江波山 〜桜の花が咲く前に〜


 

【広島市 中区 平成18年3月19日(日)】
 
 いよいよ本年度最後の定例観察会となりました。場所は広島デルタの先端部に近い江波山です。
 
                       
 
 江波山は今は街中にある小山ですが、江戸時代初期までは島だったところ。昔は今より海岸線が内陸側にあったのです。その頃、島の周囲の浅瀬で魚の餌が豊富に採れたことからこの辺りは「餌場(えば)」と呼ばれ、それが「江波」に転じたといわれています。
 
 実はyamanekoは以前この近くに住んでいたことがあります。故郷から広島に引っ越してきて初めて住んだ街でもあり、下町の庶民的な雰囲気とともに若かったあの当時が懐かしく思い出されます。その後東京に転居し、また再び広島にやってきたというわけです。
 江波山といえば気象館とエバヤマザクラ。今日の観察会はこの二つがテーマです。

 江波山気象館

 現在、江波山の上は公園化されていますが、20年近く前まではここに広島地方気象台がありました。当時の気象台の建物は現存していて今は気象博物館として市民に親しまれています。午前中、この気象館のレクチャールームをお借りしてお天気キャスターの方から話を聞く予定です。

 エバヤマザクラ  つぼみ

 午後からは、気象館前にある公園の樹木観察です。エバヤマザクラ(正式にはヒロシマエバヤマザクラ)はここに1本だけある珍しい桜。平成6年に発見されたヤマザクラの突然変異種で、推定樹齢150年の古大木です。原爆投下にも耐え(爆心地から約3.6q)、今も毎年満開の花を咲かせています。普通、ヤマザクラは花弁が5枚ですが、エバヤマザクラは5〜13枚。つまりヤマザクラでありながら八重咲きなのです。

 開会

 午前10時、気象館横の広場で開会です。今回のリーダーは舛田さん。彼女はミニゲームを取り入れるなどいつも楽しい観察会を企画してくれます。今日はどんな観察会になるでしょうか。楽しみです。

 レクチャールーム

 3月下旬とはいえまだまだ寒い。特に昨夜の雨が上がり一時的に冬型になっているので、風も強く外は冷えるのです。なので早々に気象館のレクチャールームに移動することにしました。

 気象の話

 講師はNHKでお天気解説をしている専門家の方。パワーポイントを駆使して気象に関する様々なお話をしていただきました。もともとこの手の話は好きなので興味深く聞かせていただきました。ただ、1時間半の時間にしてはあれもこれもでやや総花的だったのが残念。

 西側の展望

 気象館を出てから昼食場所を探しましたが、日差しがあっても風が冷たくて、とても外で食べる気にはなれません。そこでやむなくドリーム号の車内で弁当を開けることにしました。
 昔は海だったというだけあって、辺りの町並みは真っ平ら。上の写真右にある小高い山は「皿山」といって、江波山と同じくかつて島だったところです。

 樹木観察

 午後からは小グループに分かれて樹木観察です。このグループ分けにもリーダーのアイデアが。
 公園の広場に集まって、「まず誕生日順(生年は無視して)に並んだ大きな輪を作ってください。」とリーダー。するとみんなが移動しはじめ、あちこちで「8月はどのへんですかね。」とか、「あんたぁ何月何日? 私は5月の3日なんじゃけど。」とか、「じゃあ、あんたの隣でいいんよね。」とか、知らない者同士が声をかけながら輪ができていきます。この段階で少しうち解けた雰囲気になってきました。
 次に生年月日を使ったミニゲームです。「誕生日の数字をバラしてそれを加減乗除して10にしましょう。」例えば、12月14日産まれだとすると、1、2、1、4を使って、「2×4+1+1=10」となれば出来上がりです。「どうやってもできんなぁ。」、「0を掛けたらいけんで、0になるけぇ。足しんさいや。」など、あちこちで和気あいあいと相談し合う姿が見られました。どうしてもできない場合は生年の数字も使ってOK。できた人にはエバヤマザクラの写真(1年前に舛田さんが撮影したもの)がプレゼントされました。
 一段落したら、並んでいる順に数人ずつでグループが作られました。いつもはとかく知り合いだけで固まりがちですが、こうやって見知らぬ人同士が隣り合わせになり一緒に観察をすることになると、普段とは違ったものの見方を教わったりして楽しいひとときを過ごせるのです。

 ヒサカキ(雄花)  ヒサカキ(雌花)

 この時期に山を歩くと、青臭いような薬臭いようななんともいえない独特な匂いがします。これはヒサカキの花の匂い。臭いという人も多いですが、yamanekoは嫌いな匂いではありません。むしろ春の訪れを感じさせる匂いとして好ましく思っているほどです。
 ヒサカキは雄の花だけが咲く株と雌の花だけが咲く株とに分かれています。雄花は雌しべが退化していて、たくさんの雄しべが目立っています。雌花では雄しべは退化していて、雌しべの子房とその先に突き出た花柱が見えています。ヒトも雄のヒトと雌のヒトがいますよね。そういった意味でヒサカキはより人間に近い進化した種なのでしょうか。

 薄紅色のものも

 薄紅色の花をつけるヒサカキもありました。園芸種ではないとのことです。紅白でめでたい花ですね。

 ユキヤナギ

 こちらはユキヤナギ。サクラよりも一足先に満開になって、真っ先に春の訪れを教えてくれます。白い花をいっぱいに付けた枝が弧を描いて下がる様子が雪をかぶった柳のようであることから名が付いたといわれています。本来は川岸などに生育する植物で、枝が折れやすく、大水が出たときに枝が折れて身軽になることによって株自体が流されるのを防ぐという特性をもっているのだそうです。

 ヤマザクラ

 ヤマザクラのつぼみは今にもほころびそうでした。来週末あたりはお花見を楽しもうという人たちが集まってくるかもしれません。

 ジンチョウゲ

 歩道の脇に植えられていたジンチョウゲ。白を基調として薄黄色のものと薄紅色もものとが並んで咲いていました。この花を見るたびに松任谷由実の「春よ、来い」を思い出します。

 東側の展望

 江波山から東側を見ると太田川(本川)が望めます。川沿いの道は「牡蠣打ち通り」と名付けられていて、その名のとおり牡蠣打ち場(牡蠣の殻を開けて身を取り出す作業場)が何件も軒を連ねています。江波に住んでいた頃、ときおり海風に乗って潮の香りが漂ってきていました。

 衣羽神社

 江波山の中腹にある衣羽神社に行ってみました。ここにはモッコクの巨木があるそうです。
 この神社の名は「衣羽」と書いて「えば」と読みます。もちろん「江波」に通じる名前でしょう。縁起を調べてみると、今から約800年前、安芸の国府(地方政府)が当時造営されたばかりの厳島神社から祭神を分けいただいて、江波山に建立した神社だそうです。創建当時は山頂近くにあったそうですが、江戸中期に現在の江波山中腹に建て直したとのことです。

 モッコク

 今日は山頂から降りてきているので、いったん神社を通り過ぎ、参道の階段を下ってから振り返ってモッコクを見てみました。高さ11.5m、目通り187p。覆いかぶさってくるような迫力でした。

 閉会

 午後3時、もとの公園にもどって閉会です。今日は公園での樹木観察だったので、その多くは植栽されたもののようでしたが、紹介した以外にも、クロキ、ヒイラギモクセイ、カクレミノ、ヤブニッケイ、エノキ、ハゼノキ、タイワンフウなどがあり、一人だとなかなか観察しないこの時期の樹木の春を待つ姿を観察することができました。
 
 江波山公園樹木マップ
 (このマップは今日のリーダー舛田さんが中心となって何度も現地に足を運んで作成したものです。)
 


 今年は冬の寒さが厳しかったので、桜の開花は早いだろうと言われています。この調子だとこの公園の桜も今週末にはほころび始めるのではないでしょうか。
 桜の花は人々の新しい生活がスタートするこの時期に咲き、出会いや別れの記憶と重なって、人生の節目の花として人々の心と深く結びついています。桜の花を見るたびに思い出すことが、皆さん一つや二つはあるのではないでしょうか。
 この春、yamanekoも長く住んだこの広島を離れ、再び東京に暮らすことになりました。仕事をしていく上でやむを得ないこととはいえ、やはり気の合った仲間と別れるとなると、文字にはできない寂しさで胸の中にぽっかりと穴が空いてしまったようです。
 でも、人は出会い、そして別れるもの。その別れがあるから新たな出会いもあると思うのです。桜の花が咲く前に、楽しい思い出とこれからの希望を心の穴に詰め、新しい場所で、清々しい気持ちで今年の桜を見上げたいと思います。
 お世話になった皆さん、本当にありがとうございました。

 (舛田さん撮影)
桜の花が咲く前に…

 
 p.s. 「野山歩き」はこれからも続きます。よろしく。