極楽寺山 〜花曇りの展望台から〜


 

【広島県廿日市市 平成17年3月27日(日)】
 
 3月下旬はいよいよ春を迎える時期。本来であれば心弾む頃のはずですが、花粉症を発症してからというもの、一年のうちでもっとも辛い季節となりました。
 花粉症デビューの日のことは今でも鮮明に覚えています。あれは13年前の2月下旬。奥日光の戦場ヶ原にクロカンスキーをしに行った帰り、東武スペーシアの中でのことでした。突然、鼻水が滝のように流れ出し、浅草に着くまで出っぱなし。ハンカチがつかいものにならないくらいグショグショになって、あわや脱水症状になりかけるほどでした。(やや大げさ) あのときです。あのときカチッとスイッチが入ったのです。
 なにしろ日光といえば杉並木。自業自得ですね。
 
 そんなこんなで、辛いと分かっていながら毎週野山に出かけるのは、いったい何なのか。学習能力が大幅に欠けているとしか言えませんが、そうはいっても花粉ごときに楽しみを奪われてしまってはたまりませんから。
 今日は宮島PV(パークボランティア)の観察会で、廿日市市にある極楽寺山にやってきました。

 極楽寺山は広島市中心部から西に12q。標高600m前後の中位面(広島県の地形は大まかに言って3段構造になっていて、中国山地から海岸部に向かって、高位面(脊梁面)、中位面(吉備高原面)、低位面(瀬戸内面)と呼ばれています。)の山並みが海に向かってせり出したその先端に位置する山で、その地形上瀬戸内海に向かっての展望が利くことから、お手軽な山登りができる場所として人気が高い山です。その名が示すとおり、山頂部には真言宗の名刹極楽寺があります。
 今日はふもとから登らずに、山頂部まで車で上がりました。

 開会

 午前10時、蛇の池近くの駐車場に集合。リーダーの前田さんから今日のコースの説明と注意事項の伝達がありました。2、3日前に降った季節はずれの雪のせいで足下が滑りやすくなっているとのことです。
 参加者は全部で17人。観察会としては適当な規模です。
 辺りの梢から賑やかなシジュウカラの声が聞こえてきます。近づく春を感じてか活発に活動しているようです。

 谷を下る

 まずは谷筋を下って「巣丸の滝」へ。
 駐車場の標高は約630m。ここからの標高差は80mほど。ヒノキの林の中を下っていきます。近くを流れる沢からは豊かな水量を想像させる水音が聞こえてきています。
 ところどころ自然林も残っていて、アカシデやハイノキ、ホソバタブ、シロダモなども見かけました。特にハイノキが多いようです。

 巣丸の滝

 10時25分、巣丸の滝に到着しました。滝の高さは10mほどでしょうか。垂直ではなく、岩の斜面を流れ下るような形なので、上の方はよく分かりません。
 滝の周囲はヒノキではなくスギの植林地でした。(ウウッ、また花粉症が悪化する…。)
 ゴロゴロとした岩盤を覆うように薄い表土があり、その上に木々が立っています。これじゃちょっと激しい台風だとすぐに倒れてしまいそうです。(現に何本か倒れていました。)
 
 ひとしきり滝を見たあと、次は極楽寺に向かいます。
 とりあえず来た道を戻って、途中から右手に折れてアカガシの林の道を登っていきます。

 アカガシ

 このアカガシもそうですが、植物の葉の中には縁が波打っているものがあります。これまで特に気にもとめていませんでしたが、そもそも何で波打つのでしょうか。何か意味があるのでしょうか。縁の部分の成長が他に比べて早いとか? 波打つことによってトタンのように強度が増すとか? なんか違うようです。
 縁が波打つのは鋸歯がなく比較的肉厚な葉に多く見られるようですが、そのへんにヒントが隠されているかもしれません。

 モミ

 極楽寺に近づくにつれ、モミが多くなってきました。
 モミといえばブナなどと同じような標高の高いところに生える大木といったイメージがあります。同じ廿日市市内(といっても中国山地のど真ん中に位置する、合併前の吉和村。)の「もみのき森林公園」の標高は900m。まさにブナ帯です。ここにはモミの大木がたくさんあります。
 ところが極楽寺山から眼下に見下ろすことができる宮島(ここももうじき廿日市市になります。)の標高0m付近にももみの大木がたくさん自生しているのです。そしてここ極楽寺山にも。いずれも貴重なものだそうです。
 それにしても高位面から低位面まで幅広い分布です。

 散乱するモミの種鱗と中軸

 モミの球果(マツボックリのようなもの)は、成熟するとまだ枝にあるうちから鱗のような部分(「種鱗」といい、重なった種鱗の隙間に種子が挟まっている。)がばらけて散り落ちます。あとには軸の部分が残されるのみです。

 イヌセンボンダケ?

 立ち枯れしたアカガシの太い幹に小さなキノコが半球上に固まって生えていました。ちょっとユーモラスなその姿。イヌセンボンタケではないかとのことでした。

 仁王門

 11時30分、仁王門までやってきました。極楽寺はもうすぐです。
 極楽寺は天平年間に行基によって開山され、のちに空海によって再興されたと伝えられています。本尊の十一面千手観音像は平安中期のものだそうで、そんな遙か昔からこの山の上に大きな寺があったとは、よくよく考えてみると凄いことです。当時の一般の人々の住まいと比べるとまるで夢の御殿のようだったことでしょう。

 ヤマガラ

 11時45分、極楽寺に到着。鐘楼のとなりに展望台があり、そこからの眺めは絶景の一言。まだ桜は咲いてはいませんが、花曇りのような空の下にひろがるパノラマは、海と空とが溶けあって宮島をはじめとした瀬戸の島々が空に浮かんでいるように見えていました。
 あいにく雨がパラついてきました。ここの東屋で昼食にしましす。

 12時20分、再スタート。みんなレインウエアをはおっています。
 ここからは丘のような山頂を経由して、蛇の池を回り、もとの駐車場へ。
 春の薄雲にけぶった山道はまるで墨絵の中を歩くようで、蕭々とした雰囲気に包まれています。ただシロモジの開きかけた蕾の周りだけがポッと色づいて見えていました。

 山頂  蛇の池

 1時15分、駐車場に到着。
 一同ケガもなく、笑顔のうちに解散です。