口田河原 〜中学生と自然体験’03〜


 

【広島市安佐北区 平成15年10月1日(水)】
 
 今年も口田中学の2年生たちと一緒に自然体験学習をする日がやってきました。
 初めてだった一昨年は何がなんだか分からないうちに終わってしまって、2回目の去年は少しは落ち着いてできたもののいくつかの課題を残しました。
 そして3回目の今年、下見の時から頭の中でシミュレーションをして、手帳には進行メモを。そして心の中では「でも筋書きどおりには行かないぞ。」と自分に言い聞かせて当日に臨みました。
 
 10月1日といえば会社勤めの者にとっては下半期のスタートの日。小規模とはいえ人事異動などもありなかなか休みにくいもの。でも中学生たちと一緒に遊べるなんて(訂正:れっきとした授業の一環です。)めったにないチャンスです。普段は主に中高年の方々との観察会が多いので、自然観察指導員としてのスキルアップのためには欠かせない機会なのです。あとはどうやって休暇を取るかですが、まあ、自分がいなければ仕事がまわらないなんて思っているのは自分だけってことがほとんどですから、手練手管と力業と拝み倒しを総動員してとにかく休みを取りました。(嬉)
 
 午前8時過ぎ、集合場所の河川敷に行ってみると既に何人かのお仲間が。口田中学の先生方も何人か来ていました。今日から10月、朝の空気が気持ちいい。やっぱり休んで来てヨカッタ。やがて生徒たちも三々五々集まってきました。

 仲間の指導員たち

 2年生約270人が14の班に分かれます。自分が担当したのは第10班の17人。正直なところ指導員一人で受け持つのにはちょっと多い人数です。

 開会

 それぞれの班に分かれて、まずは自己紹介。そして生徒一人ひとりに名前を名乗ってもらいました。
 名前と顔を一致させようと頑張ったのですが、この時点では特徴のある数人しか覚えられませんでした。
 次いで質問「みんなの中でこの河原で遊んだことがある人、手を挙げて!」 手が挙がったのはなんと3人ほど。予想を上回る少なさです。こんなに広い場所がありながらこれまでみんなどこで遊んできたのかな。というよりも広場での遊び方を知らないからでしょうか。
 
 場所を少し移動して「つまようじ探し」です。これは数種類の色に塗ったつまようじを草原の上に撒き、その色によって見つけやすいものと見つけにくいものとがあることを体感してもらおうというゲームです。
 まず草が刈ってある場所を選んで、キャンプ用のオレンジ色のペグを4本、正方形になるように地面に突き刺します。大きさはだいたい5m四方。オレンジ色のペグを用意したのは緑色の地面での視認性を考慮してのことです。
 子どもたちにいったん後ろを向いてもらって、その間に用意してきたつまようじを正方形の中にばらまきます。つまようじは、茶、緑、黄緑、赤、青、黄、それぞれ15本ずつの合計90本。尖った部分は切り落としておきます。
 「さあ、みんなこっちを向いていいよ。ここにいろんな色のつまようじが撒かれているので、できるだけ多く探してみて。制限時間は…」するともう拾い始める子が何人か。話を最後まで聞けっつうの。やれやれです。
 拾ったつまようじを撒き直して、制限時間を2分間としてスタート。みんな一生懸命探しています。「あった!」、「こっちにも!」 草の丈が約5pと短めだったせいか、どんどん見つけていきます。こりゃあっという間に拾いつくされてしまう…、と思ったので、1分が経過したときに「終了〜!」 みんなをいったん正方形の外側に出してその場に座らせます。それにしても地面に直接座ることを嫌がる子がいるのには少し愕きました。
 「10本以上拾った人、手を挙げて。」数人が手を挙げました。「じゃあ11本以上の人!」、「12本以上の人!」…。一番多く拾った子は15本。みんなにその成果紹介して「はい、拍手〜。」 そして、「何色のつまようじがありましたか?」と問いかけると、ぼそぼそっと「赤ぁ」とか「青ぉ」とか。なかなかみんなのテンションが上がってきません。ひょっとしてこれは自分が上滑りしてるってこと?嫌な予感が脳裏をかすめましたが、まあスタートはこんなもの、と自分を落ち着かせたのでした。(汗)
 実はばらまいたつまようじの中に1本だけ、七色に塗った「レインボーようじ」を混ぜておきました。これを見つけた子には後で河原に下りたときに特別に高機能ルーペを貸してあげる、というオプションを考えていたのですが、「こんなの見つけたよ!」と声をあげる子はいません。だれも見つけなかったのかなと思って、「ちょっと変わったのを見つけた人はいない?」と声をかけると、ようやく「○○が見つけとった。」 拾った本人は少しめんどくさそうに少し照れたようにそのようじを差し出しました。なんかテンポが合わないなぁ。
 さあ結果の集計です。子どもたち6人に前に出てきてもらって、それぞれの元につまようじを色別に集めてもらいました。そして別に2人の子に出てきてもらって、あらかじめ用意してきた集計表(ポスターの裏に書いた表)を広げて持ってもらい、結果を書き込んでいきます。

黄緑
           
 ←こんな表です

 この年頃はみんなの前にでることが恥ずかしいんでしょうね。照れからでしょうが、投げやりっぽい態度を取ってしまって、表が折り目でしわになっていようがおかまいなし。みんなによく見えないからピンと伸ばしてと言ってもなかなか応じてくれません。
 で、結果はというと、茶14本、緑13本、黄緑14本、あとは全部15本。あちゃー、みんなよく拾ったなぁ。本当はもっと差が出てほしかったんですけど。それでも「茶色や緑、黄緑が全部見つけられなかったのは何でだと思いますか?」と聞くと「色が一緒だから。」と答えが。ヨシヨシ、ようやく波に乗ってきたぞ。そこで「こういうのを何て言うんだろう?」と聞くと、横手から先生が「保護色?」 あぁ、その言葉は子どもたちの口から言ってほしかった。
 
 次は「虫追いゲーム」です。
 「この何もいないような河川敷でも「保護色」を利用していろんな生き物が棲んでいるのかもしれません。実際に確かめてみよう。」
 みんなに手をつないで大きな円を作ってもらいました。容易に想像できると思いますが、この手をつなぐと言うことだけでまたひと騒動。「ホントは嬉しいんだろ。さあさ、さっさと手をつないで!」というと「ウェー」とか「キモッ」とか言いながらもなんとか円を作ってくれました。
 円ができたところでしゃがませて、まん中に白いバット(四角い容器)を一つ置きました。「さあ、これからまん中に向かって虫を追い込むよ。両手で地面を叩きながら円を縮めていこう。」 追い込み始めると今までは見えなかったバッタやコオロギがピョンピョンと飛び出してきました。予定では同心円上に小さくなっていくはずでしたが、出てきた虫を捕まえることに夢中になって追い込むことを忘れてしまう子が数人。結果的にバットの中には小さなバッタが数匹とごく小さい羽虫のようなものがたくさん集まってきました。
 「みんな、集まった虫の色は何色?」 すかさず「茶色」、「緑」の声。おっ、だんだんテンポが良くなってきたぞ。
 「こんな狭いところにもたくさんの生き物が隠れていたね。(空を見上げて)あそこに大きな鳥がいるだろぅ。このたくさんの虫たちがまわりまわってあの鳥の命を支えているんだよ。」 う〜ん、聞いているのは3分の2くらいかな?
 
 3つ目のプログラムは「川の景色のスケッチ」です。
 今度は河川敷の縁に移動。ここから斜面を3m下ると河原です。目の前にはその河原とその向こうに流れる太田川、そして対岸の土手、はるか向こうには武田山や火山が望めます。
 まず、河川敷の縁に並んで川の方に向いて、2分間ほど目の前に広がる風景を眺めてもらいます。
 「はーい、みんなこっち向いて。さあ、今みんなには何が見えましたか。」 すると答えは「草ー」、「木ー」、「川ー」(なぜか語尾を伸ばすんです。)
 「じゃあ、今度はもう一度振り向いて目の前の景色をスケッチしてみよう。」

 川の景色のスケッチ

 約10分間、けっこう楽しそうに描いてくれていました。それでも中には途中で飽きてしまって虫を探し出す子も。(まてよ、ひょっとしてこの子は既に今日のこの行事の目的を達しているのかも?集団内での行動としては若干問題があるにしても。)
 時間が来たところでもう一度反対を向いて川を背にしてもらいました。
 「さっき発表されなかったもので自分のスケッチの中にあるものがありますか。」 すると、よく注意しなければ気がつかない電線とか、ゴミとかを、またつい見落としがちな背景の山などを挙げる声がありました。
 OK、OK。筋書きどおりです。「最初はただ何となく景色を見ていました。でも、2回目はスケッチをするために注意深く景色を観ましたね。するとはじめは見えなかったものが確かに見えてきました。そうです、見ようとするつもりで見るといろんなものが見えてきます。自然を観るときにはそんなふうにするとおもしろいと思うよ。」
 なんとかまとめに繋ぐことができました。
 
 どうもこれまで子どもたちの様子を見てきたところ、リーダー(自分)の声にきちんと反応するのは全体の半分くらいでしょうか。あとはわざとふざけたり、となりの子と話をしていたりといった感じです。なんとかこっちを向いてほしいのですが、はじまってからまだ1時間たらず。みんなを引きつけるのは難しいようです。
 
 さあこれからいよいよ河原に下りていきます。
 まずは危険についての注意喚起を行います。下見のときに気になっていた川の流れの速さ。これは確実に伝えなければなりません。
 せっかくの機会だから今日はできれば川の中に入ってほしい。でも、ここは瀬になっていて流れが速くその先はけっこう深くなっている。この流れでは膝下の水位は既に危険である。立っているときはなんとか平気でも転んだら一気に流される。そして川底の石で頭を打って、水を飲み、その状態で深みまで連れて行かれる。と、これだけのことを一つ一つ区切るようにしっかりと説明しました。顔の表情も今までのようなにこやかなものからまじめなものに意識的に変えて、子どもたちの目を見ながら。さすがにこの時はみんな自分の方に顔を向けて聞き入っていました。こういったメリハリも必要なんだな。

 「何かいないかな」

 14のグループが一斉に河原に下りると、もう収拾がつきません。自分の班の子どもたちがどこに行ったのかすらも把握できなくなるのです。これは去年の反省点でもあり、今年もやっぱり同じことを繰り返してしまいました。できたらいろんな生き物のことについて一緒に話がしたかったのですが。

 石の下には…

 それでも近くにいる子どもたちに話しかけます。(どこの班の子か分かりませんが。)
 トビゲラの巣の形の不思議やカワニナのてっぺんが欠けている謎、ヤナギタデの味。やっぱり実物を前にすると興味のわき方が違います。
 
 それにしても気になるのは、瀬の方に行っている子どもたちのことです。5、6人のグループで入れ替わり立ち替わり瀬の中央に入り込んでいます。水深は子どもたちの膝下まであり、速い流れにヨタヨタと、ときにぐらつきながらその都度大きな声を出して騒いでいます。
 さすがに我慢できなくなって、安全確保のために瀬に向かいました。ちょうどそこには昨日までの鮎漁に使われていた川船が川のど真ん中に錨を打って係留してあり、子どもたちはそれが目当てのようなのです。
 川の流れは大人が立っていてもぐらつくほど。とりあえず子どもたちの川下に立って、さっき河川敷で自分の班の子に話したこの場所の危険について言って聞かせました。そして、せっかくここまで来たのだから鮎漁の話をしてあげる。そのかわりここはすこし危ないから話が終わったら岸辺に戻ろう。そう説明するとけっこう素直に聞き入れてくれました。これが頭ごなしに危ないから戻れと言っていたらうまくいったかどうか。
 こうやって、昨日まで落ち鮎漁の期間であったこと、今日からは禁漁となること、それはここが鮎の産卵の場所であるからということ、鮎は子供の頃は肉食だが大人になると苔しか食べないこと、などをまさに鮎の漁場の中で話してあげるここができました。子どもたちも妙に納得していたようです。これを3グループほど繰り返しました。

 ピース!
 ギャー、危なーい!

 今回のこの行事、下見のときに感じていたとおりにもし子供が流されたらどうなるか、考えてみました。流れの速さからすると、もし流されはじめて立ち上がることができなかったときには、30秒くらいで下流にある深くなっているところまで到達するでしょう。下流側にそれを一応想定していてすぐに対応できる大人が何人いたか。学校の先生はたくさん河原に下りていましたが、少なくとも長靴を履いてきている方はいなかったと思います。自分が川に入る場面があるかもしれないということを想定していないのです。安全確保まで我々指導員に委託したのでしょうか。それにしては生徒280人は多すぎる。これは事故が起こる前に再検討する必要があると思います。
 「危険であればあるほど教育的である。」この春受講したNACS−J主催のリスクマネジメント研修の講師の言葉です。危険だからと遠ざけず色々な経験をさせてあげたい。ただその危険の境目を見極め事故を防ぐのは教師を含めた我々大人の役目だと思います。現に以前ここでは尊い命が失われているのですから。

 瀬の下流。
 川の中央から向こう岸側の
 水深が深くなっている。

 約1時間、河原や水辺で生き物たちを観察した後は、また河川敷に上がって「川の自然度しらべ」を行います。
 どうにか自分の班の子どもたちを集めて河川敷に上がりました。そして川が見える向きでしゃがんでもらいます。
 まず「ケガをした人、気分が悪くなった人はいませんか?」 幸いにもみな元気です。
 そしてあらかじめ配られているテキストを開いてもらって、この場所から見える川の様子について項目ごとに得点化していきます。項目は@川のまわりのようす、A土手と川のあいだのようす(植生や土地の利用)、B流れの様子、C水ぎわと川底のようす、D水のよごれ、E川の鳥のようす、の計6項目です。配点は3点から0点。高得点ほど自然度が高いということになります。
 例えば、@の「川のまわりのようす」では、3点が「川のまわりは林、草原、ヨシ原かまたは田畑などで人家は少ない」、2点は「田畑と人家がまざっている」、1点は「川のすぐ近くまで人家がきている」、0点は「人家や工場が密集している」という形です。それぞれの解説を読み上げ、当てはまると思うものに拍手を求めてその多いもので得点を決めていきました。その結果、この場所の評価としては「まだ自然が残っています。これ以上自然が失われないように注意しましょう。」というものでした。
 
 時計の針は11時を回りました。そろそろ「ふりかえりとまとめ」に入ります。
 「今日は何が一番楽しかった?」 やはり川に入ったこと自体が一番楽しかったようです。この頃になるとみんなの表情がイキイキしているのがよく分かります。でも、「昼メシ、まだぁ」なんて言ってる子も。そういえば自分も腹が減っているのに気がつきました。
 「いろんなものがあったし、いろんなものが棲んどったね。こんな人工物の多いところでもけっこう豊かな自然があるんだね。生き物同士が繋がっているのも分かったし。見ようと思って見るとそれが見えてくるんよね。」
 ここまできたらプログラムの出来映えなんて二の次。なんとか無事に終わってほしいという思いがあるのみです。
 「最後に一言。自然観察指導員には共通のテーマがあります。たくさんの人に『自然に親しんでもらって、自然を知ってもらって、自然を守りたいという気持ちを持ってもらう』ということです。今日の自然体験学習が皆さんにとってその最初の一歩になってくれればいいと願っています。」
 この言葉で2時間のプログラムを締めくくりました。


 さて、3回目の今年、指導員としてうまくできたでしょうか。
 自分としては、昨年以上の課題を抱えることになりました。「まだまだ」。この一言に尽きます。
 これからも少しずつ経験を積んで、また来年、自分の成長を確かめに来たいと思います。
 
 閉会のセレモニーの後、指導員仲間とゆっくりと話をする間もなく愛車「ドリーム号」に乗り込み仕事へと向かいました。
 「あー!ハラ減ったー!」 心地よい開放感です。