富士山(五合目) 〜残雪の峰へひとっ走り〜


 

【山梨県 鳴沢村 平成19年6月16日(土)】
 

 土曜の朝、9時過ぎに起き出してきて少し遅めの朝食をとっていたときに目に入ってきたのが上の写真の風景。季節が初夏へと移る頃から富士山が見える日が少なくなってきますが、2日前に久しぶりに雨が降って(この日が梅雨入りでした。)空気中の塵を落としてくれたのかもしれません。おぉ、まだ雪があるんだな。
 パンを食べながらただぼーっと見ていて「 …行ってみようか。」
 
                       
 
 ということで、バタバタで準備を済ませて出発。
 中央道はいつものとおり元八王子バス停付近を先頭に断続的に渋滞していました。ここは長い下り坂が一転して上り坂に変わるポイント。その上り坂がまた運転していて認識できないくらいの微妙な角度なので、ドライバーが下り坂の延長でアクセルを戻したままで走り、無意識に車速が落ちてしまうのです。こういった場所で一定以上の交通量があるとこれが大渋滞に発展してしまうのだそうです。
 それでもこの渋滞ポイントを過ぎてしまえばあとは順調に走ることができました。

 河口湖IC

 大月ジャンクションで富士山方向に分岐するとさらに車の数は減り、青空の下、爽快なドライブに。やがて富士山が正面に大きく見えるようになると河口湖ICは間近です。上の写真は料金所手前からの富士山。これから今正面に見えている斜面を5合目まで上っていきます。
 インターを下りるとすぐに富士スバルラインに接続しています。料金所の地点ですでに標高1000mを越えていて、1合目で1405m、2合目で1536m。ずっと木漏れ日の樹林帯の中を走っていきます。3合目は1786m、少しずつ樹木がまばらになってきました。 

 南アルプス

 4合目は2045m。その手前にある大沢駐車場でちょっと休憩です。正面(西の方角)には頂に雪を残した南アルプスが屏風のように連なっていました。まさに壮大な風景です。広場でイカ焼きを売っていたオッチャンいわく、「今日は北風が吹いているから景色がクッキリと見えんだ。南風のときは靄ってだめだね。」 この日、関東甲信地方の各地はのきなみ真夏日となり、東京では31度を記録しました。しかもフェーン現象により空気も乾燥し、甲府では湿度6%だったそうです。どおりで遠くまで見通せたわけです。

 5合目

 約30qの山岳ドライブの終点、5合目はこんな感じ。標高は2305mです。マイカーのほか貸切りの観光バスもたくさん来ていて、ここの広場の外国人率はかなり高かったです。なんと新宿からの定期バスもありました。普段なかなか富士山には縁がない方も、東京出張などで時間が空いたときなどにこのバスでピューッと来てみてはいかがでしょうか。そんなお手軽な感じです。

 山頂を見上げる

 なんとなくおわかりでしょうが、上の写真、かなりの仰角で撮影したものです。山頂はまだはるか遠く、見上げているとこちらにのしかかってくるかのようです。
 食堂で昼食を済ませて、管理センターへ。時計を見るとすでに2時すぎ。ちょうどいいお手頃な自然観察コースがないか聞いてみたところ、ほぼ水平移動のみのコースがあるとのこと。今はまだ残雪のため途中で引き返すことになっていて、往復で1時間半程度だというので、そこを歩いてみることにしました。

 シラビソとカラマツの林

 富士山では5合目あたりがちょうど森林限界になります。なんか紫外線も強そうです。
 バスターミナルにあれだけいた観光客も、この散策路にはまったくいません。静かです。

 ハクサンシャクナゲ

 ハクサンシャクナゲの群落です。細長い葉芽が伸びてきて、これから今年の葉と入れ替わることになります。この辺り、8月頃には薄桃色の花で覆い尽くされるでしょうね。

 コケモモ

 ハクサンシャクナゲの樹林の下に絨毯のように葉を広げているのはツツジ科のコケモモ。温帯から北極圏に近い地域にまで分布する、耐寒性に優れた植物です(−40度にも耐えられるのだとか。)。まさにこの辺りはうってつけの生育環境です。秋には赤い実を付け、同じツツジ科のグランベリーやブルーベリーと同様にジャムなどにして食べられます。

 マイヅルソウ

 葉が展開したばかりでまだしっとりとしているマイヅルソウ。写真の中央奥に去年の果実が写っているのが分かりますか。透明感のある紅い宝石のような輝きをしています。開花は7月上旬でしょうか。

 青木ヶ原樹海

 北西の方角の展望が開けている場所にやってきました。眼下に広がるのは、かの有名な青木ヶ原樹海。その向こうに居並ぶ屏風のような山々を越すと甲府盆地です。さらにその奥、空との境界の山並みのうち、ひときわギザギザになっているところが八ヶ岳になります。八ヶ岳の左側の鞍部を越えると諏訪盆地ですね。中央本線も中央道もこの鞍部を越えて長野入りするのです。

 ナナカマド

 葉を展開させたばかりのナナカマド。まだ見るからにしっとり感があります。このナナカマド、寒いとろろを好む植物で、ヒマラヤなどにも分布しているそうです。小さな白い花がまとまってこんもりとボール状に付きます。ここは標高が高いので開花は7月半ばでしょうか。晩秋には小さな紅い実を付けて、食料が少なくなった時期の鳥たちの糧となるでしょう。

 雪渓

 おお、雪です。今年は例年に比べて残雪が多いのだとか。このままでは7月1日の山開きに山頂まで行けそうもないとのことで、急遽登山道の除雪作業を始めたそうです。右の写真は雪に埋もれたダケカンバの林。この写真だけ見ていると今がいったいいつなのか分からなくなってきますね。

 不毛の世界

 雪渓を越えるとまた散策路が出てきました。管理センターの話では、最初の雪渓を越えて2つ目の雪渓のところまで行くことが可能とのことなので、もうちょっと歩いてみましょう。
 林が切れているところからは山頂が望めました。ここらあたりが森林限界であることがよく分かります。足下は火山礫で、ジャリジャリと足を取られて多少歩きにくい感じ。

 火山礫

 火山礫は赤っぽいのと黒っぽいのとがありました。よく見ると赤い方がより多孔質で、したがって黒っぽい方に比べて明らかに軽かったです。調べてみると、これらはスコリアと呼ばれる火山噴出物。主に玄武岩質のマグマ(安山岩質の火山が多い中、富士山はめずらしく玄武岩質の火山なのだそうです。)が地下から上昇してきて噴出するときに一気に減圧されて、マグマに含まれていたガス成分が発泡して多孔質になったものだそうです。黒っぽい色が一般的で、噴火時の条件によっては含まれる鉄分が酸化して赤っぽくなる場合があるのだそうです。なるほど。

 極限の地に生きる

 シラビソ(左)とダケカンバ(右)、地面にはコケモモ。この厳しい環境の中で何世代にもわたって命をつないできたのでしょうね。でも、ひとたび噴火となれば溶岩や火山灰がすべてを焼き尽くし埋め尽くしてしまう。そして、また数百年の時を費やした後に新しい命が芽吹くでしょう。
 
 時計を見ると4時に近くなっています。そろそろこの辺りで引き返すことにしましょう。

 砂防施設  フジハタザオ

 富士山では浸食や崩落、大雨などにより土石流が発生することがあり、砂防事業が大がかりに展開されています。写真のものは長さ20mほどの堤防で、写真手前側にももう1基あって、ふもと側に向かって逆ハの字形に対になっています。ちょうどパチンコ台の穴の両サイドに並んでいる、玉を穴に導く釘の列のような配置になっていて、これが山肌の涸沢に沿って縦に何組か並んでいました。見える限りで一番上の堤防からここの堤防までの距離はおよそ500mくらいはあります。おそらく沢を下ってきた土砂が広がっていかないようにするものだと思います。
 堤防の先端までいっていみると結構高くて、背筋がすーっとなりました。足下には堤防に根をおろしたフジハタザオが花を咲かせようとしていました。何もこんなところで…。

 天に近づいた?

 立ち止まり空を見上げてみます。なんかちょっとだけ空が近くなったような気がしませんか。

 河口湖

 駐車場まで戻ってきて、一休みしてからふもとまで下りてきました。あっという間に元の初夏の世界に逆戻りです。このまま東京に帰るのもなんなので、富士五湖のうちの一つ、河口湖の畔でまったりと。長閑でした。
 この時間に帰路につくと、中央道はギッチリ渋滞しているはず。この周辺で夕食でもとりながら時間をつぶして、暗くなってから帰るのがよいでしょう。