寂地峡 〜深山幽谷の滝めぐり〜


 

【山口県錦町 平成17年5月29日(日)】
 
 まだ5月だというのに日差しにはもう夏の気配。暑い暑い。
 もともとどこかの山に出かけようと思っていたのですが、涼を求めて急遽山口県の寂地峡に行ってみることにしました。

 寂地峡入口

 山口県といっても寂地峡は最も広島県よりにあります。広島市内からだと、国道2号線を西に向かい廿日市市から県道30号線を中国山地方面へ。途中で国道186号と合流し、小瀬川をさかのぼりながら高度を上げて行きます。旧吉和村に入ったら左折して冠高原へ。標高700m。ここが県境で、ここから一気に300mを下るとその先に寂地峡があります。
 
 11時、寂地峡の駐車場に到着。車はざっと12、3台は停まっているでしょうか。すでに人影はあまりなく、聞こえるのは鳥の声と沢の音。アスファルトで日差しがはね返り眩しいくらいです。

 アマガエル

 準備を済ませて歩き始めると、さっそくかわいいアマガエルとご対面。こうやってじっとしている姿は、流れるようなフォルムを誇った名車「トヨタ2000GT」のシルエットを彷彿させます。(イメージが飛躍しすぎているでしょうか?)
 梅雨入りも間近。もうじき君たちの季節がやってくるよ。

 名水で素麺

 寂地峡の滝めぐりの前に、まずは昼食。途中で買ったコンビニ素麺ですが、名水「延齢の水」で食べるとどんな名店の素麺にも引けをとらない逸品になりました。
 もうこれだけでもかなり「涼」を感じます。
 
 さて、腹ごしらえがすんだらスタートです。散策路はここから5つの滝をめぐりながらほぼ垂直に登っていき、最上部に出たら道は左右に分かれます。いずれも森の中をまわって下りてくるコースですが、右に行けば途中に梯子などもある急な道。左はのんびりと下りてこれる道になっています。まぁ、当然左のコースですね。

 龍尾の滝

 「延齢の水」の水場のすぐ近くに最初の滝があります。その名も「龍尾の滝」。一番下にある滝が「尾」だということは、5つの滝のつながりを天に昇る龍に見立てているのでしょう。
 淵の水はあくまでも透きとおり、見つめていると気持ちが清々としてくるようです。

 散策路

 散策路は滝の流れをを縫うように設けられていて、水音を右に左に聞きながら登っていくことになります。
 龍尾の滝の上に出ると、小さな鉄製の橋を渡って次の滝の滝壺へ。その間には奇岩や巨岩がゴロゴロしていて、まったく飽きることがありません。

 登龍の滝

 2番目の滝は「登龍の滝」
 淵の水は覆い被さる木々の色を映しているのか、それとも自らが発する色なのか。エメラルドを溶かして水にしたような水の輝きです。
 滝の音にかき消されそうになりながらも、森の奥からホトトギスの声が聞こえてきます。

 白龍の滝

 3番目の「白龍の滝」です。
 頭上の梢にはアサガラの白い花がたくさん房になってぶら下がっています。他にはツリバナも、吊りすぎだろ!っていうほどたくさんぶら下がっていました。足下の岩の上にはヒメレンゲ。蛍光の黄色い花が涼しそうです。
 流れを見てはひと休み、花を見てはひと休み、緑を見てもひと休み。直登の道もここまでゆっくり歩くとまったく辛くありません。

 次の滝はどんな滝?

 今日はたまたまなのかもしれませんが、ここを訪れる人はみなカップル(熟年を含めて)ばかり。さすがにサンダル履きだとキツイかもしれませんが、普通のスニーカーで十分歩けます。
 上からも下からもドウドウという滝の音。でも、激しいこの音もずっと聞きながら歩いていると、気にならないどころか、かえってその音だけが頭の中で消去されて、静寂の森を歩いているような気になるから不思議です。

 龍門の滝

 4つ目の滝は「龍門の滝」です。
 カメラにワイドコンバータを装着しても収まりきらない。本当は滝壺も一緒に撮りたかったのですが。
 それにしてもずいぶん高く登ってきました。振り返ると岩に見え隠れしながら白い水の流れがはるか下まで続いています。

 龍頭の滝


 セッコク 

 いよいよ一番上の滝にやってきました。一番下が「龍尾の滝」だったので一番上はやっぱり「龍頭の滝」です。写真ではそう大きくは見えませんが、深い谷を挟んでその向こうに位置しているので、実際にはかなり立派な滝です。
 その滝の20m上、見上げるような絶壁の途中にセッコクの群落がありました。これまた写真では小さく見えますが、おそらくタタミ半畳分くらいはゆうにあったでしょう。周囲にもいくつか少し小さな群落が。これまでセッコクといえばせいぜい一株か二株くらいのものしか見たことがありませんでしたが、素晴らしく豪奢な群落です。さすがにあそこなら盗掘にあうこともないでしょう。命がけですから。

 最上部

 龍頭の滝を過ぎてからはほとんど垂直な登りになって、そこを登りきると上の写真の場所に出ます。写真左下のところから、急な階段を登ってくるような感じでこの場所に上がってくるのです。そして、初めにも紹介したとおり、道は写真手前方向と写真奥方向とに別れています。手前もトンネル、奥もトンネル。そのわずかな隙間の部分に下から登ってきたという形です。時計を見ると1時10分でした。
 このトンネルは「木馬(きうま)トンネル」といって、ケヤキやブナ、スギなどの木材を運搬するために作られたもので、手掘りのみで完成までに10ヶ月を要したということです。丸太を敷き並べた「木馬道」の上の木馬に積んで人力で運んでいたことからこの名前がつけられたそうです。

 林間の道

 トンネルを抜けると周囲の景色が一変するのに少しビックリしました。
 滝の音はまったく聞こえず、静かな森の中の道になるのです。削れた山肌もどちらかといえば乾燥していていました。

 ダンコウバイ

 この道はどんどん下っていくのに、登ってくるときよりも暑く、汗ばんでくるような感じです。滝沿いの道は登りとはいえやはり水辺だったので涼しく感じていたのでしょうか。体感温度が低かったのかもしれません。
 道の脇でダンコウバイが特徴のある葉を風に揺らしていました。この木の秋の黄葉は落ち着いた色合いでなかなか綺麗です。

 スタート地点の渓流

 2時、歩き始めたスタート地点に戻ってきました。
 まだ日が高いので川辺に下りて涼むことに。何組かのグループがバーベキューで盛り上がっていました。ここは岩国からも遠くはないので、米軍の海兵隊員のファミリーなども見かけます。遠い異国に赴任している間に訪れたこの地。母国に帰った後でも思い出すことがあるでしょうか。

 冷たーーーいっ!

 ごっついトレッキングシューズを脱いで流れに足を入れてみると、冷たい、というかむしろ痛いという感じ。何度もチャレンジしてみますが5秒ともちません。そうこうしているうちに川面を渡ってくる風ともあいまって体がヒンヤリとしてきました。まさに「涼」を感じるひととき。
 あぁ、今日は梅雨入り前の爽やかな一日を過ごすことができました。