足和田山 〜大パノラマのど真ん中〜


 

【山梨県 鳴沢村 平成20年4月6日(日)】
 
 4月に入り、巷では新しい生活がスタートしているようです。yamanekoの職場にも新人が入ってきました。新人といえばまず当面の難関が電話の取り次ぎ。この時期、おそらく日本中の新入社員が電話の音に緊張しまくっていることでしょう。
 さて、電話が鳴っても特に緊張することもなく、厄介な内容でなければいいが…などと思いながら受話器を取るyamanekoですが、休日となるとそんな受け身の姿はどこへやら。早起きもいとわずさっさと出かけてしまいます。
 
                       
 
 本日向かったのは、富士五湖の一つ、西湖の南に横たわる足和田山です。標高は1355mとそこそこありますが、なにしろ登山口が965mなので、その差400mたらず。のんびり歩くのにはちょうどよい高さです。
 
 朝7時前に東京を発って、中央道を西へ。大月で富士山方面に分岐して河口湖ICで高速を下ります。そこから国道139号を西に向かってしばらく走ると、進行方向右側に足和田山の姿が見えてきます。


Kashmir 3D

 登山口は一本木というバス停の近くにあるのですが、とりあえずそこは通り過ぎて、約5q先の下山口近くにある駐車場を目指します。ここには富岳風穴という観光名所があって、そこの駐車場にドリーム号を停めておき、そして、その駐車場の前にあるバス停からバスに乗って一本木まで今来た道を戻るという寸法です。
 9時5分、富岳風穴の駐車場に到着。まだ時間が早いせいか、2、3台しか停まっていません。車から下りると素晴らしい天気。今日も花粉が大量に飛んでいそうな感じです。
 装備を整えて道の向かい側にあるバス停へ。あと10分くらいでバスが来る予定です。事前にネットで運行時刻を調べておいたから良かったようなものの、あらためてバス停に貼ってある時刻表を見てみると、なんと1日に3、4本しか通らないみたい。観光地でありながらすごいことになっています。
 9時26分、ほぼ定刻どおりにバスが来ました。バスには若い女性が一人だけ。この女性、次の鳴沢氷穴前のバス停で下りたのですが、手提げカバン一つの割には地元の人ではない様子(降り際の支払いの際に始発の富士宮からの料金を支払っていましたから。)。何もない寂しいバス停で降りるとあって、運転手さんが「どちらまで行くんですか。」と聞いていました。氷穴は道路からちょっと奥まったところにあって車で行くのが普通なのです。しかも、朝早く、一人で観光とは。このあたりは青木ヶ原樹海の入口にあたるところ。運転手さんは明らかに不審に感じていたようです。何事もなければ良いですが。

 富士急バスの車窓から

 バスの車窓から左手に足和田山から延びる稜線が見えています。これからあの稜線を歩いて駐車場まで戻ってくるのです。
 9時40分、一本木のバス停に到着。途中で何人かが乗り降りしましたが、ここで降りたのは自分一人。やっぱり運行本数が少なくなるはずです。
 ここから登山口に向かって民家の前を歩いていきます。

 木立の向こうに足和田山?

 ほどなく登山口に到着。木立の向こうに足和田山、と思って地図で確認してみたら、その手前にあるピークでした。足和田山の山頂はあの奥です。

 登山口

 9時45分、登山口の金網のゲートをくぐりました。このフェンスには最上部が電気柵になっていて、何か動物除けになっていました。サルでしょうか。それともクマ?それはそれとして、いきなりの急な階段。カラマツの林の中を登っていきます。暖かい日差しが林の中まで降りそそいでいて、風もまったくないのでポカポカ陽気。この分だと早々にフリースを脱ぐことになるでしょう。

 ウリハダカエデ  コメツガ

 ウリハダカエデの幼木がありました。木肌はまさに青々として瓜の皮の模様そのもの。また、コメツガの若葉もテカテカと輝いて軟らかそう。いずれも茶色一色の風景の中にあってよく目立っていました。

 ドングリの発芽

 道ばたに落ちていた m&mチョコレート、のようなものはドングリの子葉。自然の状態でこの色です。乾燥に極端に弱いドングリですが、このまま無事に根付くことができるでしょうか。

 明るい登山道

 ジグザグの山道を登ってどんどん高度を上げていきます。体温も一気に上がったので上着を脱いで調節しました。山では重ね着の服を脱いだり着たりしてこまめに調節することが重要です。

 ダンコウバイ

 花のない林の中にぽっと黄色い花が。まだ葉のない木の枝に小さな黄色い固まりを付けていて、枯れ木に花が咲いたように見えます。ダンコウバイかアブラチャンか。花序に柄がなかったのでダンコウバイだと思います。葉を見れば一目瞭然なんですが。

 滑り落ちたら…

 山頂の手前にあるピークの山腹を巻きながら上ります。急な谷筋をトラバースぎみに進むところがあって、落ち葉に足をズリッとさせてしまったら一気にはるか下まで滑り落ちてしまいそうでした。こういったところは慎重に。

 富士山(北面)

 10時40分、「突出し岩」と名の付いた見晴らしの良い岩の上から富士山の写真を。なんと均整のとれた山。やっぱり日本人の心の山です。富士山の何が凄いかといって、その存在感でしょう。普通よく見るのは上の写真のような構図なのですが、実際にはこの写真の左右に延々となだらかな裾野の線が延びていて、広大なパノラマの中にただ一座、富士山だけが存在しているのです。こんな山はちょっと他にはないでしょう。
 ところで、東京から見た東向きの富士山は山頂が平らですが、北から見ると山頂が尖っているように見えますね。これもまたいい感じです。

 ササが出てきた

 10時45分、尾根道に出てきました。両側には背の低いササ。左にはヒノキの林です。おそらく植林したものでしょう。結構手入れがされている林で、みな太くまっすぐに育っていました。
 喉が渇いたのでちょっと休憩。カケスでしょうか、2羽が鳴き交わしながら梢から梢へと渡っていきました。

 足和田山山頂

 11時5分、足和田山山頂に到着。先客は誰もいません。展望台があるので登ってみましょう。

 河口湖  木立越しに

 展望台からは北側を見ると眼下に河口湖。富士五湖の中では山中湖とともに観光客の多い湖です。南側には当然のごとく富士山です。
 足和田山の山頂は別名「五湖台」と呼ばれ、その昔には富士五湖全部が見渡せたといいますが、今では木立に遮られて河口湖と西湖の「二湖」しか見えません。
 さて、さすがにまだ昼ご飯には早いので、ここではちょっと休憩して出発することにしました。

 稜線を下る

 山頂からはだらだらとした下りが延々と続いていました。まだこれといった植物の姿も見あたらず、ちょっと単調な野山歩き。天気がよいのが救いです。

 木立の向こうに西湖

 右手にはずっと木立越しに西湖が見えていました。河口湖に比べて静かな感じの湖です。対岸には御坂山系の山々。
 足を止め、目を閉じて耳を澄ましてみます。ときおり静寂を破るのはコココココーンと遠くの林でアカゲラが木を打つ音。あとは風もないのでシーンとしています。

 ぬた場  イノシシか

 道のど真ん中にぬた場が。これはイノシシが体に寄生する害虫をこすり落とすために、ぬかるんだところでゴロゴロと体をこすりつける場所。まあ泥パックみたいなものです。舟形にちょっと深く掘れていたので、きっと継続的に使われているのでしょう。それにしてもなにもこんな往来の真ん中でしなくても。

 排水溝

 登山道を斜めに横切っているのは道を保護するための排水溝です。山に降った雨は登山道を雨樋のようにして流れ、どんどん深く削ってしまいます。その結果、登山道は荒れてしまい、木の階段は下の土が流れてしまって単なる障害物になってしまうのです。こういった雨水による浸食を防ぐために、雨水が登山道を流れないよう途中で横に逃がしてやろうというものです。

 三湖台

 12時ちょうど、三湖台に到着しました。稜線から北側に向かって突き出した丘のようになっていて、ほぼ360度の展望があります。広ーいスペースに先客が4組ほど。休日だというのにここも閑散としていました。正面のピークは鍵掛。それにしてもこんなに雄大な景色を独り占め状態でいいんでしょうか。

 振り向くと

 振り向くとやっぱり富士山。山頂に雲がかかり始めていました。

 広大なすそ野

 西側の展望。目の前に広がる大地が傾斜しているのはそこが富士山のすそ野だから。山体は写真のずっと左にあって、そこから連なる稜線が延々と延びているのです。どれほどスケールの大きな山であるかこれでおわかりでしょう。
 斜面にぽっこり飛び出しているのは大室山。約3千年前に噴火した富士山の側火山だそうで、砕屑丘と呼ばれるものです。その右手のはるか向こうにある山塊は雨ヶ岳、その手前に重なるように見えている三角の山(写真ではわずかに濃い影)が竜ヶ岳、そしてその右に見える水面が本栖湖です。

 御坂山系と西湖

 今度は東側の風景。目の前に西湖。その北側の山並みが御坂山系で、一番左のピークが鬼ヶ岳、正面のピークが十二ヶ岳です。西湖を挟んで右側がさっきまで歩いてきた足和田山の稜線。奥にある日が陰っている山が足和田山です。
 この西湖とその西側にある精進湖、本栖湖は湖面の高さが標高900mで同じことから、地下で水脈がつながっていると考えられています。水深は本栖湖138m、西湖73mであるのに対し、精進湖はわずか15mと極端に浅いので、いったいどういうつながり方をしているのか興味が湧きます。

 南アルプス遠望

 北西には遠く南アルプスの白い嶺々の姿を見ることができました。
 さて、ここで昼食。さすがにここは風が通りぬけるのでやや肌寒く、上着を着込んでからコンビニ弁当を開きました。食後はこの展望をゆっくりと満喫です。
 
 12時40分、身支度を整えて三湖台を出発。ここからさらに稜線をたどって、風穴近くで車道に出る予定です。

 ヤマザクラ

 途中で出会ったヤマザクラ。どっしりとした風格がありました。満開までにあと一月くらいはかかるでしょうか。

 下山口

 13時、風穴近くの下山口に到着しました。長い下りでしたが膝を痛めることもなく、無事下りてくることができました。
 今日の野山歩き、展望という点では申し分のないものでした。連休前あたりになるとだいぶん植物も顔を見せ始め、楽しみも増えるのでしょうが、そうなると木々にも葉が茂り、登山道からの展望の方は今ひとつということになるのかもしれません。でも三湖台に出ればOKですが。
 車道に出てからは5分ほどで富岳風穴の駐車場です。風穴はたくさんの観光客で賑わっていました。yamanekoは風穴には寄りませんでしたが、みやげ物屋で信玄餅を買って帰りました。黒蜜が美味しいんです。

 青木ヶ原樹海

 風穴の奥は鬱蒼とした青木ヶ原樹海。下手に足を踏み入れると何か後悔することになるような気がします。