荒崎海岸 〜梅雨明けを待つ磯の草花〜


 

【神奈川県 三浦市・横須賀市 令和3年6月26日(土)】
 
 関東南部もようやく梅雨本番という感じになってきて、連日傘の手放せない日が続いています。そんな中、今日の予報は「曇りときどき晴れ」。これはチャンスとばかりに野山歩きに出かけることにしました。
 場所は三浦半島の南西部に位置する荒崎海岸です。磯と磯との間に長い砂浜もあり、夏には海水浴客でも賑わう場所のようです。
 
                       
 
 荒崎海岸へは、京急久里浜線の終点、三崎口駅が起点となり、そこからバスで移動するのですが、yamanekoの場合京急線自体へのアクセスが良くないため、三崎口駅までは車で向かいました。そうなると海岸の最寄りまで車で行けばとなるのですが、適当な駐車場がなかったので、駅周辺のコインパーキングに駐めさせてもらいました。

 三崎口駅

 三崎口駅に到着しました。空はどんよりとはしていますが、降り出しそうな気配はありません。直射日光がない分、歩きやすいとも言えます。(何事もポジティブに。)

 漬け丼定食

 ちょうど昼時だったので、駅前のお店で漬け丼を賞味することに。三崎といえばマグロですよね。美味しかったです。and 小鉢の鶏の南蛮漬けも良かったです。

 Kashmir3D

 今日のコースは、三崎口駅から荒崎・長井方面行きの京急バスに乗り、2つめの矢作入口バス停で下車。そこから集落の中を歩き海岸へ。あとは基本、海岸線を歩いて荒崎公園まで行くというものです。荒崎公園からは車道を少し歩いて荒崎バス停へ。そこかららバスに乗って三崎口駅に戻って来ます。
 三浦半島を形成する三浦丘陵、その辺縁部の支先端が海に落ち込むところが磯になっていて、その磯と磯との間を弧状の大小砂浜がつないでいるといったような場所です。

 矢作入口バス停

 12時30分、矢作入口バス停に到着しました。写真の白い壁の民家の右手に入っていきます。



 海へと向かう道。時折車が行き交うくらいで、あとは静かな集落でした。

 圓徳寺

 矢作という集落に圓徳寺というお寺があり、その入口にノウゼンカズラが咲き誇っていました。夏を感じさせる花です。
 この矢作という集落。航空写真を見ると、元々は細長い入り江の入口に位置していたことが分かります(さっき歩いてきた道はもともと海辺の道だったということです。)。今ではその入り江がすっかり埋め立てられていました。なので小さな漁港の集落といった面影はなくなっていましたが、路地裏の小径などにわずかに雰囲気が感じられました。

 アカメガシワ

 アカメガシワの雌花序です。雌雄異株なので、この雌花だけが咲く株と雄花だけが咲く株とが別々にあります。

 ヒルガオ

 ほんのりピンク色のヒルガオ。浜辺が近いですがハマヒルガオではありません。

 スイカズラ

 これはスイカズラの花です。左の棍棒みたいなやつは蕾。スイカズラは漢字では「忍冬」と書きますが、ここのような温暖な場所なら冬を耐え忍ぶのも比較的楽かも。



 矢作集落から海辺に出ました(パノラマ処理しているので風景が弯曲しています。)。写真では分かりませんが、正面に相模湾を挟んでうっすらと伊豆半島の山影が見えました。
 ここから右手の海岸線に沿って歩き、遠くに見えている岬の先端、荒崎に向かいます。

 ハマゴウ

 少し砂浜エリアに入ってみました。通常波が寄せてこない、低い砂丘状になっているあたりにハマゴウがありました。全体にスッとする香りがあり、ハマゴウの実を乾燥させたものを枕に入れると安眠に役立つと聞いたことがあります。

 ツルナ

 ツルナはハマゴウよりももう少し陸寄りのところに生えている植物。漢字では「蔓菜」と書きます。名前に「菜」の字があるとおり、新鮮な葉は食用になり、ヨーロッパでは野菜として栽培されているそうです。葉は見るからに肉厚で、それなりに食べ応えがありそうですね。

 ハマボッス

 これはハマボッス。砂浜というよりは陸地に近い岩がちな場所で見かけることが多いです。名前の「ボッス」は「払子(ほっす)」のことで、これは僧侶の持つ法具で、棒の先にロバの尻尾を付けたような形状のもの。花が咲く様子がこの払子に似ているからこの名が付いたとのことですが、ちょっと無理があるような…。



 照葉樹の丘が砂浜間際まで迫っています。その斜面から波打ち際にかけて、多様な植物がそれぞれ海との距離を計りながら棲み分けています。



 岩場に鳥居? いや、あれは海底ケーブルや水道管などが陸上に出る位置を示すものです。

 スカシユリ

 おお、スカシユリが咲いていました。浜辺を飾る夏のユリです。花冠はメロンくらいの大きさがあり、なかなかの貫禄です。名前は漢字で「透百合」。6個の花被片の基部が細く、隣り合う花被片同士の間に隙間ができていて、向こう側が透けて見えるから。

 イソギク

 イソギクの葉は白く縁取りされているように見えます。じつは葉の裏は一面に白い細かい毛に覆われていて、そのため表からは縁取りがあるように見えているのです。
 イソギクは千葉県の犬吠埼から静岡県の御前崎までの海岸の崖地に生えるキクの仲間。ここ三浦半島はその分布のど真ん中に当たります。

 ハマボッス

 こちらはハマボッスの実です。秋になると枯れて株ごと褐色になり、翌年の春までその姿で残ります。

 タイドプール

 弧状に伸びる和田長浜海岸を歩いて行きます。ちょうど干潮で、波打ち際には磯が広く露出していました。タイドプールにはカニや小魚がたくさん残されていましたが、潮が満ちればまた広い世界に戻れるでしょう。

 波の忘れ物

 大潮のときに波打ち際になるラインには様々なものが打ち上げられて留まっています。この海藻もそのうちの一つ。カラカラに乾燥しています。そういえばこの浜にはゴミがほとんど打ち上げられていませんでした。こう言ってはなんですが、瀬戸内海などはペットボトルは言うに及ばず、発泡スチロール片やカキ筏の部材などありとあらゆるゴミが打ち上げられていましたが。ここでは定期的に海岸の清掃がされているのかもしれません。海水浴場ですからね。それとも沖にはゴミが漂っていないのか。

 ハマオモト

 陸に近いところにはハマオモトが咲いていました。大柄な花で遠くからでもよく目立ちます。温暖な海岸を好むようで、黒潮に直面した海岸線に分布しているそうです。花被片が細く放射状に伸びていますね。見て想像できるとおりヒガンバナ科だそうです。ちなみに、横須賀市も三浦市もこの花を市花に指定しているそうです。

 ハマダイコン

 ほんのり紫色を帯びた4個の花弁。これはハマダイコンです。大根とはいえ根はあまり大きくならないとのこと。大根が野生化したものという説と元々野生種の大根という説があるようです。陸と砂浜の境界あたりに生えていました。



 南側の風景。遠くの岬は油壺あたりになります。

 テリハノイバラ

 立ち上がらず地面に這うように伸びるテリハノイバラ。テリハは「照葉」で、その名のとおり葉に光沢があります。環境を選ばず生き延びる強さがあり、海岸から1000m超のブナ帯まで分布しているそうです。

 アメリカネナシカズラ

 ハマゴウの群落の上に一部ネットが被さっているように見えるところがありました。近づいて見るとアメリカネナシカズラでした。在来のネナシカズラと同じく寄生植物で宿主から栄養を横取りして生きています。しかも、やがて自らの根はなくしてしまい完全に宿主に依存するという、他力本願なやつです。
 よく見ると小さな花を付けていました。ネナシカズラとの見分けは、この小さな花をよく見ると簡単に分かります。花柱の数がネナシカズラは1個、アメリカネナシカズラは2個あります。

 ハマゴウ

 そのハマゴウの群落。涼しげです。もう20年くらい前になりますが、宮島の小なきり浜で炎天下に砂浜の清掃をしたときに、この花にひとときの涼をもらったことを思い出しました。



 和田長浜海岸を歩ききり、岬状に突き出た岩場を巡ります。ここを抜けると小さな入り江がありました。

 ミヤコグサ

 鮮やかなレモンイエロー。ミヤコグサです。京都に多かったからだとか。別名をエボシグサ。こちらは花冠の様子が烏帽子に似ているということだそうです。

 スカシユリ

 草むらの中のスカシユリ。逞しさも感じます。



 小さな入り江は岩壁に囲まれたプライベートビーチのようになっていました。背後にそそり立つ岩肌。性質の異なる火山噴出物が交互に積み重なり、それが斜めに傾いている状況です。それと不整合に上部に関東ローム層が水平に被さっていて、その部分を樹木が覆っています。

 佃嵐崎

 その入り江を過ぎて、佃嵐崎を回り込みます。



 今日のゴール、荒崎が正面に見えました。右手、入り江の奥は栗谷浜漁港です。

 スカシユリ

 しつこいようですが、スカシユリ。ここ佃嵐崎にもあちらこちらに咲いていました。

 ハマボッス

 そしてこれもしつこいようですが、ハマボッス。

 オオバヤシャブシ

 栗谷浜漁港の手前の斜面で見かけたオオバヤシャブシ。みっしりと詰まった果穂が重たそうです。大きさはビワの実くらいでした。

 マサキ

 これはマサキの花です。昔はマサキの生け垣がときどきありましたが、今では民家に生け垣自体を見かけることが少なくなりました。

 ツワブキ

 冬に花を付けるツワブキが、なぜかこの時期に。もう枯れかかってはいるものの、季節外れですね。
 この後、栗谷浜漁港で道に迷ってしまいました。漁港の西側に「お仙が鼻」という岬があり、yamanekoは間違ってそこを波打ち際沿いに回り込もうとしたのです。道らしきものはなく、おかしいなと思いつつ進んでいったのですが、やがて水面からの高さ3mほどの岩場を伝うようになり、岬の先端を回ったところで断崖になって、立ち往生。やむなく慎重に元来たルートを戻りました。



 正しいルートは、漁港からこの細道に入るというもの。草ボーボーで、脇にはゴミも積まれていて、「こりゃ分からんわ」と声が出てしまいました。



 その細道を草をかき分けながら登り、反対側に下ると浜に出ました。要は「お仙が鼻」の基部を峠越えのように横断するルートだったのです。

 お仙が鼻

 浜から見た「お仙が鼻」。裏側からあの先端部分まで来て立ち往生したのです。こちら面の波打ち際には歩けそうなスペースはありませんね。



 さあ、ここから目的地の荒崎まではわずかです。
 岩肌に足場が作られていて、胸の高さには鎖も取り付けられていました。満潮時には砂浜部分は海水に沈むのでしょう。

 ヒロハクサフジ

 普通のクサフジより葉の幅が広いのでヒロハクサフジ。クサフジは山野を、ヒロハクサフジは海岸部を好むようです。



 荒崎の地質はシルト質でした。神奈川県南部でよく見かける上総層群の一部になると思います。その岩盤が浸食され、人が通れるほどの洞窟になっているところがありました。



 洞窟を抜けると遊歩道があり、荒崎公園の一部といったエリアになりました。海水浴にはまだ早いですが、たくさんの人が磯遊びをしていました。

 ラセイタソウ

 岩肌に鮮やかな緑色。これはラセイタソウですね。葉は厚く、表面に細かいシワがあってざらざらした手触りです。これが毛織物のラセイタ(羅世板)の手触りに似ていたからこの名が付いたとのことです。ラセイタはラシャに似た毛織物だそうですが、yamanekoはどんな生地か見たことはありません。ラシャは確かビリヤード台の緑の部分の生地ですよね。
 このラセイタソウ、図鑑には北海道南部から本州紀伊半島までの太平洋側に分布するとありましたが、山口県の角島で見たことがあります。

 荒崎公園

 2時15分、荒崎公園に到着しました。写真の奥の海岸線を歩いてきたことになります。ふくらはぎや太ももがけっこうパンパンです。



 海岸線を離れ、公園内を突っ切って、集落へ向かいました。

 荒崎バス停

 2時30分、荒崎バス停に到着。ここは路線の終点であり、折り返しの便に乗って三崎口駅に向かいます。ああ、今日は結構暑かった。スポーツドリンクで水分補給して、ぼーっとバスを待ちました。
 
 三崎口駅でバスを降りた後、駅前のコンビニでアイスを買って食べ、その後コインパーキングで待ってくれていたドリーム号に乗り換えて帰宅しました(途中、横浜町田IC付近の渋滞がハンパなくひどかったです。)。