比婆山 〜今年こそあの花に〜


 

【広島県比和町 平成16年6月5日(土)】
 
 広島地方は先週末に梅雨入りしたものの、ここのところ抜けるような青空の日が続いています。梅雨の晴れ間を「五月晴れ」といいますが、まさにそんな感じ。じっとしてはいられません。今日は満を持して比婆山に向かいます。
 葉を広げた様子を鶴が舞う姿にたとえてその名が付いた「マイヅルソウ」。ずっと逢いたくて叶わなかった花に今日こそはと逢いに行くのです。2年前は6月12日、吾妻山へ。去年は6月22日、大万木山へ。いずれも空振りでした。どうも時期が遅すぎたようです。

 駐車場

 午前10時半、吾妻山の山腹にある駐車場にドリーム号を停めました。晴天の土曜日ですが他に誰もいません。


Kashmir 3D

 今日はここから吾妻山の南ノ原の縁を巻いて、比婆山との間の鞍部にあたる大膳原を通り、比婆山の主峰「御陵」に向かう予定です。この「御陵」の頂上近くにマイヅルソウが群生しているというのです。

 タニウツギ

 駐車場から30mほど車道を歩いて、右手の登山道に入ります。ジグザグの登りですが木立の中の道なので苦にはなりません。むしろ木漏れ日が気持ちいい。やがて、木立を抜けて草原の縁に出ました。日差しが少し暑いですが風はあります。もう終わりかけのタニウツギがその風に揺られていました。

 トトロの猫バス

 サワフタギの葉をムシャムシャと食べているのはシロシタホタルガの幼虫。この葉が大好物です。

 猿政山

 吾妻山を背にして西、南、東の3方の展望が開けています。
 西方向には猿政山の特徴のある姿が。この山は現在広島県側からは登ることができません。

 マユミ

 しばらく歩くとまた木立の中に入っていきます。道の脇にはオオカニコウモリの葉が連なり、エンレイソウは大きな3枚の葉の中央に三角錐の実を付けていました。初夏の山道風景が広がっています。

 木漏れ日の道

 鳥の声もにぎやかです。
 ツツドリ、カッコウ、ホトトギスは3兄弟でしきりに鳴き競っています。また、遠くの方からアカショウビンの声がけだるく谷を渡ってきました。イカルやオオルリの声も聞こえます。しばらくじっとして鳥の声に集中してみました。

 コケイラン

 藪の中にコケイランがすっくと立っていました。今がちょうど盛りのようです。

 大膳原の向こうに比婆山

 再び木立を抜けると目の前には大膳原が広がっていました。その向こうには比婆山を構成するいくつかの峰が並んでいます。目指す御陵もすぐそこにです。

 アカモノ

 日向を好む小さな樹木、アカモノの花が一面に咲いていました。1pに満たないかわいい花冠です。
 
 時計を見ると12時半を回っています。大膳原の島根県側にあるキャンプ場に立ち寄って昼食にしました。

 ここには1年ぶりくらいにやってきましたが、最近整備されたらしく、新しい山小屋ができていました。小屋という名がそぐわないほど大きく立派な建物です。冬場の積雪を見越して床が高い造りになっていました。

 マイヅルソウ

 おっと、ここに咲いていました。マイヅルソウです。
 半径3mあまりの広さに群生していて、ぽつぽつと花を咲かせています。つややかな葉の連なりの中からまっすぐ花茎を伸ばして小さな花を付けていました。ようやく逢うことができて、嬉しいというより安心したといった感じです。
 さあ、次は御陵へ向かいます。こっちにも咲いているでしょうか。

 御陵へ

 大膳原からいったん少し下ってから烏帽子山の斜面にとりつきます。ここからはまた木立の中の道です。
 登りが続き、汗が噴き出してきました。
 
 烏帽子山の頂上手前で道を右手にとり、しばらく行くと御陵との鞍部に出ます。ここからは緩やかな登りです。左右の花を見ながらゆっくり歩いていきます。

 ツクバネソウ  ユキザサ

 標高は1200mあまり。北斜面ということもあってか、他では時期が過ぎてしまった花たちが、今きれいに咲いていました。

 タニギキョウ  チゴユリ

 あります、あります。マイヅルソウ。道の両脇に特徴のある葉が並んでいます。葉も花も、大膳原のそれより一回り大きいような気がします。

 マイヅルソウ

 マイヅルソウの花被片は4個で、反り返っています。ここまで見るにはルーペが必要。

 ご一行様

 御陵の頂上付近がもっとも勢いよく、かつ、たくさん咲いていました。ちょうどドンピシャのタイミングで逢うことができたようです。うーん、満足。

 御陵山頂

 「御陵」、すなわち陵墓です。
 古事記には、伊邪那美命(いざなみのみこと)は「出雲の国と伯伎の国の境、比婆の山に葬りき」とあるそうで、この御陵がその陵墓だという言い伝えです。ちなみに伊邪那美命は火の神を生んだときの火傷がもとで命を落としたのでそうです。
 
 さあ、そろそろ帰路につかないと。時計は4時を指しています。来た道を戻りますが、往きには避けた烏帽子山の山頂に寄って帰りたいと思います。

 イワカガミ

 烏帽子山の山頂直下にはイワカガミが並んでいました。ほとんどはもう終わりかけでしたが、中でも元気のいいやつをパチリ。

 吾妻山

 午後の陽が吾妻山の向こうに傾きはじめています。今日は一日、素晴らしい天気に恵まれました。大膳原の山小屋の屋根が光を反射しています。
 ここからは、駐車場を目指してただ歩くのみ。5時半頃にはドリーム号のもとにたどり着くことができるでしょう。広島には7時半くらいに到着でしょうか。
 今週もきっちりリフレッシュすることができました。