったところにあります。
 2年前、庭園跡部分が国の名勝に指定されたとのこと。ガイダンスホールなどがほぼ新築であるのも、名勝指定のおかげでしょうか。国の名勝は県内では他に帝釈峡、縮景園などがあります。ちなみに三段峡と厳島はワンランク上の特別名勝だそうです。
 肝心の館跡はちょっと寂しい感じでした。礎石や池の跡が何となく分かる程度で、見方によっては何か荒れるにまかせたって感じ。シロツメクサなんかが平気ではびこっているし…。それともひょっとしてこれが「侘び寂び」なのか?

 今日のまとめ

 万徳院跡をめいめいで散策した後、その庭園の縁で今回のまとめが行われました。
 衣食住全般にわたる人間と植物との関わり。思ったより深い関わりで、興味深い「文化」であることを知りました。ただ、この文化がこれからも日々の暮らしの中で伝承していくだろうかと考えると、先行き不安にならざるを得ません。現にyamanekoの世代では限られた関わりしか経験していませんし、いわんやその子供世代においてをや、でしょう。
 利便最優先のこの時代、このおもしろくて実用的な文化が廃れることのないよう願うのみです。


 今日、ハッチョウトンボを見かけました。

 ♀  ♂

 ハッチョウトンボは体長約2p。日本最小というだけあって、びっくりするほど小さなトンボです。
 オスの体は鮮やかな赤、メスは黄の縞々で、さながらカープとタイガースといったところです。
 このトンボの縄張りは1〜2mと狭く、遠くまで飛んでいかないので、生息範囲はごくごく限られています。したがってその生息地の環境が変化すると、簡単に絶滅してしまうことになるのです。
 
 ちなみみ今の名古屋市千種区あたりにあった「矢田の八丁場」というところで見られたので、その名が付いたといわれています。