箱根駒ヶ岳 〜山並みに残る遠い記憶〜


 

【神奈川県 箱根町 平成19年4月27日(金)】
 
 やってきましたGW(ゴールデンウイーク)。ですが、どこに旅行に行くでもなく、連休の谷間も当然に仕事。せめてもの反抗にと1日早くGWに突入してやりました。ということで今日は観光地に行ってもまだ渋滞はないだろうと踏んで、熱海の温泉にでも浸かろうという計画。そのついでに箱根に寄ってみることにしました。
 
                       
 
 午前7時過ぎ。普段どおりに動きはじめた街を抜けて、首都高3号渋谷線から東名高速へ。車の量はそこそこあるもののスムースに流れています。
 厚木ICを過ぎたあたりから風景が山地のそれに変わってきました。ぐんぐん坂道を上っていき、都夫良野トンネルを抜けるとそこは静岡県。ほどなく御殿場ICに差しかかり、ここから一般道に入ります。国道138号線を乙女峠に向かって上っていき、それを越えると神奈川県。ここから箱根山のカルデラが眼前に広がるのです。小田原側から箱根に入ると、宮ノ下、小涌谷、強羅といった昔ながらの保養地が迎えてくれますが、御殿場側から入ると雄大なカルデラと芦ノ湖、広々とした仙石原といった大自然が迎えてくれます。

 ロープウエイ乗り場

 仙石原から芦ノ湖沿いに走ると、やがて箱根園が見えてきます。箱根園とは西武資本のリゾート施設で、プリンスホテルをはじめとしていくつものリゾートホテルが点在し、他にもゴルフ場やキャンプコテージ、遊覧船乗り場などが併設されているところです。
 9時半、ロープウエイ乗り場前の駐車場に新ドリーム号を停め、駒ヶ岳に上がることに。まずは装備を整えます。装備といっても今日は山歩きをするわけではないので、防寒用のウエアを着込み、急な天候の変化に対応できるよう雨対策をしただけです。
 GW前とはいえさすがは平日、ロープウエイは空いていました。山頂駅を目指して、ゴンドラはゆっくりと上っていきます。

 山頂駅

 なんか不思議な光景。山頂の先端にそびえるロープウエイの山頂駅です。比較物がないので大きさが分かりにくいですが、ざっと6階建てくらいの高さがあり、かなりでかいです。ただ、お世辞にも立派とはいえないほど老朽感があり、周囲に何もないという環境ともあいまって、寒々とした雰囲気を醸し出していました。

 そんな山頂駅を出て、山頂の縁に立ってみるとご覧の風景。南に向かっての大パノラマです。芦ノ湖の向こうには箱根山の外輪山。その向こうには伊豆半島のつけ根のくびれた部分があり、左右に相模湾と駿河湾が見えていました。


Kashmir 3D

 写真では靄っていてよく分かりませんが、カシミールで同じ眺めを再現してみるとこんな感じ。実際にもかなりくっきりと伊豆半島が見えていました。この陸地の固まりが遠くフィリピン海プレートに乗って北上してきて日本列島に衝突したなんて、そしてその力で隆起したのが丹沢山地だなんて、本に書いてあるから信用するようなものの、人に言われたって「何馬鹿言ってんだ」ってもんです。でも、今もものすごい力で押してきているんでしょう。その力が蓄積し、やがて一気に開放されるとき、東海地震や東南海地震となってしまうといわれています。おー怖っ。

 元宮神社

 駒ヶ岳の山頂は、砂で作った山のてっぺんを手のひらで押して平らにしたような感じです。その平坦な山頂の中でも一段と盛り上がっているところに元宮神社があり、その裏手が本当の山頂になります。標高は1356mです。気温は高度が100m上がると0.6度下がるので、芦ノ湖の標高が723mですから、湖畔と山頂との気温差は約4度あるということになります。どうです、この最果て感。山頂は風を遮るものもなく、風景は早春というよりまだ冬です。動植物の活動もほとんど見られませんでした。

 御殿場方面

山頂から御殿場方面を見ると、今朝越えてきた外輪山の向こうにうっすらと御殿場の街並みが見えました。写真右のピークは最高峰の神山です。そしてその奥には雲間から富士山頂ものぞいています。(写真にマウスオーバーで拡大) 生で見ると、富士山頂は驚くほど高いところにありました。「天空に浮かんでいる」という表現も大げさでなく感じられるほどです。
 
 箱根山は、駒ヶ岳の他に神山、金時山、二子山、鞍掛山などの火山群の総称で、箱根火山ともよばれています。火山活動は約40万年前に始まったとされ、現在の構造は、二重の外輪山とその中の中央火口丘が山嶺をつくる三重式火山となっています。現在も中央火口丘の神山(箱根山の最高峰1438m)の地下では群発地震が発生することがあり、また、早川の流域で温泉がわいていて、大涌谷、芦ノ湯などでは活発な噴気活動もつづいています。まるで地球という生物の生きている証を見るようです。


Kashmir 3D

 上の図にマウスオーバーして赤く表示されている部分が外側の外輪山(古期外輪山)の山頂部分です。箱根火山は噴火を繰り返しながら、約25万年前には富士山型の山に成長していったと考えられています。その標高は約2700mとされ、当時まだ原初の状態だった本家の富士山(「先小御岳」(せんこみたけ)と呼ばれる富士山の最初期の段階)よりもはるかに立派な山容だったと思われます。約110万年前にアフリカを出発し地球の各地に広がった人類は、このころには東アジアに到達していたことから、当時大陸と陸続きだった日本列島にもやってきていてこの秀麗な箱根火山を眺めていたかもしれません。(ただ、この人類は「原人」と分類される人たちでその後絶滅したと考えられており、我々の直接の祖先ではありません。)
 この大きな箱根火山はその後も噴火を繰り返していった結果、山体内部が空洞化し、約18万年前に山の中心部が陥没して大きなカルデラが形成されました。このときに周囲に取り残されたのが古期外輪山です。
 その後数万年は大きな変化はなく、約13万年前になってカルデラ内に小型の火山ができましたが、これも約5万年前に大噴火を起こして再び陥没し、巨大なカルデラ湖を作ったと考えられています。(この湖は現在の芦ノ湖とは違うものです。) このときの陥没で取り残されたのが上の図で青く表示されている新期外輪山です。
 その後も火山活動は続き、約4万年前になるとカルデラ内で神山、駒ヶ岳、二子山などの溶岩ドームが作られました。これが中央火口丘で、上の図で緑色で表示している部分です。その後まもなく「新人」と呼ばれる我々の直接の祖先が日本列島に到達し、いわゆる旧石器時代人として狩猟採集生活をしていたと思われます。この人々が日本列島のどの地域に進出していたかは分かっていませんが、沿岸の生活しやすいところにいたとしても遠く箱根火山の噴煙くらいは見ていたかもしれません。
 その後日本列島が完全に大陸から分離すると(約1万2千年前)、日本は縄文時代に入り、後は歴史の教科書で勉強したとおりです。その縄文時代も後期に差しかかった頃、中央火口丘の一つ、駒ヶ岳のすぐ隣にある神山が水蒸気爆発により山体の北西部分を崩壊させ、その土砂でカルデラ湖の半分以上を埋めてしまいました。これが現在の仙石原で、また、この土砂で早川がせき止められてできたのが芦ノ湖ということです。

 山頂で見かけたヤマネコノメソウ

 ロープウエイですんなり上ってきましたが、これまでにこんな壮大なドラマがあったことを知ったうえで眺めると、また別の感慨がわいてこようというものです。

 芦ノ湖遊覧船  駒ヶ岳

 駒ヶ岳を下りてきて、遊覧船で芦ノ湖に出てみました。そうか、これが3千年前に中央火口丘の噴火でせき止められてできた芦ノ湖か。3千年っていうとついこの前のことじゃないか。(地質年代的には)
 湖上から見る駒ヶ岳。確かに溶岩が盛り上がってできたもののように見えます。でも、これが最終形ではないんですよね。今はたまたま火山活動が穏やかな時期なだけであって、時間の物差しを万年単位にしてみると、次の壮大なドラマまでの幕間に過ぎないのではないでしょうか。
 

 相模湾と初島

 午後は熱海まで足を伸ばして温泉へ。ここはまた静岡県になります。熱海にはほとんど平坦地がなく、街並みは山肌に張り付くように広がっています。曰く「東洋のモナコ」なのだとか。(「東洋の…」って、昭和の臭いが。)
 温泉から見る相模湾。目の前には初島が浮かんでいて、その奥にはうっすらと伊豆大島が見えていました。う〜、極楽極楽…。