宝登山 〜冬の終わりの長瀞アルプス〜


 

【埼玉県 長瀞町 平成25年2月24日(土)】
 
 2月も下旬になって、そろそろ3月の声が聞こえてくる頃に。早いですね、もう正月も遠い昔のことのようです。でも体感的にはまだまだ春は遠いようです。関東ではここのところ底冷えのするような日が続いています。
 今回はめずらしく妻のリクエストで秩父の宝登山(ほどさん)に行くことにしました。秩父といっても秩父盆地の入口部分。川下りで有名な長瀞(ながとろ)町です。
 
                       
 
 午前7時半、車検上がりのドリーム号で出発です。目白通りから練馬ICで関越道に入り、埼玉県を北上。花園ICで高速を下りて、秩父街道(国道140号)を行きます。道は荒川に沿って延びていて、この道をさかのぼっていくと荒川とともに秩父盆地に至ります。今日の天気は概ね晴れなんですが、関東北部は雪。その雪雲が秩父の近くまで流れてきているようで、秩父街道を走っているとときおり風にちぎれた雪が舞っていました。気温はかなり低いようです。

 野上駅

 午前9時、秩父鉄道の野上駅に到着。ここには駐車スペースがあるので、ここを起点として山歩きをします。本来の駐車スペースは4、5台分ですが、奥に空き地があり、駅の人に断って駐車できました。駐車料金は1日300円。駅で支払います。
 秩父鉄道は、炎暑で有名な熊谷を中心として、東は羽生、西は秩父の三峰口まで、埼玉県を東西に結んでいます。秩父への交通の主要路線ですが、東京からは西武鉄道が秩父まで直線的に路線を敷いているので、鉄道ファンでもない限りわざわざ秩父鉄道で行く人は少ないんじゃないかと思います。とはいえ、この鉄道は秩父にある武甲山で産出される石灰岩の搬送を支えてきた重要な路線。今でも長い編成の貨車が走っています。たまに観光用にSLも走っているようです。


Kashmir 3D

 今日のルートは、まず野上駅前から延びる道を行き、国道を渡って道なりに右手へ。萬福寺というお寺の角を左折して山に入っていきます。稜線に出たら尾根道を南下。ここから宝登山までの稜線には「長瀞アルプス」という愛称が付けられているそうです。小鳥峠の先で舗装された林道に出てしばらく行くと左手に宝登山山頂へと続く階段が現れます。山頂の標高は497m。南面の眺望が開けているとのことです。山頂からは長瀞駅に向かって下っていきます。そして電車で一駅戻ってゴールです。

 駅前の広場で装備を整え、準備体操をして、さて出発です。時刻は9時25分です。
 国道を越えるとご覧のの風景(上の写真)。長閑です。雲の様子が季節風の強さを物語っていますね。たぶん写真中央の辺りに登山口があるはずです。

 展示即売

 萬福寺の角を曲がって山の麓までやって来ました。すると民家の庭先でおじさんが木工細工をしています。テーブルにはいろんな工芸品が陳列されていて脇に「長瀞アルプス登山口休憩所」と看板が出ていました。おもしろそうなので寄ってみることに。早速道草です。おじさんに話を聞いてみると、天気がいい日にここで細工をしながら販売しているのだとか。話し好きそうな楽しい人でした。

 登山口

 9時45分、登山口はこんな感じ。ひんやりとしたスギ林です。

 すぐに明るい場所に出ました。ここからは山頂直下までほぼ明るい落葉広葉樹林のはずです。

 稜線に

 10時ちょうど、稜線に出ました。ここまでの上りでも汗一つかかないのは気温が低いからでしょう。

 

 ゴーというくぐもった音とともに風が林を揺らします。でも林の中は穏やかです。yamanekoは静かな森を時折揺らすこの音が好きです。いや、音とともにその後に訪れる静寂が好きと言った方がいいかもしれません。日常から切り離されてて別のどこかに身を置いている感覚が好きなのです。

 

 音が止んで見上げるとこの空。雲が見る間に移動していき、日が射したかと思うとすぐに陰ったり、またその逆だったり。

 イチヤクソウ

 登山道脇は茶色一色。そんな中に緑色があるとよく目立ちます。これはイチヤクソウの葉でしょう。春になって花茎を伸ばすためのパワーを今ゆっくりと貯め込んでいるのでしょうね。

 天狗山分岐

 10時20分、天狗山への分岐までやって来ました。左の道を行くとほどなく天狗山に行き着くはずです。yamanekoたちは直進して宝登山を目指します。

 宝登山遠望

 いくつかの小さなピークを越えると左前方に宝登山が見えました。ここから直線距離で3qほどでしょうか。

 シュンラン

 道の脇でシュンランが開花の準備を始めていました。こういうのを見ると、毎日寒くても自然は一つ一つ春の準備を進めているんだと感じますな。

 

 おっ、蜂の巣です。すでに空き家になっていますが。枝との接着点が巣の端っこにあるところを見ると、アシナガバチの仲間のものでしょうか。蓋が残っているものも一つ一つ開けてみましたが、やっぱり全部空でした。それにしても蜂の巣というのは軽い素材でできているものです。この大きさなら1円玉1枚より軽いでしょう。

 アベマキ

 このコルク質が発達した幹はアベマキです。…いや、クヌギかな。やや自信なし。

 氷池分岐

 10時45分、氷池への分岐です。ここを左に下ると、氷池という天然氷を取っている池に至ります。でもここも直進です。

 

 路傍の石。ミルフィーユのように細かい層になっていて、色はやや緑がかった灰色です。何といういう石でしょうか。これが三波川結晶片岩というやつか?

 

 10時50分、野上峠を通過。ここは秩父鉄道などが通っている荒川河岸から山一つ越えた金沢という集落にいたる昔の峠道です。

 カワラタケ

 切り株にはカワラタケが。伐採された木もそれで終わりではなく、ちゃんと他の命に力を貸しているんですね。この木が朽ちてすべてが分解されたときには、その養分をもらった様々な生き物がその周りに生きているでしょう。

 スイカズラ

 これはスイカズラでしょうか。漢字で書くと「忍冬」。青い葉を落とすことなく冬を堪え忍んでいることから名付けられたということです。

 小鳥峠

 11時、小鳥峠にやって来ました。辺りを見回しても小鳥の姿はありませんでした。ここは通過です。

 林道へ

 小鳥峠から5分、林道に出ました。ここからしばらく舗装路です。

 階段入口

 林道を700mほど歩くと階段の入口が現れました。他のグループもここで小休止して長い階段の備えているようでした。yamaneko達も小休止。ここから山頂まで標高差にして150m。道のりなら500mくらいです。

 ヤブコウジ

 足元にヤブコウジの赤い実が。背丈は10pもありませんが、これでも立派な木本です。

 頂上に向けてまっすぐに延びる階段。最後の試練です。ただ黙々と登るべし。

 宝登山山頂

 11時45分、宝登山の山頂に到着しました。風が強く寒いです。山頂は南に向いて広がる斜面になっていました。日が陰っているので寒々としています。

 山頂斜面

 とりあえず風のない場所を探して斜面を下ります。この先はロウバイ園になっていて、その際(きわ)にレジャーシートを敷くことにしました。

 南方向

 これが山頂からの眺め。南の方角になります。秩父盆地は右奥の丘陵地の向こう側に広がっていてここからは見えません。蛇行する荒川の先に見える尖った頂は武甲山です。「武甲」とあるのは地理的に武州と甲州のことなのかなと思いきや(現に甲州、武州、信州にまたがる甲武信岳という山がある。)、そうではなく、日本武尊が自らの甲(かぶと)をこの山に奉納したという言い伝えからだそうです。「武尊の甲」という意味だったんですね。それにしても関東地方には日本武尊の東征の折の言い伝えが各地に残っています。

 武甲山

 武甲山の中腹より上に見えるピラミッドのような横縞は、石灰石の露天掘りの跡。本来はもっと高い山だったようですが、採掘の結果ずいぶん形が変わってしまったのだそうです。標高も30mほど低くなったのだとか。採掘は現在でも進行中です。

 コンビニスイーツ

 風景を楽しんだ後は、コンビニ弁当を開けて昼食。日が陰っていたので体の芯まで冷えてしまいました。なので食後は熱いコーヒーを入れて体を温めました。ようやくホッとできました。ローソンのバームクーヘンはしっとりしていて美味しいです。
 山頂での休憩は40分ほど。また体が冷えてしまわないうちにシートをたたんで下山準備です。ここからは東に向かって下りて行き、長瀞駅を目指します。

 宝登山神社奥宮

 山頂から東側に少し下ると宝登山神社の奥宮がありました。その前には茶屋があって、暖かい食べ物もありました。うーん、ここで昼食にすれば良かった。
 ところで、宝登山(ほどさん)とはちょっと変わった名前ですが、もともとは「火止山」という字が当てられていたそうです。その昔、日本武尊が東国の平定のためにこの地を訪れたときに、北東方向から猛火が襲いかかって来て、それを尊の道案内をしていた巨犬が消し止めて助けたという言い伝えがあるそうです。なるほど、火(ほ)を止(と)めたことから「ほど」なんですね。北東方向からの猛火というのは当時の対抗勢力を暗喩しているんでしょう。秩父地方には犬(オオカミ)にまつわる伝説も多いですから、巨犬とは在郷の協力者のことでしょうか。

 山頂駅

 奥宮からさらに下るとロープウエイの山頂駅が見えてきました。宝登山のロウバイや梅林を見に多くの観光客が上がってきます。

 フクジュソウ

 植栽ですが、フクジュソウ。寒さのせいか葉の色が悪いですね。この付近は近年まで森だったそうですが、ロウバイ林を拡大してもっとお客さんを呼ぼうと森を伐採したところ、季節風がもろに当たるようになって低温と乾燥で環境が悪化したのだそうです(ふもとで出会った方談)。確かにロウバイ林といいつつ全体的に荒涼感が否めませんでした。

 両神山

 ロープウエイ駅の前の広場からは西の方角の眺望が開けていました。なかでも威容を誇っていたのがテーブルマウンテンのようなシルエットの両神山。山体が大きいことから近く見えますが、ここからだと20q以上離れています。奥秩父の名峰です。ちなみに両神とはイザナギ・イザナミのことだそうです。

 下山路は車も通れる幅の道。山頂に資材を上げるのに使われているんでしょう。

 北東方向

 猛火が襲ってきた北東方向というとこの方角。朝、スタートした野上駅周辺の街並みが見えています。あの稜線の向こうには関東平野が広がっていて、様々な豪族が割拠していたでしょうね。日本武尊はその豪族たちと戦ったのでしょうか。

 宝登山神社

 1時45分、山道が終わり開けたところに出ました。ここに宝登山神社があり、長瀞駅からここまで立派な参道(幅の広い車道)が延びています。大きな駐車場がいくつもあり、シーズンには観光バスがずらっと並ぶのだと思います。宝登山神社は三峰神社、秩父神社とともに秩父三社に列せられているという立派(?)な神社。ちょっと参拝していきましょう。

 本殿

 本殿は極彩色。3年前の平成21年12月に社殿改修が終わったばかりだそうです。ド派手ですね。

 

 2時5分、長瀞駅に到着しました。ホームに出ると同時に列車が入ってくるというジャストなタイミング。待ち時間ゼロで乗車できました。さあ、ここから一駅戻って、ドリーム号の待つ野上駅へ。

 硬券

 秩父鉄道はパスモもスイカも使用不可。代わりに昔ながらの硬券の切符を手にすることができます。めずらしいので持って帰りたかったですが、野上駅は有人改札なので回収されてしまいました(当たり前ですね。)。
 さて、もうじき3月。次に山歩きをするときには春の訪れを体感することができるでしょうか。