県央の森 〜奥が深いぞキノコの世界〜


 

【広島県福富町 平成15年9月21日(日)】
 
 9月の定例観察会は「キノコ」がテーマ。場所は広島県の地理上の中心地、福富町にある、その名も「県央の森」です。
 福富町がなぜ中心地なのかというと、下の図のとおり。
 まん中に位置することにどれほどの意味があるのかということはおいといて、いかに中心点が山の中だったとはいえこんなアクセスの悪いところに無理に公園を造ることはなかったんじゃないの、というのが正直な感想でした。そんな立地条件のせいか、いまひとつアピールも弱いような気がします。なにしろ会社の人に県央の森のことを話しても誰ひとりとしてその存在を知りませんでしたから。

 ちなみに、国土地理院が公表している広島県の重心(質量中心)は、この県央ポイントから北東に約3qの地点にあり、そこは向原町になるとのことです。
 
 さて、そういう事情で県央の森へはマイカー利用が一般的なのですが、今回はドリーム号を休養させて、広島自然観察会が借り上げたマイクロバスに乗って現地に入りました。

 開会

 午前10時、アカマツ林を適度に切り開いて造られたキャンプ場で開会。
 台風15号が通りすぎた後の青空から木漏れ日が降り注いでいます。ただ、風が強く、涼しすぎるくらい。

 事前レク

 今日のリーダーはキノコ鑑定士の称号をもつ4名の会員の方々。
 まずは事前レクです。配布された資料によると…
 菌類の本体は「菌糸」といわれるもので、大きさは数ミクロン。これが繋がったり枝分かれしたり融合したりして、通常は糸状や網状、さらには三次元的な構造になって、栄養のある土壌の中や倒木の中、動物の死体などで生活しています。そして、温度、湿度などの環境条件がそろったときにあたかも成長するかのように菌糸が形を変えはじめ、胞子を作る機能をもった「子実体」というものを形成します。この子実体がおなじみの「キノコ」なのです。
 このキノコの部分を採取しても、本体の菌糸が土壌などに残っていればまたいつか条件がそろったときにキノコが生えてきます。(またキノコを形成する、というのが正確な表現です。)
 というわけで、観察会では「採らずに観察する」が基本ですが、キノコの場合は採ってきてじっくりと観察してもOKです。
 
 さあ、これから林の中に入ってキノコを探します。
 普段は山の中を歩いていても気にもとめなかったキノコでしたが、いざ探してみるとさまざまな種類のものがあることが分かりました。

 ウラグロニガイグチ  チャカイガラタケ

 キノコを採取せずに観察するときには手鏡が必要です。これを傘の部分の下に置いて裏の形や色を観るのです。上から見てよく似たキノコでも傘の裏の形状で種が分けられることもよくあることなのだそうです。キノコ以外にこの使い方をすると犯罪になることがありますのでご注意を。

 カレハタケ  ヘビキノコモドキ

 名前はその都度リーダーに聞いてメモしますが、悲しいかなまったく頭に残りません。そもそも名前を復唱するだけで舌を噛みそうになります。

 「こっちにもあったよ!」

 この林は公園造成時にかなりの植栽がなされているようです。サクラやヤマボウシなど街場の公園に植えるような木をたくさん。「公園を作ったら花の咲く木を植栽する」という公式をこんな山上の自然林にも当てはめるその想像力に脱帽です。ナツツバキやタムシバなどが混在する立派なアカマツ林なのに。(しかも植栽時に添え木として使われた竹が朽ちてそこいら中に散乱しているのも、やりっ放し感を高めていました。)

 ヒメコナカブリテングタケ  カバイロツルタケ(幼体)

 昼食をはさんで採集すること3時間。たくさんのキノコが集まりました。
 あとはリーダーに鑑定してもらいます。

 「フムフム、これは…」

 さすがはキノコ鑑定士、次々と種類を見分けていきます。
 今回採集したキノコは99種類。ビックリするほど多種多様だったのですが、リーダーの弁によると普段はこの2倍は集まるのだそうです。恐るべしキノコの世界。

 ここに紹介したものはほんのほんの一部です。
 事務局のRさんがすべての名前をメモしていましたが、その名前の羅列を見ただけでもうギブアップ。覚えようなどという大それたことは考えずに、今日はキノコと親しくなるというところでよしとしました。

 ヌメリコウジタケ  ホウキタケの仲間

 こんなカラフルなキノコもありました。
 
 菌類はキノコを作る秋にだけ活動しているのではありません。一年を通じ菌類は自然界にとって重要な働きをしています。彼らがいるおかげで、森が倒木や落ち葉であふれかえることがないのです。
 植物は無機物から有機物を作り、植物自身や動物がそれを利用する。そして枯れたり死んだりした後は微生物や菌類などが二酸化炭素やアンモニア、水などの無機物に分解する。そしてまたその無機物を植物が取り込む。
 そのサイクルの中で我々も生きているのですね。


 広島地方の方言ではマツタケ以外のキノコのことをひとまとめにして「なば」というのだそうです。
 いったい語源は何?
 と書いたら、ネイティブ・ヒロシマンの方々から少し違うとのご意見をいただきました。正しくは、マツタケも「なば」と称すのだそうです。「なば採りに行く」というとマツタケ採りに行くという意ですが、結果採れたマツタケ以外のキノコも「なば」というのだそうです。うーん、微妙な表現です。