十方山林道 〜梅雨の渓畔林を歩く〜


 

【広島県廿日市市 平成15年6月15日(日)】
 
 6月の定例観察会は、今話題の「十方山林道」を歩いてみようという企画です。
 十方山林道とは、恐羅漢山の入り口にあたる戸河内町の二軒小屋から廿日市市(旧吉和村)の中津谷渓谷に至る約15qほどの林道で、そのほとんどが深い渓畔林の中を走る自然豊かな場所です。

 開会

 二軒小屋にある駐車場がスタート地点。
 渓畔林についての簡単なレクチャーを受けてから、いくつかのグループに分かれて出発です。
 
 冒頭で「今話題の」といったのは、現在、この十方山林道を7mに拡幅する計画が進められています。しかもアスファルト舗装で側溝付きというもの。その是非について様々な意見が出されているようですが、今回は多くの自然が失われる前に十方山林道の素晴らしさを味わってもらっておこうということです。

 ヤブデマリ

 自分が担当した2班は、水越峠の手前までマイクロバスで行って、そこからスタート。人数は10人ちょっとです。自分のほかにもう一人リーダーがいて、この人(Kさん)がここ十方山林道沿いの自然に詳しかったので、ちょっと心強かったです。
 歩き始めて気が付いたのは、先週の下見のときにはオオルリやアカショウビンの鳴き声がひっきりなしに聞こえていたのに、今日はまったく聞こえてこないということです。ぐずついた天気のせいだったのでしょうか。

 観察中

 道の両側からは、実に多様な植物が手をさしのべてくれています。観察にはもってこいの状況です。
 ハクウンボク、アサガラ、ヤグルマソウ、サワフタギ…。 どうも白い花を付ける植物が多いようです。



ギンリョウソウ

 薄暗い林床にギンリョウソウが群れていました。
 一見キノコのようにも見えますが、れっきとした被子植物です。葉緑素をもたないので氷のような純白です。
 ギンリョウソウは概してうつむき加減に咲いているので、なかなか花冠の中を見ることはありませんが、のぞいてみるとちょっとビックリします。碧い瞳のような雌しべを黄色い雄しべが取り囲んでいて、思わず見入ってしまいます。


 アサガラ  オオバアサガラ

 水越峠を越えて谷筋まで下りていくと、いよいよ本格的な渓畔林の始まりです。
 トチノキ、サワグルミなど渓畔林の代表選手が多くなります。しかもそれぞれが大きい。彼らにとっては生きやすい環境だったのでしょう。大きいと言えば、ミズナラの大木もたくさんありました。

 トチノキの花
 (下見のときの写真)

 普段は高いところに花を付けるおかげで滅多に近くで見ることのできないトチノキが、なぜか枝を低く垂らして、しかも満開の花を付けていました。またとない観察の機会です。
 トチノキの花は花序の半分以上が雄花で、将来実を付ける両性花は花序の下の方にまばらに付くのみなのだそうです。見ると両性花の雌しべは長く花冠から突き出ていますが、雄花の雌しべは退化(?)して、申し訳程度に付いていました。

 オヒョウ

 オヒョウです。葉の裂け方に特徴があるので覚えやすいのですが、全く裂けない葉もあったりしてややこしい。
 このオヒョウも渓畔林を構成する樹木です。樹皮の繊維は強いらしく、アイヌの民族衣装「アツシ」はこのオヒョウの繊維から作っていたのだそうです。

 ハスノハイチゴ

 ハスノハイチゴの花を下から覗いて、その花弁を陽に透かしてみると、何とも言えない柔らかい白い色に見えます。
 そして葉裏の萼片が影絵のように透けて見えています。

 昼食

 後続の班とはかなり距離が開いてしまって、結局昼食をともにしたのは3グループほど。
 このあたりはクマの生息密度が高い西中国山地の中でも最もディープなところですが、さすがに今日はクマよりも人間様の数の方が多いようです。
 
 しかし、ほんとうにここに幅7mの舗装道路を付けようというのでしょうか。
 よりによってこんなところに公共事業を持ってこなくても…、という気がします。景気や雇用情勢はいずれ回復することもありますが、失われた自然は二度と回復しません。するとしても世紀単位の時間が必要になるのです。
 今日の参加者はそれぞれどのように感じたでしょうか。
 いや、そんな生臭いことは考えなくても、ただ単にいい気持ちになって、元気になって帰るだけでも、十分に今日の目的は達成できていると思うのです。