多摩丘陵でフットパス 〜薬師ヶ丘から七国山〜


 

 「薬師ヶ丘から七国山」

【神奈川県 町田市 平成26年9月23日(火)】
 
 暦どおりに秋本番という気候になってきました。今日は彼岸の中日、秋分の日です。朝から爽やかな晴天なので、久しぶりに多摩丘陵のフットパスを歩いてみることにしました。今年の3月に初めて歩いてから今回で4回目です。
 
                       
 

 イタリアの国がが長靴の形をしているというのは有名な話ですが、実は町田市も同じような形をしています。ただし、ふくらはぎの部分がカットされた形をしているので、すね当て付き(?)のショートブーツみたいでもあります。で、今回はそのブーツのくるぶし辺りにある七国山の周辺を歩きます。 起点になるのは薬師池公園の駐車場。そこまではドリーム号で向かいます。


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 薬師池公園は町田市立の公園で、薬師池を中心に、多摩丘陵の深い谷戸をそのまま残したような、自然豊かな緑地になっています(今回は公園内の散策はしません。)。今日のコースを俯瞰すると、右上の駐車場から8の字を書くように歩いて行く感じになります。

 駐車場

 10時10分、駐車場を出発。空気がカラッとしています。

 薬師ヶ丘団地

 まずは駐車場の隣にある薬師ヶ丘団地の中へ。 総戸数180戸のこの団地は里山の端の低い丘の上に広がっています。
 200mほど歩いて突き当たると、そこはこんもりとした小山の縁。上の写真の正面に見えている山です。あの山の麓を右からぐるっと回り込んでいきます。ちなみにあの小山は「民権の森」というとのこと。この辺りは明治初期に自由民権運動が盛んだった場所で、山中には縁の石碑なども残されているそうです。

 

 野津田神社

 突き当たりを右折して山の縁に沿った道を歩くと1、2分で神社が現れました。石柱には野津田神社とあります。今回巡るエリアと鶴見川を挟んだ北側のエリアを合わせて野津田といい、江戸中期には野津田郷に20社の神社があったそうです。 その後合祀などにより数を減らし、明治後期にはここ野津田神社一つになったのだそうです(明治後期の合祀は国策により全国的に行われたようです。)。天照大神など祭神が6神もいるのもこういった経緯があるからでしょう。

 ツルボ

 境内の脇にはツルボが。花穂の下から順に咲いていっているのが分かりますね。野に咲く花は控えめですが、どれも可憐です。

 

 神社の角を左に折れて農道に入ります。右手には畑が一面に広がっていました。高い空に掃いたような絹雲。秋ですな。

 

 左手は里山の斜面ですが、定期的に草刈りがされているのでしょう。様々な野草が花を咲かせていました。

 ツリガネニンジン

 これはツリガネニンジン。草原や明るい林で見かける花です。

 ナンテンハギ

 ナンテンハギは別名をフタバハギといい、その名のとおり小葉が2個しかありません。この仲間はみな偶数羽状複葉(葉軸の両側に小葉をたくさん並べた形)なのですが、2個であっても一応偶数なのでその特徴を備えているといえます。見た感じはかなり印象が違いますが。

 オトギリソウ

 昔は傷薬に使われたというオトギリソウ。神経痛や関節痛にも効いたそうです。そういう薬効を昔の人はどうやって知り得たんですかね。臭いとかで何となくあたりを付けたのでしょうか。古代中国の皇帝「神農」はすべての植物を吟味して民衆に毒になるものと薬になるものとを教えたそうですが、実際のところ昔の人は中毒とかを起こしながら経験で伝えてきたんでしょうね。

 里山風景

 いつのまにか道は畑の中の作業道になっていました。長閑な里山風景が広がっています。写真は西方向を眺めたところ。遠くの稜線越しに見えている茶色の建物は桜美林大学ですね。遙か遠くには丹沢の山並みも見えています。
 町田市の資料によると、北部丘陵(町田市の中心市街地から見て北部に位置する丘陵地帯)は、幾筋もの谷戸と尾根で構成される南傾斜の丘陵地で、鶴見川の源流域となっている他、多摩丘陵の原風景を残す自然環境豊かな地域のため、その大半は市街化調整区域になっているそうです。

 

 畑の土手にはツルボの群落が。これも人間の手が入ることで維持できている自然ですね。

 町田ぼたん園

 薬師ヶ丘団地から見えていた小山を4分の3周した辺り、七国山への坂を登る途中に「町田ぼたん園」がありました。4月から5月にかけての開花時期には有料ですが、それ以外の期間は無料開放されているそうです。ここはスルー。

 ふるさと農具館

 ぼたん園のすぐ近くに「ふるさと農具館」という施設が。ちょっと興味ありです。

 

 町田市は昭和30年代までは純農村地帯だったそうです(市自体は昭和33年に誕生)。農村の様式は市域の南北で大まかに二分されていて、北部丘陵の地域は谷戸が涵養する湧き水で水に恵まれ、谷戸の奥まで水田が広がっていたので「田方」と呼ばれていたそうです。また、その南側に広がる相模台地(相模川の河岸段丘)の地域では、段丘の最上位面で地下水位が低く水の便が悪かったため、もっぱら畑が広がり「岡方」と呼ばれていたそうです。いきおい農作業に用いる道具もかなり違ったものになっていたと思います。そういった農具の一部がこのここに展示されていました。誰もいなかったのでゆっくりと見て回ることができました。

 ソバ畑

 坂を登り詰めると、南東斜面にソバ畑が広がっていました。おお、胸の空くような風景。少し立ち止まって深呼吸です。ちょうど花が咲いていて、緑の畑が白い化粧をしたようでした。畑の向こうに見えている住宅群が薬師ヶ丘団地です。
 今日はもう一度この地点に戻ってきます。

 雑木林

 ここから七国山に向かってなだらかな上り。七国山自体が標高130m弱の丘のようなものなので、丘陵の稜線を渡って歩いているというのが正しいです。途中には里山特有の雑木林も。昔から人々に利用され、保全されてきた森です。多くの生き物の命も育んできたことでしょう。

 ソバ

 道ばたのソバ畑で。きれいな花です。米や麦はイネ科ですがソバは? タデ科なんですよね。「蓼喰う虫も…」のタデ科です。そういえばタデ科にはミゾソバとかタニソバとかいう野草がありました。

 

 途中から、七国山のピーク方面ではなく、南東に延びる稜線に入りました。正面の森の左手は急斜面の谷になっていて、そこは薬師池公園の最奥部となっています。

 

 森に入ると公園敷地内に下りる道があったので、入ってみることにしました。なにやら下の方に仏閣が見えます。

 野津田薬師堂

 下りてみるとそこは野津田薬師堂、正式には福王寺薬師堂の境内でした。この薬師堂の参道手前にある池(安土桃山時代に灌漑用に作られた)が薬師池で、これが薬師池公園の名前になっているそうです。薬師池公園は「新東京百景」、「東京都指定名勝」、そして「日本の歴史公園100選」に選ばれている、町田市有数の公園だということです。

 

 薬師堂にお参りしたらまた元の尾根道に戻りました。このあたりも雑木林になっていて、シイタケのホダ木なども積み上げられていました。おそらくこの林で伐採したコナラの幹なのではないでしょうか。いまでも里山を利用しているんですね。こうやって人間が手を入れないと、あっという間に鬱蒼とした藪の森になってしまうのです。

 

 道は下り坂になりました。どうやらいったん尾根筋から離れるようです。

 鎌倉街道

 ほどなく鎌倉街道(都道18号線)に出ました。ここからしばらく車道沿いを歩きます。

 

 200mほど車道を歩いて、右手の住宅地に入りました。望が丘住宅という住宅地です。

 

 すぐに左手の路地に折れて、住宅の裏手のような小径を上っていきました。途中の土手にヒガンバナが。この花は計ったように秋の彼岸に咲くんですよね。

 

 路地裏の小径を上りきると、その先にも住宅地が広がっていました。こちらの方が新しく開発された住宅地のようです。ここからまた尾根道に。七国山方面に歩いて行きます。

 町田ダリヤ園

 すぐに尾根道を離れて右手に下っていくと、そこは「町田ダリヤ園」。社会福祉法人が運営する施設のようです。なかなか洒落ていました。

 

 ダリヤ園を出ると再び車道へ。ここはさっき歩いた望が丘住宅の道路の先にある地点です。写真の分岐は右手に上っていきます。

 七国山

 この先は七国山のピーク(といっても住宅地になっていますが)。その手前で左手の森の中に入っていきます。

 鎌倉井戸

 すぐに現れた井戸の跡。これは「鎌倉井戸」と呼ばれるもので、新田義貞が鎌倉攻めの軍を進める途中、ここに井戸を掘って、その水を軍馬に与えたという言い伝えがあるそうです。覗いてみると完全に埋まっていましたが、地中1.5m下には円筒の井戸の遺構が実際に残っているのだそうです。

 ノブキ

 静かな森の中を歩いて行きます。これはノブキの花。頭花をぐるっと囲んでいるサボテンのようなものは果実で、先端に雌花が残っているものがありますね。中心の頭花は両性花ですが、こちらは結実しないのだそうです。

 

 こういった環境が行政によって意識的に残されているのだそうです。こういうのこそ未来のために必要な重要インフラだと思います。

 

 このアザミが今ここにあるのも、これまで周辺の自然が残されてきたからということでしょう。

 

 森を抜け、いったん鶴見川沿いに開発された住宅地に出た後、再び山手へ。ソバ畑が広がっていた尾根道に向かって歩いて行きます。
 その途中に咲いていたヒガンバナ。この時期を境に一気に秋が深まるんですよね。

 風見鶏のカフェ

 坂の途中に急に現れた風見鶏の洋館。カフェのようでした。でも周りは完全に畑です。通りがかりにお客が入るような立地ではまったくないので、ここを目指してくるお客さんがいるということなんでしょうね。

 

 坂を登り詰めると再びソバ畑の縁へ出ました。今度は畑の脇道を下り薬師ヶ丘団地に向かいます。こんな風景、なかなかないですよね。

 

 薬師ヶ丘団地には南端から入り、出発地点に向けて歩いて行きます。
 12時10分、薬師ヶ丘団地の表(?)の入口に戻ってきました。目の前の橋を渡ってすぐ左手が駐車場です。のんびり歩いても2時間ほど。十分楽しんでなお休日は半分残っているんですよね(嬉)。
 近くにこんなエリアがあるなんて、ほんと引っ越してきて良かったと思います。