多摩丘陵でフットパス 〜下小山田周回〜


 

 「下小山田周回」

【東京都 町田市 令和元年12月8日(日)】
 
 多摩丘陵の野辺を歩くフットパス。12月も半ばにさしかかりようやく紅葉の見頃になってきたので、久しぶりに歩いてみたいと思います。
 
                       
 
 今回のフィールドは東西に長い町田市の中央部、下小山田地区です。北側には尾根幹(都道158号「南多摩尾根幹線道路」)が走っていて、その向こうは天下の多摩ニュータウンが延々と広がっています。一方、今日歩く尾根幹の南側は昭和の里山風景が残されていて、これぞフットパスの風景といった感じです。
 
 フットパスのスタート地点まではバス移動しました。神奈中バス「町30系統町田バスセンター行き」で町田街道を東に向かい、途中、根岸バス停で「町27系統小山田行き」に乗り継いで(待ち時間30分!)、里山の深部へ入っていきました。

 大泉寺バス停

 スタート地点となる大泉寺バス停で降りたのは10時45分。そこはトトロが待っていそうな雰囲気のバス停でした。静かです。

 Kashmir 3D

 今日のコースは、日大三高(カープの坂倉の母校!)の先にある大泉寺からぐるっと尾根幹近くまで反時計周りに歩き、最終的に小山田バス停に戻ってくるというコース。その間に南北に延びる3つの谷戸を巡ります。



 バスを降りたら大泉寺の参道方向に向かって歩きます。

 参道

 すぐに左手に長い参道が現れました。この先に大泉寺があります。このお寺は、鎌倉時代に創建された曹洞宗のお寺で、かつてはこの地に桓武平氏の流れをくむ小山田氏の居城があったとのこと。この辺り一帯に広い所領を持っていたのでしょうね。参道もこんなに長く真っ直ぐです。
 ただ、ここは参道には入らず、並行する道を歩いて行きます。

 ビワ

 ビワの花が咲き始めていました。ビワの花は冬に咲きます。この時期に咲いても花粉を媒介してくれる昆虫は少ないだろうに、と心配することなかれ。自家受粉が可能なのだそうです。



 里山の縁をめぐる道に入っていきます。この辺りは比較的大きな谷戸の入り口に当たり、まだまだ民家はありますね。右手奥の方には小山田緑地の本園があるはずです。小山田緑地は東京都の都立公園の一つで、本園の他に、梅木窪分園、大久保分園、山中分園があり、今日は本園へは行かずに分園を巡るコースとなります。



 しばらく歩いて、標識を発見。この民家の横から山の中に入っていきます。ここから先は小山田緑地の梅木窪分園が南北に細長く延びていて、そこを歩いていきます。



 民家脇にこんな緑のトンネルがあるなんて、ここにも昭和が残っていました。



  いい感じの紅葉ですね。足を止め、しばし鑑賞。ベンチでもあれば良かったのですが。
 ここは坂道を左手に折れて上っていきます。



 陽射しが十分に届かないようなところでも、こんなに綺麗に紅葉するんですね。



  小山田緑地の梅木窪分園、といっても雰囲気はほぼ自然の里山です。じんわりとした上り道で、少しずつ体が暖まってきました。

 吊り橋

 小さな谷戸をまたぐ形で吊橋が架けられていました。人々の生活のためのものではなく、散策路に架けられているものです。通行上の必要は特にはないと思うのですが、東京都、お金持っていますね。



 気持ちのいい木漏れ日の下を歩いていきます。日常のつまんないモヤモヤなんか忘れてしまいますね。

 梅木窪分園

 谷戸を挟んだ西側の里山です。実はあの向こう側はゴルフ場なんですが。そんな人工物があるような雰囲気はみじんも感じられません。

 ノササゲ

 これはノササゲの種子。鞘は外れて反り返っています。この鞘、もともとは鮮やかな紫色だったはずですが、今は色も抜けて白くなっていますね。晩秋にはこんな風になるのか。

 アサザ池

 梅木窪分園の奥までやってきました。ここは谷戸の上部。地形的には水が集まりやすいところです。木製のデッキやベンチがあって、その先にはアサザ池と呼ばれる池がありました。夏にはアサザが咲くんでしょうね。この池がそうかは分かりませんが、谷戸の上部には自然の湧水を利用した灌漑用の池がよく見られます。



 この辺りは谷戸の幅も狭く、両側に支尾根の斜面が迫っています。写真左に見切れているのはトイレ棟です。きれいに維持されていました。

 カヤ

 アサザ池からUターンする形で、今度は谷戸を下っていきます。刈り残されたカヤが柔らかい冬の陽射しを受けて光り輝いていました。



 谷戸の中に今も残る水田。谷戸の地形は、広くはないものの平坦で水に恵まれていることから、早くからきっちり奥まで水田として利用されてきたのでしょう。
 弥生時代に稲作が伝来して以来、日本では常に米不足の状態だったといいます。それが解消されたのは昭和30年代になってからといいますから、つい最近のこと。それ以前は、山の中でも石積みをして猫の額ほどの平地を作ってまで、およそ農地として切り開けるところは切り開いて水田にしていったのだそうです。そう、日本人は有史以来常に米を渇望してきたということです。



 谷戸の途中から右手の丘に上がっていきます。この先はゴルフ場を横切ることに なります。

 13番ホール

 と言ってももちろんフェアウエイを横断するのではなく、ホールとホールの間に公道が通っていて、カート道と交差する形です。



 場内の公道はこんな雰囲気。yamanekoの他にも散歩している人が何人かいました。

 マルバウツギ

 マルバウツギの黄葉。ここまで鮮やかになる前に灰褐色になってしまうものが多い気がしますが、これは綺麗ですね。

 大久保分園

 丘を登りきると視界が開け、その先にはまた長閑な田園風景が広がっていました。この辺りから大久保分園になります。遠く丹沢山地の向こうに富士山の山頂部も望めました。



 その富士山をアップで。(送電線でスライスされているのはご愛敬。)

 KDDIデータセンター

 目を右手前に戻します。谷戸を挟んだその向こうに白い大きな建物が。あれはKDDIのデータセンターです。その先はもう尾根幹。更にその先には多摩ニュータウンが広がっていて、こちら側とは別世界なんですよね。



 丘の上からの眺望をひとしきり楽しんだ後、しばらく尾根を歩きました。そして、写真の分岐を右手に折れて谷戸の底へ。



 坂道を緩やかに下っていきます。民家が何棟かありますね。昭和の風景の中に現代の生活があるという若干のタイムスリップ感。子供の頃を思い出し、懐かしい感じがしました。

 トンボ池

 斜面を下りきるとトンボ池です。この辺りが大久保分園の中心になります。

 アオサギ

 池のほど近くにハンターが。アオサギですね。首をすくめ微動だにしません。



  アップで。何かを狙っているのか、それとも単なる日向ぼっこなのか。後者のように思えましたが、こっちが騙されているとしたら大したハンターぶりです。



 谷戸の奥は園地化されていましたが、昔は柴刈り場だったのではないでしょうか。「おじいさんは山に柴刈りに」の柴刈りで、これは間伐や小枝払いのこと。払った小枝は薪にするわけです。谷戸の奥の傾斜地は農耕地には向かないので、薪炭林として利用されてきました。

 ハンノキ

 立派なハンノキが何本かありました。ハンノキは湿った環境を好む木で、この大きさからするとこれらの木は園地にする前からあったものでしょうね。



 谷戸の奥から丘に上がると、民家が一軒と畑がありました。「唐木田駅→」という唐突感のある標識に従い歩いて行きます。およそ駅が近いような雰囲気ではありません。

 カラスウリ

 晩秋を感じさせるカラスウリの実。辺りの静けさが非日常を際立たせます。



 雑木林を抜けていきます。驚いたことに、道の両側、道幅いっぱいのところに轍がありました。おそらく軽トラだとは思いますが、よくここを通り抜けたものです。



 雑木林を抜けるとまた農地が。この畑も立派に現役ですね。きっと軽トラで通ってきているのでしょう。



 その先は、片側がゴルフ場となっているその際の小径を歩いていきます。

 10番ホール

 ときおり視界が開け、コースがよく見えるところもありました。急に現代に引き戻されます。右手のグリーンは10番ホールでした。



 反対側の風景はこんな感じ。どこも立派な畑ばかりです。明らかに自家消費の規模ではなく、農協とかに出荷しているのではないでしょうか。



 展望のききそうな丘がありました。行ってみましょう。

 山中分園

 山中分園。ゴルフ場とは全く対照的な風景ですね。方角的には西になります。稜線の向こう側には尾根幹が通っています。遙か向こうには富士山も。



 おお、純白の山頂部です。ここから約70km離れているのですが、やっぱり大きいですね。

 環境リサイクルセンター

 再び歩き始めることしばし、尾根幹の近くまでやって来ました。これは多摩ニュータウン環境リサイクルセンター。早い話、清掃工場ですね。ゴミ焼却の余熱を利用した市営の温水プールも併設されています。

 唐木田車庫

 そのすぐ隣には小田急の唐木田車庫。小田急多摩線のどん詰まりにあります。上を跨ぐ高架橋は尾根幹です。
 この多摩線を延伸し、JR横浜線の相模原駅を経てJR相模線の上溝駅に繋げる計画が町田市のHPには載っていますが、どうも実現は怪しそうです。あと、尾根幹。こちらも神奈川県の手前でぶっつりと切れていて、これが国道16号まで延伸するとどんなに便利なことか。都県を跨ぐ道路整備が進まないのはいろんな事情があるんでしょうが、なんとかしてほしいです。



 小山田緑地山中分園の最北部。紅葉が綺麗ですね。ここからは車道に下りていきます。

 ナンキンハゼ

 これはナンキンハゼの実、というか種子。表面は白いロウ状の物質に覆われていて、昔はこれから蝋を採ったとのこと。ときどき鳥が食べているのを見かけますが、彼らにとっては害にはならないんでしょうね。吸収せずそのまま排泄するんでしょう。



 この道路は、「善治ヶ谷戸」という谷戸を下っていくもの。比較的大きな谷戸は上部まで開発され、車道が峠越えしていることもままあります。この道は南大沢側と町田街道側とをつないでいるので、交通量もそこそこあるようです。



 200mほど車道を歩いてから、右手に折れました。長閑な田園風景です。これから正面に見える尾根に上がり、尾根沿いに右手に歩いていきます。



 刈り取られた稲がはぜ掛けされていました。もう12月ですから、随分遅いですね。そういう品種でしょうか。 「♪静かな静かな、里の秋」 モズの高鳴きが聞こえてきそうです。



 民家を過ぎて、じわじわと登っていきます。右はツツジ、左はウメ。休耕地を利用して植えているようでした。春は綺麗でしょうね。

 お地蔵さん

 薄暗い竹林を抜けて木々に囲まれた尾根道に出ました。そこには小さなお地蔵さんが。なんと菅笠ではなく、普通の雨傘が掛けられていました。現代版笠地蔵ですね。
 尾根を越えるところにお地蔵さんがあるということは、昔はここが集落の境だったのだと思います。外部から厄災や疫病が入ってこないよう、村境に祠を置くというのは全国各地で見られるもの。不幸を塞ぐことから「塞の神(サイノカミ)」と呼ばれてきました。音が転訛して「斉の神」、「幸の神」と書き表すこともあり、地名にもなったりしています。

 KDDIデータセンター

 尾根道をしばらく行くと大きな建物の裏手に出ました。さっき別の尾根から見えていたKDDIのデータセンターです。ここに建てられているということは、きっとこの辺りは地盤が良いのでしょうね。



 データセンターの脇の道を北に向かうとすぐに尾根幹に出ます(奥に「グリーンウオーク多摩」という郊外型ショッピングセンターが。)。
 ここはそっちには向かわず、写真左手の細い道に進みます。

 多摩丘陵

 南側の眺め。多摩丘陵は、いくつもの谷戸が刻まれて広い平坦地はありませんが、尾根の高さはほぼ一定。大昔は一つの台地だったことが分かります。



 ほとんど人通りのない尾根道。黙々と歩くも、そろそろ足の筋肉がこわばってきました。



 小休止して頭上を見上げると、役目を終えようとしている木々の葉が最後の装いで輝きを見せていました。この葉を落として冬を過ごした後、また若葉を伸ばし始めるんですから、自然ってホント不思議というか、よくできているというか。



 左手にまた違う谷戸が現れました。ここ小山田地区は本当に複雑な地形で、入り込むと迷ってしまいそうです。



 その谷戸の頭(かしら)。いくつかは休耕しているみたいですが、昭和の頃までは奥まで耕作地だったのではないでしょうか。

 ブタナ

 これはブタナですね。牧草などと一緒に日本に入ってきた植物です。花期は夏から秋までですが、随分頑張っているのもいるようです。

 正山寺

 右手にやや大きめな谷戸が現れ、すぐ下にお寺が見えました。正山寺というようです。この墓石の数を見ると檀家も多そうですね。

 小山田地区

 今日の目的地、小山田の集落が見えてきました。この辺りからゆっくりと尾根道を下っていきます。



 坂道を下りきるとこんな感じ。昔からの家と新しい家とが混在しています。土地は広々としているのに新しい家々が集まって建っているのは、もともと地主さんが田畑の区画単位で宅地にしたからでしょうね。

 小山田バス停

 12時40分、集落の中にある小山田バス停に到着しました。ここが今日のゴールです。それほど便数は多くない路線ですが、運良く10分後にバスが来るようです。軽くストレッチをしながらバスを待ちました。
 
 普段、尾根幹は車で良く通るのですが、そこから少し外れただけで、こんなに自然豊かな、というか昭和にタイムスリップしたような風景があることにあらためて感動しました。今日はこの景色が長く残ればいいなと思いながら歩いたフットパスでした。