経小屋山 〜里山の秋の多彩な面々〜


 

【広島県廿日市市 平成17年11月5日(土)】
 
 今日は「環境省瀬戸内海国立公園宮島地区パークボランティア」の定例幹事会が行われるので宮島へ。ここは合併により2日前に「廿日市市」になったばかりです。それまではこの島だけの区域をもって「宮島町」でした。
 本土側の宮島口からフェリーで10分。船が到着する宮島桟橋の2階にある自然保護官詰所がPV(パークボランティア)の活動拠点です。
 この時期、宮島は紅葉の季節。一年を通じて観光客の多いところですが、中でも今が最も賑わう季節です。
 幹事会は10時からなので、それまでの間その紅葉を楽しんでこようと思います。

 紅葉谷公園

 桟橋から徒歩15分。訪れたのはその名も「紅葉谷公園」。言わずと知れた宮島随一の紅葉スポットです。
 午前9時過ぎ、まだ人影はまばらです。朝靄が白く冷ややかにたなびいていました。

 ここ紅葉谷は昭和20年の枕崎台風による土石流で壊滅的なダメージを受けましたが、その復旧に際し当時としては画期的なコンセプトに基づいて造営されたのだそうです。それは、
 @巨石、岩石は傷つけず、野面(のづら)のまま使う。
 A樹木は伐採しない。
 Bコンクリートは露出させない。
 C石材は現地のもののみを使う。
 D庭師だけで作る(ノミや金槌を使わない。)。
 宮島は花崗岩の島。その本来の表情を損なわせないための粋なやり方です。
 この秋の台風14号でも紅葉谷の隣の谷筋に大規模な土石流が発生し、白糸の滝や大聖院、そして下流に広がる滝町地区に甚大な被害をもたらしました。まずは住民の方の生活を被災前の姿に戻すことが先決ですが、すでにその後の谷筋の災害復旧についても話が出始めているようです。災害で傷ついた自然を災害復旧という名のもとに再び傷つけることのないよう心を配ってもらいたいものです。

 経小屋山
 H15.1.25撮影

 幹事会は昼過ぎに終了。残った半日は対岸(すなわち本土側)に座す経小屋山(きょうごやさん)に行ってみることにしました。同行はPVの観察部会長で、広島自然観察会でもお世話になっているMさんです。
 
 フェリーで宮島口に戻ってきてみると、宮島に渡ろうとする観光客であふれかえっていました。駐車場に入ろうとする車も列をなしています。そんな様子を横目で見ながらドリーム号に乗り込み、旧大野町にある経小屋山へ。ここ大野町も宮島町と機を同じくして廿日市市と合併しています。
 経小屋山は宮島口から直線距離で約5q。でもクネクネの狭い山道を通っていきますので思ったより時間がかかります。とはいえ山頂まで車道が通じているのでこの時間に出発してもOKなのです。

 眼下に宮島

 午後2時、山頂手前の中央展望台に到着。北東から南西にかけて南東方向180度の視界。ここの方が山頂よりはるかに眺望が良いのです。背後は木立に遮られていますが、北西方向に少し展望が望めます。

 中央展望台からの視界

 経小屋山の名の由来については、解説板に次のような記述があります。
 天智天皇(西暦600年代中期)の頃、遣唐使船などは山陽本土沿いに航行したので、北九州のみならず瀬戸内海の要所にも烽(とぶひ)台を設け、防人を配置し外敵に備えた。その頃、一切経が国内に伝播し、各地に経塚、経小屋、経蔵、経祠、経堂が建てられた。大野の経小屋山でも、山頂で看視を続ける防人達が一切経を守り本尊とした。このため、経小屋山の名が生まれたのではないかと言われている。

 北西の展望

 振り返ると広島県と山口県との境に連なる山々が見えます。写真左奥にはロッククライミングで有名な三倉岳。花崗岩の絶壁が西日に輝いています。

 山頂直下のイロハモミジ

 山頂は完全に公園化されていますが、その裏手に回ると自然林が広がっています。そこのイロハモミジの色づきはピークまであとわずかといった感じでした。
 
 先週行った吾妻山の紅葉は、ブナ、ミズナラ、イタヤカエデ、ウリハダカエデといった、いわば紅葉界(?)の大物スター達。一方、里山には個性豊かな大部屋俳優の面々が顔をそろえています。そのラインナップの一部を紹介すると…。

 ヤマハゼ

 ヤマハゼ(ウルシ科)。西日本に多い樹木。瀬戸の小島の秋はこの木が紅葉の主役です。葉は毛が密生していてふわふわですが、下手に触るとかぶれます。

 クロモジ

 クロモジ(クスノキ科)。ご存じ、和菓子のつまようじになる木です。クスノキ科の木の多くは樹皮には芳香があります。シナモンもこの仲間です。

 ヌルデ

 ヌルデ(ウルシ科)。葉の軸に「翼」があるのが特徴。触ってもめったにかぶれません。翼に付く虫コブにはタンニンが多く含まれ、昔はお歯黒に使われたそうです。

 サンカクヅル

 サンカクヅル(ブドウ科)。ブドウの仲間なので熟すと甘酸っぱい黒い実を付けます。あまりにも深い赤なので遠くから見るとかぶれの強いツタウルシと見間違ってしまいます。

 コシアブラ

 コシアブラ(ウコギ科)。透明感のある薄黄色に色づきます。この木の樹脂から濾しとったものを塗料にしたことから名が付いたといいます。若葉は山菜としても美味。

 ムクロジ

 ムクロジ(ムクロジ科)。ウルシの仲間が奇数羽状複葉なのに対してこちらは偶数羽状複葉。飴色の果皮にはサポニンが含まれていて、昔は洗濯や洗髪に使われたそうです。

 ヒメドコロ

 ヒメドコロ(ヤマノイモ科)。ヤマノイモ(自然薯)の葉に似ていますが、ヤマノイモの葉は対生。このヒメドコロは互生です。自然薯のように立派なイモは作りませんが、根茎は食べられるそうです。

 シロモジ

 シロモジ(クスノキ科)。県内でも限られた地域にのみ分布しています。3つに裂けたゴジラの足跡のような葉が特徴。輝くような黄葉はyamanekoの好きな樹木のうちの一つです。

 ウリカエデ

 ウリカエデ(カエデ科)。樹皮がマクワウリの果実の皮ににているのでこの名が付きました。ウリハダカエデに比べて木も葉も果実も小形。ただ、カラーバリエーションはこちらの方が豊かです。

 ヤマウルシ

 ヤマウルシ(ウルシ科)。人によってはこの木の下を通っただけでかぶれるといいます。連なる小葉は幹に近い方がより小形になっています。里山の紅葉の代表選手。色も真紅から鮮黄まで様々です。
 
 名バイプレイヤーはこれだけではなく、他にもクヌギ、コナラ、ツタ、サクラ、ハリギリ、ダンコウバイ、ナツハゼ、ガマズミ、ヤマブドウ、…。人材豊富ですね。
 紅葉の見頃もあと1、2週間といったところでしょうか。これからは紅葉の名所まで遠出をしなくても近所の裏山で楽しめます。また、通勤途中の街路樹や公園樹でも。春に葉を広げて以来ずっと働き続けてきた葉っぱたちの最後の晴れ姿をしっかりと見届けてあげたいと思います。