城ヶ島 〜春の磯のんびりと〜


 

【神奈川県 三浦市 平成19年3月4日(日)】
 
 さあ3月になりました。例年に増して春の訪れが早そうですが、今日は天気も良くて春本番を感じることができるかもしれません。どうせだったら南の方へ行って、こちらの方から春に近づいていこうと思います。
 ということで、今日の目的地は、三浦半島の南端、城ヶ島。「♪雨は降る降る 城ヶ島の磯に…」 ご年配の方にはこの歌「城ヶ島の雨」でなじみがあるのでは。yamanekoも母親がこの歌を口ずさんでいたのを覚えています。今回調べてみて知ったのですが、この歌の詩を書いたのは北原白秋だったんですね。
 
                        
 
 今日もドリーム号に乗り込んで出発。R246から環八、第三京浜と走り、横浜新道、横浜横須賀道路へ。道は順調に流れていました。三浦半島の先端に近い衣笠ICで高速を下りてあとは一般道です。
 城ヶ島は、周囲約4q。北側は水道をはさんで三崎漁港と対面し、民家や漁業関連施設がありますが、南側は太平洋に面し、自然そのままの景観が広がっていて、人の生活を感じさせるものは一切ありません。黒潮の影響で温暖な地域なのですが、年間を通じて海からの風が強く吹き、特に暴風時には猛り狂う波濤によって人の立ち入ることのできない極めて過酷な環境となるからです。
 
 城ヶ島大橋を渡って島内に入り、城ヶ島公園の駐車場へ。今日は島の東側にある海岸で春探しをしてみようと思います。

 太平洋

 崖の上から望む太平洋。
 海から吹き上げる風に乗ってトビたちが高く弧を描き、遠く洋上にはたくさんのヨットがたゆたっています。
 島の大部分は標高30mほどの平坦な台地になっていて、東西の端に岩礁地帯が広がり、その間には険しい海食涯が続いています。ここに強い上昇気流が発生するのです。今日は風も強くはなく、どうかするとうっすら汗ばむほど。ここで海を眺めていてもポカポカ暖かいです。

 ツワブキ

 駐車場は台地の上にあり、ここから海岸に下りていきます。
 防風林のきわに花期を終えたツワブキの葉が残っていました。名のもととなった「艶蕗」の文字のとおり、ツヤツヤとした光沢です。

 トベラ

 暖地の沿岸部には定番のトベラです。防風林、防潮林としてもよく用いられています。トベラの葉も革質でテカテカ。太陽の光を照り返していました。

 シロダモ  若葉

 シロダモの葉もまるでプラスチックで作ったかのようにテカテカ。暖かい沿岸部には照葉樹林がよく見られ、それを構成する樹種としてこのシロダモは欠かせません。成長した葉はこんなにツヤツヤなのに、若葉は絹のような細かい毛に覆われています。これがいつかの時点で抜け落ちてツルツルの葉になるかと思うと不思議です。

 海へ

 急な斜面を下り海辺に下りてきました。おもわず深呼吸をして潮の香りを楽しみます。

 安房崎海岸  貝殻と小石

 島の東端の安房崎海岸です。
 この辺りの地形は、海底が隆起したことにより波食台が海面上に出てきたもの。波食台とは波が陸を平らに浸食し、削り取った砂礫が堆積した地形のことです。

 安房崎灯台  凝灰岩

 この島のほぼ中央に断層が通っているとのことで、西側は約1200〜4000万年前に堆積した凝灰岩。こちらの東側はぐっと新しく約300〜400万年前に堆積した凝灰岩だそうです。見ると細かい粒子の部分と砂礫の部分とが何層にも積み重なっていました。
 西側の地層が堆積した頃は地球の気候は温暖で、高緯度地方にも亜熱帯植物が茂っていたと考えられているそうです。恐竜ははるか昔に絶滅していて、鳥類や被子植物が多様化し、現在生息する哺乳類の多くの祖先が次々に出現した時代。地殻変動も激しかったのだそうです。東側の地層が堆積した頃は海が最も広かった時代で、日本列島は背骨に当たる中央部が隆起して海から顔を出していた程度。海洋ではイルカやクジラの仲間が多くの種に分化し、花を付ける顕花植物が現れた時代です。そんなはるか昔に地球上のこの場所で実際に起こった「事実」を今目にして手で触れる。考えてみればちょっとした感動ですし、なにより膨大な時間を隔てて今ここに共にあることに不思議な感覚を覚えてしまいます。

 タイドプール

 岩の窪みに入ってみると、そこはもう春の磯。巻き貝、海藻、ウニ、イソギンチャク…。小さな、そしてたくさんの命を育むタイドプールの世界がありました。

 岬の突端

 灯台の先端に行ってみると何人かの釣り人が。見ている間に釣り上げた人はいなかったようですが、今日のような日であれば釣れなくても楽しいかもしれません。

 照葉樹林

 灯台を後にしてさっき下りてきた崖の斜面を振り返ると、こんもりとした照葉樹林が広がっていました。今度は森と磯との間に生息する植物を見てみましょう。

 イソギク

 イソギクの花殻。晩秋にレモンイエローに咲いていた花は今は茶色になってしまいましたが、葉はまだ元気。裏の銀白色も鮮やかでした。

 タイトゴメ

 岩場にびっしりと寄り添うように生育していたこの植物。小さな米粒のような多肉質の葉を重ねているタイトゴメです。今は地に這うようにしていますが、6月頃には高さ15pくらいに伸びて黄色の花を咲かせます。その頃には葉も緑色になっていて、マンネングサによく似た姿になります(同じベンケイソウ科です。)。漢字では「大唐米」と書き、いわゆる外米という意味で使われていた言葉。味は良くないものの、炊くと量がよく増えたのだそうで、この植物の葉の形状をその炊いた米に見立てたとのことです。

 ソナレムグラ

 プリッとして何か美味しそうなソナレムグラの葉。見ようによっては和菓子のようにも見えます。強い潮風のために枝や幹が低くなびき傾いて生えている松のことを磯馴松(そなれまつ)と言いますが、同じように海岸に生え潮風に耐えることから、植物学者の牧野翁が「ソナレムグラ」と命名したのだそうです。
 タイトゴメにしてもこのソナレムグラにしても海浜植物には肉厚の葉をもつものが少なくありません。

 アシタバ

 海食涯の斜面にアシタバが葉を広げていました。春の日差しをいっぱいに受けています。海岸の植物だけでなく、それを観察していたyamanekoもたっぷりと浴びました。そして花粉も…。

 マグロのづけ丼

 観察を終えてから島の北側にある漁港に行って昼食をとりました。せっかくなので活きのいいづけ丼を賞味。美味かったです。