宮島 〜海と陸との境を見てみよう〜


 

【広島県宮島町 平成16年5月16日(日)】
 
 朝からしっかりとした雨。本土と宮島とを隔てる大野瀬戸にも雨雲は低く垂れこめ、船の上から見る厳島神社はまるで墨絵の世界です。というのは誉めすぎですが、今日は朱の大鳥居もしっとりと落ち着いた色に見えます。
 
 さて、今回宮島にやってきたわけは、NACS−J(日本自然保護協会)と広島県自然観察指導員連絡会とが共催する「海岸植物群落調査研修会」を受講するためです。場所は宮島桟橋のすぐ近く、宮島町伝統産業会館の会議室です。
 NACS−Jの開発さん(自然保護協会の職員なのに「開発」とはこれいかに)の話によると、平成8年にとりまとめられた植物群落レッドデータ・ブックのデータ解析から、特に危機に瀕しているのは水辺の植物であることが見えてきたとのこと。水辺といっても、湿地、河原、海岸と様々ですが、比較的実体が明らかになっていないのが海岸の植生のデータだったそうです。(河原などは国土交通省が詳しく調査しているそうです。)
 そこでNACS−Jでは今年から3年をかけて全国の海岸植物群落生育実態を把握し、今後の保護に向けての基礎データを収集することとしました。実際に海岸に出かけて調査するのは、全国各地で活動している自然観察指導員たちです。今日はその調査方法などについての研修会。ちなみに、本年3月以降、大分、神奈川、香川で研修会が開催され、広島での開催が4回目になります。今後もあちこちで開催される予定です。

 由良氏

 続いて、海岸植物群落の特徴について千葉県立中央博物館の由良さんからレクチャーがありました。由良さんは、厳しい環境で植物がどのように生きているかといった植物生態学について研究されている方です。
 「海岸とは海でも陸でもない。単なる線でもない。陸の影響を強く受ける海と、海の影響を強く受ける陸とが、隣り合って相互に影響しあう一定の広がりをもった場所。」なるほど。そんな地域には独特な植生が発達してもおかしくないわけです。

 現地下見

 午後からは調査地の一つ、宮島の「小なきり浜」へ下見に行ってみました。
 広島県内の調査地は全部で43カ所。5万分の1の地形図をもとに、NACS−Jでリストアップしたものです。広島県は多島海といわれる瀬戸内海に面し、その海岸線延長も長いのですが、磯と磯との間を小さな浜がつないでいるといった地形が多いことから埋め立てなどにより早くから開発が進められ、本土側には砂浜と呼べるような砂浜はほとんど残っていません。
 今回リストアップされた43カ所の砂浜のうち本土側のものはわずかに3カ所のみ。残りはすべて島嶼部にあります。
 
 この調査の本格実施に先立って、昨年暮れ、広島自然観察会の定例観察会の場を借りて試行をしてみました。当時まだ案の段階だった調査票を使用して。
 調査票が作られたのはもちろん東京にあるNACS−J本部です。いわば、海といえば太平洋、砂浜といえば九十九里、といったイメージになります。一方、広島県では瀬戸の小島の小さな入り江にある砂浜であり、おのずと調査事項がしっくりかみ合わない部分もありました。また、潮の干満の差が大きいことも太平洋などとは大きく異なる点で、最大4mにも達する干満の差は、一日のうちでも時間によって砂浜の姿を一変させます。
 でもまあ、日本全国には様々な自然があるわけですから、東京スタンダードの調査票をそれぞれの場所でうまく使って調査をしていけばいいかな、といったところです。
 
 今月中には第一陣の調査を、宮島パークボランティアの協力を得て、島内の何カ所かで行うことになっています。
 どんな結果が出るのか楽しみです。

 途中でひろったサカキカズラの花
 (花弁が縄状によれています。)