小菅村 〜雪の森で「ほうれて」きた〜


 

【山梨県 小菅村 平成20年2月17日(日)】
 
 「ほうれる」−「外で遊ぶ」という意味の小菅弁だそうです。したがって、「雪の森でほうれてきた」とは「雪の森で遊んできた」という意味になります。
 今回は、ただただ森の中での〜んびりするという企画にアンテナが反応したので、また小菅村に行ってみることにしました。

 奥多摩駅

 やってきました奥多摩駅。この駅舎に降り立つのも昨年来3回目。駅前の風景もだんだん見慣れたものになりつつあります。今回のこの企画は「小菅村エコセラピー研究会」が主催するもので、小菅村の自然の中でゆったりとした時間を過ごし、日頃お疲れ気味の人は元気に、元々元気な人はさらに元気ハツラツになろうというものです。
 駅前で出迎えてくれたのは研究会のSさん。数年前に都内から移住してきた方で、Sさん自身、研究会の企画に何回か参加するうちに、その活動内容に惹かれていつのまにか主催者側として活動しているとのこと。yamaneko夫婦ともう1人年配の男性の参加者をマイカーに乗せて、そんな話を聞きながら小菅村に向かいました。気負ったところのない自然体な接し方。すこぶる気さくな女性で、こちらも初対面の緊張がすぐに和らぎました。

 松姫峠

 ところで、今日の参加者は計3人。最少催行人員を下回っているのではと思いましたが、参加者が1人であっても普通に開催するのだそうです。それどころか、今日はSさんの他に先乗りして現地の設営をしてくれているスタッフが2人(1人は地元小菅村の方、もう1人は都内からの移住組)いて、マンツーマンの対応です。(実際にはスタッフの方のお子さんも一緒に来ていたので、スタッフの方が多かったともいえます。) これはほどなく気がついたのですが、Sさん自身野山に出かけるのが楽しくてたまらないようで、参加者の多寡は関係ないのかもしれません。

 大峰

 辺りの山々はまるでその尾根筋を枯れ木で縁取りしたかのようにみえます。これはこの山々に生える木のほとんどが落葉樹であるため、葉を落とした木を透かして山肌に積もった雪が見えているからで、尾根筋の部分だけは木々の姿が目立って見えるのです。ところどころ残る針葉樹の緑とのコントラストがきれいです。

 鶴寝山を目指す

 峠から鶴寝山に至る道は積雪30pほど。ここは尾根道なので風が強く、積雪はそう多くはないのだそうです。でも今日はほとんど風はありません。さすがに汗は出ませんが、体が適度に温まってきてちょうどよい感じです。

 ツガ

 落葉広葉樹の森は白とグレーの世界。その中で針葉樹の緑はひときわ鮮やかに見えます。生き物の気配が感じられない風景の中で、ホッとした暖かさのようなものを感じます。
 森林の分布は、おおまかに年間の気温と降水量の関係で決まるのだそうです。温暖=湿潤、寒冷=乾燥という基本的な関係性がある中で、植物にとって乾燥は大敵ですから、寒冷なところでは乾燥から身を守ることができる(落葉することにより葉からの水分の蒸散を避けることができる)落葉樹が活路を見いだすこととなります。また、一般に針葉樹の葉は小さく厚いので耐寒性に優れていることから、こちらも寒冷地に活路を見いだすこととなります。
 このようなことから、温暖帯では常緑広葉樹林が広がり、冷温帯では落葉広葉樹林となります。落葉広葉樹林より寒冷な亜寒帯には常緑針葉樹林が出現し、そこから森林限界までのすきまに落葉針葉樹林がわずかに分布するという構成になるのだそうです。中緯度帯に位置する日本では、列島の南西半分のほとんどが常緑広葉樹林で、北東半分のほとんどが落葉広葉樹林。北海道でも針広混交林がほとんどで、針葉樹林は道央の高地や知床半島に散在する程度なのだそうです。

 枯ササ  「野麦」

 この辺りでは近年ササが開花したそうです。ササは60年に一度開花するという言い伝えがありますが、正確には分かっていないのだそうです。でも、滅多にないことは確かなようで、そのときには一斉に開花することが知られています。そして、開花後枯死してしまうので数年は回復しないのだそうです。種子は栄養価が高く、去年あたりはアカネズミの数が増えたとのことでした。
 このササの実のことをその姿から「野麦」と呼び、あの「ああ野麦峠」の舞台(史実です)となった峠にもクマザサが生い茂っていたといいます。

 松鶴のブナ

 去年の秋に保全作業をした松鶴のブナまでやってきました。この辺りは標高1300mを超えています。雪の中のブナ、絵になりますね。

 富士山

 この前来たときにはきれいに見えていた富士山。今日は白いベールに包まれていました。

 「ゆっくり歩き」

 こうやって景色を見たり木々を見たりしながら雪の森をゆっくりと歩くこと、これも今回の企画のうちの一つなのです。

 爪痕

 このヤマザクラの幹に傷をつけたお方は、今頃ぐっすりとおやすみになっているはず。去年の秋は堅果類の実りが豊かだったので、たっぷりと脂肪を蓄えていると思います。

 雪の中のダイニング

 雪の中を歩いてきたので十分にお腹が空きました。先乗りしていたスタッフが雪を踏み固めて四角いダイニングを作って待っていてくれました。ヤマメの塩焼きと焼きおにぎりの匂いがたまりません。茶釜の中はクマザサ茶です。

 ランチ

 表面に味噌を塗った焼きおにぎりははじめて食べました。雪のテーブル、朴葉の皿。焼きたてのヤマメもすこぶる美味! この風景の中で食べるこのランチ。食べ終わった後、何とも言えず満ち足りた気持ちに包まれました。フー…。

 「寝っころがり」

 食後は雪の上にマットを敷いてただ寝っ転がる。ぼーっと。

 非日常の空間

 こんな風景が眼前に広がる。聞こえるのは遠くの林をわたっていく風の音のみ。目を閉じて、しばらくして目を開けてもこの風景(あたりまえだけど)。全身の力が抜けていくような。ひょっとしてこれが「癒されている」って感覚でしょうか。
 何年か前「癒しブーム」があり、テレビでは癒しグッズや癒し系と呼ばれるアイドルなどがもてはやされていました。その頃「そんなに癒されたいか」とシニカルな感想を抱いていましたが、今なら何となく肯定的に受け止められるような気がします。「癒されたい」=「甘えたい」ではなく、余分な服を一枚脱ぐといった感覚なのかもしれません。

 無垢の雪

 小菅村エコセラピー研究会の設立趣意には次のようにあります。
 「一般的に「森林療法(森林セラピー)」とは、森林の地形や自然を利用した医療、リハビリテーション、カウンセリング、森林浴・森林レクリエーションをつうじた健康回復・維持・増進活動をさします。本会においてはもう少し広義にとらえ、「エコ」=「自然資源(森・川・温泉…)」や「文化資源(伝統芸能・芸術文化・伝統料理等地域生活…)」、即ち小菅の全てを活用して、より総体的に健康や癒しの成果を上げる事を考え、エコセラピーなるものを研究し実践することとしました。(中略) エコセラピー活動は、都市と山村が対等に行う交流事業であり、癒しを分かち合う、「心豊かな関係の構築」です。参加者は癒され元気になり、小菅村もまた元気になることができます。この活動は、源流の持つ公益的機能を増大させ、流域の保全、地球環境の保全へ貢献することができます。」
 今回の企画も何のことはないようなものですが(失礼)、小菅の自然と食材を使って確かに参加する者を元気にしてくれたと思います。たぶんスタッフの方々も。

 白い山並み

 冬晴れの白い山並み。こんな景色を目にして清々しい気持ちにならない人はいないでしょう、ホント。この景色も小菅の持つ素晴らしい資源ですね。

 ほうれん坊

 鶴寝山から下りてきて、道の駅ならぬ「村の駅 ほうれん坊」へ。ここはSさんが働いている食堂兼物産店で、エコセラピー研究会の活動拠点でもあります。いつもなら山の上で野点をするとのことですが、今回は寒いのでここでいただくことに。

 薪ストーブ

 店内には薪ストーブのいい香りが。そういえば店の入口の横に薪が積み上げてありました。薪は二度、体を温めてくれるといいます。一度はストーブで。もう一度はその薪を割るときだそうです。

 抹茶  お餅

 抹茶に添えられたお菓子はあんこベースのものとスイートポテトベースのもの。名前は分かりませんが手作りでしょう。お餅は焼いて大根おろしを添えたもの。これがまたあっさりして、抹茶の後にバッチグーでした。
 
 夕方、またマイカーで奥多摩駅まで送ってもらいました。名所旧跡を駆け足で回り、先々で土産物店に連れて行かれるようなバスツアーが多いですが、今日は小菅のそのまんまの自然に触れ、ゆったりと過ごし、心のこもった、そしてさりげなく洒落たもてなしを受けました。なんか知り合いのところに遊びに行ったような感じです。
 この小菅村エコセラピー研究会の活動は毎月1回のペースで行われているのだとか。またおもしろそうなものがあったら覗いてみたいと思っています。