朝霧高原 〜夏の高原でのんびりと〜


 

【静岡県 富士宮市 平成22年8月28日(土)】
 
 8月も終わりが近づき、巷の学生諸君はやるせない日々を過ごしていることでしょう。そして、朝夕に聞こえてくる切ないヒグラシの声がその気持ちに拍車をかけていることと思います(フフン)。ところが、今年はそろそろ9月の声を聞こうというのに連日の猛暑日。天気予報だけ見ればまだまだ1箇月くらいは夏休みが続きそうな感じです。
 そもそも世の大人には名残を惜しむ夏休みもなく、朝から降りそそぐ蝉時雨の中を毎日仕事に向かうのです。あー、どっか涼しいとこ行きたい。ということで、その語感から涼しさがそよいで来そうな富士山西麓の朝霧高原に行ってみました。
 
                       
 
 朝霧高原なのですから、現地に朝到着しなければ意味がない(?)のですが、東京を出発したのが朝6時。しかも中央道は調布で事故渋滞で、その後も八王子ジャンクションでも渋滞でした。その結果、朝霧高原に到着したのは午前10時で、もう真夏の日射しがジリジリと照りつけていました。それでも標高700mの高原ですから、都会の嫌な暑さとはどこか異なります。

 猪之頭公園

 富士山の北麓から青木ヶ原樹海を突っ切って西側に回り込むと、そこが朝霧高原です。猪之頭公園というどっかで聞いたことのあるような公園にドリーム号を停めて、ここから歩き始めます。


Kashmir 3D

 今日はここから陣馬の滝へ向かい、高原の風景を楽しみながら小田貫湿原、田貫湖へと歩を進めることにします。お供はデジカメとスポーツドリンクです。

 カラスアゲハ

 周囲のすべてがハレーションをおこしているような眩しさ。体の黒いカラスアゲハは熱を吸収して暑くはないのだろうか。

 東海自然歩道

 この道は東海自然歩道なのだそうです。東海自然歩道というと、東京の八王子市から大阪の箕面市までを結ぶ長距離自然歩道。この辺りでは集落の外れをたどる小径ですが、ところどころに立派な道標が立っているので間違いありません。

 

 朝霧高原の西側に連なる峰々には雲がかかっています。でも、その上は真夏の晴天。 ん、何か浮かんでいるぞ。おお、パラグライダーが大量に。ぶつかりそうだが、大丈夫か…。

 陣馬の滝

 駐車場から歩くこと25分、陣馬の滝までやってきました。水辺は親子連れなどたくさんの観光客で賑わっています。落差はそれほどでもないですが、上流からの水の流れと、溶岩層の隙間から湧き出す水が組み合わさって滝を作っているところがおもしろいです。また、滝壺がホールのように広くなっているので、三筋の異なる姿の滝を円形劇場で見ているような気分にさせてくれます。解説板によると「鎌倉時代の初め、建久四年(1193)のこと、富士山の麓で巻狩りを催した源頼朝が、日が暮れて滝の近くに一夜の陣を敷いた。それから後、この滝を陣馬の滝というようになったと伝えられている。また、その夜のこと、滝壺からドンドンと太鼓を打つような音がしたので、不思議に思った頼朝は、次の日家来に滝壺を探らせてみた。すると、滝壺から中が空洞になった太鼓の胴のような石が出てきた。その石は、太鼓石と名付けられ今に伝えられている。」とありました。中が空洞の石というのは、流出した溶岩の外側が先に固まり、内側が流れ出してできたものではないでしょうか。この辺りは溶岩地帯ですから。
 水辺でしばらくしゃがみ込んでいるうちに汗も引いて、ヒンヤリとした涼を堪能することができました。さあ、また歩き始めましょう。

 火の見櫓

 再び炎天下を歩きます。集落の中に火の見櫓が。鉄製のもので、まだ現役のようでした。

 集落を過ぎ、畑の脇を歩いていくと、やがて道は林の中に入っていきました。
 芝川の支流を渡ります。両岸から覆い被さる木々で、緑のトンネルになっていました。橋の上で立ち止まり、流れの行く手を眺めると、そのトンネルの中は木漏れ日を反射する水しぶきで、眩しい輝きに満ちていました。

 道は水辺を離れ、山際に沿って延びています。この辺りにはオートキャンプ場がたくさんあって、ときおり荷物を満載した車とすれ違います。

 フシグロセンノウ

 林縁には様々な花が待っていてくれました。薄暗い背景にポッと浮かび上がるのはフシグロセンノウ。センノウとは「仙翁」と書き、ナデシコのことです。普段はこの花を上からしか見ないのですが、横から見てみると、コーラの瓶のように細長い筒状の萼であることが分かります。

 タマアジサイ

 蕾がピンポン球のようなので「玉紫陽花」です。半球状に付いた両生花の周囲をまさに飾るように配置された装飾花。自然の造形って絶妙で、ホント飽きませんね。

 ツリフネソウ

 帆立船のモビールのようなツリフネソウ。開口部が大きいのでマルハナバチとかでも余裕で入り込めますね。カバが口を開けているようでもあります。

 モミジガサ

 これもキクの仲間なんですから、キク科も多士済々ですね。名前は、葉がモミジのそれに似ているからですが、芽吹きから間もない頃は開き始めた葉が傘のようになっているから「紅葉傘」ということです。そうとうに破れた傘ですが。

 川とクロス

 道路を川が横断しています。たまたま増水しているということではなく、もともとこういう造りのようです。地図を見ても橋や暗渠の表示はありません。水量が多いときには右端に設けられている飛び石状のブロックをたどればよいということでしょう。ちなみに写真の左側が下流で、道を横断した水はそのまま法面(法面も道路の延長でアスファルト舗装されていました。)を下って、また川を形成していました。なかなかおもしろいですが、近年流行のゲリラ豪雨のときなどは、車が流されてしまうかもしれません。

 キンミズヒキ

 これがバラの仲間といってにわかに信じられるだろうか。いや信じられない。(反語法) このオカトラノオを黄色くしたような花はキンミズヒキです。野に咲く何気ない花ですが、こうやってみると洒落た姿をしていますね。ただ、実はひっつき虫なのでやっかいですが。

 アカソ

 茎や葉柄が赤いことから名が付いたアカソ。漢字で書くと「赤麻」です。「麻」の字が付くだけあって、繊維が採れて、昔はこれで絣(かすり)を織っていたのだそうです。でも、アカソは草本なので、繊維を採っていたのは木本のコアカソの方かも。

 ユウガギク

 キクの仲間の中でも繊細なイメージをもつユウガギクです。漢字では「柚香菊」と書きますが、特に柚子の香りはしません。

 小田貫湿原

 突然森が開けて湿原が現れました。小田貫湿原です。きちんと木道も敷設されています。それにしても雄大な夏雲。ちょうどあの中に富士山があるはずです。

 アサマフウロ

 フウロソウの仲間はなかなか判別しにくいですが、看板に書いてあったのでたぶん間違いないでしょう(苦笑)。図鑑記載の特徴とも一致しているし。

 クサレダマ

 これはクサレダマの実ですね。この球状の実が腐れやすいから「腐れ玉」…ということではなく、正しくは「草連玉」。名前は、花がマメ科のレダマに似るからとされつつも、実際はあまり似ていないのだとか。うーん、どういうこっちゃ。「草本であって、球状の実が連なるように付くから」、と考える方が素人的には自然だろうと思っていたのですが、そもそも「連玉」の名前自体がスペイン名(Retama)への当て字らしいとのこと。ということは「連玉」=「実の付き方」ではないということですね。がっかり。

 サワヒヨドリ

 サワヒヨドリの花にやってきたセセリチョウの仲間。暑い中ご苦労様です。

 サワアザミ

 これはサワアザミでしょう。たぶん。(看板だのみ) 上を向く花もあれば、下を向くものもある。花もそれぞれですな。

 炎天

 日射しを遮るものがなく、まるで真上から射抜かれるような感覚です。

 サワギキョウ

 鵯、薊、桔梗の「サワ」3連発。シュッとしていて涼しそうな佇まいです。
 キキョウの名からはイメージしにくい花の形ですね。キキョウが筒状花であるのに対し、サワギキョウは唇形花です。

 池塘?

 この湿原には写真のような池がたくさん点在しています。高層湿原でよく見かける池塘かなとも思ったのですが、調べてみるとどうも自然にできたものではないとのこと。かつてここで神代杉の採掘が行われ、その採掘跡に水がたまったものなのだそうです。神代杉とは、杉の巨木が火山の噴火などで短時間に埋もれてしまい、そのまま千年単位の長期間にわたって腐らずにいたもののことで、昔から高級な建築装飾や、工芸品などに用いられていたそうです。

 ヌマトラノオ

 さっきのクサレダマと同じサクラソウ科のヌマトラノオ。よく見ると端正ないでたちをした花です。

 コバギボウシ

 明るく湿ったところを好むコバギボウシ。下の花から順に咲いていっているのが分かりますね。

 小田貫湿原

 歩いてきた湿原を振り返ります。こうしてみると結構湿原内に低木が入り込んでいますね。乾燥が進みつつあるのかもしれません。
 正面の山の向こう側は山梨県です。

 花いっぱいの湿原を過ぎて、再び木漏れ日の下を歩きます。

 田貫湖

 湿原から歩くこと10分。田貫湖の畔に出てきました。時計を見るとちょうど12時。このまま湖をぐるっと一周してみましょうか。

 キツネノカミソリ

 キツネノカミソリはヒガンバナと同じ仲間ですが、ヒガンバナより1箇月ほど早く咲き始めます。名前は細い葉を剃刀に見立てたもの。
 田貫湖畔に狐の剃刀とは、これいかに。

 湖の中程にある岬の先端まで歩いてきました。正面(東側)には富士山をすっぽりと包み込んだ巨大な夏雲が見えます。
 もともとこの場所は田貫沼とか狸沼とか呼ばれる小さな沼地だったそうで、それが関東大震災の影響で近くを流れる芝川の水量が減ったことから、生活用水や農業用水の確保のために周囲に堤防を造って沼を拡張したものなのだそうです。そして何回かの再拡張を経て現在の大きさになったとのことです。

 炎天下、湖の畔を歩きます。水辺ではパラソルを立ててヘラブナ釣りを楽しむ人がたくさんいました。夏の空気は水分を多く含んでいるので遠景は霞がちですが、遙かに富士の裾野、青木ヶ原の縁に頭を出した大室山の姿を認めることができました。大室山は富士山の寄生火山です。

 リゾート? 

 時計を見ると12時45分。気がつけば昼ご飯も食べずにてくてくと歩きとおしでした。ここらでちょっと休憩です。というか、横になって昼寝です。ロケーションもいいし、やはり標高700mの高原だけあって、木陰とそよ風で上質なリゾート気分を味わえますね。
 
 結局、ここでたっぷりと休憩した後、携帯でタクシーを呼んで出発地点に戻りました。歩いて戻ろうかとも考えましたが、すっかりのんびり気分になってしまったので、体がかたくなに拒絶したのです。まあ、それもありですか。(タクシーだと5分ちょっとでした。)