絵の島 〜JPR達と無人島探検〜


 

【広島県江田島市 平成17年7月9日(土)】
 
 7月上旬は梅雨まっただ中といった時候ですが、暦に違わずしっかりと雨が降っています。でも今日は晴れてほしかった。なぜって今日は子ども達と海で一緒に遊べるイベントがあるんですから。
 宮島PV(パークボランティア)の活動内容のうちにJPR支援というものがあります。JPRとは「ジュニア・パーク・レンジャー」の略。小学生を対象に、全国の国立公園などで、自然の中での活動プログラムをつうじて環境の大切さや社会貢献の意義を学んでもらおうというもの。環境省の施策の一環ですが、ほとんどの場合、その実施を専門の事業者に委託していて、PVはさらにそのお手伝いといった役回りです。
 今回の場合、1泊2日の日程のうち全体運営と子ども達の生活管理を受託事業者の人間科学研究所が受け持ち、1日目のプログラムを宮島PVが、2日目のプログラムを別の団体がそれぞれ部分委託されている形です。
 まあ、細かいことは別にして、yamanekoとしては単純に子ども達と遊べることが楽しみでお手伝いしているだけなんです。正直言うと。

 集合

 午前8時50分、宮島口桟橋にスタッフが集合。環境省2人、人間科学研究所のメンバー3人、カウンセラー(子ども達の相談役で生活管理担当。主に大学生たち。)6人、PVが8人。顔合わせの後、今日の進行と役割分担の最終確認を行ってから子ども達を待ちます。
 9時20分、お家の方々に送られて次々に子ども達が集まってきました。学校を通じて募集した40人のちびっ子レンジャーたちです。
 子ども達は6つの班に分かれ、それぞれの班にカウンセラーが一人ずつつきます。早々にカウンセラーからおそろいのキャップを渡されてみんな嬉しそう。これから明日の夕方まで家を離れて集団生活です。不安そうな顔をしているのはもっぱらお家の人のようでした。

 御笠丸

 さあ、人数がそろったところでチャーター船に乗り込みます。船の外観はどう見ても屋形船。庇に連なる提灯がそれを裏付けています。でも中に入ってみると畳敷きではなく、真ん中に通る通路の左右にボックスのテーブル席が並んでいる造りでした。まあ、いずれにしても宴会仕様ですけど。
 
 目的地、絵の島は宮島のすぐ近くにあります。ちょうど満潮だったので、船長の粋な計らいで宮島の厳島神社に立ち寄り、海中に立つ大鳥居を船でくぐるというサービスも。これはyamanekoも初めての経験でした。
 そしてあらためて絵の島を目指します。今日はこれから無人島探検。雨足はどんどん強くなっていますが、無事に帰ってこられるでしょうか。

 見えてきた…

 厳島神社からおよそ15分。目指す絵の島が見えてきました。本土からも宮島からも近い位置にある島ですが、こうやってみるとなんだか大海原を越えてやって来たような気分になります。
 絵の島は面積わずか0.21平方q。最高点の海抜は35m。コの字型をした島で、今は無人島です。「今は」というのには訳があって、15年前までは海水浴場の島として賑わっていたのです。当時は管理人を兼ねて老夫婦が住んでおられたそうですが、今ではその住居跡が朽ちた姿をとどめるのみ。元がリゾート地だっただけに寂寥感が余計に募ります。現在でも当時と同様に(株)瀬戸内海汽船が島を所有しているそうです。

 桟橋跡

 10字10分、絵の島に到着。桟橋の跡はありますが放置されていてガタガタ。船は舳先から砂浜に乗り上げることになるようです。
 その前に船内でジュニアパークレンジャーの任命式です。環境省の高木保護官(こちらは本職のレンジャー。肩書きは厳ついですが妙齢の才媛です。)からレンジャーの役割についてのお話があり、その後子ども達にレンジャー手帳が配られました。みんな興味津々でページをめくっています。
 次に自分のニックネーム作り。朝、受付で班ごとに集合したとき、それぞれ名札をもらって胸に付けていたのですが、その名札を裏返して自分がみんなから呼ばれたい名前を書き込みます。簡単に言えば自分のニックネームを自分で命名するのです。もちろんスタッフも。みんな少し照れながらも個性的な名前をつけていました。

 上陸

 さあ、いよいよ上陸です。幸い雨も小降りになってきました。舳先からハシゴを下ろして浜に上陸するのですが、中には飛び降りる子も。子どもは元気でいいなあ。
 ここからは班ごとに分かれて行動します。時計をみると10時30分。約1時間でまたこの場所に戻ってくる約束です。

 まずは山へ

 まず、この島の一番高いところにある灯台に向かうことにしました。途中の山道は植物が両側からのしかかってくるように繁っていて、探検の雰囲気満点です。雨で元気なカタツムリ、アジサイの装飾花、サルトリイバラの葉の用途など、でくわした物に応じてその都度話をしていきます。子ども達は実物が目の前にあるとやっぱり興味深く話が聞けるようです。

 安芸絵ノ島灯台

 この灯台は「安芸絵ノ島灯台」という名で、高さは14m。でもすぐ下から見上げるともっと高く立派に見えるから不思議です。事実今年で101歳。歴史の重みを感じずにはいられません。今も4秒に1回光って周辺海域の船の安全を見守っているそうです。

 洞窟探検

 絵の島には島を貫く人工の洞窟がいくつかあります。天井も高く雨宿りにはもってこい。この洞窟をくぐって島の反対側に出て、あとは渚づたいに島を半周するつもりでしたが、打ち寄せる波が高くて危ないので来た道を戻ることにしました。洞窟の中にいた虫や岩の模様、果ては壁の落書きまで、子ども達は何にでも興味津々です。

 入り江の様子

 「コ」の字の内側は以前海水浴のビーチだったところ。当時は賑やかな歓声が響いていた場所です。入り江になっているのでいくぶん波が穏やかですが、打ち上げられているゴミが「祭りの後」といった寂しさを感じさせます。
 山→洞窟→浜、と歩いて、元の船の場所まで戻ってきました。時間はちょうど1時間くらいたっています。

 昼ゴハンだーっ

 予定では昼食の後、海水浴をすることになっていましたが、この天気なのでそれはキャンセル。ゆっくり昼食をとってから宮島の包ヶ浦に移動して、そこで砂浜や磯の生き物の観察をすることになりました。子ども達は今夜は包ヶ浦キャンプ場のケビンに泊まるのです。
 雨が上がったようなので、島でご飯を食べるグループと船の中で食べるグループに分かれて昼食です。希望を聞いてみると多くは船の中で食べたいとのこと。せっかく無人島に来たんだから島で食べたらどうだい。えぇ?
 浜で食べていた子ども達は早くも波打ち際でクラゲをつついたりしています。みんなもうすっかりうち解けあって、お互いにニックネームで呼び合っていました。
 
 午後1時、またみんな船に乗り込んで、今度は宮島に向かいます。

 管理センター

 まずは包ヶ浦自然公園の管理センターで、絵の島での探検のまとめをします。

 「たしかこの辺だったよ」

 ホワイトボードに描かれた絵の島の地図の上にそれぞれが島で見つけた「おもしろいもの」を書き込んでいこうということに。
 ウミウシ、バフンウニ(殻)、魚の死骸、ムカデ、かぶれの木、岩の亀裂…、ありとあらゆるものが書き込まれていきます。捨てられた釣り糸(針付き)やビールの空き缶なんてのも。子ども達の感性にはいつも感心することしきりです。中でも「食べられる草」というのが多くて、これはツルナのこと。どんな味がするのか試しに食べさせたことが強く印象に残ったようです。そのお味はというと、かすかに塩味がするのです。さすが海岸に生える植物です。

 砂浜の生き物は…  磯はどうだろう?

 午後2時、いったん強まっていた雨足が再び弱まり、ほとんど降っていない状態になったので、水際に出てみることにしました。砂浜や磯の生き物の観察です。
 砂浜にはあちこちにミルが。ミルとは海藻の一種で漢字では「海松」と書きます。1本の茎(?)から分岐を繰り返し扇状に広がる様子は確かに松のようでもあります。ほとんどは砂の中にある拳大の岩に着生していましたが、たまにどでかい二枚貝に着生するものがあって、この貝が寿司ネタで有名なミル貝です。あと、葉巻のような形をしたマテガイを掘り当てる子や、岩場から離れて漂着したエボヤ(ホヤの仲間)を拾う子も。種は特定できませんでしたがカニを捕まえる子もいました。怖がるのかと思ってみていたら、なんのみんな逞しい。平気で素手で捕まえていました。

 これは何だろ?

 今度は磯に移動。まず一番に目についたのは、広島で「ニシ」と呼ばれるビー玉くらいの大きさの巻き貝。正確にはイシダタミやスガイのことです。これらはyamanekoの田舎では「ニナ」と呼ばれていて、ゆがいてビールのつまみにしたりします。美味くて食べ出したら止まらなくなります。あと、岩に張り付いているのはヒザラガイ。妻の実家の方(愛媛県)では「爺のせな(背)」と呼びます。言い得て妙、です。くねったパイプのように見えるのはオオヘビガイ。これは完全に岩に張り付いているので移動したりすることはできません。潮が満ちて海水に浸かったらクモの糸のような粘液を出してエサを集めるのだそうです。岩の割れ目にはカメノテがびっしりと。あまり長く海水に浸からない潮間帯(潮の満ち引きで海上に出たり海中に没したりするところ)の上部の方で暮らしています。形が亀の手に似ていることから名が付いたのですが、食べるとエビのような味がして美味です。
 その他にもフジツボやイソギンチャク、ヒトデなどなど、砂浜や磯はたくさんの生き物であふれていました。きっと子ども達もおどろいたと思います。
 それにしても子ども達の生き生きとした表情。一緒に遊んだこっちまで元気になるような気がしてきます。

 今日のまとめ

 最後に再び管理センターにもどって生き物観察のまとめです。
 今日の自然体験プログラムは宮島PVのスタッフがお手伝いしました。我々の役割はここまで。この後、PV以外のスタッフと子ども達はケビンに移動して宿泊し、明日は「宇宙船地球号の会」が海岸のゴミと海の生き物との関係を中心としたプログラムを実施することになっています。
 明日の天気予報もあまり芳しくはありませんが、子ども達はそんなことはおかまいなしにめいっぱい楽しんで、元気に家路につくことと思います。そして迎えるお家の人も子ども達の微妙な変化、いろんな経験をして少しだけ逞しくなったその変化をきっと感じとることができるのではないでしょうか。
 yamanekoにとっても楽しい週末でした。